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マンスリーフォーカス
No.46 May 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年4月30日現在)

136. ワールドコム再建計画書提出(概要)

 ワールドコム(WCOM)は、2003年1月以来M.カペラス新会長兼CEOの下危機脱出の100日計画を実施して来たが、4月14日にニューヨーク州の連邦破産裁判所に、要点以下のような再建計画書を提出した。

  1. 復活(2003年10月目途)貸借対照表条上の現金を$10億とする。
  2. 債権者に以下の要領で新会社の株式を引き渡すことにより破産申請時の債務
    $410億を$35億〜$45億に圧縮する。
    a)WCOM社債所有者 $1に付き36セント相当額 (対象債権$260億)
    b)MCI優先社債所有者 $1につき80セント相当額 (対象債権$26億)
    c)Intermedia社債所有者  $1につき94セント相当額 (対象債権$10億)
    d)取引債権者 $1につき36セント相当額 (対象債権WCOM$25億
    MCI$3億)
  3. (3) 3カ年業務計画の目標   2003年売上高  $247億
                  2004年成長率  4.5%
                  2005年成長率  9%

 ワールドコムは既に関係者の90%の同意を得ていると発表したが、MCI社債所有者はWCOMより優良だったMCIに対する配慮に欠け、特に劣後社債評価額を0にしたのは不当だと連邦破産裁判所に提訴した。ワールドコムは再建計画書提出を復活への大きな節目とし、家庭向け長距離通信サービスのブランド名MCIを新社名にすると発表して活発な広告キャンペーンを開始したが、再建計画審査の前途は平坦でなさそうである。

137. オールドメディアの完成とドットコムの復活(概要)

 R.マードックが率いるニューズ社は、米国最大の衛星TV網ディレクTVを運営するGM子会社ヒューズ・エレクトロニクスを$66億で買収することでGMと合意したと2003年4月9日に発表した。

 マードックは1983年にグローバル衛星TV網ビジョンを画き、英国のBスカイB、アジアのスターTV、オーストラリアのフォックステル、中南米のスカイテルと実現を図ってきた。イタリアでは2002年10月にヴィヴェンディ・ユニバーサル傘下ペイTV会社カナルプリュスのイタリア子会社テレピュを買収し予てテレコムイタリア合弁で設立していた衛星ディジタル放送ストリームと合せスカイイタリアとすることとし、欧州委員会の承認を得たばかりであった。

 マードックはオールドメディアに磨きをかけて輝かしメディアコングロマリット中最も安定し成果予測可能なパワーハウスを創り上げ、72才にして宿願を果たしたのである。

 USAインタラクティブ(USAI)は2003年5月5日にオンライン金融サービス・譲渡抵当交換業者レンディングトリーを$7.22億相当の株式交換で買収すると発表した。
USAIがコントロールする小売業務インターネットはエクスペディア、チケットマスター、ホテル・ドットコムなど売上高・利益の伸びが目覚ましく、B.ディラーUSAI会長兼CEOは業績の低いホーム・ショッピング・ネットワークなど売っても良いと言う。時価総額$3.32億の新興企業の1株$14.69にプレミア47.5%をつけて1株$21.67で取引するだけのことがある。

 ドットコム・ブームが頂点に達して3年経ち、ブームがはじけて痛手を蒙った投資家がオンライン・ビジネスに再び関心を持ち始めている。B.ディラーは生き残ったオンライン業者が伸び始めたのを見つけて座り込み、どんなeビジネスが上昇し奔流となって行くのか観測すると、ウェブサービスを利点にした或種ビジネスが分かる。そのチャンピオンがYahoo!であり、Amazonであり、eBay だと言う。
かつてパラマウント撮影所長を勤めマードックに引き抜かれてフォックスTVネットワークを創業したB.ディラーは、今このように勝者が生まれる過程を観察し候補者を探し発見・育てることが投資家成功の道と信じ、USAネットワークを売って得た$103億をドットコムに賭けている。

138. 錯綜する訴訟の中で音楽業界革命は始まるか(概要)

  米国における音楽フィアイル交換サービスの合法性とISPに対する加入者身元開示命令を巡る裁判が錯綜するなかで、アップル・コンピュータは2003年4月28日に音楽ネット配信サービスiTMS(アイチューンズ・ミュージック・ストア)を発表した。

 iTMSは、大手レコードの楽曲を収めた20万トラックからファンが好みの音楽を1曲99セントでダウンロードし自分のMACに取り込めるサービス。大手レコード会社による有料音楽配信サービスのプレスプレイやミュージックネットのように月額会費やコピー禁止条件は無い。1トラックに3パソコン接続し、音楽ジャンル・アーティスト・曲名などによって探せ、全曲30秒試聴し、個人鑑賞用なら無制限にコピーできる。データ圧縮方式には、既存サービスに使われる「MP3」よりも高品質の「AAC」を採用している。iTMSはサービス開始後一週間でダウンロード100万曲の実績を上げた。しかもその半分がアルバム購入と言う。これはiTMS発表以来の業界の議論「確かに音楽ファンの心に沿ったサービスだが、ネットワークで1曲づつ購入する習慣が広がると人気アーティストの音楽をアルバム単位で売る販売手法で収益を上げて来た音楽業界の基盤が崩れる」を打ち消すものである。

 2002年7月に休止し9月に閉鎖したナプスターは、他人保有楽曲検索用集中案内簿が著作権侵害に寄与するため違法とされたが、その後の無料交換ソフトは集中案内機能を欠くため利用者自らのパソコンによる試行錯誤的検索に時間はかかるものの交換サービス提供者の責任性は薄れてきた。
 二つの音楽フィアイル交換サービス、グロクスターとモルフェウスの閉鎖を求めたアメリカレコード協会とアメリカ映画協会の請求について、ロスアンジェルス連邦地裁は両ネットワークとも著作権の有る楽曲に限らず著作権の無い楽曲のファイル交換に使われるため閉鎖できないとし、2003年4月25日に閉鎖請求を却下した。ソニー製ビデオ録画再生機を認めた1984年連邦最高裁判決と同様にファイル無料交換サービスは合法トスル判決は訴訟で音楽ファイル交換を抑え込む音楽業界戦略を遮るものである。

 一方、アメリカレコード協会がベライズン・インターネット・サービスに楽曲の無断大量ダウンロード・ファイル交換を行っている者の個人情報を開示せよと要求した(02.7.24)のにベライズンが応じないため始まった訴訟において、ワシントンDC連邦地裁は2003年1月21日に協会の言い分を認めてベライズンに開示命令を出し、その再審要求を2003年4月24日に却下し改めて開示命令を出した。本判決はレコード協会及び世界の5大レコード会社を元気づけるものである。

 音楽業界は訴訟による威嚇や違法行為対抗技術開発のみでは音楽ファンの心をつかむことは出来ない。サービス利用者の合法的行為を育てる方策を考案す長期戦略が問われる時、上記新サービスと二つの判決の今後が注目される。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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