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マンスリーフォーカス
No.35 June 2002

世界の通信企業の戦略提携図(2002年6月3日現在)

103. 通信企業不振の影響(概要)

 ヨーロッパと北米で通信企業の不振が続き、クェストのMoody's長期債務ランクがジャンク債級(Ba2)に引き下げられワールドコムがStandard&Poor500リストから外されるなど、信用度が下がってきている。『電気通信産業における人員削減が今や50万名を越えた』("Recovery?:Bouncing back"Communications International June,2002)とはバブル期との比較でIT製造部門を含む数字と思われるが、企業不振の影響は通信サービスの雇用問題にまで及んできている。

 汎欧企業データ通信網KPNクェスト(KPNQwestN.V.、Qwest Commu.Int'l50%出資、KPN40%出資)は巨額投資の重荷に喘いでいたが、主要投資機関が離れて資金操作困難に陥ったため、2002年5月23日にオランダ法に基づく債権保全手続を申請して事実上倒産し、5月31日には(1)主要資産の売却先が確保できなかった、(2)ベルギー事業本部とサービス機能が停止する時に備え顧客は代替網を確保して欲しい、(3)KPNクェスト株の取引は停止され、6月7日アムステルダム証券取引所(AEX)インデックスから外されると発表した。

 米国長距離通信事業者3社(AT&T、ワールドコム、スプリント-移動通信のSprint PCS Group除く)2002年第1四半期売上高は$241.7億で対前年同期比10%減を記録した。2002年も引き続き減収が見込まれ、不振は長期化する。対応策として地域通信への参入が試みられているが、合理化は必須である。迎える地域通信大手4社(ヴェライズン、SBC、ベルサウス、クェスト)も安定基盤を守るため人員削減を含む合理化に努めなければならない。

 米国通信サービス企業大手7社(長距離3社+地域通信4社)の従業員総数は2001年末で86.8万名。2001年中の変動は1990年代以来始めての77,900名減少で減少率は8.2%と言うが、2002年の人員削減は合計37,700名に達する。

 米国の景気は回復が続いているものの先行きはなお不透明と言われ、英国やアイルランド、北欧諸国に遅れて独仏その他諸国が回復し始めたと言ってもヨーロッパの産業経済全体は不況に沈んでいる。不況打開の長期政策は市場主義に徹することであるのなら、通信サービス企業の蘇生策はBTの辿った道、つまり資産整理と負債を削減などの合理化そして利用者に安い料金でより良いサービスを提供することしかない。

104. メディア・コングロマリットの存在意義(概要)

 メディア・コングロマリットとは次表の通り、多数のメディア分野にまたがるAOLタイム・ワーナー(AOL TimeWarnr Inc.:AOL TW)、ヴィヴァンディ・ユニバーサル(Vivendi Universal:VU)、ヴァイアコム(Viacom Inc.:VIA)、ニューズ(News Corp:NWS)、ディズニー(Walt Disney Corp:DIS)、ベルテルスマン(Bertelsmann)の6大メディアグループと電子・メディア複合企業ソニー(Sony Corp:SNE)を指す。

表 メディア・コングロマリットの業務分野
企業名 InternetPortal TV放送 ケーブル放送 通信 映画 TV制作 音楽 出版 ラジオ テーマパーク
AOL TW x x x
x x x x x
VU x
x x x x x x
x
VIA
x x
x x
x x x
NWS
x x
x x
x

DIS
x x
x x
x x x
ベルテルスマン
x


x x x x
SNE



x x x


 2000年1月にAOLとTime Warnerの合併が合意された時インターネットとコンテンツの最適組み合わせと賞讃され、1年後にAOL TWが誕生した時には株価は1カ月で50%も上がった。しかし、その後大きな期待が具体化せず、AOL TW2002年第1四半期に巨額の特別損失を計上したため、株価は急落し経営の見直しに迫られている。

 2000年6月にヴィヴァンディとシーグラムが合併してUVが誕生した時は、ネットワーク/メディア融合の先駆と賞讃され、USAネットワーク買収(2001年12月合意)も米国展開戦略として是認された。しかし2002年第1四半期の業績でメディア事業は悪化したものの通信事業のプラスで改善されたとしたが、Canal +の業績が悪化とレスキュール会長解任により市場で不評を買い、VU株主総会は難航し不透明な状況となっている。

