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情報通信 ニュースの正鵠
2012年12月28日掲載

2012年情報通信業界の十大ニュース

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今年最後のコラムは十大ニュースで締めくくりたい。例年通り、ランキング形式で、個人的に印象に残った出来事を簡単に振り返る。

第10位 ソフトバンクがスプリントの買収を発表

10月にソフトバンクが米国の携帯電話会社スプリントの買収を発表した。総額201億ドル(約1.7兆円)という金額の大きさもさることながら、AT&T、Verizonの2強に大きく水をあけられ、苦境に立っている会社を買収するという点も注目された。買収の狙いの一つは端末調達における交渉力の向上。スマートフォンの時代になり、携帯市場の競争における端末の重要性はさらに増している。アップルのiPhoneやサムスンのGalaxyなど、人気の高い端末を、より有利な条件で調達することができれば、競争力の向上につながる。今後の注目は買収審査においてどのような条件が課されるのかという点。スプリントは米国の別の携帯事業者クリアワイヤーの買収を発表しており、それも含めて総合的に判断されることになる。

第9位 タブレット端末市場における競争激化

2010年3月に発売されたアップルのiPadが切り拓いたタブレット端末市場。iPadの独走が続いてきたが昨年11月にアマゾンが「Kindle Fire」を発売し、スマッシュヒットを記録。7インチという持ち運びやすいサイズと200ドルを切る低価格で人気となった。アマゾンは今年の9月に解像度を向上させた「Kindle Fire HD」を投入し、iPadの牙城を本格的に切り崩しにかかった。グーグルも7月に「nexus 7」、11月に「nexus 10」を発売しタブレット市場に参戦。マイクロソフトも10月に「Surface」を発売した。これに対しアップルは、従来機種の後継にあたる「new iPad」を3月に、7.9インチの「iPad min」を11月に発売した。

第8位 アップルの株式時価総額が史上最大に

去年、エクソン・モービルを抜いて時価総額世界一になったアップルが、今年史上最高額を抜いた(これまでの最高額は1999年にマイクロソフトが記録した6,190億ドル(約53兆円))。1999年といえば、いわゆるインターネット・バブルの真っただ中で、IT企業の株価が異常に高騰した時期。平時の今、アップルがそれを上回ったというのは、特筆すべき出来事だ。しかし、9月以降株価は大幅に値下がりし、12月26日時点の時価総額は4,826億ドル(約41兆円)。2009年以降、およそ7倍に値上がりしたアップル株人気も、ピークを過ぎたか。

第7位 マイクロソフト、怒涛の新製品ラッシュ

マイクロソフトは今年後半、主要製品の最新版を相次いでリリースした。8月に「インターネット・エクスプローラー10」、9月には「ウィンドウズ・サーバ―2012」、10月には「ウィンドウズ8」と「ウィンドウズ・フォン8」、11月には「HALO4」、12月には「Office 2013」の予約販売を開始した。また、10月に発売したタブレット端末「Surface」は大きな注目を集めた。最新バージョンのウィンドウズやエクスプローラーは、パソコンよりもむしろタブレットを意識した設計となっており、モバイル市場で出遅れたマイクロソフトの危機感を表している。

第6位 FacebookがIPOを実施

5月に実施されたFacebookの新規株式公開(IPO)に世界中の注目が集まった。しかし、公開直後の株価こそ公募価格(38ドル)を上まわったが、翌日からは値下がり。一時、公募価格の半値を割り込むこともあった(現在は少し戻して26ドル程度)。上場後に発表された第2四半期(4月〜6月期)及び第3四半期(7月〜9月期)の決算がいずれも赤字(当期純利益ベース)であったことも、投資家を落胆させた。アクティブ・ユーザ数がすでに10億人を超え、もはや成熟企業の雰囲気さえ漂い始めたFacebookが投資家の成長期待に応えるためには、モバイル・ユーザの収益化や広告以外で稼げるビジネス・モデルの確立を急ぐ必要がある。

第5位 スマートフォン向けメッセンジャー・アプリの台頭

NHN Japanが開発したメッセンジャー・アプリ「LINE」が急速にユーザ数を増やしている。2011年6月に提供開始された同アプリの登録ユーザ数は今年11月に8,000万を突破した(うち日本国内が3,600万)。一方中国では、大手ネット企業Tencentが2011年に開始した「Wechat」が9月に2億ユーザを超えた。また韓国のKAKAOが提供する「Kakao Talk」も世界で7,000万人が登録している。モバイル対応に苦心するFacebookを尻目に、スマートフォン向けに開発されたメッセンジャー・アプリが、モバイル・ユーザのコミュニケーション・ツールとしてポジションを確立しつつある。

