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マンスリーフォーカス
No.69 April 2005

世界の通信企業の戦略提携図(2005年4月1日現在)

205.もつれるベライズンMCI合併交渉(概要)

 2005年第1四半期にメディアを賑わせた米国電気通信産業のM&A3件=三大合併の一つベライズン・コミュニケーションズ(VZ)のMCI買収交渉(2005.2.14合意)の行方がまだ見えない。

 VZ+MCI交渉の経緯は、2004年秋から生き残りベル地域通信会社No.4クェススト・コミュニケーションズ・インターナショナル(Qwest)がMCIと買収折衝を続け年明けに$63億相当暫定オファーをした後、これを上回るVZの買収提案が話し合われたと知り$73億相当オファーに増額したところ、MCI取締役会は$10億少なくても安定性・将来性あるとしてVZを選択した(2005.2.14両社合意)。
このVZ+MCIの条件=一株当り株式交換$14.75+現金$6.00,合計$20.75総額$64.46億を知ったQwestは、それを上回る一株当り株式交換$15.50+現金$9.10,合計$24.60総額$80億の再提案を行いMCIの再考を促した(2005.2.24)。MCIは契約破棄の場合VZに$2億払わなくてはならないが、VZは3月17日までの期限付きで再検討を認めた(2005.3.2)。期限切れの前日QwestはMCIに一株当り買収額を$26.00総額$84.5億にしても良いと伝えたが、MCIは3月28日までに身売り先を決めると発表した。

 VZはMCIに一株当り株式交換$14.75+現金$8.75,合計$23.50総額$76.5億の買収案を提案しMCIは了承した(2005.3.29早朝)。Qwestは「我々の提示額の方が株主の利益に適う、我々は断念しない」と声明し(2005.3.29)、一株当り$27.5買収総額$89億案を「4月5日までに回答が得られない場合は撤回する」との条件付きで提示した。MCIは4月5日夜秘かにQwestが一株当り買収金額を$27.5から$30に引上げる気があるか、又Qwest+MCI組から離脱したいMCI顧客が出た時その希望を保証するか打診したがQwestのノーバートCEOは拒否した模様。MCIは6日未明の取締役会採決でQwestの最終提案一株当り$27.5買収総額$89億案を拒否すると決定した。

 高値が株主の利益に適うことは自明の理だが、VZ or Qwest+MCI交渉はMCI自身とMCI株主の利益が同一でない稀なケースである。確かにQwest案の方が20%も高いが、株主にとってベストなことがMCI経営・MCIの顧客、従業員或いは現在MCI本社が所在するワシントンDCにとって良いことか疑問なのである。

 今やVZ or Qwest+MCI交渉関係者には幾つかの道がある。5月16日に予定されるMCI定期株主総会ではVZ+MCI合併交渉は当然議論されよう。Qwestはさらに増額した提案をMCIに提示し交渉を促進することが出来るし、MCI株主に直接呼びかけてVZ取引を否決する、或いは現MCI取締役の入れ替えを狙うことも出来る。最終的にはQwest幹部の誰も口にしてない敵対的買収(TOB)手続もある。
これまで最大の愚行は旧MCIのワールドコム(WCOM)への売却(1998年11月)とタイムワーナーのアメリカ・オンンラインへの売却(2000年1月)とされ、WCOMは不正経理問題を起して企業統治改革の触媒となった。今回のVZ or Qwest+MCI交渉は株主パワーが経営に会計を守らせるテスト・ケースとなり得る。一回目に悲劇の主人公となったMCIは二回目に喜劇の主人公となっている。

206.中国情報通信発展の現状(概要)

中国の電話普及率は51%

 中国政府情報産業部の2005年2月統計によれば、中国電話加入数は固定電話3億1,968万、移動電話3億4,407万、総計6億6,375万に達し、電話普及率は51.05%(固定電話24.7%、移動電話26.4%)と今や人口の過半に電話がついている。電気通信業務収入の2004年実績は対前年比12.6%増の5,187.6億元($626.5億)と順調だが、固定資産投資額の2004年実績は対前年比3.6%減の2,136.5億元($258億)と経済引締め政策の影響を受け、高成長の連続に一部追い付けない企業も出てきている。

