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マンスリーフォーカス
No.39 October 2002

世界の通信企業の戦略提携図(2002年10月4日現在)

115. ワールドコムは生き延びられるか?(概要)

 ワールドコム粉飾決算など証券詐欺容疑で起訴されていたD.マイヤーズ前経理部長は、2002年9月26日に証券取引委員会(SEC)への不正申告と証券詐欺・同共謀の事実をニューヨーク連邦地裁R.ケイシー判事に対して同社幹部として始めて認めた。マイヤーズ前経理部長は『私は毎四半期のワールドコム社決算書作成にあたり記録された現実のコストを削減して利益を増加させるよう上司から指示され、それが正当化できる証拠もないことを知りながら監督下の者とともに作業した』と陳述し、ケイシー判事は有罪答弁を受容のうえ判決予定日を取りあえず12月26日と指定した。最高刑は不正申告に10年、詐欺5年と定められているが、実際の量定は遥かに短くなるだろう。

 聴聞後の記者会見でマイヤーズ前経理部長の弁護士は、依頼人は当局に協力しても他の被疑者に対する証言についてはコメント出来ないと述べたが、検察側はマイヤーズの協力により彼の直近上司のS・サリバン前最高財務責任者(CFOないしB.エバース前社長兼最高経営責任者の刑事訴追について有力な手がかりを得たことになる。

 ワールドコムの粉飾決算額は6月25日発表時点で$38.5億、7月21日破産申請までに$38.3億追加されて総額$76.8億となっていたが、最近関係筋よりさらに$20~30億増えるとの情報が流れている。

 ワールドコム社はもともと在外子会社の連結決算方法という問題を抱えて司法省(DOJ)と証券取引委員会(SEC)の調査が進行中であり、経済不況や株価低迷に伴うのれん代償却額$506億も必要である。そこに負債がさらに増えれば、これまで2003年半ば債務処理完了を目標に作業し後任CEO探しも始めていたワールドコムが、もはやこれまでと解体の方向に流れ兼ねない。

 米連邦通信委員会(FCC)は9月27日に電気通信分野の現状と財務の健全性の回復に関する特別聴聞会を行うと発表した。10月7日に予定される聴聞会は、金融界と経済学の専門家を召集して電気通信業財務の健全性を回復・再活性化し、公衆の信頼を回復し、電気通信業界における財務的混乱の一層の悪化を防ぐため必要な方策について議論するもので、現下の深刻さを現わしている。

116. 通信企業再建策の国際問題化(概要)

 この半年近く通信企業の価値連鎖の崩壊から米国企業の大スキャンダルが生まれ、政策・戦略への疑念からグローバル・メディア・コングロマリットのトップが失職したが、ヨーロッパ2大通信企業の確執は仏独政府を政治的・財政的混乱に導いた。

 混乱は2002年9月12日のフランステレコム(FT)取締役会で(1)2002年上半期決算の承認、(2)M.ボン社長の引責辞任の承認とともに(3)FTが28.5%出資する在独移動通信子会社モビルコムへの支援打切りが決定されたことに始まる。

 9月13日にモビルコム従業員は雇用確保要求デモを行い、T.グレンツCEOは早急に破産法適用を申請すると発表した。そこで9月22日総選挙での再選をかけたG.シュレーダー首相モビルコム問題に直接介入すると発表し、9月15日夜の緊急会議で復興金融公庫(KfW)とシュレスヴィッヒ=ホルシュタイン州立銀行を通じて4億ユーロの資金援助を行うと決定。直ちにKfWは援助額のうち5000万ユーロをモビルコムに支払った。

 不思議なのはドイツ政府が総選挙直前にFTが撤退を決めるまでモビルコム対策を何も講じなかったことである。FTとモビルコムの喧嘩沙汰は衆知のことだったのに、モビルコム倒産は5,500名の雇用問題とばかりの投票日1週間前4億ユーロ融資決定は唐突である。かつてベンチャーのスターだったG.シュミットに近づく政治家はいなかったのだろうか。

