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マンスリーフォーカス
No.66 January 2005

世界の通信企業の戦略提携図(2005年1月11日現在)

196. ディジタル家電がIT産業を吸収する?(概要)

 2005年向け新製品発表はパソコン・半導体・家電メーカー、通信・CATV企業、コンテンツ/ソフト・ハウス等全てディジタル融合を意識したものとなり、欧州委員会(EU)の競争阻害認定に基づくソフト販売是正命令差止め仮処分申請の第一審裁判所棄却に伴いマイクロソフトはウインドウズOSに新ソフトを組込む戦略を続けられなくなりそう。

2005年国際家電見本市の焦点はパソコン・家電融合

 2004年春からハイテク銘柄中心に世界の株式市場は回復色が鮮明になってきたが、イラク・中東問題や原油価格高騰を討議する第30回主要国首脳会議(2004.6.8-10)が開催された頃、25年続いてきた情報技術展示会コムデックスは参加企業が集まらないため中止と決定された。これより半年前の年頭、1966年以来の国際家電見本市はラスベガスで開催され(2004.1.8-11)、出展企業2,491社、入場者数対前年比13%増の132,853名を記録した。もともと家電協会(CEA)の加盟企業は、娯楽・車載機器・航空宇宙・建築土木・通信テレコム・医療健康・旅行ホテル・教育・金融・情報技術産業から成っていたが、情報システム/コンテンツ融合傾向を映して娯楽ソフト中心に参加企業が増え娯楽関係幹部の入場者は7,000名に達した。

 今年開催(2005.1.6-9)された2005年国際家電見本市)は、出展企業2,550社、セッション数350の会議参加者や外国人23,028名を含む入場者数が142.585名という大盛況であった。特に前夜祭で(1.5)マイクロソフトB.ゲイツ会長がNBCニュースショーマンのコナン・オブライエンとの掛け合いディジタル・フォト・スライドショーで提示した「ディジタル・ライフスタイルの出現」というキーノート・アドレスは評判であった。メディア・センター2005パソコンのコントロールを中心に提携先デバイス・ソフトも活用しながらTV・ビデオ・オーディオ・フォト・ムービー等の娯楽コンテンツを家庭に送り込み、蓄え、利用させるマイクロソフト戦略の仕組みを聴衆に訴えるもので、先に新製品発表会「ディジタル・エンターテインメントを何処にでも」を開催しており(2004.10.12)、その時も今回も時折命じても動作しないエラーが笑いを呼んだ。ホットな新製品は完成品・テスト版・仕上げ段階など様々であり、特にディスカバリー・チャンネルのTV番組をメディア・センター・パソコンでアクセスしラッキー・ゴールド電子社と共同開発したディジタルDVDレコーダーにダウンロードした上、メディア・センター・エクステンダー経由でパイオニア製メディア・センター・コネクト内蔵40吋薄型液晶モニターにHDTVとして出す試写は上手く行ったらご喝采の類いである。世界の家庭娯楽情報市場をウインドウズ・ソフトで仕切りたいマイクロソフト戦略が成功しシェア最大となる可能性を信じるメーカー・ソフトハウスはついて行くとして、既に$700億投じたディジタル・エンターテインメント事業は何時収益を上げるのか?

 1,531万平方フィートの広大な会場に展示された膨大な数の新製品は、消費者が汎用のオール・イン・ワン機器を欲すると信じ、例えば電話に使えて音楽も聴けるなど複数機能を備えていたものの、革命的に飛躍した製品と言うより段階的に進化した商品であった。総じて、新製品を見せる・解説する・触らせる・使わせると言った現実よりも、圧倒的な売り込み宣伝が目立っていた。

マイクロソフトはソフト組込み戦略を転換するか

 マイクロソフトはこれまで敗北の危機から勝利を勝ち取ることにかけて達人であった。この世界最大のソフトウエア企業は法定闘争で敗けることがあっても規制環境を操り敗訴の結果で行動が制約されることはなかったが、今度はどうも少し違うようである。

 欧州委員会(EC)の競争阻害認定に基づくソフト販売是正命令(2004.3.24)に対するマイクロソフトの上訴と制裁措置差止め仮処分申請に関連し、欧州第一審裁判所(the European Court of First Instance)は、「上訴の最終的判決まで制裁措置を遅らせるとマイクロソフトの市場支配力を増すばかり」というEC委員の主張を聞き、「上訴審理中に是正命令を実施すると深刻で取り返しのつかない損害を受け兼ねない」との請求理由をマイクロソフトは準備資料で示せなかったとして請求を棄却した(2004.12.22)。

