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マンスリーフォーカス
No.68 March 2005

世界の通信企業の戦略提携図(2005年3月8日現在)

202. 3GSM世界会議2005に何を見たか(概要)

 欧州が標準化したディジタル携帯電話システム方式GSMは、初めは標準化作業グループの略号だったが、世界標準化協議に汎欧ディジタルセルラー構想/システム/仕様を打ち出してるうち移動通信グローバルシステムの略称に変った。GSMプラットフォーム開発と世界無線産業の発展を推進する団体としてGSM協会(GSMA)が設立された。GSMAは2004年末現在、世界210カ国・地域の12.5億加入者にサービス提供中のGSM(2G&3G)移動通信事業者650社、通信機器メーカー150社が加盟している。GSMAはカンヌのホテルをイベント会場として1996年以来展示・説明・表彰等を行う「世界会議(World Congress)」を開いており、今回は2005年2月14-17日に開催された。出展企業は685社、来客数は前年の28,000名を上回る34,000名だった。最近3年毎回人出が増えて会場が手狭になり、今回は6ホールに増やしメディアセンターは主会場フェスティバル宮殿から外へ出され、海岸通りに並ぶ展示ブースの列も長くなったので、次回(2006年2月予定)は会場をバルセロナに移すことになった。

騒音と派手な宣伝のカンヌ会場

 3GSMワールドコングレス2005は新しい3G電話機の発表・オペレーター/メーカーの提携話・新技術登場と騒音(Buzz)や派手な宣伝(the rafters)で一杯に詰まっていたとトータル・テレコム・オンラインは伝えた(2005.2.21)。「テレコムTV-世界のICT専門家向けデスクトップTV」というビデオニュース配信があり、目下一番視聴されてるベスト10に2005GSMニュースが4本入っている。覗いてみると舞台上の表彰式やタレント出演、レポーターの会場・出展者紹介、ホール内や砂浜を背にした展示ブースなどの様子がAudioVisualに分かる。英語のrafterは (垂木)のことと初めて知ったが、確かにホール内ブースにも垂木つき屋根があり色とりどりのライトがあてられ、外のブースのテントにもカラフルな垂木がついている。木ではなく化学製品だろうが人目を惹く。(参考 TVのアドレスは http://www.telecomtv.com/)

 現地に実際に行ってないからよく分からないが、パソコンで覗いた印象ではメーカーとオペレーターで動きに少し違いがある。メーカーはバブル崩壊後の不況で痛めつけられたのを2003年から尻上がりに回復したが、2005年は成長鈍化の気配を感じている。3Gを押し出したいところだが、携帯向けディジタル放送標準DVB-Hや次世代移動通通信方式HSDPAへの対応との競合・連携が問われ、厳しい半導体競争のなかで緊張感がある。一方オペレーターは複雑な通信放送融合環境下お金のかかるインフラ投資・リスキーなコンテント制作・つかみ難いマーケティングを扱うため3Gについても腰の引けたところがある。3Gサービスに賭けた舞台でイベントが進行した。

 世界の携帯電話加入数総数を2005年末20億、2010年末30億、2005年末#G加入数は7000万と予測するノキアは、会場で3G電話機Nokia 6680=WCDMA方式4番目の製品で3月出荷・小売価格500ユーロ、前の6630がアタッチメント式だったカメラを組込んだものを発表した。この2年間に40種類の携帯電話機を開発する、アジア向け6681と米国向け6682は3GではなくEDGE方式にする、DVB-H放送受信機やWCDNA高度化版HSDPA機は2006年発売と発表した。ソニー・エリクソン、モトローラ、ラッキーゴールド、サムソンなど皆同様である。CDMA主力メーカーのクアルコムは2004年出荷実績CDMA1.5億台GSM5,500万台だったが、向う2-3年は3G機(WCDMA)に3G機(1xEV-DO)が対抗できると判断して、1xEV-DOの改良版'(1xEV-DV)開発を中止し、高速パケット伝送方式HSDPAの実用化に集中するとした(2005.3.4発表)。

