ホーム > レポート > マンスリーフォーカス >
マンスリーフォーカス
No.45 April 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年3月31日現在)

133. イクァントの現状と将来(概要)

 イクァントは、航空産業の通信組織SITA (国際航空通信共同組織、ベルギー法人)の高度データ転送網を活用するグローバル情報通信サービス子会社(オランダ法人)として生まれ、1999年10月から航空会社対応のSITA財団、一般産業対応のイクァント社、両者合弁のSITA ・イクァント ・ネットワーク ・ベンチャーの複合組織に移行したが、フランステレコム・ドイツテレコム・スプリントによる合弁国際通信企業グローバルワンの解散に伴い、フランステレコムがグローバルワンの完全子会社化とイクァントの買収を合せてグローバル通信組織の合併手続を行った(2000.11.20.合意、2001.6.29.実施)ので、漸く平常年として2002年を過ごしたのであった。 2003年3月4日に発表されたイクァントの2002年度決算は、厳しい経済環境下なのに比較的良好なものだった。ただ売上高$29.73億、対前年比が擬制値(合併2001年1月1日実施と擬制した値、つまり両者決算の単純合算値、2001年$30.65億)とでは-3%、実質値(2001年$23.91億)とでは+24%とやや分かり難い。内訳はユーザ約3,700社から直接のネットワークサービス収入が擬制値比較6%増の$11.44億、トランスパック・ドイツテレコム・スプリントなどを通じた間接収入が4%減の$4.22億、網監視・ホスティング・セキュリティ・メッセジング・融合サービス等のインテグレーション収入が9%増の$4.53億、SITAからの収入2%増の$7.14億等である。 SITAからの収入は2001年擬制値比較で4%減になるところを種々折衝の結果2.2%増にしてもらったもので、構成比24%は目立つ。SITA/フランステレコム提携協定は2008年まで有効だが、SITA収入保証は別協定で2003年7月に切れる。利払い・税引・償却前利益は2001年のー$900万に対し2002年は$1.92億で、特別償却$1.55億を含み$5.9億であった。 2003年1月末にSITAはJ.ワトソン事務総長が来る7月に辞任すると発表した。ちょうどイクァント/SITA収入保証協定折衝の時である。収入保証の他にメッセジング・インテグレーション・VPNその他の情報管理サービスのSITAによる再販売もイクァント収入の20%程度を占めている。イラク戦争もあり、航空産業も通信産業も今ひどい状態にある。SITAの関係者は最近イクァントの通信料金は高い。他の通信事業者に頼めば40~50%は安くなりそうなどと言っている。SITAが永らく温めている計画に情報・ネットワーク・コンピュータ部門の機能強化、分離独立・上場がある。IBMやEDSが空港の情報通信や航空会社の情報通信システムアウトソーシングに乗り出そうとしている。このような時でありイクァント/SITAの関係も従来のままではいられない。7月以降のイクァント収入保証は続いたとしても構成比が15-20%に下がりそうである。

134. 敵に囲まれた米国移動通信事業者(概要)

 米国の移動通信市場は競争的に形成されてきた。当初ははセルラー電話について1地域に既存電話会社と新規参入者各1社、PCSについては1地域に6社まで免許が与えられたが、競争を通じて広域企業グループが形成され上位6社の市場シェア80%に達した。6大携帯電話会社はシェアの順にベライゾン・ワイヤレス(23%)、シンギュラー・ワイヤレス(17%)、AT&Tワイヤレス・サービセズ(15%)、スプリントPCS(11%)、ネクステル・コミュニケーションズ(7%)、T-モバイル)(6%)と続き、その後がオールテル)(5%)、USセルラー3%)、ウェスタン・ワイヤレス(1%)などである。

 6社は最盛期の1990年代半ばには3桁の年率で売上高を伸ばしてきたが、最近は20%程度に下がって2002年第4四半期にはキャッシュフロー・マイナス企業も現れ収益安定確保に苦心するようになっている。全米の携帯電話加入者は2002年に10%増えて1億4100万名となり、通信量は36%成長し通話収入成長鈍化を埋めるモバイル・データ収入は2002年下半期に$5億稼いだとされるが、気がついて見れば、ホット・スポット・プロバイダー(高速無線LANサービス提供者 )、ソフト・レイディオ(ラジオ放送局と呼ばれるストリーミング無線アプリケーション提供者)、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)などの強敵に囲まれ、2000年3月31日と定められたものの反対で2002年11月24日に延期され再延期で2003年11月24日期限になった番号ポータビリティの実施が気になる現状である。

