ホーム > レポート > マンスリーフォーカス >
マンスリーフォーカス
No.44 March 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年3月5日現在)

130. 香港の港湾・通信コングロマリット、ハチソン・ワンポアの力量(概要)

 中国返還後5年半香港の自主性は逐次失われ、香港の年平均経済成長率2.5%は本土の7.8%を遥かに下回るが、「政治は共産主義、経済は資本主義」という独特の中国体制下「特別行政区域」の存在が続いている。その香港で証券取引所上場資本総額の13%を占めるのが、李嘉誠(リー・カ・シン)の長江グループであり、他に5持株会社があるが、港湾・通信持株会社ハチソン・ワンポアが、持株会社長江が筆頭株主(49.9%)、従業員数15万名、連結売上高$114.15億で、世界に対する顔になっている。

 ハチソンは次世代(3G)携帯電話投資退潮の時に遅れながらも近く英国とイタリーで3Gサービスを開始する計画で有名だが、2002年1月から提携先シンガポール企業と共同保証で国際通信事業者グローバル・クロッシングの破産手続を導いて8月にGC株式61.5%を$2.5億と言う底値で買収することを合意し、2003年3〜4月にはGC復活と近づいたところに、2月25日に国際コールバック業出身で倒産通信企業再生事業を狙うIDTがGC買収の名乗りを上げたため、グループの総帥李嘉誠がどう始末するか、その投資家としての業の冴えが注目される羽目に陥っている。

 グローバル・クロッシングは負債$124億を抱えて破綻した時(2002.1.29.)ハチソン及び提携先シンガポール・テクノロジーズ・テレメディア(STT)の2社と合意書を結び、(1)2002年8月末までに再建計画の裁判所承認を得る、(2)現グローバル・クロッシング株主は新資本に参加しない、(3)債権者は新会社の現金・債務・株式を分ち合う、との条件の下、ハチソン・STTの2社がグローバル・クロッシング株式の過半数を$7.5億で買取る前提で南部ニューヨーク連邦破産法裁判所にグローバル・クロッシングに対する破産法第11条適用を申請した。

 ところが再建計画の調整に手間取る一方ワールドコム破綻を機にクローズアップした不正経理問題で通信企業の資産価格が下がり、ハチソン・STT組はグローバル・クロッシングと折衝を重ねて買取価格を下げて8月合意に達し、(1)新グローバル・クロッシングの設立、(2)現グローバル・クロッシング株主は何も受取らず、(3)債権者は現金$3億・証書$3億・新株38.5%を受取り、銀行は現金$3億・証書$1.75億新株6%を受取ることを骨子とした再建計画をまとめ、連邦破産法裁判所の認可(2002.12.26.)とバミューダ最高裁判所の承認(2003.1.7.)を得た。
今後はグローバル・クロッシング法人に対するSEC調査・FBI捜査の結論が出た後、規制当局がOKすれば$220億のグローバル・クロッシング資産が新社に移転するところに来た時、2003年2月25日国際コーリングカード・IP電話サービス業者IDTが$2.55億相当の株式交換によるグローバル・クロッシング資産買収の名乗りを上げた。

 IDTの主張は司法省・FBI・CIAなどの重要データが流れる高速国際通信網を共産国香港の財閥企業とシンガポール政府系企業の合弁の手に渡すのは国家安全保障上問題があるというもので、貿易競争法第721条、いわゆるエクソン・フロリオ条項に基づく手続が浮上したためハチソン・STT組はグローバル・クロッシング買収の主導者の座から下り受動的な投資者となる方向で再建計画を作り直すことにしたようである。今のところグローバル・クロッシング復活の見通しは不安定である。

131. スプリントPCSが直面する課題(概要)

 米国経済に緊迫するイラク情勢の影がさし、RBOCが待望するFCCの規制緩和策がもつれた時に、携帯電話市場シェア米国第4位のスプリントPCSの携帯電話サービス関連会社iPCSが、2003年2月23日北部ジョージア連邦破産法裁判所に破産を申請し、スプリントPCSの契約違反により経営が破綻したと申し立てた。

 1998年に開業したスプリントPCSは今や全米4000市町村で携帯電話サービスを提供中だが、大都市圏では直営でPCS網を運用してサービスを提供し、小都市やハイウエイ沿線などの地方では各種の提携先と事業契約を結んで、提携先がPCS網を建設・運用しスプリントの電波免許とブランドを使ってサービスを提供している。収入の88%を提携先が保留しスプリントが12%吸い上げ、提携先は加入者機器や電話機を割安価格で調達でき、電波とブランドを無料で使用できる仕組みである。

