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「ブロードバンド固定無線アクセス・サービス、
国内で続々サービス開始」

 2001年夏はコンシューマー向け固定無線アクセス・サービスが国内で次々と開始されることになりそうである。いずれも2.4GHz〜数10GHz帯を用いた無線ブロードバンドで、ブロードバンド化の遅れが指摘される日本にも、いよいよ多種多様なブロードバンド回線が登場しつつある。本稿ではアクセス回線として大きな期待を背負っている固定無線アクセス(FWA、無線LANなど)についての国内外の動向を整理し、考察する。

1.無線アクセスの概要と固定無線アクセス
 無線アクセス回線は、利用する電波を元に以下のように大別される(図表1)。通信速度がメガ・クラス以上のIMT−2000、2.4GHz帯無線LAN、5GHz帯無線LANおよびFWAがブロードバンドということになるが、現時点ではIMT-2000は低速であることから本稿では省略する。固定無線アクセスとは本来その名のとおりFWA(Fixed Wireless Access)のみをさしていたが、2.4GHzや5GHz無線LANがLANの領域を越えて加入者系無線アクセス・システムとして技術革新したため、現在ではこれらを含めて総称的に固定無線アクセスと呼んでおり、ブロードバンドの一躍を担うものとして注目されている。特に日本では、地価や地形の問題など様々な理由によりラスト・ワンマイルの光化に膨大なコストがかかるため、低コストなブロードバンド無線アクセスに大きな期待が寄せられている。

図表1.無線アクセス回線の分類

図表2.FWAの仕組み

2.国内の固定無線アクセス動向

(1)FWA方式の動向
 国内では1998年末、総務省(当時は郵政省)がFWA用に22/26/38MHz帯を割り当て、翌1999年には日本テレコム、TTnetなどが事業を開始、現在では10数社のFWA事業者が存在する。当初は各社とも企業拠点間用通信事業を展開していたが、2000年7月ソニーが開始した「bit-drive」のようにインターネット接続サービスも盛んになってきた。2001年4月、総務省はさらに加入者系回線市場の競争を高めるため、FWA向けに新たな周波数帯を追加開放して参入枠を増やした。さらに平成13年度から平成17年度までの5年間、FWAを整備する民間事業者等に対して、無利子・低利融資や、税制優遇措置、など財政・金融上の支援措置を講じることも決定、参入障壁の低減に努めており、今後もFWA事業者が増加することが予想されている。実際NTT地域会社が光ファイバを直接引き込めない地区や家屋に無線を用いるため、 26GHz帯の無線免許を申請する予定である。

 FWAの問題点は、その利用周波数帯の電波特性にある。ミリ波は高速通信を可能にするが降雨などの影響を受けやすく長距離通信には向かない。また直進性が強いため、通信するためにはほぼ完全な見通しを確保した上でアンテナを対向させる必要がある。よってサービスの提供エリアは狭く限られてしまう。各社は基地局の増設を行っているものの、東京や大阪など主要都市でしかサービスが提供されていないのが現状である。また、コンシューマー向けサービスとしては最大で10Mbps程度(P−MP方式)となり、しかも複数ユーザーで回線をシェアするため一人あたりの速度は低減し、結果的に速度あたりの料金が思ったほど安くならない状況にあり、加入者も低迷している。

(2)マルチメディア移動アクセス(MMAC)方式の動向
 国内でIMT-2000に続く高性能無線システムを開発するため1996年、産学一帯となってMMAC(Multimedia Mobile Access Communication)推進協議会が設立され、MMACの早期実現のためシステム開発が進められている。下図(図表3)に示すように4つの無線アクセス規格が標準化されており、中でも2000年12月、最も早く標準化された5GHz帯移動アクセス方式が今話題となっている。伝送速度は6M〜54Mbpsと高速で、変調方式にはOFDM(orthogonal frequency division multiplexing)を使用しており干渉にも強い。日本では通信事業者が公衆サービス利用イメージで策定した規格(個々のユーザーに最低通信速度保障が行なえる)「HiSWANa方式」と、家庭内ネットワーク(無線LAN)の延長上に位置付けられる「イーサネット方式」の二つが先行している。NTT東日本は既にこの公衆網型HiSWANaに準拠した無線データ通信サービス「Biportable」を2001年3月〜試験提供しており、近々商用化される見通しとなっている。

