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情報通信 ニュースの正鵠
2013年12月26日掲載

2013年情報通信業界の十大ニュース

(株)情報通信総合研究所
グローバル研究グループ
清水 憲人

2013年も残りあとわずか。いつものように、個人的に印象に残った情報通信業界の出来事を振り返りつつ、年末を締めくくりたい。

第10位 ドコモがiPhone発売。そして中国移動も

毎年のように「もうじき出るぞ」と噂されつつ、なかなか実現しなかったドコモのiPhone(5S及び5C)が、今年9月についに発売された。どのような販売条件が課されたのかは不明だが、ユーザー獲得競争においてソフトバンクとauに押され気味であったドコモと、成長に陰りの見えてきたアップルの両社の利害が一致した結果ということができるだろう。2014年1月からは7億以上のユーザーを抱える中国移動もiPhoneを発売予定である。これで、世界の主要携帯電話会社は軒並みiPhoneを手掛けることになる。

第9位 仮想通貨「ビットコイン」を巡るバブル

2009年に登場した「ビットコイン」が今年、価格の高騰によって大きな注目を集めた。年初に10ドル前後であった価格が12月初旬に1,200ドルを超え、1年弱で価値が約120倍に膨れ上がった。もっとも中国最大の取引所が規制を発表すると、直後に50%も値下がりするなど不安定な側面も見せている。もともとはインターネット上での決済を想定した仮想通貨であるが、ビットコインでの支払を受け付けるレストランや小売店なども徐々に増えている。国家/中央銀行の後ろ盾を持たないが、各国が量的緩和で紙幣を刷りまくる現状や、政情不安で国そのものの信頼性が低下している状況のなかでは、「不安定な国の貨幣よりもむしろ信頼できる」と考える人もいる。現行の貨幣制度の意味自体が問われるきっかけになるかもしれない。

第8位 リベンジポルノ問題

10月に東京三鷹で起きたストーカー殺人事件は、「リベンジポルノ」という問題が存在することを一般の人にも広く認識させる結果となった。取り締まるための法制度の整備が必要なのではないかという意見が出される一方で、そもそもそのような画像/映像を撮らせないことが重要だという主張も散見された。しかし、画像や映像の加工技術が進歩すると、リベンジポルノの捏造も登場する可能性がある。急速に普及したスマートフォンの負の影響を象徴する問題と言える。

第7位 自動走行車が実用化に向け前進

トヨタ、日産、ホンダの3社が開発した自動走行車(ドライバーが操作せずに自動で走るクルマ)の実証実験が11月、国会周辺の一般道で行われ、安倍首相が試乗した。前方車両を追尾するオート・クルーズ機能や、障害物にぶつかりそうになった時に停止する自動ブレーキ機能など、運転の一部をクルマ側でサポートする機能はすでに実現されているが、完全自走車の実現に一歩近づいた。事故時の責任の所在などの制度面での課題もあり、本当に完全自動走行車を目指すのか、あくまでもドライバーのサポートにとどめるのか、思惑はまちまちであるが、フォルクスワーゲン、ゼネラル・モーターズ、グーグルなど世界中のさまざまなプレイヤーが開発を進めている。GPS衛星や信号機、あるいは他のクルマとの間で情報をやりとりしながら走る自動走行車は、さながら走る情報端末ということができる。

第6位 高まる3Dプリンターへの注目

立体物を成型する「3Dプリンター」は、およそ30年前から存在するが、個人でも手の届くパーソナル・ユース向けの製品が登場し始めたことを受け、一般消費者の間での認知度が急激に上昇した。もっとも期待感は人それぞれで、「パソコンからデータを転送するだけで立体物が作れるようになれば、もはやメーカーは要らない」という未来像を語る人が現れる一方で、「現状の3Dプリンターで立体物を造形することはそれほど容易ではない」と、加熱気味のブームを落ち着かせようと試みる人もいた。そもそも、家庭で利用することを想定した数万円の端末と、航空機用の金属部品を製造する数億円の機械をひっくるめて『3Dプリンター』を語ることには無理がある。とはいえ、3Dプリンターによってさまざまな立体物が作られる時代になると、3Dデータが、いままで以上に重要な意味を持つようになる。いわば3Dプリンターの普及は「モノの情報化」を推進する動きと言えるだろう。