 ガートナー・グループの調査報告「世界のモバイル端末市場ー2004年第4四半期/年間」によれば、2004年販売台数総計は次表の通り2003年6.7億台の30%増の7.3億台であった。

世界のモバイル端末2004年販売台数

 2004年では特に第4四半期の販売が好調で前年同期より24%伸びて1.95億台を記録した。取換え需要が強く途上国特に中南米市場の高成長が続いたことによる。メーカー別シェアでは、ノキアが第1四半期に28.9%に下がっていたのが第4四半期に33%に回復した。ノキアは「晴天の霹靂」と評された2004年第1四半期減益から立ち直り、3G電話機生産については例えば2005年の知的財産権収入を2004年の3倍に見込むなど展望は明るい。

広告と受信許可料収入に包まれケータイでTVを視る

 情報通信技術の急速な進歩に伴いメディア業界が揺れている。
米国ではイーベイ、グーグル、ヤフーなど経済におけるインターネット産業の存在感が日増しに大きくなっている。娯楽業界は音楽有料配信サービスが伸びてきたものの、ファイル共有技術の進化により音楽・映画などの無料交換が止むことなくインターネットに揺れている。マイナーなメディアだがハム族手作りミニ衛星による会員制から始まった衛星ラジオ放送は、FM100波放送のシリウス衛星無線社(SIRI) CEOに元ヴァイアコム社長兼COOのM.カーマジンが就任したことにより俄に注目を集めている。

 ヨーロッパでは「情報の自由で均衡のとれた流通」を目指すうEU枠組みの下1990年代から大型TVメディアと公共放送が共存してきたが、最近ディジタル映像放送プロジェクト(DVB)が検討した携帯端末向けディジタル放送標準(DVB-H)が欧州電気通信標準協会(ETSI)により制定され、ボーダフォン・ノキア・フィリップス等による放送モバイル融合がベルリンで放送通信融合サービスを実験中である。公共放送は各国それぞれの対応だが、先進的な英国ではBBCの特許状更新(2006年末)を前に文化・スポーツ・メディア省が国民的論議を起している(2003.121.11文書指示、政府方針をまとめた放送白書は2005年秋発表)。

 競争ルールが明確で企業の発意がリードする米国、時間をかけて組織的に進めるヨーロッパに比べると日本は、2004年国内広告費が前年費3.0%増(2005.2.17.電通発表)と4年振りに増加に転じたという経済環境において、ライブドア・日本放送・フジテレビ問題やNHK会長辞任から連想されるメディアの見通しは不透明である。

 恐らく日本国民一般の関心は、多種多様自由で楽しい米国のラジオ放送を知らないためTVに集中していると思われる。月刊誌放送研究と調査の連載特集"転換期のメディア: 連続インタービュー「広告とメディアとジャーナリズム=天野祐吉氏(2004.年8月号)」「ケータイとテレビの幸せな結婚=松永真理氏(2004年10月号)」」を読んで浮かぶ視聴者のディジタル放送TV受信将来ビジョンは、「広告は視たくもあれば視たくもなし、NHK受信料はマア払う、とにかく面白くて為になるものを手軽に視たい」だろう。貴方任せの我侭な消費者と動接するか?

203.電気通信産業はM&Aの年(概要)

米国では統合への一本道

三大合併の議会ヒアリング

 最近3ヶ月間に発表された米国電気通信産業のM&A3件、(1)SBCコミュニケーシンズ(SB)のAT&T買収(2005.1.31合意)、(2)ベライズン・コミュニケーションズ(VZ)のMCI買収(2005.2.14合意)及び(3)スプリントのネクステル(NXTL) 買収(2004.12.15 合意)は、無線・インターネット基盤サービスが伝統的市内・長距離通話に取って代る通信産業の地殻変動を表わす変化である、1996年通信法改正を検討中の連邦議会では、M&A参加6社トップなど関係者を招き下院エネルギー・商業委員会のヒアリングが開かれた(2005.3.2)。