 FTのモビルコム支援打切りは突発的決定ではない。バブル絶頂期の2000年3月に)M.ボンFT社長はモビルコム28.5%株式に37.4億ユーロを投じ、その後高速移動通信網建設の資金援助100億ユーロを約束する書簡を与え、バブルが弾けて移動電話産業の野心的目標が達成困難になって投資計画にブレーキをかけたため、2002年2月頃からFTとモビルコムの表立った喧嘩が続いてきた末のことである。問題は新モビルコム改組の際G.シュミットに一定条件の下持株をFTに売却するオプションを与えたため、FTが撤退するのならトラブルの噂で下がった時価の株式を過去の高値実績平均で買い取れ、しかも公平を期するため広くTOBを要求するとい罠にFTが追い込まれた。2001年秋にシュミット夫人(Sybille Schmid-Sindram)が持株会社ミレニアム(Millenium GmbH)名義でモビルコム株式で購入していたことが明らかになり、これをFTが第三者を通じた自社株購入による株価引き上げと疑う事件もあった。FTの懇請により2002年6月21日にはDT監査役会でG.シュミットCEO解任が決議された。8月28日にモビルコムはミレニアムを告訴した。T.グレンツCEOは9月27日に人員削減1,850名、3Gサービス計の凍結を中心に年経費を$1.27億節減する合理化計画を発表し、2000年8月以来の$46.4億融資の返済を9月末まで猶予していた債権者銀行団は返済期限をさらに10月14日まで延期した。

 FT上半期決算は純損失$121億、連結EBITDA(利払い税金償却前利益)$68.5億、赤字の主因は特別償却費$107億でモビルコムへの貸倒引当金・営業権償却費$72.5億が最も大きく、累積負債額は$692億に達した。FTの財務逼迫解決責任を背負う後任社長は10月2日取締役会でT. ブルトンが選出された。FTは差し当り$150億調達しなければならないが、政府保証債や補助金交付にはECの許可が必要だし、新株発行(rights issue)は割引発行が通常で大量に出すと価値低下を招く。複数解決策の併用となろうが、新社長は内部監査を当面最優先とするため早急に結論を出すことは困難であろう。

117. 音楽配信革命の行方(概要)

 音楽ネットワーク交換サービス企業ナプスターは、2年半にわたり大手レコード会社とアメリカレコード協会(Record Industry Association of America : RIAA)からの訴訟に対応してきて、有料サービス路線も模索したものの原告の大手レコード会社からコンテンツが得難いため立ち上がりが鈍く、2002年3月頃から資金事情が悪くなり5月にベルテルスマンへの身売りを決意して創業者幹部が辞任し、6月3日に破産法第11条適用を申請したが9月3日に連邦破産裁判所から却下された。ナプスターは即日ウェブサイトを閉鎖して「ナプスターのあったところ」と表示、それをクリックすると「可愛い子猫の墓」が出るようにした。ナプスターは破産法第7条による清算手続に入ったものと見られる。

 ところがナプスターが死んでもインターネットによる音楽無料交換は活況が続いている。もともとグヌーテラやフリーネットなど、サーバー抜きで直接楽曲を交換する技術・サービスが開発・利用されてきたうえ、カザー、モルフェウス、オーディオギャラクシーなど新顔が増えている。調査会社コムスコア・メディア・メトリックスによれば、カザーは累計8000万名に利用され、2002月6月のファイル交換サービス利用数は1440万とナプスター最盛期(2001年2月)の1360万を越えている。

 RIAAの2002年2月25日発表によればCDなど音楽ソフトの米国内出荷量は9.68億と前年比マイナス10.3%で、音楽違法コピーに圧迫されたとしている。

 RIAAは既にファイル交換ソフト会社に法的措置をとってきたが、電話会社にファイル交換サービス利用者IDの開示を請求し、ファイル交換サービス利用者に大量のダミー楽曲を浴びせ空きファイルにアクセスさせる妨害手段の開発など対応をエスカレートさせている。
しかしナプスターが「ネットワーク上の音楽は無料で自由に利用できる」との意識を消費者に浸透させた影響は大きい。RIAAなどの業界団体やアーティスト団体は有名スターを動員して音楽違法コピー防止の広告キャンペーンも始めた。ところが「エンターテインメント産業はこれまで同様新技術に適応して自らを進化させるよりも新時代の到来を妨害する道を選んでいる」といった論調が目立ってきた。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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