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マンスリーフォーカス
No.47 June 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年5月31日現在)

139. AOLタイムワーナー再建の道(概要)

  AOLタイムワーナーの年次株主総会(2003.5.16開催)は90%以上の賛成で取締役16名を選任し、1年前からCEOをしていたR.D.パーソンズが会長に就任した。

  年次株主総会に先立って発表(2003.4.23)された2003年第1四半期業績は、売上高が対前年同期比6.3%増の$99.98億、EBITDA(利子税金償却前利益)が対前年同期比14.1%増の$19.85億、営業収益が対前年同期比8.9%増の$11.51億、最終損益が$3.96億の黒字であった。2002年末で$258億だった長期債務はヒューズ・エレクトロニクス持株を売却($8億)したが2003年3月末で$263億と微増した。同時に発表された2003年業績見通しは、売上高見込みは$410億と横這い、EBITDA(利子税金償却前利益)は下がり気味の$87億としており、巨額特別損失の計上は2002年決算で峠を越したものの2004年末までに長期負債を$200億に圧縮することは厳しい。  しかしR.D.パーソンズ会長兼CEOは失われた信用を回復するのに漸進的な成長・コストコントロール・債務削減その他の管理手法を積み上げる道を選び、出版CD製造など非中核事業は別として大規模資産売却には踏み切らないようである。株価は崩落したものの業務が破綻した訳では無いので外科的手術は必要ないとの考えである。  AOLタイムワーナーは2001年1月のアメリカ・オンライン(AOL)/タイムワーナー(TWX)対等合併人事が失敗した組織のもつれを今回漸くすっきりさせたが。景気停滞、イラク戦争などタイミングが取り難いところにAOL TWの償却対象債務総額が確定しないと言う問題が生じている。  同社は2002年第3四半期業績発表時(2002.10.23)に、SECに対し2000年第3四半期から2002年第2四半期までの2年間の売上高$1.9億の水増しを正す決算修正を行ったと発表した。2003年3月28日には、2000年春にAOLがベルテルスマンとの合弁会社AOLヨーロッパのベルテルスマン持株(50%)を$68億で買取ることを合意し1年後の決済時に現金支払いを希望するベルテルスマンにオンライン広告約$4億購入を条件とした決算について「$68億支出+広告収入$4億」でなく「$64億支出」とすべきだった、とのSECの指摘を発表した。4月15日にはカルフォルニア大学理事会と合同銀行長期集合投資資金という大株主が、R.D.パーソンズ、T.ターナー、G.レビンなどAOL TW経営幹部が収入水増しで株価を釣り上げ保有株式を売り抜けて$9.36億を利得した「インサイダー取引」蒙った損害賠償をカルフォルニア州最高裁に訴えた。

 2003年4月現在株主訴訟は40件に達し、SEC/司法省調査・訴訟継続中は債務総額は確定せず、債務圧縮原資づくりのため上場益$20を期待していた2003年第2四半期予定のタイムワーナー・ケーブル上場は延期となり宙に浮いている。

140. 欧州通信企業は復活へ(概要)

  欧州大手通信企業は2003年3月期業績の発表を契機に、ドイツテレコム(DT)は6連続赤字四半期決算の黒字化、フランステレコム(FT)は150億ユーロ増資によるキャッシュフロー改善、テレコムイタリア(TI)は株主構成の単純化、BTグループは早期携帯電話事業分離の結果による大幅増益、テレフォニカ(TEF)は中南米経済への対応などで複雑な数値とそれぞれ異るものの問題は出尽くし、全体として復活の兆しを見せている。

世界の情報通信サービスプロバイダ Top20

141. アジア情報通信企業の発展戦略(概要)

 国連の肝いりで世界情報通信サミット(World Summit on the Information Society: WSIS)が2003年末にジュネーブで開催される予定で1年前から準備が始まっている。
アジア地域会合(2003.1.13~15)では東京宣言「アジア太平洋地域の情報社会への展望」
が採択された。情報社会とは、高度に開発された情報通信網(ICT Network)、あまねく公平な情報アクセス、適切なコンテンツ、効率的なコミューケーションが、各人の可能性の追求や持続的な経済・社会発展を促進し万人の生活の質の向上させ貧困と飢餓を撲滅し参加型政策決定過程を助長する社会とされ、目標は「情報社会像の共有」である。
WSISの背景には、G7情報社会に関する閣僚会合(1995年2月)でのGII構想(Global Information Infurastructureの合意)以来の努力の積み重ねがある。

 1970年代から1980年代にかけて、アジア太平洋地域は米国・日本・アジアNIES・
APEC・中国沿海部の経済発展が”雁行”する地域と言われた。ところが、90年代に入ると、米国や日本が成熟する一方で、ASEANと中国がNIESに並んで3者が域内需要見合いの高成長を始めるようになった。アジアの世紀の到来である。
2002年11月に中国とASEANが2010年目途の自由貿易協定締結を合意してからASEAN自由貿易地域に日中韓を加えた未来が語られるようになっている。
 アジア太平洋地域主要国の経済・情報通信の現状を簡単にまとめると次表の通りである。

アジア太平洋地域主要国の経済・情報通信の現状

 この表ではアンバランスな日本を除いてあるが、一見してオーストラリア(AU)・ニュージーランド(NZ)、中国・韓国・インドの比重が大きい。しかし、各国の代表的通信企業を企業価値(時価総額)で並べるとNo.1(オーストラリア)テルストラ(TLS)($386億)、No.2(韓国)コリア・テレコム(KTC)($105億)、No.3(ニュージーランド) ニュージーランド・テレコム(NZT)($55.9億)、No.4(香港)PCCW($30.7億)、No.5(シンガポール)シンガポール・テレコム(SGT)($15.7億)、No.6(インド)VSNL(VSL)($6.55億)となり多少顔ぶれが違う。

  ところがTLSは保守党政権による民営化時(1997年、1999年)49.9%まで売却したが、各方面の反対にあって完全民営化を2004年まで延期した経緯がある。米欧日経済がつまずく間年率3%成長を続けて来た「幸せの國」で、距離の脅威を克服するのに功績があったTLSは今のところ公益事業的経営を続けている。KTCは国内独占の延長でブロードバンド化やIT革命に忙しく、NZTもTLS以上に隔絶した環境にある。PCCWはISP上がりで活発なだが、2000年2月にSGTと争ってC&W香港を買収した後、C&W本体買収が実現したかったことから市場の信用を失い待機中である。SGTは政府出資63%でコントロールされており、海外投資会社シングテル・インターナショナル(STI)によりフィリッピン、タイ、インドネシア・インドさらにはベルギーなどに投資している。VSNLは競争導入最盛期の国内で手一杯である。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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