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情報通信 ニュースの正鵠
2012年4月2日掲載

「スマート家電」という名でネット家電が復権するかもしれない4つの理由

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 「白物家電をネットに接続して付加価値を付ける」というと、「またか」と苦笑いを浮かべる人も多いだろう。

 「外出先から冷蔵庫の中身を確認できたら買い物の時に便利」とか「オーブン・レンジで、レシピをダウンロードできるようにしたら料理のバリエーションが膨らむのではないか」というようなアイディアは、インターネットが普及し始めた当初から議論されていたが、実際の製品として結実した例はあまりなく、商業的に成功した例はほぼ皆無だ。

 しかし、以前うまくいかなかったからといって、これからもダメだと決めつけるのは早計だ。

 初期のインターネット家電が成功しなかった理由の一つは、家電にネット接続機能を付加するコストが大きかったこと。

 例えば、シャープは1999年に「インターネットでレシピをダウンロードできるオーブン・レンジ」を発表し、注目を集めた。しかし、同製品は「パソコンを使って、専用メモリー装置にダウンロードしたレシピを有線ケーブルでレンジに転送する」という仕組みになっていた。つまり、レンジのそばに、ネットにつないだパソコンと別売りのメモリー装置を設置しなければならないのだ。まだ無線LANが普及していなかった時代に、インターネット回線をレンジのそばまでひっぱってくることは容易ではない。またダイヤルアップのインターネット接続であればダウンロードの度に通信料金がかかる。

 当時、そこまでしてレシピをダウンロードしたいと考えるユーザはほとんどいなかった。

 しかしその後、インターネットの市場環境は大きく変化して、家電をネットに接続するためのハードルは劇的に低下した。本稿では、具体的にどのような環境変化が生じてきたのかを確認することで、インターネット家電の可能性を再度考える材料としてみたい。


【環境変化その1】 ブロードバンド&Wi-Fiの普及

 現在、インターネット・ユーザの大半はブロードバンド・サービスを利用している。また、Wi-Fiの普及によって、家庭内において無線で複数の端末をインターネットに接続することが容易になった。ブロードバンドは今のところ、「一定料金でつなぎ放題」というプランが一般的であるため、家電にWi-Fiモジュールを付けてプラスαの通信を行っても、通信コストは増加しない。

【環境変化その2】 液晶ディスプレイの低価格化とタッチパネル操作の浸透

 家電をネットにつなぐ場合、ネットの情報を表示するためのスクリーンが必要になる。かつては、液晶モニターを付けると、それだけで数万円のコスト高になってしまっていたが、パネル価格が急速に値下がりした結果、増分コストは小さくなった。また、以前と較べてタッチパネル操作は、広く浸透してきており、家電製品に取り付けた液晶タッチパネルで操作を行うことに対して、ユーザが戸惑う可能性は低下している。

【環境変化その3】 センサー技術の進歩

 消費者が操作に慣れてきているとはいえ、例えば冷蔵庫の食材管理のデータ入力を、すべてタッチパネルで行わなければならないとしたら、大半のユーザはウンザリするだろう。実際に利用されるスマート家電を作るためには、こうしたユーザの手間をできるだけ省力化することが必要だ。そこで期待されるのが、音声認識や画像認識などのセンサー技術。こうした技術は近年急速に進歩しており家電のインタフェースとして利用することも可能になってきた。

【環境変化その4】 スマートフォンの普及

 スマートフォンが普及したことで、家電に蓄積してあるデータを外出先から確認することが容易になった。また、スマートフォンに搭載されているマイクやカメラは、音声認識や画像認識技術を用いる際に使うことができる。


 家電にネット接続機能を付加する試みは、かつては手間とコストが非常にかかるものであったが状況は大きく変わってきた。またスマートフォンと連携させることで、より便利な利用シーンを考えることもできそうだ。

 では、家電をインターネットに接続すると、具体的に、どのようなことが出来るようになるのだろうか? 今年の国際家電ショー(CES)で韓国のLG電子が展示したスマート冷蔵庫を例に見てみよう。

LGのスマート冷蔵庫が実現する機能

クリックで画像を拡大します。

 Wi-Fiモジュールを搭載したLGのスマート冷蔵庫は、大きく分けて3つの機能を実現する。それは「食材管理」と「スマート・レシピ」と「スマート・ショッピング」だ。

 「食材管理」とはその名の通り、冷蔵庫に何がいくつ入っているか、賞味期限切れになっていないかを管理する機能。情報は冷蔵庫に搭載した液晶ディスプレイで見ることができるだけでなく、外出先からスマートフォンでも確認できる。データは、タッチパネルから入力できるほか、音声認識や、レシート読み取り、バーコード読み取りなどで入力することが可能。レシート読み取りやバーコード読み取りを利用する場合、スマートフォンのカメラを用いる。

 「スマート・レシピ」は、レシピを検索する機能。「イタリアン」、「10分以内で調理できる簡単料理」、「ニンジンを使った料理」など、さまざまな切り口で検索できる。また、冷蔵庫の中にある材料で調理可能なレシピを考えてくれる機能もある。レシピで検索した調理方法を、電子レンジに転送することもできる。

 「スマート・ショッピング」は、オンライン・ショッピング機能。料理を作るのに、足りない食材があれば、その場でオンライン購入することができる。

 この他にも、冷蔵庫/冷凍室の温度設定、急速製氷や省エネ運転のON/OFFなどをスマートフォンから設定変更したり、冷蔵庫の調子が悪くなった時に、Wi-Fi経由でセンターにアクセスして、故障個所を遠隔で自動診断してくれる機能もある。


 いかがだろうか?

 「レシート読み取り機能の精度はどの程度か」「スマート・ショッピングで注文すると何時間後に配達されるのか」「通常の冷蔵庫とくらべてどのくらいコスト高になるのか」など、実際に購入するとしたら、気になる点はいろいろあるが、製品コンセプトとしては結構面白いのではないだろうか。

 インターネットの市場環境が大きく変化したことを受けて、インターネット家電が「スマート家電」という名前で花開くことになるのか。今後の注目分野の一つである。


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