 1996年から輩出したホット・スポット・プロバイダーのなかには既に破綻したベンチャー企業もあるが、2002年からは大手企業による製品開発とスポット作りが盛んになっている。2003年3月17~19日にニューオルリーンズでセルラー電気通信・インターネット協会CTIA)が開催した国際見本市CTIAワイヤレス2003には約800社が出展参加し、多数のWi-Fi(ワイハイ)技術やサービス、新型携帯端末が発表された。インテルはWLAN接続機能を盛り込んだノートパソコン用新型MPUセット「セントリノ(Centrino」を発表し、世界の空港にモバイル技術ゾーンを設ける。AT&T/IBM/インテルが支援するコメタ・ネットワークはニューヨークを始め300店のマクドナルドにホット・スポットを置く。ベライゾン・ワイヤレスは10空港、何百というレストランにWi-Fiアクセスを設ける。一方、T-モバイルは倒産したWi-Fiベンチャーを買収したモービルスター子会社を走らせる。Wi-Fiサービスの場合利用料を徴収する課金方法が問題で、プリペイドPCカードのほかホット・スポットやインフラを持たず各プロバイダーに代わって利用料を合算.請求.徴収するアグリゲータも出て来ている。モトローラ、アヴァヤ、プロクシムは近くセルラー網とホット・スポットの両方で使える携帯端末を発売する。

 線の世界には近距離アクセスのワイヤレス・ローカル・ループ(WLL)技術もある。電波は有限の資源だと言っても、多数の無線チャンネルを空きを捜して飛び回るホッピング技術は進んできており、個別割り当て時代が終わり多数チャンネルを多数者が共用する時代が来るのはそう遠くないとも考えられる。敵に囲まれた移動通信者が生きる道を求める長期戦略は新しい発想でと言うのが今の米国である。

135. 中国情報通信の現状(概要)

 長い政治の季節が終わり中国の新体制が動き出した。金融改革・国営企業民営化を始め問題山積の新内閣において、情報通信分野はWTO加盟準備のため早くから改革が行われ、中国電信分割民営化も実施済みなので比較的問題は少ない。と言っても今や世界最大になりつつある移動通信市場の舵取りと次世代(3G)携帯電話免許決定の責任は新任の王旭東情報産業相にふりかかる。政治的判断を要する所掌事項には情報通信サービスのコンテンツ規制と情報通信システム機器・製品の特許権関係がある。

 特許権関係では世界最大のネットワーク機器メーカーであるシスコ・システムズが中国最大の通信機器メーカー華為技術をソース・コードなどソフトウエアのコピー、関連資料の盗写、特許権侵害などの疑いで東部テキサス連邦地裁に2003年1月末に訴訟を提起した。華為技術は地裁判事の審問(2003.24.)で、『華為製ルーターの或る小さなモジュールのコードがシスコ製に酷似するため訴えられたと思うが、新版製品では取り除かれている。シスコ社の提起は特許権侵害の脅威で華為技術を米国市場から閉め出そうとするものだ』と述べた。シスコ社は『語るに落ちたとはこのこと』と製品販売禁止インジャンクション請求を続けるとしている。シスコなど先進国メーカーより40~50%安値でインターネット機器を売りまくってきた華為技術はこうして何等かの対応を迫られており、時間と取り扱い経過とともに他の中国企業への波及など政治問題化する素材ではある。

 情報産業部の2003年2月統計によれば、中国電話加入数は固定電話2億2,150万、移動電話2億1,640万に達した。電話普及率34.2%を超えたこれからの電気通信事業はどのような発展を遂げるのか。このところ飛躍的に伸びて来た中国移動の2002年業績は対前年比2.5%増$39.5億の純益、伸び盛りの中国連想の業績は対前年比24%増$5.86億の純益であった。分割民営化後の南部会社チャイナ・テレコム(中国電信)は2002年11月に香港上場を果たしたものの2003年純益の伸びは鈍化すると見ている。大手4社の2003年資本支出額を見ると、南部会社中国電信は2002年横這いの$73.7億、中国移動は対前年比7.7%減の$72.5億、中国連想は対前年比10%減の$48.3億、ひとり北部会社チャイナ・ネットコム=中国網絡通信だけが対前年比52%増$49.5億を計画している。大拡充一点張りの姿勢に変化が出始めたようである。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。