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マンスリーフォーカス
No.50 September 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年9月2日現在)

148. 通信企業の業績改善と市場評価(概要)

 情報通信サービス企業の市場評価の現状を従来通りのサービスプロバイダーに広告業ヤフー社(Yahoo! Inc.)を加えて整理した表「世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2003年8月29日現在)」で見ると、2003年第2四半期業績と景気回復期待により各企業の時価総額が上昇した企業よりも、7・8月の2カ月間に下がった企業の方に特徴が現れている。

世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2003年8月29日現在)

 世界一の移動通信事業者ボーダフォンが下がったのは、C.ゲントの後任CEOアルン・サリンが法人向け携帯電話再販会社プロジェクト・テレコムを$2.5億で買収し、携帯電話関連顧客サービス会社シングル・ポイントを$7.3億で買収するなどの投資行為批判であったが、川下の顧客サービスを改善して収益力強化を図る意図が理解され、9月9日現在の時価総額は$1,321億とランクNo.1に返り咲いている。

 ベライズンコミュニケーションズ、SBCコミュニケーションズ、ベルサウスの米国ベル電話出身3社は、固定通信の減収を携帯電話の増収や合理化効果でカバーする構造で、接続料引き下げ規制を躱すのが課題である。

 ドイツ・テレコムの2003年第2四半期業績は売上高が対前年同期比4.7%増の$153億、EBITDA(利子税金償却前利益)が対前年同期比15.7%増の$53億、前年同期はマイナス$21億だったのが今期は$2.89億の利益となったものの、2002年9月末640億ユーロだった累積債務は2003年6月末530億ユーロとなり、為替レートの問題があるにしてもドルベースでは$598億と余り減っていない印象である。

 フランス・テレコムの2003年度上半期業績(2003.7.29発表)は売上高が対前年同期比1.7%増の$257億、EBITDA(利子税金償却前利益)が対前年同期比23.5%増の$95.5億、営業利益が対前年同期比46%増の$52億で、この時点でのFT株価総額は$313であった。ところがFTは2003年9月1日に携帯電話子会社オレンジの完全子会社化を発表し、7月29日発表とほぼ同様の公式2003年度上半期決算を発表して前年同期の損失$121億から純利益$27.55億への黒字転換を強調した。株式市場の反応はほぼ予測通りで、FT時価総額は8月29日現在は$552億、9月9日現在はやや反落して$541億と、2カ月間で倍増近い状況である。

 テレコムイタリアの経営改革は、持株会社ピレリ-タイヤ/ケーブル製造企業ピレリ金融会社オリンピア-オリベッティ-テレコムイタリアという複雑な連鎖を簡略化するため、TIとOLを合併して新TIを創設する手続である。それぞれの株式に議決権を持つ普通株と議決権を持たない貯蓄株の区別があり。増資新株を含む株式交換や転換社債・買い戻しなどの過程があって極めて複雑なのだが、基本的には7OL株を1TI株と交換する計画に買い戻し資金90億ユーロで色をつける吸収合併(2003.3.12提示)が20OL株対1TI株で良い程度にTI少数株主に不利な計画であるから改めよとの告訴など反対行動が起きたものの、最終的にオリベッティとテレコムの株主総会で原案が承認された。2003年8月3日限りでにオリベッティ株式の上場が廃止されとしても消滅、持株会社ピレリの株式上場も廃止され、翌日から新TIがスタートした。
 TIは株式市場のポジティブな反応を期待したが、値上がり反応は見られなかった。

149. MCIは順調にスタートできるか(概要)

 ワールドコムはニューヨーク州の連邦破産裁判所への再建計画書提出(2003.4.14)以来、内部では特別償却の対象とする不正計理金額や子会社間債権債務の確定及び経理ルール見直し、対外的には証券取引委員会(SEC)の粉飾決算事件や司法省による旧経営幹部刑事起訴などへの対応に忙殺されてきたが、新会社としての復活の鍵となる破産裁判所公聴会が2003年9月8日に開始された。

 ワールドコムは粉飾決算SEC民事訴訟についてまず制裁金$5億の和解案(2003.5.19.合意)、次に制裁金で設ける返還基金(restitution fund)では株主・社債保有者の不満が残るためこれに$2.5億相当のワールドコム株式拠出を追加(2003.7.3.合意)した後、総額$15億の制裁金を$7.5億とする和解(settlement)が固まった(2003.8.6.承認)。4月以降固定電話の大幅値下げで収益が悪化するなか、ワールドコムは再建計画について96%の債権者の同意を取り付けながら、顧客に対し復活後の新社名MCIを使ってアピールして来たが、債権者・傍聴者合せて100人以上の弁護士が集まった公聴会第1日は、MCI声明発表の後、再建計画に反対する2グループとMCIの協議のため直ちに休憩に入った。

