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マンスリーフォーカス
No.51 October 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年10月1日現在)

151. グローバル・クロッシング売却承認の見通し(概要)

 シンガポール政府系企業シンガポール・テクノロジーズ・テレメディアによる米国通信事業者グローバル・クロッシングの買収は、米国の国家安全保障上の懸念が晴らされたので、グローバル・クロッシングが$124億に上る負債で破綻して以来20カ月に及ぶ再建計画審査が近く完了する見通しとなった。

 シンガポール・テクノロジーズ・テレメディアは、2003年9月29日に同社とグローバル・クロッシングの二社が、新グローバル・クロッシング役員会の半数を米国籍でセキュリティ・チェック済みの者にするなど様々な安全保護手段を含む31ページの「網安全保障協定」に署名して連邦通信委員会に送付したので近く再建計画審査が完了することを期待すると発表した。

 審査が超長期に及んだのは(1)香港長江財閥の港湾・通信持株会社ハチソン・ワンポアとシンガポール政府投資機構テマセック所有のシンガポール・テクノロジーズ・テレメディアにグローバル・クロッシング株式の過半数を$7.5億で売却する前提で米連邦破産法裁判所に第11条適用を申請し(2002.1.29)、(2)再建策作成中にワールドコム不正経理問題の影響もあり株価下落が続いたためグローバル・クロッシング資産買取り価格を切り下げ(グローバル・クロッシング株61.5%を$2.5億を買取る合意2002.8.9.)、新会社を設立する再建計画をまとめて連邦破産法裁判所の認可を得たが(2002.12.26.)、(3)貿易競争法に基づく外国投資委員会の審査に関し新会社役員構成の変更ハチソン・ワンポアの撤退など調整に時間がかかったからであり、あとは連邦通信委員会から通信法上の認可を得る手続を残すだけである。

 売却承認の背景にはシンガポールに対する同盟国としての信頼度があると思われる。イラク戦争を契機に世界に新たな二極化が見え始めた今日、米国から見た同盟国は(1)最も信頼できる隣国カナダ、メキシコに日本、オーストラリア、英国、(2)次に信頼できる同盟国はスペイン、イタリア、ポーランド、シンガポール、(3)第三順位の国がフランス、ドイツ、トルコ、ロシア、中国と三分されると言われるが、それがどの位利いているのだろうか。

152.「電話をするな」登録を巡る混乱(概要)

 米国では古くから迷惑電話対策が行われて来たが、最近連邦取引委員会が始めた「電話をするな」登録に関し消費者保護行政の立場と電話セールス業者の利害ががぶつかり合い、10月1日の規制措置開始を控えて連邦地裁が出した二つの差し止め命令を巡って一種の混乱状態に陥った。連邦取引委員会に明白な規制権限がないとするオクラホマ・シティ連邦地裁判決(2003.9.23)については関係法の異例なスピード改正(2003.9.25上下両院可決)で権限規定が明確にされ、一方電話セールス業者の連邦通信委員会規則に対する差し止め請求を連邦高裁が却下したが(2003.9.26)、連邦取引委員会規則は言論の自由を定める憲法修正に違反するので無効とのデンバー連邦地裁判決(2003.9.25)については裁判所以外では対応方法がないので、連邦通信委員会が連邦取引委員会に代わって10月1日から規制措置を施行すると発表した(2003.9.29)ものの連邦通信委員会と連邦取引委員会との登録作業は中断し、電話セールス業者は当面電話勧誘を自主規制している。

 米国では企業・慈善団体・宗教法人・政党など各種組織が家庭に呼び掛ける商品や寄付の電話勧奨が盛んで、テレマーケティングは年商$2,750億、約5,400万人を雇用する産業に成長している。テレマーケティングは自身でやる、従業員やボランティアにやらせる、顧客の依頼により電話をかけるテレマーケティング業者など、様々な方法で行われ、しつこい電話セールスに対する苦情の増大に伴い消費者保護措置も工夫されてきた。

 1991年電話消費者保護法は、希望しない電話セールスから電話加入者を保護する手続の制定権を連邦通信委員会に与え、災害対策回線・病院・老人世帯などに対する自動ダイヤラーの使用・録音メッセージの発信を禁止した。同法は加入者が希望しない電話セールスを受信しないよう全国受信拒否者データベースの創設を示唆したが、「電話をするな」リストの作成を連邦通信委員会にに命じはしなかった。

