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マンスリーフォーカス
No.52 November 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年11月4日現在)

154. 電気通信産業の新局面(概要)

バブル崩壊を乗り越えて復活

 4年に1回の通信総合展示会ITUテレコムワールド2003が10月12日から18日まで開催された。バブル経済が最高潮の時に開かれたITU テレコム99は展示室多数、賑々しい客寄せイベントが毎晩続いたが、今回は出展企業は30%減で前夜祭パーティーも名ばかりだった。アルカテル、ノキア、モトローラ、ルーセントテクノロジーズなど大手通信機器メーカーの展示が大ホールから消えていた。

 しかし、少なくとも電気通信産業の悪化が食い止められていることは、新しいダイナミックな小企業多数の参加で示された。初出展企業の構成はヨーロッパ(74%)でアメリカ(11%)、アジア(10%)と近い者が多い一方、華為、中興など躍進する中国メーカーが目立ち、欧米東アジア人のほかアフリカ、中近東、南アジアからの来客が注目された。つまり途上国の存在感が増していた。

 出展企業の分野別ではネットワーキングが最も多く(39%)、次いで移動通信(26%)とIP/ブロードバンド(25%)であった。バブル崩壊後のビジネスチャンスとして最も有望な成長分野は携帯電話であり、今日の13億から2997年には20億に増加すると見込まれている。次ぎは高速インターネットアクセスで、第三は企業情報ネットワーキング市場である。順位は多少違うがこれら三大有望分野が展示されていた。

 TU開発部門の分析によれば世界の携帯電話総数の46%、約5億個が開発途上国にあり、コストダウンの見込みと設備投資の所要期間が短いことから携帯電話が今後の電話普及の主軸と考えられる。内海事務総長は開発途上国投資が電気通信産業を救うとまで強調していた。

電気通信はパイプからサービスへ

 大企業がコストダウンと海外事業展開への対応に迫られるにつれ、各地の事業所を低廉かつ安全に結び音声・データを同一網で送受できる新しいインターネット技術を導入するユーザが多く、プロバイダーはこれまでの複雑に絡み合ったネットワークをオーバーホール・簡素化し新世代サービスの迅速かつ効率的な実現に努めている。ひたすら音声通話を通すパイプを提供してきた電気通信事業者が、安全を保証する相互接続やヴァーチャル・プライベート・ネットワークを含む新通信・IT融合サービスを指向している。

 企業情報通信ネットワークの歴史はパケット交換と共に古いが、1990年代後半に登場した二大インターネット新技術、(1)IPネットワーキング(IPプロトコルによる統合網)と(2)ウェブコンピューティング(WWWを基礎とした情報流通システム)は低コスト・オープン・グローバルな特徴により企業情報通信を革新した。パケット交換時代にデータはパケット専用網、音声は電話網の二元主義だったのが、IP時代になって音声をパケット化し企業データ網に重畳して送るVoIP(Voice over IP)が確立し音声・データを一本線で遠隔地に送るようになった。
ネットワーク機器製造業シスコ社はこれまでにVoIP電話機を200万個出荷したが、最初の100万個出荷に3年半かかり次の100万個は1年足らずで出荷したと言う。ある調査会社はアメリカ企業のVoIP利用率今2%が2007年に7%になるとの予測する。

 VoIP利用は大企業に限らない。中小企業のVoIP利用に着目して急成長する代表例が米国の高度IP通信サービス企業ヴォネージュである。このニュージャージー州エディソンに本社を置く設立年月不詳の小企業は、ユーザが電話する時一般の電話機を差し込むアナログ・テレフォン・アダプター(ATA)を提供し、借りた高速インターネット網を通じてユーザトラフィックを変換して流し、利用区間・利用時間帯等による割引料金を徴収する。例えばアメリカの携帯電話利用者が月平均541分話して月額$61払っているのを$30(税別・累加料除く)にする。ATAが携帯・長距離・国際・データなどあらゆる通信パターンに対応してルーティング・記録するので規制がない限り自由自在である。現在約5万加入を年内に10万にすることを目標にしている。