第4位 高まるビッグデータへの期待

インターネットの利用が増加するにつれて、ネット上での人々の行動履歴の価値が重要性を増している。そのユーザがどのようなページを閲覧し、何を購入したかというデータを把握すれば効率的な広告を表示させることができる。また、FacebookやTwitterなどで積極的に情報発信を行っているユーザならば、それを分析することで趣味・嗜好がある程度把握できる。さらにスマートフォンやケータイからネットを利用した場合には、ユーザの位置情報もわかる。インターネットから得られる多様かつ膨大な情報(ビッグデータ)をビジネスに活用していこうという機運が高まってきた。

第3位 オンライン・プライバシー規制の検討が進む

オンライン・プライバシーを巡る議論が活発化するなか、欧米では、規制の検討に進展が見られた。欧州委員会は1月に「データ保護規則案」を議会に提出した。従来は「データ保護指令」を元に、加盟各国がそれぞれ国内法制を整備していたが、「指令」を「規則」に格上げし、EU域内に統一ルールを適用する。同規則案に盛り込まれた「忘れられる権利」は日本でも話題になった。一方米国では、連邦政府が2月に「消費者プライバシー権利章典」を公表し、プライバシーを保護するためのガイドラインの検討が始まった。こちらは基本的に関係者が話し合って決める自主規制が中心。そんな中、日本でもプライバシー規制の在り方を検討する必要が高まっている。個人情報保護を重視するEUは、保護制度が十分に整備されていない国へのデータ移転を制限しており、検討の遅れは日本のネット企業が欧州展開する際の足かせになる可能性がある。

第2位 WCIT-12で予想外の新規則採択

国際電気通信規則の改正を目指し12月にドバイで開催されたITUの2012年世界国際電気通信会議(WCIT-12)において、新規則が採択された。規則の内容についての評価はまちまちだが、内容よりもむしろそのプロセスに重要なメッセージが含まれている。「WCITの場でインターネット関連の諸問題が議論された上で新規則が採択された」ことと、「日米欧などの西側先進諸国が同意しない段階で決議を行った」という事実は、ITUを通じてインターネットの規制や枠組みを再設計していきたいと考える国々にとって、重要なステップになる可能性がある。

第1位 ますます混沌とするテクノロジー特許紛争

ICT分野で今年、もっとも大きな注目を集めた話題は、特許紛争ではないだろうか。スマートフォンやタブレット端末を巡り、アップルとアンドロイド陣営の企業(サムスン、HTC、グーグル他)が世界中の裁判所を舞台に訴訟合戦を繰り広げ、それぞれの事案の勝敗に注目が集まった。また、自社では製品をつくらずに、集めた特許で大手企業からライセンス料を徴収する会社(パテント・トロール)の存在も脚光を浴びた。そうした特許紛争に悩まされる大手テクノロジー企業の中には、特許会社を設立して保有する特許を譲渡し、訴訟を代行させるという戦略を取り始めた会社もある。テクノロジー特許を巡る争いは混迷の度を深めるばかり。

◇◆◇

私が選んだ2012年の十大ニュースのトップ3はいずれも制度関連になった。

3位はプライバシー議論。スマートフォンの普及によりプロバイダーはユーザに関する多様な情報を収集できるようになってきた。ビッグ・データ・ビジネスの展開も考えると、2013年以降、プライバシー保護に関する議論はさらに重要性を増すと考えられる。

2位はインターネットの規制に関する議論。WCIT-12で採択された新規則自体がただちに大きな影響を与えるものではないが、インターネットに関する枠組みの抜本見直しにつながりかねない動きとして上位にランクインさせた。

1位は特許紛争。特許紛争はどの業界にも存在するが、近年のICT業界における特許紛争の状況はまさに「戦争」。「コピー製品に押されて本当のイノベーションを起こした企業が虐げられている」ような状況であれば応援したくなるが、1年間に数兆円もの利益をあげている企業が競合製品の販売差し止めを求める様子を眺めていると、「特許制度は一体何を守るべきなのか?」と考えさせられる。

2012年は、「急速に変化を遂げる情報通信業界の実情に制度が追い付かず、軋み始めた年」と言えるかもしれない。

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