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マンスリーフォーカス
No.43 Feb. 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年1月31日現在)

127. 2003年の情報通信産業を動かすもの(概要)

 2003年=平成15年=癸未の年回りは分岐点。世界的な株価下落のなかでイラク攻撃への懸念により、年初以来米国からユーロ圏に資金が逃避し有事のドル買いならぬドル安ユーロ高の事態まで生まれている。大いなる転換の年に先進国では国境を越えてカネ・モノ・ヒト・情報が素早く動き、企業を動かすのはますますカネとヒトになっている。苦境に陥った企業を救うのは存続に必要なカネと立て直しを指導するヒトだが、不正経理問題の教訓もあってCEO神話・カリスマ経営者に時代を終わったとされる。

 2002年12月18日にボーダフォンはC.ジェントCEOが2003年7月に退任すると発表した。大手情報通信企業CEOの引責辞職が続いているが、ボーダフォンは2002年3月期連結決算が英国史上最大の赤字決算($193億)だったため株価が大幅に下落したものの9月末までに持ち直したので54才のCEOが辞める必要はない。2001年度赤字決算の主因は買収に伴う暖簾代など年間売上高の7割に相当する特別償却であり、2002年度上半期決算で中核事業利益は前年同期比30%増、一加入当たり平均収入(ARPU)も微増している。C.ジェントCEOは判断力と交渉力に長け携帯電話の潜在可能性に賭けて移動通信専業に徹し資本市場を味方につけてバブルの膨張と破裂の時代を乗り切って来たので、来るべき『企業戦略よりも事業運営・効率化が問われる時代』が退屈にも見えるので退職を決意したのかも知れない。

 AT&Tブロードバンド部門とコムキャストの合併会社(2001.12.19合意、2002.11.15設立)はAT&Tコムキャストと名乗ることになっていたのに、直前に(新)コムキャストに変更された。M.アームストロングAT&T会長兼CEOは合併時にA&Tを退き(新)コムキャスト会長になる予定だったが未だに取締役のままである。
AT&T2002年第4四半期決算はブロードバンド事業の分割を反映して$5.16億の黒字を出したものの、継続事業の赤字が前年同期比3倍の$6.1億に達し2003年の展望もアナリストの予想以下下だったため株価が下降し、世界の情報通信サービス企業トップ20表から落ちてしまった。しかし巨大投資・債務を処分した上の小粒サイズは良いことなので今後サービス指向で再生を図るべきだろう。

 地域ベル電話会社(RBOC)の停滞は最近発表された2002年第4四半期決算にもうかがわれるが、問題は2003年の明るい展望が見られないことで、将来が1996年連邦通信法の見直しやブロードバンド競争の枠組みなど規制のあり方に左右されるため、3社の動きに今最も影響するのは各社の経営者よりもパウエルFCC委員長を始めとする政策・規制関係者である。米国経済の陰りやイラク問題もあり、ポリシーメイキングには時間がかかる通信産業大再編成が今年中にありそうな気はしない。

 フランステレコム2002年業績は売上高が前年比2.9%増だが経費節減により利益は見込みを上回るようで、株価は一カ月で46%上がった。ドイツテレコムの業績はまだ出ないし、長期債務$645億を2003年末までに$500億に減らすための資産売却にしても、当面の実績はCATV売却$65億、電話帳部門売却$11億に止まっている。

 AOLタイムワーナーは2002年度決算で最終損益マイナス$987という米国企業単年度最大の赤字を出した。合併時ののれん代・株価低落・システム陳腐化等の巨額な特別償却が前年横這いのEBITDA(利子税金償却前利益)$90億を消してしまったのだが、問題はAOLの業績低下であり、AOLタイムワーナー経営幹部からAOL出身者が消えたためAOL売却による財務改善の声が出始めた。

 ヴィヴェンディユニバーサルはJ.-M.メシエからJ.-R.フルトゥへ会長兼CEOが交代した2002年7月当時手元流動性が逼迫していたため、環境事業や出版部門などの処分で負債を&140億まで圧縮したが、ボーダフォンと争ってシェジェテル株を買い増したため再び債務が膨らんでいる。米国娯楽資産の処分が課題だが複雑な環境にある。

128. 中国/インド移動通信の現状と課題(概要)

 何事も素早く動く先進国に比べると、開発途上国の政治経済の変化は緩やかである。何事であれ状況が似て来ている先進国に比べると、開発途上国は貧乏である点は共通だが様々な局面で國ごとに違っている、中国とインドは人口がほぼ同じ10億程度なのに、携帯電話利用者数は中国が2億でインドが1000万と極端に違う。
巧妙な外資導入政策によって中国の移動通信は飛躍的発展を遂げたが最近成長率が鈍くなって来た。インドの方が今後の規制簡素化次第で高成長に移る可能性がある。

 中国の移動通信の主力はこれまで中国移動通信(CHL)とチャイナ・ユニコム(CHU)だったが、次世代(3G)携帯電話免許付与を機会に中国網絡通信集団公司(チャイナ・ネットコム)と中国電信集団公司(チャイナ・テレコム)が新規参入を狙っている。3G技術方式としては日欧方式W-CDMA、米国育ちのCDMA2000、両者を折衷した中国独自方式TD=SCDMAの3方式がある。中国の移動通信2003年の課題は上記4社に3方式をどのように当てはめるかの選択である。

 インドの携帯電話は1995年4大都市(デリー、ボンベイ、カルカッタ、マドラス)に一斉に、その他18地方圏域に1996年以降逐次導入されて以来、メトロ(4大都市)、Aサークル(インド全域)、Bサークル(4大都市と地方圏域)、Cサークル(都市)という4種類の免許が各地域2社づつ付与され競争が展開されてきた。ところが2001年1月に固定系基本サービス事業者にワイヤレス・ローカル・( WLL)免許付与の方針が決まり、強力な政府系・民間固定網事業者がWLL進出に乗り出したため、固定網・移動網接続時の接続料の設定がセルラー電話とWLLで異なることから紛争を生じ、デリー市で固定・移動接続通話が一日止まる以上事態が起きた。インド情報通信2003年の課題を規制簡素化である。

129. ディジタル著作権管理の諸問題(概要)

 活版印刷、レコード、写真、映画、電信電話、放送、AV記録、CD、インターネットと情報通信技術と著作権の永い歴史のなかで我々は今ディジタル革命のただなかにいる。音楽ネットワーク交換サービス企業ナプスターの死(2002.9.3)も歴史の一こまだったが、最近米国で次のような歴史的出来事があった。

  1. 米国最高裁判所が1998年著作権期間延長法を合憲と判断(2003.1.15)
  2. 音楽産業とコンピュータ産業が音楽著作権保護で合意(2003.1.14)
  3. ノルウェー裁判所が米国ディジタル著作権管理法違反事件で判断(2003.1.7)
  4. 米国連邦地裁がISPに加入者の身元開示を命令(2003.1.21)

 著作権保護は産業の将来に大きく関わると同時に公衆の利便を左右する。著作権の法的・技術的保護と情報の自由のデリケートなバランスが問われている。

 ディジタル著作権問題はコンテンツ制作・流通産業及び顧問知的所有権弁護士と情報の自由や消費者の利益を追求する団体・大学教授・運動家のせめぎ合いであり、完璧な法的・技術的保護を求めるメディアと理想のインターネット社会を希求す勢力は鋭く対立している。未来を見つめた取り越し苦労と日々の営みで動いて行く現実のなかで当分の間デリケートなバランスが揺れていくだろう。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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