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マンスリーフォーカス
No.53 December 2003

世界の通信企業の戦略提携図(2003年12月5日現在)

157. マイクロソフトの競争戦略(概要)

 パソコンOS分野を独占しオフィス業務ソフト分野を主導するコンピュータ産業の巨人マイクロソフトが家電(消費者電子機器)分野では、携帯電話・情報処理融合機器スマートフォンの普及でノキアに追い付く兆しがなく、Xboxゲーム機もソニーのプレイステーション2に遥かに遅れている。バルマーCEOは10年後の技術が今と余り変わってないか、進化して変わってるかとビジネスウィーク誌に聞かれ、変化してるのは明白と答えた。特にパソコンやデジタル家電が融合した次世代型家電の需要が3年以内に爆発すると予測し、年間研究開発費(2004年6月期見込み$69億)の20%程度を3年連続で投資する方針を決めた。マイクロソフトは先のITUTW2003(10.12-18)に最大級のブースを設けウインドウズ・モバイルOSを搭載した携帯電話機を展示し、携帯電話のデータ通信サービスでボーダフォンとの提携を発表したが、今後メーカーの違いを気にせずに家電・携帯端末・車載機器などの間で情報を共有する基盤技術を実用化するため欧州・日本・韓国の有力メーカーとの協力関係を強化するとしている。当面の強敵はノキアとソニーであり、モトローラやサムソンと提携して次世代移動端末やXbox2のレベルアップを図り、新複合インターネット/テレビ技術IPTVの開発を進めるとしている。

 米国司法省(DOJ)対マイクロソフト(MS)独禁訴訟が終結に向かった時(2002.11.2和解案承認)、既にウインドウズOSと音楽・映像再生ソフトの統合販売が公正であるか予備調査を始めていた欧州委員会は独自の視点とルールで対応すると発表した。委員会は継続した調査の結果、OSとメディア・プレヤー・ソフト統合販売により他社の同種ソフトを競争上不利な立場に追い込み、またサーバーソフトをウインドウズと組合わせて使う際に必要な情報の公開を拒み、他社のサーバーソフトとの競争を制限しているとして、ECはMSに対し統合販売を止めるか他社同種ソフトの組込みを認めるか選択を求め、是正措置を要請した(2003.8.6発表)。

 ECが設定した本調査の秘密聴聞会(2003.11.12-14)にMSが送り込んだ30名構成の代表団は、ECの疑いを否定しウインドウズとメディア・プレヤー・ソフトの分離はウインドウズの質を落として欧州の消費者の不利益なると主張た模様である。一方MS批判側からECの事情聴取に参加したコンピュータ通信産業協会はMSの不正行為のの犠牲になった企業ユーザに対してMSから事情聴取に応じないよう圧力がかかっていると述べたようである。何か解決方法が見つかるか聴聞会結果を含むECの結論は2004年春に出される。

158. 大手メディア企業は様々に年末を迎える(概要)

 景気鈍化やテロ警戒でマクロ経済が一様でないように情報通信企業の業績と展望も様々な形で年末を迎えている。

世界の情報通信サービスプロバイダーTop20(2003年11月28日現在)

 タイムワーナーの再編成は売上高不振の音楽業界の合理化指向とブロードバンド化台頭に伴うケーブルTV部門強化の潮流に関連する。ソニーとベルテルスマンが音楽出版事業やCD製造販売事業は別々のまま両社の音楽制作部門を合わせ米国に折半出資の新会社を設立するなかで(2003.11.6発表)、タイムワーナーは制作・出版を含む全音楽部門を売却することと英EMIと交渉してきたが、市場シェア11.9%のワーナーミュージックと12%のEMIの合併は欧州委員会独禁規制で認められない恐れがあり、仏ビベンディ・ユニバーサルのE.ブロンフマン元副会長を中心とする投資家グループに売却することとした(2003.11.24発表)。社名は現在のWMGのまま経営もR.アメス(Roger Ames)会長兼CEOを継続する。TWXは3年間新会社の株式を最大15%買い戻す権利を持つ。
 E.ブロンフマンはかつてビベンディに買収されたシーグラムの大株主で、ユニバーサルの買収合戦でGEに敗れたが、今回は宿願を果たしたのである。