 ヒアリングはJ.バートン委員長が「合衆国には強力な事業者による活気溢れる通信産業が必要で経済成長と消費者便益が得られるよう列席の皆さんの会社は努力されている」と述べ、J.D.ディンゲル委員会野党リーダーは「司法省やFCC など規合併案件審査に携わる者は電話・インターネット・TV別々の旧い思考に戻ることのないようにして欲しいものだと」述べて始まった。

 厳しい競争を展開してきた事業者はこの日揃って6社が3社に減ることは産業と消費者の利益に適うと確言した。6社の経営者は一人ひとり個別に、しかし同じトーンで少数の強力な会社になる結果として競争は一層厳しくなる、長距離通信2社と第3位・第4位移動通信事業者の結合で料金が上がることはないと懸念を斥け、6人の説明に指導的議員が概ね同意したので合併案件に重大な挑戦となる様子はなかった。

 I.G.サイデンバーグVZ CEOは「ケータイ番号やEメール・アカウントを持つ者には市内・長距離の区別や提供者を別にする必要は明らかに旧くなっている」と述べた。M.D.カペラスMCI CEOはこれに賛成しインターネットの世界ではディジタル・パケットが音声・データ・ビデオなど如何なるコンテントを運んでいるかほとんど区別できない」と述べた。

 議員の多くは経営者と合併プランを惜しみなく褒めたが再編成有益論を疑う者もいた。A.G.イシュー議員は「あと数年でヒアリング・ルームは机だけとなるのか」と想いに耽った。A.G.ウィルソン議員は「大部分のコミュニティは高速インターネット・アクセスを提供するCATV1社・電話会社1社の寡占になる、合併案件が承認されるとSBC+VZの住宅用固定回線シェアは68.4%、連邦政府利用固定・移動回線使用料売上高シェア75%、事務用長距離・データ徴収額シェアは79%となる」と指摘し、両社CEOは数値を不正確と述べ、その資料は見たことない、代わるべき数値は今持ち合わせてないと述べた。

 合併を競争減らしのロビイングと決めつけるE.J.マーキー議員は「大学バスケットボールでチームが4強になるまで各チームは相手を負かせなければならない、他チームと合併して勝ち残ったりしない。ベル電話会社は市場外戦略を使って裁判所で議会で、そして最後にFCCでAT&TとMCIを打負かし合併に追い込んだのだ」と述べた。選挙区にルーラル地域をか抱える議員から高速インターネットアクセスが出来ない問題が出され経営者たちは改善努力すると答えた。

 6社トップとのやり取りの後全米消費者連盟Consumer Federation of America)のM.M.クーパー調査部長は地方電話会社4社が互いに市内・長距離・インターネットサービス競争を拒んでいる、ケーブルTV産業も選択可能性を減らし料金を高くしていると述べた。学者3名と金融アナリストi名は合併賛成意見を述べた。

1996年通信法の改正とM&A

 SBC+AT&T(2005.1.31合意)、VZ+MCI(2005.2.14合意)、Sprint+NXTL( 2004.12.15合意)の三大合併に伴い市内通信+長距離通信/移動通信市場融合が進行する。傍ら電話会社がTV放送サービスを提供する通信・放送融合も進行中で、ベル地域通信会社が固定電話・ブロードバンド・携帯電話・放送を提供する四重サービス・プレーヤーが生まれる時代の通信法は、連邦・州管轄権を含め抜本的改正が必要である。しかも、グローバル化が益々進展し、国際関係・自然災害・テロイスト対策・知的財産権変容などの解決策を講じるなかで迅速に検討しなければならない。