 中国の電気通信体制はWTO加盟見合いで整備した「電信条例」を今も基本とする。公衆網設備・公衆データ伝送・基本音声サービスを提供する「基礎電信事業者」は国有企業であり、新技術・付加価値通信サービス或いは資金調達のための子会社「有限公司」を汎用している。主要な基礎電信事業者は現在次の四大事業者である。

  1. 中国電信集団公司= 旧電信総局(1994年4月分離),南北分割時南部組織に継承(2002.5.16)
  2. 中国網絡通信集団公司(CNC) =北部組織として新設(2002年5月)
  3. 中国移動通信集団公司(CMCC)=中国電信分割時(2000年4月)に独立。事業会社は中国移動(CHL)。
  4. 中国聯合通信有限公司=電子工業部・電 力工業部・鉄道部・国有企業13社合弁の長距離固定通信事業者(1997.9.3設立)。移動通信子会社 中国聯通(CHU)を保有。

 最も経営状態の良い中国移動(CHL)は売上高対前年比13.9%増の$246.3億、純利益対前年比18.1%増の$52.2.億を記録した。中国移動はもともと外資導入のため設立された「中国電信(香港)有限会社」で、広東・福建・江蘇・浙江・河南などGSM方式地方携帯電話企業に投資・回収・再投資の循環で成長した。2000年の中国電信分割に伴い持株会社「中国移動通信集団公司(CMCC)」及び統括事業運営会社「中国移動集団(香港)有限会社」が誕生し(2000.6.28)、中国電信(香港)有限会社は「中国移動(香港)有限会社(CHL)と改称した。CHLはCMCCから地方携帯電話企業を逐次買取り、31省・市・自治区全ての事業をCHL一社とした(2004.7.1完了)。2004年末現在CMCCがCMGを100%所有し、CMGがCHL株式の75.6%を保有し、残り24.4%が一般投資家(海外株主)となっている。こうした一方式・一社体制がCHL の高成長・高収益の基盤と思われる。しかし、2005年にはGSM網拡充投資$78億を予定し別途3G網投資も追加するが、収益の伸びはは鈍化するものと見られる。

 同じく移動通信の中国聯通(CHU)は第4四半期のCDMA加入増が期待外れだったため売上高対前年比17.3%増の$95.8億なのに純利益は対前年比4%増の$5.3億に止まった。2004年の加入増はGSM1,170万、CDMA887万(うち31.3が20001x)、売上高構成はGSM67%、CDMA33%であり、CDMA携帯機調達・販売体制の早急な改善が求められる。中国聯通は「中国聯通有限会社(CHU、2000年10月設立)の略称だが、中国聯合通信有限公司グループ内には別にCDMA網運営会社や国内資本調達会社があり組織構造が複雑過ぎて、簡素化しないとCHLの収益性は望めない。

 南部組織の中国電信集団公司が重点10地方(上海・広東・江蘇・浙江・安徽・福建・江西・広西・重慶・四川)対象に設立した中国電気通信(CHA)(2002.9.10登記./同11.14/15上場)の2004年業績は売上高が対前年比6.4%増の194.7億、純利益が前年より倍増の33.8億を記録した。2004年末固定電話加入数は1億8,665万(市場シェア58.4%)で、ブロードバンド加入数1,384万、無線市内電話サービス(小霊通"Little Smart"=PHS)4,220万を含んでいる。加入者当り平均収入は小霊通やその通信文サービス(SMS)を含めても下がり気味で2005年の設備投資は$64.7億と2004年実績$68億より抑える模様。

