ホーム > レポート > マンスリーフォーカス >
マンスリーフォーカス
No.48 August 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年8月6日現在)

145. オンライン広告の自己革新(概要)

 ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を利用する際ユーザが最初に訪れるウェブは検索サイト、新聞社のニュースサイト、ブラウザー・ベンダーのサイトなどである。こうした「ポータルサイト」は基本的にインターネット広告によって賄われてきたが、企業名や商品をアピールするバナー広告は目障りとかポップ・アップ広告はうるさいと感じる利用者やポップ・アップ抑圧ソフトを装備する利用者が増えて来た。

 そこで登場したのが「ネット検索サービス」である。これは(1)検索サービス企業が広告データベースを用意し利用者の入力した検索キーワードに応じてそれに関係深い広告・企業・オンライン店舗などのサイトの見出しの別欄に表示し、利用者がクリックするとそのウインドウが現れる。(2)利用者はそれを閲覧し購入なり予約なりする。(3)検索サービス企業には広告主から広告料が支払われ、その一部はポータルサイト企業に支払われるもの。この広告型ネット検索サービスは利用者にとってうるさくない。また、提供者側から見れば、高度な検索エンジン技術により検索結果を測定し、アクセス頻度の高いウェブページを入札制で広告主に高く売り、頻度の低いページは低単価で売るという新しいポータルサイト収益モデルに特徴がある。
このサービスは1997年GoTo.comとして設立、2001年10月に改称したネット検索サービス企業オーバーチュア社(OvertureServices Inc: OVER)とオンライン広告最大手のヤフー社が提携して開発した。検索エンジンの最大手は1998年創立のグーグル社(Google Inc)である。

 ヤフー社(Yahoo! Inc.: YHOO、1994年1月誕生、1995年3月会社創立、1996年4月上場)は急成長するインターネットの案内役として大学院生のホビーから生まれ、今やポータルサイトの最大手として2003年上半期売上高は$6.04億だが、増加率44.6%という成長率、高マージンに裏付けられた純利益、時価総額$190億という高株価が注目されている。

 ヤフー社は2003年7月14日にオーバーチュア社を$16.3億で買収すると発表した。
 検索エンジン大手のインクトミ(Inktomi Corp)の買収(2002年12月合意、2003年3月完了)に続くもので一般検索も広告型検索サービスも自前で提供できる体制が整う。
 バナー広告・スポンサー契約・テキストベース広告等の広告収入が総売上高の79%(2001年)から68%(2002年)に落ちる分を各種の消費者/企業向けサービス手数料・料金の増収(2001年の収入シェア7%から2002年の収入シェア22%へ)で補う努力の一環である。

146. フランステレコム(FT)グループの移動通信戦略(概要)

 再建途上にあるフランステレコム(FT)の2003年度上半期業績(2003.7.29発表)は営業利益対前年同期比46.3%増を記録した。主として移動通信子会社オレンジの好業績と厳しい資本支出削減によるもので、FTは外国為替変動の売上高に及ぼす影響を勘案しながらも2003年通年業績見通しを引き上げたが、オレンジのS.トゥルジロ新CEOが言明したグループ戦略(2003.6.24発表)がどう実を結ぶかは今後の課題である。

 FTの2003年度上半期業績は営業利益$55.2億、EBITDA(利子税金償却前利益)は対前年同期比23.5%増の$95.5億、売上高は対前年同期比1.7%増の$257.2億であった。
 上半期に投資を!2.9億、経費を$9.34億削減し、資本支出を1/3削って$24.3億とした結果、手持ち現金)$71億を生み出した。
FTは2003年通年業績見通しを営業利益$103.5億、EBITDA$189億に引き上げた。
 オレンジの2003年度上半期業績は売上高が対前年同期比6.9%増の$97億、営業利益が対前年同期比68%増の$23.5億、EBITDA(利子税金償却前利益)がオレンジ41.8%増の$37億であった。オレンジ・グループの加入数は4562万に達し、収益力指標の加入者1人当たり利用料金(ARPU)は英国オレンジが対前年同期比6.8%増の$435(£267)、フランス・オレンジが$423であった。