 その結果マイクロソフトは行動を変えなければならない。第一に音楽・映像再生ソフト「メディア・プレーヤー」を外した基本ソフト(OS)ウィンドウズ発売である。これはOS独占力によってマイクロソフトのメディア・フォーマットが事実上の産業標準になることを防止するためである。第二にマイクロソフトは競争各社に対しその製品がマイクロソフト製品と同程度に効率的に成り得るようサーバー用OSに関連する技術情報を開示しなければならない。制裁金 E4.97億($6.12億)の支払いは既に済んでいる。

 マイクロソフトはメディアソフト非搭載版OSはパソコンメーカー向けを2005年1月から、小売店向けは同年2月から発売する。ECは非搭載版OSは現行OSよりも高くならないことと規定し、マイクロソフトは同価格で販売するとしている。非搭載版OSは割高になるほか後で音楽・映像再生ソフトを導入する手間がかかるため実際に購入する消費者は少ないと思われ、パソコンメーカーが提供するとは限らない。
従って、請求棄却の決定は短期的な影響は無く、マイクロソフトにメディアソフトをOSから分離させることは象徴的な勝利に過ぎなくなる。しかし、次世代ウィンドウズの新ソフト組込みへの影響となると別で、予め非搭載版を制作しておけば良いというのは書生論であり、抱き合わせ販売の圧力でライバルを圧倒してきた戦略は転換しなければならず、そのためマイクロソフトはECとの話し合い解決を熱望していたと思われる。

 マイクロソフト社プログラマーは現行ウィンドウズのセキュリティ対策に忙しく、次世代版「ロングホーン」開発に影響が及び完成時期が再三延期されて現在は2006年発売になっている。マイクロソフトは自社製メディアソフトのメリットに訴えて競争しなければなるまい。

197. 米国移動通信企業の寡占化が進む(概要)

 米国移動通信市場シェア第3位のスプリントがは2004年12月15日に第5位のネクステルをおよそ$350億で買収する合意が成立したと発表した。2004年9月末加入数で首位シンギュラー・ワイアレス4,700万、2位ベライズン・ワイアレス4,210万に次いでスプリント2,320万とネクステル1,530万の合計に関連会社を加えた新会社4,000万は3位になる。上位3社の合計加入数1億2,900万は米国全体の約75%となり寡占化が急速に進む。

 両社取締役会が全会一致で決めた買収計画は、(1)統合後両社ほぼ均等出資の合弁会社スプリント・ネクステルを新設し、スプリント株式はそのまま継続し、ネクステル株主はネクステル・コミュニケーションズ株1株につきスプリント・ネクステル新株1.3株の価格合計になるよう新株+現金を受取る(時価では1.28株+現金50セント)、(2)新会社の取締役会は両社の筆頭取締役1名づつを含む取締役12名づつで構成し、スプリント会長兼CEOゲイリー・フォフォーシーが社長兼CEOとなり、ネクステル社長兼CEOティモシー・ドナヒューが会長となる、(3)統合には米国司法省とFっCの承認が必要であり、2005年下半期合併完了が期待される、(4)合併完了後新会社はスプリントの固定系市内電話事業(2003年売上高$140億)を分離する。

 スプリント・ネクステルの単純合算で国内電話事業$60億を含む2004年9月末に至る年間売上高は$400億、マスマーケットに強いスプリントとプッシューツーートーク・サービスで中小企業に人気あるネクステルは好組合せでコストダウン$120億のシナジーが見込まれ、推定時価総額$700億は世界の情報通信サービスプロバイダー番付でベスト10入りしそうである。合意成立日の引値でスプリント株は1株$25.10、ネクステル株は1株$29.99なので合意の基準ネクステル1株$32.63は9%のプレミアがついたことになる。

世界の情報通信SP Top30(2005.1.3現在)

198. ハチソン・ワンポア3G投資の位置づけ(概要)

 中国経済が目覚ましく成長を続け人口が13億に達しようとする時、香港は中国返還(1997.7.1)以来1997-1998年アジア経済不況・2001-2002年米国IT不況・2003年新型急性呼吸器症候群(SARS)ショックと連続するマイナス要因の重なりで700万人が喘いでおり最近の東アジア共同体」「ASEAN +3(日中韓)」という大きな流れの外にある。人口2,240万実質GDP成長年率3%台の台湾が独立志向を潜めつつ本土投資を増やし民間航空直行便が飛ぼうかという時、香港の存在感は比べものにならない。香港は文字通り中国の特別行政区域として海運実業家出身董建華行政長官が北京の指導に沿って統率し、中華人民共和国の立法機関「全国人民代表大会」常務委員会(定員173)から割当て1名をもらっている。最近民主化を求める住民意識は先鋭になってきているが、2007年に予定される行政長官の選出や2008年の立法府議員選挙の自主性は危ぶまれている。香港は貨物集散地としての役割を追及し金融サービス・ロジスティックス・観光業・専門サービスに特化して生きていくことに専心している。