 北部組織の中国網絡通信集団公司(CNC)は(1)北部7省(河北・山西・遼寧・吉林・黒竜江・河南・山東)・1自治区(内蒙古)2直轄市(北京・天津)の固定通信事業、(2)鉄道部・上海市・ラジオ映画テレビ総局・科学院合弁光通信企業の中国網絡通信(1999年8月設立) (3)データ通信企業の吉通通信(1994年1月設立)で構成されたが、旧組織がそのまま存続したうえ新しく国際通信組織「中国網通国際通信公司」が設立され(2003.11.1)、集団公司と10北部地方会社の合弁で南部に通信子会社を設立されるなどまとまりのない情況であった。2004年に入り集団公司を持株会社として「網通北方公司」「網通南方公司」「網通国際公司」の3グループに編成したうえ3社の優良部分を持株会社に集めて香港法人統括会社「中国網絡通信(香港)有限会社を設立・上場し、上場資産を増やしながら最終的に組織融合を完成する計画が考案された。$11.4億の株式公開計画((2004.11.10設立・値付け、11.16NY/11.17HK上場)の結果は上乗だが、長期的将来について投資家の信頼を得るまでには至っていない。中国網絡通信(CN)の2004年業績は売上高が$78.4億、純利益が$11.1億と、四大事業者のなかでは低い方である。

 2005年には3G免許付与にからめて中国政府の四大事業者再編成方針が打ち出されると期待されている。その対応と平行して中国網絡通信(CN)の海外事業進出が検討されており、香港の既存固定通信事業者パシフィック・センチュリー・サイバーワークス(PCCW)の発行済み株式約20%を$10億で買収のうえ(2005.1.20合意)、ブロードバンド網・移動通信サービス・不動産事業など多角的合弁事業戦略提携を検討中である。

インターネットの現状

 2004年末に中国本土のインターネットユーザ数は9,400万に達した。中国インターネット情報センター( CNNIC)が公表する『中国インターネット発展状況統計』の最新版(第15次報告)の発表会に初めて香港、マカオの関係者が同席し、香港のユーザ数は330万(対人口普及率51%),マカオのユーザ数は20.1万(対人口普及率46%)と発表した。なお、台湾についてはCNNIC資料ではほとんど触れられてない。

 中国でインターネットの利用が本格化したのは中国電信が北京・上海を国際専用回線で米国に接続(1995年1月)してから,又中国科学院にCNNICが設置(1997年6月)されてからと言われる。10年間に中国経済は躍進を遂げインターネットも発達した。情報流通の自由の具体化に伴い情報の安全確保の規定(電信条例第6条)及びインターネット情報サービス管理規則が公布された(2000.9.25)。国務院新聞弁公室管轄下にインターネット宣伝管理局が設置され、許認可制(営利目的)、届け出制(非営利目的によってインターネットののウェブサイトの審査・管理が行われることとなった。

CNNIC第15次『中国インターネット発展状況統計』(2005年1月発表)に見るインターネットの現状は以下の通りである。

  • コンピュータ・ホスト数は4,160万(専用線接続700万、ダイヤルアップ2,140万、その他1,320万) 対前年比34.6%増
  • +ユーザ数は9,400万(専用線接続3,050万、ダイヤルアップ5,240万、ISDN640万、ブロードバンド4,280万)。1年間に18.2%増。
  • +登録ドメインネームは432,077(COM40,2%、NET4.6%、GOV3.8%、AADN3.6%、ORG2.2%、EDU0.5%)、AC0.2%, CN直接登録44.9%)
    1年間に27%増えている。
  • +地域的分布は北京市20.3%、広東省14.7%、上海市10.3%、江蘇省6.4%、浙江省6.3%、山東省4.2%、福建省3.7%、遼寧省3.0%。海外8.8%
  • +ユーザ属性 性別は男性60.6%、女性39.4%。男女比が女性微増(+0.9%)。
    年令別は18-24才35.3%、25ー30才17.7%、18才未満16.4%、31-35才11.4で1年前と余り変らない。
    結婚・未婚は未婚57.2%、結婚42.8%
    学歴別は大学卒27.6%、短大卒27.0%、高卒29.3%、中卒以下13.0%で1年前と余り変らない。
  • ウェブサイト数668,900で分布はCOM71.3%、NET11.9%、ORG3.3%、    GOV1.5%という順序、CN直接11.5% 対前年比12.3%増
  • 国際相互連結網 総伝送容量 74,429Mbps 半年間で+38%、対前年比2.73倍
    CHINANET:46,268Mbps 中国公用計算機互聯網、ChinaTelecom
    CHINA169: 19,087Mbps (CNCNET中国網通信息網含む)
    UNINET: 1,645Mbps  中国聯通互聯網 China Unicom
    CERNET: 1,022Mbps 中国教育和科研計算機網 旧国家教育委員会
    CMNET: 355Mbps
    CSTNET: 5275Mbps 中国科技網 中国科学院
    CIETNET: 2Mbps
    CGWNE: 建設中
    CSNET: 建設中