155. MCIの再建計画承認(概要)

 ワールドコムは先に提出した(2003.4.14)MCI再建計画をニューヨーク州連邦破産裁判所が承認した(2003.10.31)と発表した。再建計画を認めないよう破産裁判所働きかけていた反対をAT&Tが取り下げた(2003.10.14))ことが影響したと思われるが、接続料不払い疑惑に関するFCC調査はなお継続中である。しかし、2004年初頭の新生MCIの発足に向け大きく前進したことは間違いなく、M.カペラス会長兼CEOは、喜びの会議電話で『当社は資産価値を強く維持したまま更正手続きから浮上する』と述べた。

 ワールドコムの破産申請時(2002.7.21)の赤字は420億だったが、債権者の請求・精算の終了後新生MCIが保有する現金は約$23億、負債は約$58億の見込みである。不正経理の結果大部分の株主は1株につき36セントを受け取り、債権者は$2000億を失う。

 ワールドコムは2004年初頭に正式に破産手続きを完了するため、これから財務諸表を書き換え債務支払いを済ませなければならないが、カペラスは『キャッシュフローが極めて強固なので事務的にすすめるだけ』としている。
また、最高財務責任者、社長、顧問、最高倫理責任者など役員12名を任命しなければならないが、新役員の正式就任と社名を正式変更は2004年1月である。

 カペラス会長兼CEOは移動通信事業に対する関心を隠さないが、『提携先を求めて業界の人たちと何回か非公式に話したが覚書にサインするようなところまで行ってない』『市内電話の巨人に関係する向きは無い』と言う。従ってシンギュラーやベライズンは除かれ、AT&Tワイヤレス、スプリントPCS、ネクステル、T-モバイルなどが提携先候補となる。カペラスはISP UUNet を抱える立場からCZATVや電話回線を通じての高速インターネットサービスやDSLサービスのM&Aに関心があるようだが、ビデオは除いている模様。さらに、MCIを身綺麗にした上売ることは考えていないようである。

156. 音楽業界は愁眉を開いたものの見通しは暗い(概要)

 米国の音楽業界関係者は最近いつになく楽観的になっている。アップルの有料音楽配信サービス「iチューン・ミュージック・ストア(iTMS)」の獲得加入数がかつて想定したものより遥かに多数になり、10月29日には2001年7月以来2年4カ月ぶりにナプスターのサイト「Napster.com」が開店し、Roxio Inc.が提供する有料オンライン配信サービスに生まれ変わった「ナプスター2.0」が開始したからである。レコード会社の経営者はともに1曲99セントの両サービスとオンライン音楽無料交換に対する法的追求により「インターネット・ピラシー」から音楽産業を救えると考えている。

 しかし、多数の音楽ファンが有料音楽配信サービスを利用するからと言って音楽業界の問題が解決された訳ではない。メディア情報出版社インフォルマ・メディア・グループは、今後5年間にディジタルサービス1曲買いや加入サービスが20倍に増えようが総額は$18億、世界音楽市場の僅か6%に過ぎない、P2Pインターネット・ファイル交換サービスが2008年ベースで$47億の市場を奪うと予測する。

 或識者によれば、5大レコード会社はITMSの販売実績に着目するよりも、2003年9月にユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)が実施したCD小売価格値下げを考えるべきである。音楽売上高不振の一因は消費者がCD価格が高過ぎると考えていることにある。他社がUMGに追随し、これにウォルマート始め流通業者がドライブをかけると事態が変わって来よう。

 ITMSの成功が音楽産業に示した真実は、アルバムよりもシングルトラックを好む消費者が多いことである。アップルのデータによればiTMSで消費者は1アルバムにつき12シングルを購入している。これと1アルバムにつき0.02シングルを購入しているレーコード店売上統計は明らかに違う。ベスト・アーチストは人にアルバムを買う気にさせるかも知れない。しかし、音楽産業はもはやバック・バンドの報酬をアルバムに依存することはできないのである。

 遂にレコード会社はこれまでのビジネス・モデルを捨てなければならない。CDのとるに足らぬコストに法外な利益を乗せることは出来ない。CD価格引き下げのため音楽産業はアーチストに対するマーケティングを80%カットする必要がある。レコード会社のマーケティング力が弱まり、インターネット流通が確立すればアーチストの立場は強くなる。

 消費者にとって音楽の購入はより低い価格、より広い選択、より高い質となろう。しかし、今日存在している音楽産業にとって、iTMSや新生ナプスター・サービスがもたらした楽天主義にも関わらず、未来は不確定で過去に比べ暗いものである。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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