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マンスリーフォーカス
No.41 December 2002

世界の通信企業の戦略提携図(2002年12月3日現在)

121. 移動パーソナル情報通信の覇権争い(概要)

 フランステレコム(FT)の移動通信子会社オレンジは2002年10月22日にマイクロソフト(MS)が開発し台湾メーカー宏達国際に生産を依頼したスマートフォンSPVを英国やフランスで11月から発売すると発表した。SPVはパソコンOSウインドウズで動く最初の携帯電話機である。ウェブブラウジング・電子メール・AV再生・カメラ接続と電話が出来る小型端末は移動通信とインターネットの融合市場に対するパソコン巨人の挑戦にほかならない。

 コンピュータ産業が手帳大のデバイスにパソコンを押し込めようと努めているところに、移動通信産業は折り畳みキーボード・カラースクリーン・ディジタルカメラなど別の方向から攻めこんでいる。両産業とも移動通信とインターネットの融合型としてパーソナル・コミュニケーターまたはスマートフォンを指向しているが、未来へのアプローチ概念は異なっている。コンピュータ産業は汎用コンピュータを小さな箱に絞り込むことに未来があると信じるが、移動通信産業はゆっくり構えて消費者慣れした既存機能に一つ一つ新機能を付け加えるやり方を良しとする。

 SPVは大型家電メーカーと提携し損なったMSが直接最終消費者に売り込む新戦略の第一歩であり、MSと携帯電話機メーカー筆頭(市場シェア37%)のノキアとの直接対決が始まった。ウインドウズ設計情報を公開して来なかったMSに対し、ノキアは情報公開主義で定評があり、携帯電話機規格についてもオープン・モバイル提携(Open Mobile Alliance: OMA)を進めている。

 ITUの「モバイル世代のインターネット(02年9月報告」は『膨大な投資が必要な次世代(3G)網構築を前に投資家は市場の可能性ありとの証明を求めるが3G網が構築されないと証明はできない。モバイル・インターネットにはニワトリが先かタマゴが先かの問題があるので、その追求は通信産業史上最大のギャンブルだ』と言う。

 移動通信とインターネットの融合を移動パーソナル情報通信と呼ぶならば、それには電話・無線・通信・データ・放送などの標準が関連する。次世代(3G)携帯電話の世界標準がWCDMA、CDMA2000、TD-SDCMAと複数になった経緯からすれば、移動パーソナル情報通信の標準づくりは市場競争主義によるにしても、それと併行して未来サービスのオープン・中立・平等な概念論争は必要だろう。

122. ドイツテレコムとフランステレコムの新体制固まる(概要)

 7月16日以来暫定CEO体制できたドイツテレコム(DT)は、2002年11月14日監査役会で移動通信子会社T-モバイル社長K.リッケを新会長CEOに選出し、同時に2002年第3四半期DT決算を$244.4億の損失とし2002年1-9期DT決算をマイナス$246.7億と決定して発表した。

K.リッケCEOは11月28日に監査役会の承認を得て次の通り新経営陣を固めた。

CEO代理兼最高財務責任者(CFO) K. エック 留任
固定網T-コム部門長 J. ブラウナー 留任
技術T-システム部門長を兼任、C. フーフナーゲル現部門長は解職。
人事担当取締役 H. クリンクハマー 留任
移動通信T-モバイル社長 R. オーバーマン 新任
インターネットT-オンライン社長 T. ホルトロップ 新任

 さしむき長期債務$645億を2003年末までに$500億以下にする目標を立てたDTは、第一歩として2002年12月2日にインターネット子会社T-オンラインの株式1億株を売却し$6億を調達すると発表した。

 2002年9月以来独仏間で国際問題になっていたドイツ移動通信企業モビルコムは、11月24日に次の手順でフランステレコム(FT)との資本提携を解消すると発表した。

  1. まずFTがモビルコムの3G事業中止費用$5.8億を負担、
  2. FTは株主貸付$10億の取り立てを放棄、
  3. FTは銀行融資$47億と納入メーカーの受注見返り融資$12億の返済を引受け、それに見合って永久転換社債を起債する。

 大要次のようなFT再建策が12月4日のFT取締役会に提出され翌日発表される。

  1. 国庫融資 預金供託金庫から商工業公共機関が$90億借り受け、FTに貸し付ける。商工業公共機関には國のFT持株(55%)が移転される。
  2. FT社債発行 FTは2003年に債務$150億を返還する必要があり、第1四半期分         返済額が$50億なので2003年初頭に社債$50億を発行し返済に充てる。
  3. FTの増資 社債発行・債務返済を繰り返し債務$150億の完済のメドが立ったところで、FTは$150億の増資を行う。

 このような複雑な方法は「企業に対する國の直接的な貸付は禁止」というEC規制を免れるためであり、承認されるかは未知の部分がある。

 FT再建策の問題点は金繰りの関係だけではない。大幅な経費節減のため人員整理と設備投資抑制を進めなければならないが、労組の説得や投資抑制のため3Gサービスを繰り延べるなどの問題がある。

123. ワールドコムはSEC提起の民事訴訟で大筋和解(概要)

 $90億に上る水増し利益経理でSEC(連邦証券取引委員会)から民事訴訟を提起されていたワールドコム(WCOM)は、2002年11月26日にニューヨーク連邦地裁J.ラコフ判事の承認を得て企業としてSECとの大筋和解にこぎ着けた。

 和解内容は、WCOMが証券取引に関する諸規制の順守を誓いコンサルタントによる内部会計監査見直しと会計財務報告関係社員教育の実施など改善策を講ずることであり、これにより事件の焦点はB.エバース前社長兼CEO、S.サリバン前CFO、D.マイヤース前経理部長など経営幹部の刑事責任追求に移る。

 粉飾決算発覚時就任したJ.シジモア社長兼CEOは厳格な会計を維持すれば現金$15億と信用余力$10億があるのでWCOMの日常に問題はないとしたが、破産申請後$280億債務見合いの利払いは免れているものの、例えば8月期にマイナス$12百万など営業損失を出してきており、顧客や事業の新規開拓などの成長戦略が行われていない。

 WCOMはヒューレット・パッカード社長兼COOを辞任したばかりのM.カペラスに2002年11月15日にCEO就任を依頼した。その途端ニューヨーク市を再生したR.ジュリアーニをWCOM会長兼CEOに推す動きが出て来たが、カペラスは前職で被合併会社(コンパック・コンピュータ、2002年%月にヒューレット・パッカードと合併)株主への気配りから証券筋に高く評価され、また前前職(コンパック会長兼CEO)在任時ディジタルやタンデムなど被買収企業社員を一体化させた手腕から、寄せ集めWCOMの再建に役立つ人物と期待される。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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