 スプリントPCSの提携先は現在12社、うちエアゲイト、アラモサ、USアンワイヤド、ユビキテルなど4社がナスダックなどに上場している。
PCSも非上場8社と同様不調な小企業だったが、2001年11月30日にエアゲイト社に$7.44億で買収(株式交換合併)された。サービス区域はエアゲイトがイリノイ州、サウスカロライナ州、ジョージア州など、iPCSがミシガン州、イリノイ州、アイオア州、ネブラスカ州などで、住民人口や加入者数はほぼ拮抗している。

 iPCSの言い分は「スプリントは大企業の立場を利用してパートナーを圧迫し、経済の低調や無線産業の伸び悩みというマイナス面の矢面に立たせてきた。収入源として頼りにするローミング料をこの2年間で70%も切り下げた。提携した時の期待以上のコストがかかり経営困難になったので、もっと良い条件の契約に改めるか、契約上の資産価格の88%値で買取って欲しい」と言うのである。

 iPCS破産の報が流れた時、成長すべき産業で破綻した企業には早速救済者が出て来る筈で、その動きの連鎖から移動通信産業の再編成が始まる。これは朗報だとされたが、内情に立ち入ると、スプリントPCSの上場子会社の抱える負債総額は$30億なのにスプリントPCSの格付はジャンク債の一つ上で救済能力がない。現状のままではiPCS始め提携先が提供するサービスの品質が下がり、iPCS加入者235,000始め関連会社の携帯電話加入者260万がスプリントPCSを批判するのは必至である。スプリントPCSは今後対等合併の交渉力を失い買収の対象になっていく。スプリントPCSが直面するのは、コスト切り下げ・サービス向上・提携先の継続という平凡だが言うは易く行うは難しい課題になる。

132. テレコム・イタリアの経営改善(概要)

 ドイツテレコム(DT)とフランステレコム(FT)が2002年上半期の赤字決算で経営首脳が交代し、その後もDTは巨額な債務の借換・削減策に苦心し、FTは2002年通年で営業利益は増加したものの子会社整理に伴う特別償却により史上最大の最終損失$226億を出したのに対し、テレコムイタリア(TI)は2001年通年が$16億の損失だったのを2002年通年は$17億の利益と黒字転換を果たした。
2002年2月13日に発表されたTI業績では、売上高が対前年比1.3%減少のE304億だったのに営業利益(EBIT=利払い税引前利益)は対前年比10.4%増のE74.1億、EBITDA(利払い税引償却前利益)は対前年比2.5%増のE140億であり、2001年末の純債務残高E219億は2002年末にE181億に縮小した。
TIは2005年までに従来の合理化目標E20億コストダウンにE6億上乗せして売上高は4.0~4.5%増、EBITDAは5.0~5.5%増とし2005年末の純負債をe130億とするとしている。2002年度営業利益改善でテレコム・イタリア・モビレ(TIM)の営業利益対前年比7.1%増E34億が大きく寄与していたが、2003年末にハチソンが参入して来るので楽観できないとの声に対して、タイヤ・ケーブルメーカーのピレリ会長兼CEOとTI会長を兼ねるM.T.プロヴェーラは、最新の技術を備えており如何なる競争にも直面できると述べた。

 ところでTIの資本構成は1997年民営化後の経緯で特異な構造になっている。1999年5月にDT・TI株式交換合併が合意された時情報通信・オフィス機器メーカーのオリベッティが敵対的買収(TOB)をしかけて成功しTIを55%出資子会社にした。2001年7月には通信サービス業参入を狙うタイヤ・ケーブルメーカーのピレリがベネトングループと組んでオリベッティの株式27%を所有する投資会社オリンピアを通じて支配権を得た。イタリアの規則では持株30%を超えた株主はTOBを行わなければならないので、事実上は30%未満筆頭株主が支配力を持つ例が多い。こうしてピレリがオリンピア株式27%所有によりオリベッティを支配し、オリベッティがTIを株式55%所有により支配するというコントロール.チェインが出来たのである。

 2002年末にイタリア大蔵省が残る政府所有TI株式(普通株3.5%と貯蓄株0.7%)の売却を決定しTIは完全な民間会社になったのだが、それに伴い多勢の少数株主の権利意識が高まったところに、複雑なピレリ-オリベッティ-テレコムイタリア・コントロール構造の簡素化問題が登場している。具体的にはいっそオリベッティとテレコムイタリアを合併したらとのアイデアである。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。