 声明は「$110億不正計理事件以来新CEO・経営陣・取締役会が大変革を遂行して企業倫理のモデルとなったので、国民経済への強力な貢献者として破産から復活させて欲しい。旧経営者は獄につながれようとし、無実の従業員は一所懸命働いており、債権者は再建計画に同意し、株主はそれぞれ相当の裁判所で救済策を追求中である」と述べた。
MCIが企業倫理のモデルになった」とは、連邦破産裁判所から監視役に任命された前SEC委員長R.ブリーデンの『信頼の回復』と題する企業統治改革報告書をMCI取締役会が受入れ実践すると発表した(2003.8.26)ことを指す。報告書の公表は10月予定。

 ブリーデン報告は78項目の具体的勧告で、CEO/社長兼COO/CFO・顧問を外部から採用、エバース時代の取締役は全員更迭する、旧本社の会計部門は閉鎖、会計職員400名の新規採用など既に実施した項目も多数含まれるが、全体として株主・取締役・管理者のバランス・オブ・パワーに配慮した広範かつ踏み込んだ内容になっている。特に会長とCEOの分離、CEO以外の取締役は全て完全に独立した立場の社外取締役とし、主要株主は取締役候補を選任でき合意なければ選挙制とする、株主が参加できる電子集会所を設ける、外部の監査法人は最長10年毎に切り替える、株式購入権(ストックオプション)の禁止など、米国流会長兼CEOによる専制を防ぎ株主の権利を重視するのが特徴である。

 公聴会は順調にいけば約2週間で終わるが、接続料不払い疑惑(2003.7.28.AT&T提起)やオクラホマ州検察のWCOM及び旧経営幹部刑事訴追(2003.8.28訴状)など、ワールドコムの転生を妨げる別件の動きもあり、予断を許さない環境にある。

150. NBCユニバーサルの選択(概要)

 ヴィヴェンディ・ユニバーサル(VU)とゼネラル・エレクトリック(GE)は、VUの在米娯楽資産(VUE)とGEの放送子会社NBCを合併する独占的交渉について合意した(2003.9.2.発表)。合併により世界で最も高収益・急成長の新会社NBCユニバーサル(仮称)が誕生する。新会社の資本構成はGE80%、VU20%で、2003年ベースの売上高&130億、EBITDA(利子税金償却前利益)$30億、時価総額は$400億と推定される。合併交渉の結了は2004年春ないし夏とされるが、VUはGEから現金$38億を受取り債務$16億を肩代わりしもらい、新会社のトップはB.ライトGE副会長・NBC会長兼CEOとなろう。

 戦略に迷いがあり不満な株主の訴訟提起などで株価が低迷するなかVUは2003年4月からVUEを売却する競売手順を始めた。ユニバーサルの元オーナーであるブロンフマン一族を始め、石油富豪M.デイビス、リバティー・メディア、ヴァイアコム、コムキャスト、MGM撮影所そしてNBCが関心を示し意向を表明したのに対し、VUは予めVUE売却価格を$140-150億と決めて目標以下の者が脱落するのを待つやり方を繰り返し、大詰めではブロンフマン中心投資グループとNBCの2者に絞って交渉を進めると発表し(2003.8.26)、9月2日を迎えた。VUがNBCを選択したのはコングロマリットGEと提携する名声が欲しかったからであろう。

 新会社NBCユニバーサルは、NBCのTV放送網NBC、経済ニュースCNBC、ニュース専門ネットワークMSNBC、スペイン語放送テレムンド、芸術チャンネルのブラボーなどと、VUEの映画制作ユニバーサル・ピクチャーズ、ユニバーサル・テーマパーク、映画・ドラマ専門USAネットワーク、SF映画サイ・ファイなどが合併したメディアになるが、何故GE/NBCはVUEを買収するのか。
 J.R.イメルトGE会長兼CEOは、いつもの判断基準つまり技術との結びつき、固有のコンテンツ、重層する収入の流れ、市場コントロール、資本効率の5項目に照らして決断したと言う。前任者J.ウェルチならこんなリスクは取らなかったかも知れないが、映画やテーマパークの当たり外れや移ろいやすさはケーブルTV番組業など他の安定収入でカバーできるしGEを一層情報・サービス指向企業にするのにVUE買収はプラスとしたのである。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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