図表3.MMAC方式

図表4.MMAC方式と海外方式

 一方「イーサネット方式」は米国の5GHz帯無線規格IEEE802.11aと同一規格であり、これは既存無線LANの規格IEEE802.11bの後継にあたるため、既に普及期に入った現状の無線LAN機器の代替として近々普及する事が期待されている。NECは2001年末、このIEEE802.11a無線LAN機器をLAN機器として投入するが、将来的にはHiSWANaにも対応させ1台で公衆用途にも利用可能とする考えを示唆している。

 このように5GHz帯移動アクセス方式は将来屋外の光ケーブルと家庭内を結ぶゲートウェイとなる可能性を秘めている。しかし問題点も多い。現在通信速度は36Mbpsが限界であり、前評判ほどの速度は得られていない。また5GHzという周波数帯は既に通信衛星や気象衛星などで利用されており、通信規格が複数存在する。混信をさけるため、苦肉の策として総務省は2000年10月、この方式の利用範囲を屋内(店舗内、家庭内、駅構内など)に限定した。諸外国も同じような規制をかけているが、実はもう一つ5.8GHz帯域も利用可能であり、逃げ道がある。しかし日本ではこの帯域もITSに予約されてしまっているため、事実上5GHz帯による無線アクセスはかなり限られたスペースでしか利用できないことになり、市場の魅力は下がってしまった。

(3)2.4GHz帯無線アクセス方式の動向
 2001年夏、国内で急増するのが2.4GHz帯によるブロードバンドである。そもそも2.4GHz帯は免許取得の必要がない自由に利用可能な帯域であり、事業開始は容易ではあるが、逆にノイズも多く、品質を重視する公衆サービス運営は難しいとされてきた。実際この帯域を最初に商用利用しようとしたソフトバンク系のスピードネットは、当初2000年夏サービス開始予定であったが、通信品質の問題から開始を延期している。しかし5GHz帯があまり期待できなくなった今、選択肢は2.4GHz帯またはFWA帯しかないため、いよいよこの帯域で参入する企業が登場し始めた。まず2001年5月25日、ようやくスピードネットがさいたま市の一部地域に最大1.5Mbpsの伝送速度でサービスを開始したのに続いて、有線ブロードネットワークスが2001年6月7日会見し、2001年末にも2.4GHz帯の無線LAN技術を用いて、最大11Mbpsのインターネット接続サービスを開始すると発表した。またケイ・オプティコムは2001年6月14日、2.4GHz帯の無線インターネット「eoメガエア」(イオ・メガエア)の試験サービスを2001年6月16日から開始すると発表した。最大1Mbpsで提供し、本格サービスとなる10月からは月額4,000円台の料金で開始するという。さらにファミリーネット・ジャパンは3Mbpsという高速無線インターネット・アクセス・サービスを引っさげ、インターネットマンションの周辺住宅向けに平成13年7月より首都圏でサービス開始するという(図表5) 。

図表5.ファミリーネット・ジャパンのシステム構成

図表6.国内無線アクセス方式のポジショニング

 一方、政策面でも盛り上がりを見せ始めている。総務省が2.4GHzの利用に積極的な姿勢を示し始めたのである。2001年4月2日、2.4GHz帯の高度利用化に着手すると発表、さらなる高速化や屋外での効率的利用を目指して動き始めた。具体的には、より干渉に強いOFDMの採用を検討しつつ、最大データ伝送速度を20Mbpsまで高速化する「IEEE802.11g」の仕様策定を進めている。つまり5GHzで成し得なかった屋外での「無線インターネット・サービス」の実現に向けて動き始めたのである。

