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マンスリーフォーカス
No.36 July 2002

世界の通信企業の戦略提携図(2002年7月3日現在)

106. ワールドコム粉飾決算がもたらしたもの(概要)

 ナスダック総合指数が年初以来最安値の1423.99を記録した2002年6月25日に、米国長距離通信会社No.2のワールドコムは、社内調査の結果2001年通期と2002年第1四半期の5四半期を通じて販売管理費などに計上すべき費用を設備投資と看做すことで総額$38.52億利益を水増ししていたと発表した。

 ワールドコムはこの日に17,000名の人員削減と$20億規模の資産売却を柱にした経営改善策も発表したが、巨額の粉飾決算のショックは余りにも大きく、業績不調に伴い2001年末$14から2〜3月$6、4〜5月$2〜1と下がってきていた株価が遂に1ドルを割り込んだため取引停止となった。ワールドコム問題は、2001年末のエンロン事件以来グローバル・クロッシング、クエスト・コミュニケーションズと不正計理の報道が続いたところに出現したので、そのショックは大きく世界同時株安を演出した。

 ワールドコム株式の取引は7月1日に再開されたが、数分後に7?と言う馬鹿馬鹿しい値をつけ、15億株の取引の後の終値は6?であった。ナスダック全体の売買高30億株のほぼ半数に相当する。ナスダック総合指数は1403.80と1997年6月以来の安値をつけた。2000年の過去最高値のほぼ1/4の水準である。

 取引停止時点の株価8.3?で算出したワールドコムの時価総額は$24.6億で情報通信サービスプロバイダーTop20をはみ出たNo.27であるが、7月1日には$2億程度に落ち、近くワールドコム株は上場廃止となる。

世界の情報通信サービスプロバイダTop20

 1週間前までJ.シジモア社長兼CEOは協調融資団を構成する約30銀行に$50億の信用枠再設定など金策に努めてきたが、ワールドコムは今や解体か再編成という不幸な結末に運命づけられてきた感じである。

 しかし、企業情報通信サービスは比較的強いが、住宅用通信サービスのコストダウンは困難で、移動通信事業は1999年にスプリントPCS買収を合意したのに独禁規制で認められなかったため、再編成は難しい。解体にしても、光ケーブル幹線網は売り物だが現下の供給過剰が薄らぐまで待てないし、市内アクセスは散在しているため売り難い。

 ワールドコムの資産をまとめて保有する資力があるのは、ヴェライズン・コミュニケーション、SBCコミュニケーション、ベルサウスなど旧ベル電話会社だけである。

107. ヴィヴァンディ・ユニバーサルの危機(概要)

 ヴィヴァンディ・ユニバーサル(Vivendi Universal:VU)の株価は、環境事業子会社ヴィヴァンディ・アンヴィロンマンの株式15.5%を$17億で売却すると発表した6月24日に$17.79と前週終値のマイナス23.3%まで下落した。J.-M.メシエ会長兼CEOの経営スタイルとVU経営幹部内でのヴィヴァンディ対ユニバーサル、米国対フランスの抗争から、負債が重く業績不調なVU経営は安定路線を確立できず、6月30日にフランス人役員が「メシエ会長辞任もやむを得ない」と合意した。

 7月1日の「メシエ辞任へ」報道によりVU株価は10%も上昇し、7月2日フィガロ紙インタービューでメシエ会長は「VU生き残りのために辞任する」と語り、7月2日にルモンド紙は「VUは2001年決算で$15億にのぼる不正な利益水増しを画策した」と報じ、格付け会社ムーディズがVU長期債務格付けをジャンク債に下げたため、パリ市場でVU株は前日終値比マイナス40%下落し一時売買が停止された。

 7月3日VU取締役会で投票の結果、独医薬品会社アヴァンティス(Aventis)のジャンールネ・フルトゥ(Jean-Rene Fourtou)副会長が会長兼CEOに任命され、永年メシエ会長を批判してきたベベアール(Bebear)アクサ保険監査役会長も取締役に選任された。

 フルトゥ新会長は取締役会終了後「VUの流動性は厳しいが出来るだけ早期に健全な財務を回復する。2週間以内に財務状況、特に短期資金ポジション改善に向けあらゆる手段を講じる」と述べた。ベベアール取締役は新設の財務調査会の委員長に任命された。

 VUは既に330億ユーロにのぼる債務と格闘中で、金融戦略に数々の問題がある。VUの新しいトップは資金調達上急いで斬新で実行可能な戦略を描かなければならない。手っ取り早い金策は資産売却である。最も有名なのはユニバーサル・ミュージックとユニバーサル・スタジオ、そして有料放送カナル・プリュ、民間通信事業者セジェテルであり、足りなければヴィヴァンディ・アンヴィロンマンの残る株式40%の切り売りに戻ることになる。アナリストの多くは最初の手がかりはセジェテルのVU持株44%で、少数株主を買取り・整理してから全体をボーダフォンに買ってもらうのが良いとする。カナル・プリュは有望だが、組合が強く政治家に反対が多いので容易ではない。2年前に取得したユニバーサル・ミュージックとユニバーサル・スタジオを元の売り主に買い戻してもらうことが考えられる。

108. KPNクェスト倒産でEボーン停止(概要)

 倒産した汎欧企業データ通信網KPNクェストのヨーロッパ網は、不況のためまとめ買いオファーが見つからないまま、構築中のEuroRings、西欧10カ国のローカルアクセス、新入りのEボーンと中東欧5カ国ローカルアクセスはそれぞれが独立の標的となり、既存通信企業が協議会を構成しネットワーク運転を行う西欧主要国を除き、各単位は網停止日を予告して買収者の出現を急かし思わしくなければ停止日を延ばす行動をバラバラに始めていた。ところが、KPNクェストの幹線網Eボーン(EboneNetwork)は、6月始めに解雇されたベルギーセンター従業員350名の無給ネットワーク運転により維持されてきたが、遂に7 月2日午後に停止した。

 Eボーン停止の影響については、5月31日にKPNクェストがユーザに代替網確保をアピールしたためか、10万名にのぼるユーザのうち有名大企業はインフラ網やデータサービス網を確保済みで、中小企業(SMEs)も取りあえずはローカルアクセスに行きISPに転送できる所為か、大きな混乱は起きていない。インターネット・サービスには時々刻々変動するトラフィック・ヴォリュームに対し速度品質が保証されない「ベスト・エフォート」があるとの特徴が、案外浸透しているようである。

 KPNクェストに40%出資しているKPNは、これまで他の出資者がつき合わない限り救済出資はしないとの立場を崩さなかったが、すべのオファーが消えたところでKPNクェストの大部分の資産を$1950万で買収するオファーを行うと言われる。このオファーの対象にはEboneやGTS Central Europeを含めていないが、金融筋に期待値の1/10以下である。噂のKPNオファーの成り行きが注目される。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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