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「ボーダフォン、海外渡航者向けにVHEサービスを開始」

 ボーダフォンは2001年4月、国外のオペレータにローミングしてGSMを利用するユーザーに対して、国内と同一の利用方法で国内の固定および携帯電話、その他のサービスに接続可能とするサービスを開始した。これまでは、ホーム国である英国でボーダフォンに契約したSIMを国外に持ち出して英国内に電話を掛ける場合、国番号(+44)から電話番号を入力する必要があったが、このサービスが導入されたことにより、国際呼であることを意識せずに国内と同じ番号で電話が掛けられることとなった。また、一般の電話番号のみならず、ボイスメール(121番)、オペレータ接続(100番)、番号案内(192番)、カスタマー・サービス(191番)等のショート・コード(すべて英国内での番号)もそのまま利用可能となっている。この種のサービスは、自社のエリア内と同様の環境を仮想的に国外に作りすことからVHE(virtual home environment)サービスと呼ばれている。

 本サービスは、現在のところボーダフォン系列の7社のネットワーク(D2[ドイツ]、リバテル[オランダ]、テレセル[ポルトガル]、コネックスGSM[ルーマニア]、エアテル[スペイン]、ユーロポリタン[スウェーデン]、ボーダフォン[英国])において相互に利用可能となっており、今後さらに系列内のその他の事業者に拡大する予定とのこと。なお、ボーダフォン系列のGSM事業者間の通話料金については、加入者の囲い込みを目的として「ボーダフォン・ユーロコール」というサービス名で欧州規模での共通タリフ(本誌2月号で紹介)が導入されており、今回のVHEサービスの導入により、ボーダフォン系列への囲い込み戦略がさらに強化されることとなった。

 本サービスを実現する機能としては、イスラエルのコンバース(Comverse)社の子会社のスター・ホーム(Star Home)社の開発したゲートウェイが利用されており、各系列会社のネットワークに設置されているこのゲートウェイがVHEサービス呼であることを認識し、発信者のホーム国の適切なネットワークへと呼を転送する仕組みとなっている。

 このようなサービスをボーダフォンが提供する狙いは、自社の加入者の利便性を向上することによる加入者獲得にあると捉えることもできるが、それよりはむしろ、ローミングによる通話料をボーダフォン・グループに囲い込むというところにあると思われる。GSM利用者が国外にローミングする場合、同一の900MHz帯域には通常、ローミング協定を締結している複数の事業者が存在するため、ユーザーが端末の画面上に表示される事業者を選択することになるが(端末の設定により電波の強い事業者を自動選択することも可能)、より利用方法が簡易で通話料の上でも優位性のあるボーダフォン系列のネットワークをユーザーが選択する可能性がますます高まることになるだろう。

 参考までに、英国の他のオペレータをみると、オレンジは限られた番号(主としてショート・ダイヤル)に対するVHEサービスを既に提供しているが、2001年6月にはさらにその対象を拡大することを計画している。また、ワン2ワンは、親会社のドイツ・テレコムの戦略に合わせて近々類似サービスを法人顧客向けに提供する計画とのこと。この種のサービスは、ボーダフォンのように多くの国々でオペレータを運営している事業者の優位性が際立つものであるが、他のオペレータがそれに対抗して同種のサービスの提供エリアを拡大するためには今後海外のオペレータとの積極的な提携を余儀なくされることとなるだろう。今後の動向を興味深く見守りたい。

木鋪 久靖(入稿:2001.6)


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