 住民が賭事に情熱を注ぐ香港で最大の賭けは港湾・不動産・小売グループの通信持株会社ハチソン・ワンポア( HWL)の次世代携帯電話サービスである。2003年の売上高$190億・純利益$20億のコングロマリットが3Gに$220億投資して一年半ほど前には金融が逼迫したことがあった。長江グループの総帥李嘉誠がHWL会長、長男ビクター李がHWL会長代理だが、3G投資の実務を仕切っているのは永年に亘りビクター李付きで12年前からHWL専務取締役の霍澤鉅(カニング・フォック)である。

 ハチソン・ワンポア(HWL)は香港初の携帯電話事業者(1985年サービス開始)で、アナログ2方式(AMPS/TACS)からディジタル2方式(CDMA/GSM)に移行し大いに稼ぎながらヨーロッパなどの自由化国にはHWSLの直接投資、アジア・アフリカ・アメリカの開発途上国にはハチソン・テレコム・インターナショナル(HTIL)経由の地元企業との合弁事業を推進した。

 英国ではBT子会社セルネット・無線メーカー出身ボーダフォン(VOD)・C&W子会社(One2OnePCS)に次ぐ第4事業者としてオレンジ(Orange)を開業し(1994年4月)、秒単位課金・無料通話時分を含む基本料を採用するなど家庭向けマーケティングで急成長し1994年末に216万加入という急成長を遂げた後(1999年10月)VODに$330億で売却した。フォックは携帯電話バブルの絶頂で売る判断が良かったから望外の儲け(およそ$200億)になったと言い、専門家筋は携帯電話機にリベートを出したり無料時分におまけしたりプリペイド料金も大幅に割り引いているから売れた、あの商法では何時になったらペイするのかと批判する。

 英国の3G免許は既存事業者4社/新規参入1社の枠に13社の応募があり競争入札が行われ(2000年5月)、BT(3G)Ltd/One2OnePCS/Orange(3G)Ltd/Vodafone Ltdの4社とHutchison 3 UK(3UK)が落札した。BT(3G)LtdはBT子会社でBTの固定・移動後はmmO2子会社となる。One2OnePCSはドイツテレコムが買収済み(1999年8月)であり、後にT-Mobile UKとなる。Orange(3G)LtdはHWLがVODに売却したオレンジとは違う新オレンジの3G子会社であり、ボーダフォンのマンネスマン買収契約に基づきマンネスマン子会社になった後3年以内に売却される約束で結局フランステレコム(FT)の子会社となる。従って英国で3Gサービスを提供する既存事業者は、VMNOを除き、ボーダフォングループの英国事業者Vodafone Ltd、旧BT系mmO2、FT子会社Orange、DT子会社T-Mobile UKの4社である。3UKの"3"はブランド名で3G免許はカナダの業務用無線提供会社TIW(Telesystem International Wireless)の子会社UMTS(Universal Telecommunications System)名義で授与され、HWLが携帯電話会社Hutchison 3 UK(3UK)に90%出資している。

 HWLは3UKに続き2000年にイタリア(H3G Italy S.p.A)、2001年にオーストリア・スウェーデン・デンマーク、オーストラリアで3G免許を取得しそれぞれ携帯電話機発注・ネットワーク構築・試験サービス・商用開始と拡充中で、特に2004年11月から17種の改良型端末を投入して販売攻勢を拡充した結果、HWL全体の3G加入者数は590万に達した。2003年末加入数目標を100万としてからフォックが毎日午前2時まで2時間毎に販売情報を集めて陣頭指揮に立っている。
しかし、5ヶ月前(2004年7月まで平均)と現在(2004年末まで平均)を比べ、1加入当り創設費用が252ユーロから270ユーロに上がり、収入単金(ARPU)が51.46ユーロから44.45ユーロに下がるという逆鞘から「2010年までにペイしないではないか」と危惧する専門家、「3G事業は2006年営業赤字$13億」と予想するアナリストが出てきた。

 ハチソンはこれまで大幅ディスカウント戦略で3G早期導入に顧客を集めてきたが、ヨーロッパではVODの販売攻勢が2004年11月から強まり、香港ではオーストラリア既存通信事業者テルストラの100%子会社になったTLS HK(旧CSL)と地元不動産企業の子会社スマートーン(SmarTone)が12月から3Gサービスを開始した。競争が一層きびしくなれば大財閥でもHTILの中小子会社上場益だけでは間に合わなくなる。プロクター・ギャンブル中国消費者製品の持分とかカナダ資本ハスキー・オイル株式とか株価の高い小売業資産に手をつけるかとの見方まで表れ、フォックは憤然としている。
香港資本の本土投資も漸く盛んになってきた今日、ハチソンは本土にスーパーマーケット27店、ドラッグストア100店しか開いていない。オレンジを売って得た望外の儲けを3G 事業に再投資したのは正しかったのか?フォックの眠れない夜が続く。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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