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マンスリーフォーカス
No.33 April 2002

世界の通信企業の戦略提携図(2002年4月3日現在)

97.テリアとソネラの合併(概要)

 スウェーデンのテリア(Telia)とフィンランドのソネラ(Sonera)は合併で合意したと2002年3月26日に発表した。
 テリア株式の71%をスウェーデン政府が所有しソネラ株式の52.8%をフィンランド政府が所有しており、本合併は世界始めての旧国営独占通信事業者の国境を越えた合併である。ソネラ株主がソネラ株1株につき新テリア株1.5144株を受け取る株式交換合併で、新社の株主構成は旧テリア64%、旧ソネラ36%の割合になる。新社のCEOは現テリア、ソネラ以外から迎える。
 新テリア社の経営規模は、2001年末の固定系加入回線数(加入電話・ISDN・ブロードバンド)が旧テリア683万、旧ソネラ60万、バルト3国等330万、総計1,073万で、同移動電話加入数が旧テリア344万、旧ソネラ246万、バルト3国等226万、総計806万であり、従業員数は約34,000名である。
 両社の発表によれば、合併後の単純合算2001年連結ベース業績は、売上高が$83.0億、利払い・税金・償却前利益(EBITDA)が$20.8億と推定され、2003年までに共通プラットフォームの建設投資など$2.3億のコストがかかり、2005年平年ベースで$2.7億ドルのシナジー効果が見込まれる。

98.ワイヤレス革命で米国はヨーロッパに追いつけるか(概要)

 西欧諸国の携帯電話普及率75%に対して米国の普及率が45%に止まるのは何故か?規制方式の差と文化的背景の違いによると思われる。
 西欧諸国が1987年に単一標準の技術開発を決めたのに対し、米国は標準化をマーケットに任せるFCC政策により5方式併行としたため、西欧のGSMが規模の経済を享受できるのに米国はコスト高や携帯電話によるメッセージ接続の不良に陥った。もともとテキスト・コミュニケーションの好きなヨーロッパ人に対し、アメリカ人は電話好きでコンピュータの開発・普及で進んでいたためテキスト通信をパソコンに任せたのである。
 ヨーロッパと違う周波数帯を使ってGSMを採用した米国の移動通信事業者がいる。AT&Tワイヤレス、シンギュラー(Cingular)とヴォイスストリーム(VoiceStream:VS)は共同で全米に2.5G=GPRSを提供する計画である。テキスト・メッセジングの相互接続も準備中である。全国標準がない自由によりヴェライズン・ワイヤレス(VZ Wireless)は韓国で採用された3G標準CDMA-1Xサービスを導入した。スプリント(Sprint PCS)も近くこの144Kbpsサービスを開始する。
 米国では3Gの取り組みが遅れたため周波数割当はこれからで、事業者は先行きのメドも立たないのに高額の免許料を払う羽目に合わずに済む。モバイル・インターネット融合の利点を享受するのはヨーロッパ勢よりも米国の事業者になろう。
 米国流の自由放任・個人主義的アプローチが勝つか、ヨーロッパ流の集中的計画・コンセンサス方式が勝つか、帰趨が決まるのはこれからである。

99.メディアの債務処理は経済合理性か政治力か(概要)

 最近ドイツの経済経営システムが変貌し始めたようである。株主重視の米国式経営と違って、取締役会の上に監査役会があり役員と従業員組織がコンセンサスを得ながら経営をしていくのがドイツ文化とされてきた。ところが、1999年にシュレーダー政権が打ち出し2002年1月から実施された税制改革は、塩漬け資産売却による企業買収を促進する趣旨で企業が保有する株式を放出した場合の売却益課税を撤廃した。ドイツ的経営システムを改革し市場原理による経済再生を図る政策である。
 そこで問題なのが、$58億の負債を抱える複合メディア企業キルヒの債務処理である。レオン・キルヒ(Leon Kirch)は1950年代末に映画配給で創業し1960年代半ばに音楽ビジネスにも進出し、1980年代の商業放送導入への参加を機会に総合メディアの道を指向するようになった。コール首相の長期政権末期に経営危機に見舞われたキルヒは首相との人脈で銀行団の融資を取り付けて乗り切り、新聞・出版社シュプリンガーに40%出資して政治力を一段と強化したと言われる。ところがバブル経済は去り人気コンテンツの独占売買商法による過剰投資がもたらした巨額の債務に悩むキルヒ・グループを前に、現シュレーダー首相は中立の姿勢をとるようになっている。
 今やシュプリンガーの離反をきっかけに複合メディア企業キルヒは、従来のビジネスモデルに対する債権銀行団の疑念と、救済を機会にグループの中核企業キルヒメデイアへの出資を20%づつに増やす意思のあるメディア王マードックとイタリア首相ベルルスコーニの外資攻勢の間に漂っている。
 債務処理を経済合理性で貫けば、如何に先行きの分からない経済金融情勢でも一定の結論は出る。しかし、債権銀行団の筆頭のバイエルン州立銀行は公的金融機関で野党側に近いこともあり、キルヒ持株会社の出資比率を下げて癖のある外資導入を認めることは
政治的に複雑な「Global Politics」の課題である。
 1999年末にマンネスマンに対するボーダフォン・エアタッチの敵対的買収があり、結局友好的合併の合意となったもののドイツの看板企業が外資に呑まれる大事件だったが、今度はどうなるか。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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