 S.トゥルジロ新CEOはロンドンでの説明会(2006.6.24開催)でオレンジグループの成長戦略を(1)グループの結束、(2)独T-モバイル、西テレフォニカ・モビレス、伊テレコム・イタリア・モビレの3社と欧州携帯大手3社との連合結成、(3)ビジネスユーザにはイクアントと連携してVPNへのGPRSアクセスを提供しホームユーザにはニーズやライフスタイルに応じたサービスを提供するなど新顧客細分化戦略を展開する、(4)インテリジェントなネットワーク・インフラの活用の4本柱と説明し、(5)新戦略を世界に展開するグローバル・チームを紹介した。しかしアナリストの質問に対して抽象的な回答で終始しあいまいな印象を与えた。2003年の売上高5%増、2005年までのEBITDA年率15~17%増、2005年までのフリー・キャッシュ・フロー年率40~50%増、2005年までの累積フリー・キャッシュ・フロー$160億(140億ユーロ)と言った数字のプレゼンテーションが何度も繰り返された。

147. イラクの通信復興(概要)

 戦争で多大の被害を蒙った日本は昭和20年8月15日に秩序正しく先の大戦を終了した。沖縄その他を例外に戦争と戦闘行為を同時に終了したこと及び日本政府を維持したまま連合国の間接統治に服したことの幸せは、ドイツの第二次世界大戦の終わり方や休戦状態が50年も続いている朝鮮半島の2ヵ国と比べると歴然としている。
 イラクでは組織的戦闘行為が終わった2003年4月14日以降も局地的にゲリラ戦というか組織的テロ行為が続いている。米国主導で形成された連合軍の占領下、戦後復興事業は様々な軋轢のなかで進められている。

 イラク復興体制は米国国防総省傘下の復興人道支援室( ORHA)に始まり(2003.5.6設置)、それがイラク統治評議会の事務局である連合国暫定統治機構( CPA)の下部に組み込まれた(2003.7.13)。CPA確立まで大統領が任命したブレーマー文民行政官が国防長官の下で民政の最高責任を負い、その下で復興人道支援室がガーナー退役陸軍中将の指揮下地域別3部局(南部、中部、北部)と分野別3部局(人道、復興支援、民政管理)で構成され、約400名の職員が在籍している。イラク統治評議会は2年以内の憲法制定・自由選挙による本格政権樹立に向けイラク人への権限委譲の第一歩として政治的に重要っだが、宗派や民族対立による相互不信で25名メンバー選出に3ヵ月かかり議長職が合意できずに9人輪番制となった(2003.7.29合意)。

 イラクは1999年までのデータで人口2,240万(増加年率2.9%)、GDP$133億(増加年率11%)、一人当り国民所得$593という石油のお蔭で比較的裕福な国だったが、電話加入数約675,000、100人当たり3.01と通信事情は良くなかった。携帯電話は湾岸戦争に伴う国連制裁により輸入が禁止されフセイン政権は無線塔を320基建設しただけだった。小規模な実網はあったが政府官僚が利用し一般には禁止されていた。約3000kmの光ファイバケーブルも布設されたがサービス開始されず損傷された。

 今回通信設備が破壊され運輸通信省の機能が停止した後、米国で国防総省の通信網契約を結んでいるワールドコム(WCOM)がバグダッドで1万加入規模のGSM方式携帯電話網を建設する契約を$4,500万で受注した(2003.5.15発表)。主としてCPAと政府職員が利用するものである。
 CPAは3地域別(南部、中部、北部)に有効期限2年のGSM方式携帯電話事業暫定免許を公募中だが(本格免許は本格政権による)、T-モバイル(ドイツ)、オレンジ(フランス)など有力欧州事業者やバテルコ(バーレーン)、ボーダフォン・クエイト子会社など近隣事業者を排除し米国系を有利に扱う入札条件かと疑われている。CPAシステム免許は9月早々に選定されるものと期待されている。

 低軌道衛星66個システムを2000年末に$2500万で入手した新イリジウム衛星社は、低コスト・料金、ニッチ狙い戦略が成功し安定経営を続けてきたが、米国国防総省から現行年契約にイラク公衆衛星電話サービス提供を上乗せする許可をCPAより取り付けた(2003.7.22認可)。端末はイスラエル子会社ガヤコム開発の危機・緊急時対応に優れたカード式である。イラク/イスラエル間に通商関係がないので間にヨルダン会社を入れて取り引きする。大変便利なものだが、イラク及び近隣アラブ諸国の産業経済上歓迎されるだろうか。

 このようなイラクの現状からインターネットの利用が活況を呈していることは間違いないが、インターネット・カフェの通り相場が1時間$2という以上の詳細な情報はない。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。