 1994年テレマーケティング・消費者詐欺・濫用予防法は連邦取引委員会に迷惑電話セールス禁止規則制定権を与え、(1)迷惑電話セールス行為の定義、(2)求められない電話コール迷惑パターンの禁止、(3)テレマーケティング発信可能時間の制限を定め、(4)テレマーケティング業者が電話コールの特性を迅速に受信者に開示することを求めた。FTCは特に脅迫的勧誘や繰り返し電話の禁止を強調してテレマーケティング法に基づくテレマーケティング販売規則を定めた(1995.8.16)。連邦取引委員会は2002年12月の修正規則で消費者から予め許諾を得ている者、確立した業務関係の相手、銀行・保険・通信など連邦取引委員会権限外の企業、寄付を要請する慈善団体を適用除外して全国受信拒否者データベース作りを始めた。

 「電話するな」登録実施法が全国データベース作成維持費用をまかなうためテレマーケティング業者からアクセス料を徴収することを定め、電話消費者保護法関連規定を修正した。連邦取引委員会権限外でテレマーケティング法から除外された銀行・保険・通信業が連邦通信委員会規則で取り上げられ(2003.7.25改正)、連邦取引委員会則が「電話するな」登録へのアクセス料を最終的に「1エリアコードのデータにつき$25、最高$7,375」と定めた(2003.7.31)。

 こうして連邦取引委員会ウェブにアクセスして消費者が自分の電話番号を登録すればテレマーケティング業者からの電話セールスがかかって来ない仕組みが完成した。登録受付開始(2006.27)から8月末(2003.8.31)までに登録した電話番号に対し電話セールスを行った者は2003年10月1日以降最高$11,000の罰金を科せられる。2003年9月1日以降登録した電話番号に対しては登録後3カ月以降に処罰が始まる。

 電話番号登録は受付開始日に735,000件に達し、2003年9月末までに約5,100万の電話番号が登録された。データベースをダウンロードするため登録したテレマーケティング業者は約13,600社に達した

153 . ハリウッド映画のディジタル・ショック(概要)

 近年音楽業界がアメリカレコード協会に結集し強硬姿勢で無料音楽交換サービスと闘ってきた間、映画業界は複製品の侵害に対しても比較的鷹揚であった。ハリウッドの大物達は、音楽ファイル交換による音楽業界売り上げ1/4減は一つには音楽CDの売値が高過ぎたからで、我々はユーザの声に耳を傾け柔軟対応のビジネスモデルにより販売ルート多様化と合理的プライシングで来たと言う。ところが記録・配信技術高度化に伴う海賊行為、ディジタル・ピラシー(Digital Piracy)の衝撃に見舞われている。

 ハリウッド映画の公開直前プレミアで招待客に混じり泥棒が劇場に入って上映作品を盗写し、運び屋が人気作品を1本$10.00で台湾・タイその他アジア諸国の犯罪シンジケートに運び、模造者が違法DVDを大量生産し、アジア・ヨーロッパ・米国などの大都市の街角でDVD1個コスト15セントのものを$15で売る。高マージンの違法収益は巨額という。アメリカ映画協会取締部門によれば、2003年上半期に公開前に盗まれた人気映画は50本以上、映画業界はDVD工場浄化作戦に乗り出しアメリカ映画協会が情報内通者ネットワークと現地警察の協力を得てアジアで63工場、マレーシアだけでも12工場を閉鎖した。しかしアメリカ映画協会アジア取締部長は捜査当局や裁判所がギャングの脅されて刑を軽くしている、違法模造DVDを2,000個売ったシンガポール海賊が受けたのは禁固刑1年半と語る。

 映画業界はネットワーク配信した映画を利用者が観たらコンテンツ情報が消えるディジタル著作権管理技術の開発や法廷闘争に努めている。取締では、ユニバーサル映画とFBIが協力してフィルム埋め込みタグで犯罪者を追跡し春の人気作品「ハルク」を違法複写し公開前にネットワーク配信にセットした犯人を逮捕し罰金$25万と禁固刑3年にした。裁判では、DVD複写禁止を破る技術を公開した者の損害賠償事件でインターネットにおける営業秘密漏洩に対し「言論の自由」憲法条項の抗弁はできないとのカルフォルニア州最高裁判決を得た。

 電機メーカーのDVDレコーダー売り込み合戦が始まった今日、音楽業界では脅し戦略が漸く実を結び音楽ファイル交換トラフィックが減少に転じた。このままでは映画業界は音楽業界の脅しの道を歩むと視る者が多い。だが1980年代にソフトウエア会社がオンライン・ピラシーと闘った時の故知を考えると、良くコントロールされた適法なファイル・ダウンロード・サービスが決め手になる。近くサービス開始する新生ナプスターが注目され、映画業界でもムービーリンク(Movielink)の立ち上がりが期待される。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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