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マンスリーフォーカス
No.71 June 2005

世界の通信企業の戦略提携図(2005年6月1日現在)

211. マイクロソフトの二正面作戦(概要)

 昨年の欧州委員会(EC)の競争阻害認定に基づくソフト販売是正命令(2004.3.24)に対しマイクロソフト(MS)は上訴と制裁措置差止め仮処分を申請したが、欧州第一審裁判所は、「上訴の最終的判決まで制裁措置を遅らせるとMSの市場支配力を増すばかり」というM.モンティEC競争政策担当委員の主張を聞き、MSの「上訴審理中に是正命令を実施すると深刻で取り返しのつかない損害を受け兼ねない」との請求理由を準備資料で示せなかったとして棄却した(2004.12.22)。ソフト販売是正命令を止められなかったMSは、第一に音楽・映像再生ソフト「メディア・プレーヤー」を外した基本ソフト(OS)ウィンドウズの発売、第二に競争各社に対しその製品がMS製品と同程度に効率的に成り得るようサーバー用OSに関連する技術情報の開示を義務づけられ、メディアソフト非搭載版OSはパソコンメーカー向けを2005年1月から、小売店向けは同年2月から発売した。

 しかしメディア・プレーヤー」を外したOSの値段が従来のと同額でほとんど売れず、技術情報についても競争他社から肝心な部分が公開されていない為その会社のメディアソフトが組込みし難いとの苦情がECに出された。そこで新しいN.クルスEC競争政策担当委員はMSに対し是正命令の完全な履行を促す注意を繰り返し、4月段階では5月31日までにMSが命令を遵守しない場合はECが必要な手続をとると通告した。必要な手続とは命令違反に対する罰金(一日当り全世界売上高の5%)で2004年3月に課せられた市場力濫用に対する制裁金とは別個のものである。

 今MSとECが直面する主要課題は、競争他社がソフトウエア・コードのアクセス部分を使用する時の使用料金と知的財産権である。MSは相互運用ソフトはMSの知的財産だから使用許可権(license)があり応分の料金を貰うとし、他社は高過ぎると実際に使えなくなるとする。MSはMS技術を使って開発したソフトウエアの概念図はMS財産を含むので発表禁止と主張する。競争他社やそのデベロッパーはコードは実際には技術的パラメータの翻訳に過ぎず、著作権対象ではないと主張する。法的に複雑で技術専門的な係争点の判断については第三者のレフェリーが必要である。

 MSは次世代家庭用ゲーム機「Xbox 360」をクリスマス・シーズンに世界同時発売すると、音楽専門TVチャンネルMTVの特別番組で発表した(2005.5.12)。高画質の大画面TVでアクション・ゲームの迫力ある映像が楽しめるようIBMと共同開発の動作周波数3.2GHの新CPUを搭載し、年末までに二十数本のソフトを用意する。コンソールの販売とソフト開発にはカネがかかり何十億ドルもの赤字を出すかも知れない。しかし、コンピュータ・ソフトからブランド商売に、オフィスから家庭に、パソコン・モニターから大画面TVに軸足を変えるには必要な投資である。

 MSの200年第3四半期(2005年1-3月期)業績(2005.4.28発表)は売上高が対前年同期比4.9%増の$96.2億、 純利益が対前年同期比94.9%増の$25.6億で、2005年6月通期の売上高は8%程度に止まる上、2006年6月通期の増収率も9%-11%程度と減速感が出てきた。訴訟費用と従業員向け株式供与を除いた前会計年度と比べると今会計年度の一株当り利益は$0.02減った$0.32になりそうである。主力のウィンドウズなどの販売が伸び悩んでいるためであり、新たな成長戦略に踏み切るのは今しかないのである。

 ただ、MSプログラマーは現行ウィンドウズのセキュリティ対策に忙しく、次世代版「ロングホーン」開発に影響が及び完成時期が延期され現在は2006年発売になっている。新しマイクロソフトが立ち上がるまで古いマイクロソフトが屋台骨を支え続けなければならないので、問われるのは経営力である。

212. 転換期に立つオンライン広告産業(概要)

 米国の広告業界誌アドバタイジング・エージによれば、グーグルとヤフーの2005年広告収入合計額が米国三大TVネットワークABC、CBS、NBCのプライムタイム広告収入合計額に匹敵すると予測する。 広告媒体としてのインターネットの進化の決定的瞬間だと言うのである。かつてプライムタイムの30秒TV広告は最も効率的で最も高価な広告と考えられていたが、それはインターネットの登場以前のことで。グーグルもヤフーも「ネット検索サービス」により広告収入を成長させてきた。

ネット検索サービスは(1)検索サービス企業が広告データベースを用意し、利用者が入力した検索キーワードに応じてそれに関係深いサイトの見出しを別欄に表示し、利用者がクリックするとそのウインドウが現れる。(2)利用者はそれを閲覧し購入なり予約なりする。(3)検索サービス企業には広告主から広告料が支払われ、その一部はポータルサイト企業に支払われるもの。この広告型ネット検索サービスはTV広告やインターネットのポップアップ広告に比べ利用者にとってうるさくない。また、提供者側から見れば、検索エンジン技術による判定により、アクセス頻度の高低を広告単価に反映できる点が特徴であった。