 まずFCCが直面する課題は三大合併の一つVZ+MCIの決着である。それは2004年秋から生き残りベル地域通信会社No.4クェススト・コミュニケーションズ・インターナショナル( Qwest)がMCIと買収折衝を続けており、$63億相当暫定オファー(2005.2.3報道)を上回るVZ提案を聞きつけて$73億相当オファーに増額したものの(2005.2.11提案)、MCI取締役会は$10億少なくても安定性・将来性あるVZを選択した。VZ+MCI(2005.2.14合意)の条件一株当り株式交換$14.75+現金$6.00,合計$20.75、総額$64.46億を知ったQwestはこれを上回る再提案一株当り株式交換$15.50+現金$9.10,合計$24.60、総額$80億を出しMCIの再考を促した(2005.2.24)。MCIは契約破棄の場合VZに$2億払わなくてはならないが、VZは条件付きで再検討を認め(2005.3.2)、期限切れの3月17日の前にはQweat再々増額の予想記事も流れた。

 連邦準備理事会(FRB)資金循環統計(2005.3.10発表)によれば米国企業の2004年末現在金融資産は対前年比5%増の$1兆1960億である。競争が厳しく金回りが良いからには、2005年は米国電気通信産業で大小様々なM&Aが頻発する年になろう。

ヨーロッパでは各国様々に

ドイツテレコム

 2002年末から経営健全化を課題としてきたドイツテレコム(DT)は2004年度業瀬見通しで利益見込み32億ユーロ一株当り0.062ユーロ配当予定を発表していたが(2004.11.11)、経済雑誌キャピタル1月号の「DTの利益は2005年には43億ユーロ、2006年には79億ユーロに倍増する、負債額は2007年317億ユーロにまで減る」という観測記事にはコメント出来ないとした。DT自らは持株会社に位置づけており2004年度決算未発表の今のところ2005年度見込み(2005.3.10報道)は部門別しかない。固定網部門(T-Com)の利益は96.7億ユーロと2004年度の95.4億ユーロから微増するが将来は2017年88億ユーロと減って行く。無線部門(T-Mobile International)は成長し続けており、利払い・税金・償却前利益(EBITDA)2005年は前年比11%増の293.3億ユーロ、2014年には423.3億ユーロと見込まれる。増勢の主力は米国と西欧、T-Mobile U.S.AやT-Mobile(英国)と思われる。ロシアのMTS持株25.1%は売却したが(2004年11月投資銀行に委託)、ハンガリーの59%子会社マタフの100%子会社は保有しており東欧圏までは将来資機会を求めるだろう。DTは現在ブロードバンド市場シェアが高く、CATVはEU勧告で分離させられたし、現憲法で州管轄とされているコンテンツには進出し難いので、融合時代の攻めのM&A戦略は大きな課題である。

フランステレコム

 フランス通信企業最大手のフランステレコム(FT)のT.ブルトン会長兼CEOは就任時(2002年12月)の債務額700億ユーロを2年間で439億ユーロに減らしたが、スキャンダルで辞めた(2005.2.25発表)ガイマール財務大臣の後任になった(3.25付)。後任のディディエ・ロンバール氏は1967年FT入社短期間研究開発部門で勤務したことがあり、今回は対仏投資(外資導入促進公企業)の技術・提携担当副社長から就任した。ブルトン会長が財政再建に辣腕を奮いFTの戦略・発展の道筋についてはっきりしたビジョンを確立これから実行という時に交代したので、ロンバール新会長が前会長の経営再建策を継承すると決意表明したものの、会長・社長・CEO経験がない人のリーダーシップはまだ分からないとFT株価は下がった。しかも、ブルトン財務大臣の所掌にFT財務が含まれるのは良いことかブレーキか?。最高経営の継続性はそれとして、FTの直面する最大の課題は、移動通信子会社オレンジ、Net子会社ワナドゥ、国際サービス子会社イクァントのサービス統合である。FTは国内で現在これら3子会社のサービスを「どこでもビジネスを(Business Everywhere)という単一アクセスで電話・DSL・WiFi・GPRS経由利用できるサービスを提供中である。問題はオレンジの3Gモバイル・オフィスPCカードサービスがこのBVブランドになったためオレンジブランドがはじかれて使えない、そこでオレンジは自社で別に国際モバイルVPNサービスを開始した(2004年12月)。固定・移動融合のM&Aの場合異次元の組織とサービスのもつれをどう捌くか?