207.東欧の電気通信産業M&A(概要)

 2005年第1四半期の越境M&A実績は前年同期の3倍となり、米国で再生され始めた越境M&Aがヨーロッパに広がる時期が近いと見るアナリストが増えてきた。もっともプロクター&ギャンブルのジレット$570億買収やSBCコミュニケーションズのAT&T$150億買収のようなメガディールがヨーロッパで出現する予想はまだない。アメリカ経営者が新発見した楽観主義は動きの鈍いヨーロッパ経済に似合わない。EUの欧州委員会(EC)の春季経済見通し(2005.4.5発表)はユーロ圏12カ国の実質経済成長率を前回(2004年秋季見通し)より0.4%下方修正して1.6%とした。

 アナリストは、今は次のM&Aサイクルの初期だが、エネルギーやテレコムのように開放された産業では既にその兆候を見ることが出来るという。

 確かに世界最大の移動通信事業者ボーダフォン( VOD)はカナダのテレシステム・インターナショナル・ワイアレス( TIW)からチェコとルーマニアの携帯電話事業を買収する(2005.3.15合意・発表)。

「表 東欧諸国電気通信の概況」の通り、チェコは人口約1,000万・電話総数約1,300万の小国だが、携帯電話加入数970万、総数に占める比率72%と発達しており、VODは加入数183万・市場シェア17%のチェコ第3位のオスカー・モビルの株式100%を取得する。ルーマニアは人口2,100万・電話総数1,120万・携帯電話加入数690万・総数に占める比率61%とチェコよりやや遅れた国だが、VODはルーマニア第1位加入数491万・市場シェア71%のモビフォンの株式79%を取得し既保有株式20%と合わせ100%子会社とする。VODはTIWに現金$35億を支払い純債務$9.5億を引き受け、2005年第3四半期の手続完了を期待している。

 スウェーデンとフィンランドの既存通信事業者が合同したテリアソネラ(TLSN)はテリアソネラ本体の 2004年末加入数は移動系1,540万、固定系830万、インターネット210万、携帯電話の国内シェアはスウェーデンで47%、フィンランドで52%で西欧諸国はいずれも競争が厳しいため、テリア・ブランドでバルト3国・ロシア・トルコ等への進出に努めてきた。トルコは現在人口7,000万、2015年にはEU一となるイスラム色濃厚な大国で、一人当りGDPはEU平均のほぼ1/3と貧しい。それでもTLSNはトルコ第1位の携帯電話事業者・加入数2,340万のトルクセル株式27%を現金$31億で買収、64.3%になるまで買い増しすることをククロバ・グループと合意した(2005.3.25発表)。トルクセルの2004年業績は国際会計基準で決算すると純利益$4.6億に過ぎないが、テリアはトルクセルを通じてインフラ設備に積極投資し3Gサービスを展開し収益向上を狙う。

表:東欧諸国電気通信の概況
表:東欧諸国電気通信の概況

 チェコ政府の既存通信事業者チェコ・テレコム持株51.1%の売却は国有資産の処分として公平を期すため厳格な競売手続が評判になり、スイスコム、ベルガコム、テレフォニカ、フランスのフランス・テレコム(FTE)率いるコンソーシアムが参加した(2005.3.29オファー提示)。FTEコンソーシアムは翌日却下され、3社提案を比較検討の結果テレフォニカの$35.3億オファーが最高値で選ばれ、チェコ政府が承認した。取引完了は2005年第3四半期の予定で、テレフォニカは残るチェコ・テレコム株式48.9%についても2ヶ月以内のオファー提示が義務づけられる。

 このように今後発展が見込まれる移動系通信事業については、複数事業者の競争を前提に免許付与・事業者選定が行われる環境下の様々なプレーヤーによる越境M&Aなので複雑である。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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