 代表的メディア・コングロマリットのAOL TWとVUが金融市場で酷評されるに至ってメディア・コングロマリットの存在意義まで問われ始めているが、コンテンツと流通経路を一体に捉える幅広い概念とコングロマリットが具体化した方法論を混同して論評するのは間違っている。

 メディア・コングロマリットの課題は、しばしば独立プロに見られる創造的精神とコンテンツ制作にカネと流通経路をもたらす規模と権力を結び付けることである。大切なことは創造的な独立プロを呑み込み、破壊することなく大きく成長することである

105. 中国情報通信の新体制(概要)

 2001年12月11日正式にWTOに加盟した中国は本格的な通信自由化に踏み切る一方情報管理体制を強化している。

 加盟後3年以内の段階的外資制限緩和に備えた基本法として、国務院は「外商投資電信企業管理規定」を制定・公布し2002年1月1日から施行した。旧国営の「中国電信(China Telecom )」を2002年5月16日に北部8州・自治区、2直轄市対応の「中国網絡通信集団公司(網絡)(China Netcom Group Limited)」と南部18州・2直轄市・西蔵に対応し旧称を承継する「中国電信集団公司(China Telecom Group Limited)」に分割した。網絡は99年8月に設立された新電電中国網絡通信と1994年1月設立のデータ通信企業中国吉通通信を吸収した。

 中国の通信産業は網絡との2社に、躍進する中国移動通信、長距離第二電電として1994年7月に設立された中国聯合通信、2000年12月に独立した中国衛星通信、同時期に設立された新電電の鉄道通信の4社を加え、6通信企業で構成される。

 今回の再編成完了時の売上高シェアは、中国移動通信36.6%、中国電信33.8%、網絡17.2%、中国聯合通信約10%と推定される。

 中国の情報通信の現況は、2002年4月末現在で固定電話加入回線数191,320,000、普及率15.1%、携帯電話加入数166,650,000、普及率13.1%、2002年1月1日現在のインターネットユーザ数3,370万名である。

 中国の情報管理は従来公序良俗違反・反体制情報の取締りを中心にしてきたが、インターネットの普及に伴う新情勢に対応するため強化の方向にある。

 最近「インターネット・カフェ取締まりの新規則」(Total Telecom2002.5.17)とのニュースが流れた。ロイタースタッフは『中国文化部はインターネット・ウェブ・カフェ清浄化運動を開始。2002年4月末に2万店あったカフェのうち17,000店が違法な営業(ポルノ・ギャンブル・暴力・フェティシズム等のウェブおよび密輸品ビデオ競売など)の故に閉鎖され、2002年10月まで新しい許可は下りない。新規則では16才未満の児童は先生の同伴無しにカフェを利用してはならない、児童の利用は休日に限りオンライン利用は3時間まで。今後ウェブ・カフェは利用客リストとインターネット利用記録を備えなければならない』『永らく禁止されて来た北京・上海接続点経由西側報道機関機関ウェブへの自由なアクセスが5月16日に解除されたようだが未確認』と伝えた。

 これに先立つ「中国は厳格な新インターネット管理を開始」(Totaltele2002.1.21)とのニュースでトータル・テレコム・スタッフは『1月18日AP電によれば、情報産業部(Ministry of Information Industry:MII)のウェブに掲示された新規則は、今やポータルサイトは微妙な素材(sensitive materials)を含む電子メールを当局に提出できるよう利用者が送受する全ての電子メールをチェックしコピーするセキュリティ・ソフトをインストールしなければならない。ISPはまたチャットルーム、電子掲示板を含むウェブに書き込まれた禁制コンテンツを消去する責任を負う。新規則は禁制コンテンツ項目として、年来禁止してきたポルノ・暴力から、国家機密をもらし中国の名誉を傷つけ共産主義の転覆・民族の分裂・邪悪な宗教集団を唱道するものなどを長々と列挙している』と伝えた。

 中国はWTO通信自由化目標年次の2006年と北京オリンピックの2008年を意識して鋭意通信法制.産業体制の整備を進めているが、情報の自由、コンピュータ/情報サービス規制については、アヘン戦争に遡る歴史に根ざす国権優先の論理と1978年以来の改革開放路線下での市場経済適応的法整備や国際人権論の影響などで複雑な環境におかれており、国際的に共通の価値体系が整うには長期間かかりそうである。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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