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情報通信 ニュースの正鵠
2012年4月10日掲載

進みそうで進まないアメリカTV市場における「コードカット」

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 米国のテレビ業界では2年くらい前から、「コードカット(cord cutting)」という言葉が頻繁に用いられるようになってきた。

 米国では大半の世帯が、ケーブルTVや衛星放送などのペイTVサービスを通じてテレビを視聴している(世帯普及率は80%以上)が、インターネットを利用した映像ストリーミング・サービスなどの普及により、これらのペイTVの契約を解除するユーザが増加していくのではないかという意味だ(注)。

 実際、米国ではNETFLIXやHULUなどのストリーミング・サービスの利用が急拡大しており、とりわけNETFLIXの加入数の増加を示すグラフはしばしば引用される。

NETFLIX加入数推移

 上記グラフは、NETFLIXがストリーミング・サービスを開始した2007年以降の、同社の全加入数(海外事業とレンタルDVDサービス・ユーザを含む)の推移である。各時期のデータの内訳はかならずしも明らかではないが、2011年末時点におけるNETFLIXの米国内のストリーミング・ユーザ数は2,176万であり全体の83%を占める。

 一方、ケーブルTVの業界団体NCTAのデータによれば、米国のケーブルTV加入数の推移は以下の通り。2001年の6,690万をピークに、ユーザの増加は頭打ちとなり、2007年頃から明らかな減少傾向を示している。

米国のケーブルTV加入数推移

 ちょうどNETFLIXがストリーミング・サービスを開始した2007年から、ケーブルTVユーザ数が減少しているので、あたかも「ケーブルTV加入者がストリーミング・サービスに顧客を奪われている」ように見えるが、必ずしもそうとは言えない。

 2007年というのは、通信事業者が提供するIPTVサービスが加入数を拡大し始め、ペイTV市場において、ケーブルTV事業者、衛星放送事業者、通信事業者の三つ巴の競争が激化し始めたタイミングでもあるのだ。

 試しに、NCTAのケーブルTV加入数のデータに、衛星放送(DirecTVとDISH Network)と大手IPTV(VerizonのFiOS TVとAT&TのU-Verse)の加入数を足しこんでみると以下のようなグラフになる。

米国のペイTV加入数推移

 ケーブルTVは減少しているが、衛星放送とIPTVを加えた、いわゆる「ペイTV」加入数はまだ減っていないのだ。

 2010年第2四半期に、「ペイTV加入数全体が減少している」と報道された際、本コラムでもテレビ市場のトレンドが大きく変わった可能性があるとして取り上げた(「テレビ大国アメリカでいよいよペイTV離れが始まった?」)。しかしその後の年末商戦で盛り返し、通年で見るとペイTVの加入数は減らなかったようだ。また2011年度も同様に、第2四半期に減少した加入数を第4四半期に挽回し、年末時点ではほぼ前年並みの加入数を維持している。もっとも、米国では毎年人口と世帯数が増加しているので、普及率という視点で見れば減少していると考えられるが、いずれにしても大きな減少ではない。

 NETFLIXの映像ストリーミング・サービスは、提供開始後5年ほどで、2,000万以上のユーザを獲得した。それにも関わらず、ペイTVのユーザ数が減っていないということは、少なくともこれまでは、大半のユーザがストリーミング・サービスをペイTVの代替とは考えてこなかったということだ。

 さて、2012年はどうなるのであろうか。ペイTVサービスとネット・ストリーミング・サービスは引き続き補完サービスとして共存するのか、それとも...

(注)「ペイTV」とは一般的に、「有料で視聴する多チャンネルTV放送」のことを指し、NETFLIXなどのVODをストリーミングで提供するサービスは、有料であってもペイTVには含めない。「コードカット」の用語は、狭義に「ケーブルTVの解約」のことを指す場合もあるが、ここでは「ケーブルTV、衛星放送、IPTVを含むペイTVの解約」という意味で使用している。


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