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情報通信 ニュースの正鵠
2012年8月2日掲載

フェイスブック第2四半期決算の読み方

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先週フェイスブックが2012年度第2四半期(4月〜6月期)の業績を発表した。この発表は大きな注目を集め、すでに多くのメディアが取り上げているが、当コラムでも概要をまとめておきたい。

(図表1)フェイスブック2012年第2四半期の損益計算書

1. 売上高の見方〜明確になった成長率の鈍化傾向〜

売上高は11億8,400万ドル(約947億円)となり、前年同期比32%の増加となった。これについて「アナリスト予想を上回った」と、ポジティブなニュアンスの報道もなされているが、むしろ注目すべきは「成長の鈍化傾向が明らかになった」ことだろう。

図表2に示した通り、フェイスブックの売上高成長率は昨年から今年にかけて一貫して低下してきている。成長が鈍化していく懸念は、今年2月に証券取引委員会(SEC)に提出された株式公開に関する目論見書(注1)のなかで、すでに明らかにされていたことではあるが、今回、四半期毎の売上高データが公表されたことで、その懸念が現実であることが裏付けられた。

(図表2)対前年売上高成長率推移

2. 成長鈍化は今後も続くのか?

気になるのはこの傾向が今後も継続するのかという点だが、現在の状況を鑑みると、少なくとも短期的には続く可能性が高い。その理由は大きく4つある。

まず一つ目の理由はユーザ数の成長率自体が鈍っていること。

(図表3)フェイスブックのユーザ数

図表3に示したように、ユーザ数は引き続き増加しており、マンスリー・アクティブ・ユーザが9億5,500万人、デイリー・アクティブ・ユーザが5億5,200万人になった。

(ここで「マンスリー・アクティブ・ユーザ数」は、1カ月間に利用するユーザの数で、「デイリー・アクティブ・ユーザ数」は、1日に利用するユーザの数を表している。「デイリー・アクティブ・ユーザ」を「毎日利用するユーザ」と説明しているメディアもあるが、それは誤り。)

世界人口を70億人とすると、すでに全人口の13.6%がフェイスブック・ユーザということになるが、母数が拡大するに従い伸び率は鈍化してきている。 

(図表4)ユーザ数の伸び率

二番目の理由は、低ARPU地域(注2)のユーザ比率が高まっていること。

世界中にユーザを擁するフェイスブックであるが、売上の比率でみると約半分を米国市場で稼いでいる(2012年第2四半期の場合、総売上高11億8,400万ドルのうち5億8,800万ドルが米国市場)。

ARPUに直すと、「米国・カナダ」市場が1ユーザあたり3.2ドル(約256円)で圧倒的に高い。しかし、普及率が既に6割を超えるといわれる両国において、大幅なユーザ数増加は見込めない。その代りに最近ユーザを増やしているのが、アジアや中東・アフリカ・中南米などの地域である(グラフ中の「その他」に含まれる)。

しかしこれらの地域のARPUは米国・カナダの約1/6に過ぎず、ユーザ数が増えても、さほど売上は増えない。

(図表5)地域別マンスリー・アクティブ・ユーザ数推移

三番目の理由は、モバイル端末からの利用者が増えていること。

すでに広く知られているように、モバイル利用を収益化するためのフェイスブックの取り組みは遅れており、ユーザがパソコンではなく、モバイル端末からフェイスブックを利用するようになると売上は減少する。

図表6にマンスリー・アクティブ・ユーザの内訳を示したが、近年のユーザ数の増加は、モバイル・ユーザの増加とほぼイコールであることがわかる。モバイルを利用しないユーザは若干ではあるが減少している。

(図表6)マンスリー・アクティブ・ユーザの内訳

四番目の理由は、ソーシャル・ゲーム・メーカーZyngaの第2四半期業績が不調で、今年度の業績予想を下方修正したこと。

フェイスブックのZynga社への依存率は引き続き高い。同社がSECに提出した第2四半期業績資料によれば、2012年上半期の同社の売上高の最大14%がZyngaからもたらされたものである(注3)。Zyngaが不振になれば、当然その影響はフェイスブックにも及ぶ。

3. 利益の見方
〜GAAPベースの赤字よりもnon-GAAPベースの利益利率悪化に注目〜

冒頭に損益計算書を掲載した通り、2012年第2四半期は赤字決算となった。

しかしこれは、株式公開に伴い巨額の株式報酬費用が計上されたためである。具体的にいうと、2011年第2四半期に6,400万ドル(約51億円)であった株式報酬費用が、2012年第2四半期には11億600万ドル(約885億円)に膨れ上がった。

そのため今四半期の利益指標を、GAAPベース(注4)で前期と比較してもあまり意味がない。

そこでフェイスブックは、株式報酬費用などの影響を除いて、前期と比較可能にしたnon-GAAPベース(注5)の数値を公表している。

(図表7)フェイスブック2012年第2四半期の損益計算書〜株式報酬費用の影響などを除外した場合〔non-GAAP〕〜

図表7に示した通り、こうした調整を行うと、営業利益・当期純利益とも増加している。

しかし注目すべきは、営業費用の増加率の高さだ。売上が32%しか伸びていないのに、営業費用は60%も伸びている。費用が増えたのは、人員増(従業員数が2,661人から3,976人に増加)や投資の増加によるものである。

言うまでもなくフェイスブックはSNS市場で世界最大の事業者であるが、SNSのトップ・プレイヤーであり続けるためには、それなりにコストがかかる。広告や決済の新しいシステムを開発したり、評判が芳しくないモバイル・アプリの改善にリソースを投じたり、増え続けるストレージ需要に対応するためにデータ・センターを構築したり、海底ケーブルのコンソーシアムに参加したりなど、フェイスブックはさまざまな投資を行っている。少しばかり手を広げ過ぎのような気もしないではないが、競争の激しいネット・サービス市場では、サービス改善のための投資を怠ると業界内のポジション自体が揺らぎかねない危険がある。

そのため、売上が伸びないからといって、投資を抑制することはなかなか難しい。

今期、赤字決算となったのは、株式公開というイベント絡みであるため、さほど気にする必要はないが、費用が売上高よりもハイペースで増加する傾向は、今後も続く可能性が高い。

4. 総評〜概ね想定内の結果だが…〜

業績発表の資料をもとに、いろいろなコメントをしてきたが、実はフェイスブックにとっては、現在の状況は概ね想定内である。

売上高の伸びが鈍化する可能性も、モバイル利用の増加に伴い業績が悪化する懸念も、Zyngaへの依存比率の高さも、すべて2月にSECに提出した資料の中で「リスク要因」として言及されていた。

今回の業績発表は、そうした懸念が「杞憂ではなく現実のものである」ことをはっきりさせたものということができる。

しかしリスクを予想していたからといって、解決策を持ち合わせているとは限らない。今年6月に開始したモバイル向け決済システムや、批判を浴びがちなソーシャル広告への取り組みが結実し、成長を加速させることができるのかどうか。今後の動向が注目される。

(注1)Form S1と呼ばれる資料。リンク先よりアクセス可能

(注2)ARPUとはAverage Revenue Per Userの頭文字を取った略語で、「一ユーザあたりの売上」を意味する

(注3)Form 10Qの43ページを参照

(注4)GAAPとはGenerally Accepted Accounting Principlesの略。GAAPベースとは「会計原則に則った正式な決算数値」という意味

(注5)non-GAAPとは「会計原則に準拠していない」という意味。一時的に大きな費用が発生したり、大型買収を実施した際などに、それらの特殊要因を除外した数値を見せる手段として利用される。


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