テレフォニカ

 スペインの既存通信事業者テレフォニカ(TEF )は固定系市場シェア73%、ブロードバンド市場シェア60%だが、移動通信子会社テレフォニカ・モビレスのシェアはやっと半分なので米国ベル地方通信会社ベルサウス(BLS)が手放す中南米の10セルラー会社を取得する(2004年3月合意、2005年1月完了)など地理的M&Aに努めてきた。2005年も中南米に残る候補セルラー,ブラジルのテレミグやテレノルテを念頭に置き、東欧ではチェコ政府のチェスキイ・テレコム持株51.1%の競売やトルコ政府のトゥルク・テレコム持株55%の競売に参加する考えである。ゴールドマン・サックスの分析はTEFの購買資金力は378億ユーロはある、ただ全部遠方に注ぎ込むことなくポルトガル・テレコム株式取得の分は保留しておくものと予想する。

テレコムイタリア

 イタリア最大手の通信企業テレコムイタリア(TI)が56%所有移動通信子会社テレコム・イタリア・モビレ( TIM)の完全子会社化を計画しTIM普通株31.3%を売り出す手続を始め(2005.1.20両社取締役会承認)、複雑な資本経営構造の再編成が注目されている。C.ブオラTI CEO格の常務は「TI+TIM(取締役会最終議決4月予定)完了すればTIグループのキャッシュフローが増え株主への還元の次には投資だ、イタリア・ブラジル・トルコ・フランス・ドイツの既存事業に追加投資する」と語り、R.ルッジェーロTI常務・固定系部門長は「イタリアISPファストウェから2003年に買収した光ファイバ網事業はハンブルグでブロードバンドサービスを開始したが、追加投資が必要」と語った(2005.2.25Corriere della Sera紙インタビュー)。

204.ヴァイアコムの生きる道(概要)

 米国の代表的娯楽メディア企業ヴァイアコムの2004年第4四半期業績(2005.2.24発表)はラジオ放送・屋外広告事業資産特別償却$180億を行ったため、最終損益$184.4億一株当り$10.99の赤字となり、一年前の赤字$3.854億一株当り$0.22よりひどくなった。ヴァイアコムは放送TV/ケーブルTVネットワーク、番組制作・シンジケーション、ラジオ放送・屋外広告、映画製作・流通、出版の5大事業及びテ−マパーク業とビデオレンタル企業出資を行ってきたが、インターネットや衛星ラジオの普及により地上波ラジオや屋外広告の広告価値が下がってきたため、ラジオ$109億、屋外広告$71億の特別償却で合理化することにしたのである。

 ラジオ放送185局の大部分はヴァイアコムが買収した(1999.9.7調印、2000.5.4完了)CBSが1996年6月に買収していた全米No.2ラジオ局グループのインフィニティ・ブロードキャスティングであり。その91%は全米トップ50ラジオ市場に所在し、番組の種類はロック・懐つメロ・カントリー・ニュース/トーク・アダルト・スポーツなど多彩であった。屋外広告部門は全ヨーロッパに広がり、北米でも米国50大都市・カナダ15都市・メキシコを含むトップ90以上の市場に展開していた。今回の償却対象資産は旧ヴァイアコムが2000年に取得したCBSに含まれていたもの。アナリストは「過去の買収でヴァイアコムが高く払い過ぎていたからだ」と言い、ヴァイアコム会長は「いつも価格には敏感」なので批判される謂れはないとする。