3.諸外国の無線アクセス動向
 海外においても、無線アクセス方式は人口密度の高い地域に低コストでブロードバンドを敷設するときに有効だと考えられており、例えば香港ではこの無線アクセス方式が主流となっている。しかし、日本より以前から固定無線を導入している欧米諸国では総じて行き詰まっている。米国ではFWAのウィンスター、テリジェント、ワールドコム、MMDSでは米スプリントらが破産、もしくは経営不振に追いこまれている。英国でも2000年11月実施されたFWA事業(28GHz帯)免許42のうち14地域しか買い手がつかず、落札総額は3,800万ポンドとつまらないものに終った。また独最大のFWA網を展開するカリノも登記裁判所に支払い不能手続きの開始を申請した。カリノは郵電規制庁から国内業者最多の555のFWA事業権を取得、これまでに100基地の稼働を開始しているだけに、衝撃は大きい。

4.固定無線アクセス事業の今後
 欧米諸国の現状は、日本の未来を暗示しているのであろうか。欧米諸国が頓挫してしまった原因の多くは、資金繰りの失敗であった。財務面での失敗を引き起こした一因に、固定無線事業権獲得のための多額の免許料支払がある。しかしそれだけではない。事業を行き詰まらせたのはマーケティング戦略の失敗があげられる。広域で運用できない固定無線事業においては、適切なマーケットへスムーズにシステム導入することが最も重要である。綿密なマーケティング戦略を立案し、少ない顧客から多くの利益を得るため、知恵を絞って設備投資や資金運用をはからなければならない。欧米諸国における固定無線事業の失敗は、日本のラスト・ワンマイル市場へ新規参入を計る企業全体に大きな教訓を示している。つまり今後の固定無線アクセス事業戦略に必要なのは「選択と集中」なのである。

 米国では中小企業にフォーカスするマーケティング戦略が考えられるようである。米インサイト・リサーチ社の調査によると、米国中小企業ユーザーの広帯域アクセスへの需要は衰えを見せておらず、FWAは今後急激に増加すると見込まれるという。同社の試算によると2001年のFWA売上高は約30億ドルで、そのうち93%が中小企業ユーザーからの収入であるという。またこれらのユーザーがFWAに感じている魅力は、初期費用の安さや品質の良さなのである。つまり、ターゲットを絞り込み、価格や品質の優位性を徹底的に伝えていけば固定無線にもまだまだチャンスがあるというわけである。

 一方欧州では、既にこの「選択と集中」が実行されつつあるという。米ストラテジス社によると、欧州固定無線事業者は、これまでの欧州における数々の失敗を教訓に戦略を大きく転換させており、都市部の商業地区などさらに地域を限定し、ターゲットも企業ユーザーを中心に絞り込んでいるという。その結果、欧州の固定無線アクセス市場が大きく成長し,2006年には欧州15カ国を合わせた企業向けサービスの売上高は62億ドル、家庭向けは24億ドル、計86億ドル規模に達するという。 

 日本においても固定無線サービスは現在低調であるが、同様の環境変化や企業戦略の転換により、少しづつ明るさを取り戻していくことも予想される。また政策面においても、無線アクセスは加入者系アクセスの大きな柱として政府が積極的に参入環境を整えている状況にある。

 しかし市場構造変化はまさにドッグイヤーである。最近の国内ブロードバンド市場は、コスト戦略が加速度的に伸展している。弊社が2001年6月13日に発表した「ブロードバンド・インターネットの料金及び利用意向に関する調査結果」においても、ADSLは日本のほうが安くなるところまで来た事が判明しており、さらに2001年6月19日にヤフーが参入を発表したADSLはなんと月額2千円代という低価格になる。低コストを最大の売りにするはずであった固定無線アクセスは、この市場変化についていけるだけの低コストを実現できるのか。今後の固定無線アクセス業界は集中戦略を軸に、その中でコスト・リーダーシップ戦略、または利便性をアピールする差別化戦略を展開していくことになるであろう。今回は事業者観点から同業界を分析したが、次回は定量、定性的ユーザー・ニーズ調査を行ない、ユーザー観点から日本の固定無線アクセス市場を予測してみたい。

竹上 慶(入稿:2001.7)


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