第5位 日本がTPP交渉に参加

日本は7月に環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の交渉に参加した。既に自由化されている日本の電気通信市場への影響はあまりないが、知財分野における制度変更がネット上の情報流通に影響を与えそうだ。ウィキリークスが11月に公開した資料によれば、知財協定の草案には「著作権保護期間の70年への延長」などが含まれるという。日本の現行制度の保護期間は「著作権者の死後50年」であるため、70年に延長されれば、「青空文庫」の運営などに影響が及ぶ。草案にはまた「著作権侵害の非親告罪化」、すなわち「著作権者が告訴しなくても著作権法違反を問うことができるという仕組みに変更する」ことが含まれている。そうなると、これまで権利者が黙認してきたコンテンツが摘発対象になり、ニコ動などを舞台に活発化してきた二次創作文化が委縮してしまう懸念がある。

第4位 ウェアラブル端末への注目

グーグルが開発したメガネ型のウェアラブル端末「グーグル・グラス」が、3月に開発者向けに限定発売された。価格は1台1,500ドル(約15万円)。グーグルのウェブサイトでは、音声認識技術でグーグル・グラスを操作して、さまざまな情報を視界に重ねて表示させるデモ映像が公開され、ガジェット好きの人々を熱狂させた。スマートフォンやタブレットの成長が鈍化に向かうにつれ、通信業界内では次世代の情報端末を模索する動きが活発化。メガネ型のほか、時計型の端末などが登場してきている。ウェアラブル端末の課題の一つは、ユーザ・インタフェースをどうするのかという問題。音声認識に加え、手の動きで操作するジェスチャー認識、目の動きで操作するアイトラッキング、脳波で操作するBMIなどさまざまな技術が注目を集めている。

第3位 ソーシャル・メディアでワルノリ投稿が蔓延

今年は、TwitterやFacebookなどのソーシャル・メディア上でのワルノリ投稿が例年以上に目立った年であった。USJで迷惑行為を繰り返した関西の大学生、コンビニの冷蔵庫内で記念撮影をした一般客、蕎麦屋で洗浄機に入り込んだアルバイトなど、逮捕されたり、店側から損害賠償請求を起こされる事例が後を絶たなかった。こうした出来事に対し、「若者が仲間内でワルノリするのは昔からあったことで、ソーシャル・メディアによってそれが可視化されただけ」という指摘もあるが、ソーシャル・メディアで常に仲間とつながっている状況がワルノリを加速させている可能性は否定できない。ソーシャル・メディア普及に伴う負の側面といえるであろう。

第2位 NSAによる盗聴問題

米国の国家安全保障局(NSA)とCIAでの勤務経験を持つエドワード・スノーデン氏が暴露した米国政府による情報収集/盗聴活動の実態は世界中に衝撃を与えた。盗聴の対象は、一般に認識されているようなテロリストだけでなく、一般市民を含み、それどころかドイツのメルケル首相など、友好国の首脳すら含まれていたというのだ。この問題は米国の信頼を大きく失墜させるとともに、NSAの調査に協力している米国企業への不信感につながっている。米国の大手通信事業者AT&Tは買収による欧州進出を模索しているが、欧州の規制当局による買収審査は従来以上に慎重なものになりそうだ。

第1位 加速する業界再編

ソフトバンクは7月に米国第3位の携帯電話事業者スプリントの買収を完了させた。上位2社(ベライゾン・ワイヤレスとAT&T)との差は大きいが、日米あわせて約1億ユーザーという規模や日本市場で躍進したソフトバンク・モバイルのノウハウを活かして追撃を狙う。ソフトバンクは米国第4位のTモバイルUSの買収も検討中であると報じられており、実現すると、売上規模で中国移動に次ぐ世界第2位の携帯電話事業者になる。一方、ベライゾンは9月、これまでボーダフォンとの合弁事業で行ってきた携帯電話会社を100%子会社にすると発表した。ベライゾンがボーダフォンの持ち分45%を買い取るために支払う金額(株式交換を含む)はなんと1,300億ドル(約13兆円)。ボーダフォンはその大半を株主還元にまわすが、手元に残る現金(約3兆円)で、ネットワーク整備などを進める。携帯電話業界は第3世代から第4世代への切り替え時期に差し掛かっており、この機を捉えて積極的に勢力を拡大しようと考える事業者と、企業価値の高いうちに手放そうと考える事業者がいる。買収劇は今後も増える可能性がある。

◇◆◇

2013年の十大ニュースを見返してみると、NSAによる盗聴、ソーシャル・メディアのワルノリ投稿、リベンジポルノなど、情報社会の負の部分が大きくクローズアップされた年となった。その他にも、サイバー攻撃や歩きスマホなどの問題、特定秘密保護法の成立という出来事もあった。

一方で、ウェアラブル端末、自動走行車、3Dプリンター、仮想通貨など、未来につながる製品・ツールも注目を集めた。また、TPP協議による知財制度の変更の可能性やM&Aによる勢力図の変容など、情報通信業界内のさまざまな秩序もまた変わりつつあることを印象付ける年となった。

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