 マードックが率いるニューズ社は、米国最大の衛星TV会社ディレクTVを所有するヒューズ・エレクトロニクス株式34%を$66億で買収し(2003.4.9発表)、FCCに経営権取得の承認を申請した(2003.5.2)。マードックの競争者エコスターやアメリカ放送協会(NAB)が買収を認めないようFCCに働きかけて来たが、マードックはフォックスの株主総会(2003.11.25)で「このまま待っていれば数週間でFCC認可が下りる」と述べた。11月1日に長男J.マードックが投資家グループの反対を押し切って英国の衛星TV網Bスカイ最高経営責任者に就任したし、マードックの夢の実現は果報は寝て待ての形である。

 世界最大の音楽企業ユニバーサル、フランス第2位の携帯電話会社SFR、主要なペイTV事業者カナル・プラスを持つビベンディユニバーサル、2003年第3四半期業績で売上高対前年同期比59%減の59億ユーロを記録した(2003.11.7発表)。創業以来の環境事業部門を売却したことが響き、UMG9%減、カナル・プラス15%減で電気通信も横ばいなど埋め合わせるものが無かったからである。
通信に軸足を置きたいフルトゥ会長だが、頼みにするSFRをボーダフォンが完全子会社化したいとしており、VUは独り淋しい年末である。

159. インドとシリコンバレー(概要)

 インドのJ. シン大蔵大臣は最近のインド経済サミット(2003.11.24開催)で『インド経済のファンダメンタルは極めて良好で、半世紀前英帝国に対し独立を宣言して以来最も良い形になっている』と述べた。インド官民アナリストの見方は経済成長率が7%を超えるとする。政府の経済改革が進まない限りいずれ成長が止まる時が来るが、それまで経済は伸び続けるとエコノミスト誌も見る。その予測成長率は2004年6%、2005年6.5%である。

 インドでも携帯電話が遂に離陸し始めた。2002年末1,048万加入だったのが、11月末に1,935万加入と1年間に倍増の勢いである。加入増の60%がセルラー電話で40%が限定移動無線(固定系事業者が提供するワイヤレス・ローカル無線=WLL)で、固定系収入から内部相互補助を行うWLLと競争するためセルラー電話事業の収益性が下がり、周波数不足対策を巡る紛争も絶えないところから、電気通信省や電気通信規制局(TRAI)が固定系・移動系・WLL全てを対象とする統一免許と相互接続料金制度を目論み、面倒な改革が始まろうとしている。

 今シリコンバレーに住み働くインド人IT専門家は約3万名、アメリカのトップ級のIC・ソフト研究所に定着し、なかには管理者・起業家・ベンチャーキャピタリストもいて、2000年現在972社の創始者やトップもいる。ところが、1990年代は主としてバレー側が高度な労働力を得るだけだったのが、最近は米国やインドでベンチャーを起こしGE始め米国大企業、ヴィプロなどインドIT企業の研究開発に参加する者もいて双方向の流れに変わったという。
 例えば、バンガロールのGEジョン・F・ウェルチ研究開発センターには1800名の物理学者・化学者・金属学者・コンピュータ技術者などがいて、うち1/4がPhD、GEの13事業部の基礎研究に従事している。ITサービス企業シンテルは従業員3,600名のうち2,800名がインドで働いており、デトロイト近郊の本社とムンバイやチェンナイの開発センターと超高速ネットワークで結んで請け負った業務ソフト開発や顧客管理データ処理を行っている。

 オフショア・サービス(インド国内から海外顧客向けサービスを提供すること)はインドの技術革新に拍車をかけ雇用を創出し生産性を増進するばかりか、未来を拓く知力まで生み出しつつある。低賃金・高知能指数・英語が話せるインドの知力は、将来中国よりも遥かに大きな影響を米国に及ぼす可能性がある。中国経済力の源泉が米国総生産の14%、雇用の11%を占める製造業にあるのに対し、インドは米国経済の60%、雇用の2/3を占めるサービス産業に強い。

 シリコンバレーの心髄に浸透したインドは米国経済の中枢を狙いアメリカ経営にとって無視できない存在になって来た。米国では「雇用喪失下の景気回復」がインドのIT産業台頭への警戒感を生む一方で、ベビーブーマー退職期が近付いているので、インド人の知力は技術・サービスにおける米国の主導権維持のため役立つとの議論もある。
 インドが高成長経済に転移することが出来たら、天然資源や筋肉・工場労働でなく知力を触媒にして先進国になる世界最初の途上国になろう。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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