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マンスリーフォーカス
No.48 July 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年6月30日現在)

142. 株主資本利益率最高のネクステル(概要)

 米国経済のデフレ懸念が後退し景気浮揚の期待から米日欧それぞれの株価が堅調となり、情報通信企業の時価総額も回復してきた。従来通り整理した「表1 世界の情報通信サービスプロバイダーTOP20(2003年6月30日現在)」を見ると、ほとんどの企業が3月末からの3カ月間に上昇している。

 この表はニューヨーク証券取引所上場企業でも本拠地の資本取引が完全自由化されてない途上国企業や親会社から分離後間もないため従属性ある企業は除いているので、順位は参考に過ぎないが、第20位ネクステルは最近発表されたビジネスウィーク誌「情報技術トップ100社」のNo.1にランクされたことから注目される

 ネクステルは1987年4月設立・1992年1月上場の米国第5位移動通信サービス企業で1999年6月に発売した「ネクステル・ディレクト・コネクト」ブランドのビジネス向けディジタル無線サービス、広域ディジタル・ウォーキー・トーキー・サービスが主力サービスである。如何なる場所にいて如何なる相手とも個人ベースないし会議ベースで直ぐ簡単なプレストークでコミュニケートできることが売りで、真似されないよう「プッシュ・ツー・トーク(PTT)」を商標登録している。セールスマン・エンジニアー・建設作業員・トラック運転手などに大ヒットし今日に至っている。

 ビジネスウィーク誌のネクステル評価は次の通りである。

企業規模 売上高 $91.35億 第31位
成長率 売上高対前年比 15.6% 第57位
純資産利益率 66.2% 第3位
株主資本利益率 208.4% 第1位
総合順位 No.1 ネクステル・コミュニケーションズ
顧客信頼度と顧客収入で無線産業一、独特のウォーキー・トーキー的技術で高く評価されている。

143.宙ぶらりんのケーブル・アンド・ワイアレス2002年度決算(概要)

 2002年度上半期業績(2002.11.13発表)に伴う株価暴落でG.ウォーレスCEOが辞任し(2003.1.21発表)、引継者F.カイオCEOが2カ月後に漸く就任した(2003.4.2発表)ケーブル・アンド・ワイアレス(C&W)は、$111億の大幅赤字・抜本的事業再編成を打出しつつ2003年度計画の具体的展望を欠いた2002年度決算案を2003年6月4日に発表した。年次株主総会は2003年7月25日に開催される。

 C&Wは新経営戦略の柱として従来グローバル部門(米国・英国・欧州・日本の4地域)と地域部門(カリブ海・パナマ・マカオ・その他の4地域)の事業本部制で運営してきたものを改め、2部門を解散して8ユニット独立採算制を採用する。そこで2003年3月期決算では、従来事業本部一括で来た収入・支出などの会計項目について振り分け作業を行い、また外国為替レートの変動に伴う計算替えを行った。

 こうした作業結果の業績数値と事業再編成の要点は次の通りである。

表2. C&W2003年3月31日に終わる年度の業績と事業再編成を発表

(1) 2003年3月31日に終わる年度の業績(単位百万)
グループ売上高 £4,391  $7,464
EBITDA(利子税金償却前利益)  £334  $567
税金・特別償却前損失 £-224  $-380
総事業損失 £-6,000  $-1,020
例外項目・特別償却 £-6,149  $-10,453
当期損失 £-6,533  $-11,106
現金純残高 £1,619  $2,752
資本支出 £731  $1.242
当期配当 1.6ペンス  2.72セント

(2) 事業の再編成
”主要市場に足場を持つ高収益国内通信会社群を創出する”ーF.カイオCEO
  • 中核技術力の上に英国事業を再編成する
  • 米国事業から撤退するーあらゆる選択を検討の上
  • 英国製品・サービスの能力を抽き出す国内事業を開
  • 急務を推進・規律を保ち・顧客中心の新経営チームを確立
  • 透明で責任ある事業構造
  • 一年無配による財務弾力性の増進
 

 C&Wの経営再建は欧州事業については既に2002年11月にフランス・スペイン・イタリア・ドイツ等での中小企業顧客対応業務の再編成を打出しマネージメント・バイアウト(MBO、投資会社から資金支援を得て本体から事業を買取り独立する方式)による整理を検討中だが、米国事業について撤退声明を出したものの、売却か整理かは選択していない。また、英国事業は130年来の本拠地だか当然ように存続するとして事業運営の中核をどうするのかがまだ見えない。まだ宙ぶらりんの報告に見える。
 C&Wの基本戦略として「全アウトソーシング方式」というアナリスト情報がある。これは大規模インフラを持つグローバル情報通信サービスプイロバイダーは低コストのIPネットワークやIP VPNより競争力が低いので、ネットワークから販売活動・サービス支援まですべて外注・提携にするものだが、果たして自前インフラ無しのつなぎ・仲介で役と古いブランドで大規模多国籍企業ユーザの信頼を維持できるのだろうか。

144. ディジタルコンテンツを巡るネットワーク・著作権管理のせめぎあい(概要)

 アメリカレコード協会(RIAA)はインターネットによる違法な音楽ファイル交換を行っている個人を徹底的に追求し告訴すると勢いこみ、音楽ファイル交換サービス業者はオンラインファイル交換をアピールするロビー活動団体分散処理産業協会(DCIA)を目論み、ディジタルコンテンツを巡るネットワークと著作権管理の対立は相変わらずである。

 RIAAの発表はインターネット上で音楽を大量に無料交換している個人を相手取り、8月中旬頃までに著作権侵害で提訴し最高$15万の損害賠償を求める、まず1000曲を超えるような大量蓄積・無料交換を行っている大口利用者を訴え、逐次対象を広げてネット無料交換で他人に音楽を流している者は誰でも訴訟の対象にすると言うもの。
DCIAについてグロクスターW.ロッソ社長は、インターネット・ベンチャーは着席して議論するのが不得手なので利用者の声を議会で聴いてもらう場を作る必要があり結成すると言う。会費を払う会員は今のところカザーの持主シャーマン・ネットワークとアルトネットだけだが、2カ月以内にファイル交換サービスのほか推進チームを作り電子機器メーカー、娯楽企業、ISPなどの支持団体を組織化する。ロビー活動団体はヨーロッパにも作りたいと言う。

 RIAAの強硬姿勢にもかかわらずインターネットによるファイル交換は衰える気配がない。最も人気が高く約2億4000万人のユーザを抱えるカザーの最近の例では、6月25日の半日で430万人の利用があり、8億9000万曲のファイルが交換されたと言う。
 ファイル交換ソフトの開発も進んでおり、RIAAが使う違法ファイル交換追跡ソフトに対して利用者の個人情報を秘匿する「匿名ソフト」も現れた。ブロードバンド時代を迎え固定通信インフラ/網サービスと移動通信インフラ/網サービスの相互接続の進展、複数網を経由するヴァーチャル接続の普及に音声/データ/映像のIP化が加わると音楽ファイル交換の抑制は困難になろう。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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