このネット検索サービスによりオンライン広告の草分けであるヤフー、検索エンジン技術企業出身のグーグル、マイクロソフトのMSN、アースク・ジーブスなど皆オンライン広告の売上げを急成長させてきた。かたわら技術力に優れたグーグルは「グーグル・アドワーズ(広告業者が目標を決めたマーケティングのプロモーションを展開する時に用いるプログラム)」や「グーグル・サーチ・アプライアンス(企業の広告計画策定ツール)」を開発したが、最近開発した「グーグル・アドセンス」は「入札式ネット検索サービス)」としてオンライン広告を大きく革新するものである。アドセンスは、利用者の入力した検索ワードの関連度分析をすることなく、広告業者が入札により選んだサイトに広告主のリンクを設定する。ネット検索は何が欲しいか自覚する利用者が用いるのに対し、アドセンスは初会で購入させるよう説得するものである。

オンライン広告サービス業者は消費者に検索ソフトを無料配布するのが最も確かなアプローチと考えるようになった。今や消費者は何をするにも、インターネットで探し、調べ、比較し、相談し、よく判った上で決める。ついに消費者が王様の時代がきたのだ。消費者は50年以上市場調査員に対し広告など信用してないと応えてきた。ところが最近のフォレスター(Forrester)調査によれば全米のTV保有世帯の60%がTV番組をディジタル。ビデオ・レコーダー(DVR)に記録し、その92%が再生時に広告を消している。
すると毎年TV広告に支払われている$600億はどうなるのか。

オンライン広告サービスに関連する4社の時価総額は、下表の通り2005年初からの5ヶ月間にEBayは下降、GOOGは上昇、YHOOとAMZNは横ばいとなっている。EBAYの下降はここ2-3年の国際展開のとがめが挽回し切れなかったもので、GOOGは経営努力が評価されたものと思われる。

表 世界の情報通信サービスプロバイダーTop30(2005.6.1現在)

213. 英国のディジタルTVとケーブルTV産業(概要)

 ケーブルTV会社も電話会社もトリプル・プレー(電話・TV・インターネット)による集客に狂奔しているが、ブロードバンドでは有利な筈のケーブルTV会社が放送TVとウェブの挟み撃ちに会って押されているなか、英国では二大ケーブルTV会社の合併が近くなってきた。

 テレウェスト社(TLWT)とNTL社(NTLI)の合併は永年の噂だったが、最近テレウェスト社が投資銀行ロスチャイルドにNTL社との合併のアドバイザーを依頼したとの情報が流れ注目されている。

 英国では1990年代半ばにアナログ衛星放送BSkyB(40%出資)の立上げに成功したR.マードックのニューズ社(NWS)が、有料番組(主として蹴球試合中継)で受信先ケーブルTV会社を増やしていった。大手ケーブルTVグループは電話サービスの提供とインターネット・アクセスで対抗したが、ドットコム・ブームの狂乱の後、NTL社は2002年に倒産しテレウェスト社も22億ポンドの巨額負債を抱えるに至った。その後両社は経営再建に努め、今も債務残高がNTL社は22億ポンド、テレウェスト社は17億ポンドだが、NTL社の2005年第1四半期の赤字は6,240万ポンド、テレウェスト社の2004年第4四半期赤字は1,700万ポンドとかなり健康を回復している。

 コンサルタント会社フォレスター・リサーチによれば、両社のネットワークには重複が少なく、統合すれば広告企業やコンテント業者との取引条件が改善される。又統一ブランドにより放送企業BSkyB、通信企業BTとの競争力を向上できる。NTL/テレウェスト合併企業は、当面は光ファイバ又はHFC(光ファイバ・同軸複合ケーブル)一本に電話・TV・インターネット・アクセスのトリプル・プレー・パッケージを通せる魅力で集客し、長期的には高精細度TV(HDTV)などの高度化放送で差別化することとなろう。

 しかしBT網は全国の家庭にアクセスしADSL加入数は既に490万、向う5年間の100億ポンド改良投資により競争力が向上しよう。BSkyBの契約加入者数はケーブル企業の加入数を既に250万上回っており、独自のHDTVサービスを計画している。さらに、無料地上ディジタルTV(フリービュー)と言う新しい競争相手も登場し、2002年導入以来集めた加入者は470万に達している。衛星サービス企業と通信企業に対抗する二正面作戦は決して楽なものではない。だが、NTLとテレウェストは統合して闘うしかない。

 テレウェスト社はテレビ・オンデマンド(TVOD)サービス導入に伴い、BBCワールド(BBCのTV/ビデオ番組制作・販売部門)やディスカバリ・ネットワーク・ヨーロッパ(ドキュメンタリー番組制作)と提携した(2005.6.9発表)。実行しながら体制を整える行き方である。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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