 当時344億ドルもの史上最大のメディア統合と評された株式交換合併による買収は調印前の2000年9月4日終値に基づき、CBS株主はCBS1株につき1.085ヴァイアコム無議決権株を受け取る合意なので株価が上がると買収金額は増える勘定(事実報道された買収金額は344.8億ドル、350億ドル、360億ドル、373億ドルとまちまちである)。
「ヴァイアコムが関係筋の承認を得たので明日ヴァイアコムとCBSが合併し時価総額$910億のグローバル・メディア・パワーハウスが誕生する」で始まる力強い共同声明(2000.5.3発表)には詳細に「両社株主が無税になる取引条件によれば、CBS普通株はいずれもヴァイアコムB級普通株1.085株を受取る権利に転換され、CBSシリーズB優先株はいずれもヴァイアコムシリーズC優先株1.085株を受取る権利に転換されている。CBS株主は端株については代償として現金を受取る」とあった。

 儲からないインフラ事業と新サービス創始ベンチャーの集合体である通信業界がディジタル融合の泡立つ渦のなかに乗り出している時、もともと複雑なメディア業界ではチャンピオン級娯楽企業も上手く行くとは限らない。そんな環境の二人のうち1925年生まれのレッドストーン会長は、第二次大戦中ハーバード大学生の時戦時諜報部勤務歴があり法律事務所を経て映画館チェーンに入社し(1954年)社長になり、CBS番組制作部門から出発したヴァイアコムを1987年に買収した63才でメディア業界入りという人物。20才年下のカーマジン社長はインフィニティを大手に育て上げ身売り先のCBSでトップになった剛腕経営者。両雄並び立たずで経営が軌道に乗らない又は両社独立の状態が続き相乗効果が上らないでは合併した意味がない。2001年業績は売上高$232億で損失$2.23億だったがカーマジンの社長契約は2年延伸された、因みにレッドストーン会長は個人投資会社を通じ新ヴァイアコム株式の半分近く所有していたのが次第に比率が下がったものの今でも持株比率約20%のオーナー経営者。2002年業績は売上高$246億で純利益$7.25億、2003年業績は売上高$265.8億で純利益$14,17億と改善されたものの2000年に立てた目標は達成されなかった。

 粘り強いレッドストーン会長と争ったカーマジン社長は「20年以上在職した会社(CBSのこと)を個人的・専門的理由から去り他に挑戦することとした。ヴァイアコムは各部門の職にある者のリーダーシップにより並外れた業績を上げている」との声明を残して辞職した(2004.6.1発表)。後任はかねてCEOを3年以内に譲るともらしていたレッドストーン会長の「次世代上級経営者への整然とした移行に備える企業継承計画」と称する考え方に基づき、MTV Networks部門会長兼CEOのT.フレストンとCBS会長兼CEOのL.ムーンブスが共同社長兼共同COOに任命された。共同社長兼COOの監督分担はT.フレストンにショータイム・BET・パラマウントパーク・パラマウント映画、ムーンブスにTV放送局・パラマウントTV・ラジオ放送・屋外広告が割当てられた。

 新ヴァイアコム発足時「金魚鉢に二匹の鮫」と弥次られた状態は解消したが若返り新経営陣による業務運営が喝采を浴びるまでには時間がかかる。多数部門のチームワークが稼ぎ出す成果を表現するのは財務担当である。2004年度決算諸表作業が始まった頃「R.J.ブレスラー上級副社長兼CFOから2006年3月までの任期が終わっても契約を更新しないと申出でがあり、人選を始めるが後任を得るまで在任する」「トムとレスの共同社長兼COO就任時いずれ腹心の経営チームが必要になると思った、移行期間に十分な時間をかけ私の将来計画のためにも今が良いタイミングと述べた」ことが明らかになった(2005.1.31発表)。

 ソニー・ベルテルスマンの音楽事業統合(2004年8月)、ソニーのMGM買収(2004年9月)と大型合併が続き、ケーブル番組制作リバーティ・メディアが持つニューズ社議決権株9%を17%に引上げるかの緊張が走った事件(2004年11月)など話題の多い秋ににヴァイアコムは姿勢を低くして投資家の信頼醸成に努めていたかに見える。それが世界の情報通信サービスプロバイダートップ30社の中位にある企業の生きる道だろう。

表世界情報通信SP30社(2005.3.4)

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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