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マンスリーフォーカス
No.72 July 2005

世界の通信企業の戦略提携図(2005年7月6日現在)

214. 米国最高裁がバランスのとれた判決(概要)

 アメリカ合衆国最高裁判所は2005年6月27日に「P2Pファイル交換技術開発メーカーはそのソフトが可能とする著作権侵害に対し責任を問われ得る」との判決を下した。この判決によりインターネットを通じた音楽・映画の無料ダウンロードの多くは止まるだろう。しかし、CDの売り上げ減少など娯楽産業の病気を治すものではなく、又、技術革新に大きな影響を与えることにもならないだろう。

 インターネット上の音楽無料ダウンロードに対する法的訴追は、大手レコ-ド会社とアメリカレコード協会(RIAA)のナプスター・サービス著作権侵害提訴で、北部カリフォルニア連邦地裁はサービス停止仮決定請求(2000.6.12)を認めたが(2000.6.26)、これを不服とする上訴を第9巡回裁(サンフランシスコ連邦高裁)が受理(2000.7.28)差戻されたので(2001.2.12)、サービス停止のやり直し仮決定を下したことに始まる(2001.3.6)。この初期ダウンロード・サービスは、利用者が音楽ファイルをナプスター社に登録の上聴きたい曲名を同社のサーバーに打ち込むと、サーバーが他人のパソコンから検索・コピー・送信して呉れるものだった。

 やり直し仮決定は(1)レコード会社は被害を受けている曲名・音楽家名・ファイル名を特定してナプスターに提示、(2)ナプスターは3日以内に登録ファイルを停止、(3)レコード会社は新曲発売前に検索対象から外すよう要求できるというものだったが、やってみると曲名のスペルを変える、暗号化するなどで実効が上がらず、紛争が絶えなかった。同時に音楽・映画ソフト大手リアルネットワークス( RN)とレコード会社社=ワーナー・ミュージック(WMG)/グラマフォン(BGM)/EMI合弁の音楽配信サービス「ミュージックネット(MusicNet: MN)」、MP3.comとユニバーサル・ミュージック(UMG)による「デュエットにソニー(SME)が参加し、レコード会社の二大オンライン・ミュージック・グループが実現した。一方音楽オンライン技術も、サーバー(センター)を経由せず直接端末同士でファイルを交換するP2P方式が発展してきた。こうした環境変化とRIAAの強力な訴訟作戦の前に当初のナプスター社は営業を休止し(2001年7月)閉鎖した(同年9月)。

 RIAAが強硬姿勢で無料音楽ダウンロードと闘っている間比較的鷹揚に構えていた映画業界はディジタル・ピラシー(digital piracy=映画の無断コピー)がDVDの普及につれ大きな問題になると乗り出した。今回最高裁が最終判断を下した著作権侵害事件はアメリカ映画協会(MPAA)の違法ビデオコピー対策をリードしてきたMGM撮影所がP2Pソフト開発会社グロクスターとストリームキャストを2004年に訴え、それに映画・音楽出版企業27社が加わったものである。

 「MGM撮影所他vs グロクスター他(No.04-480)」の最高裁最終審理は、10年以上にわたる多数の事件記録を下級審から移送させ最高裁裁判官が予習した上原告・被告と質疑を交わす形で行われた(2005.3.29)。
記録によれば音楽違法ダウンロードをRIAAが訴えた個人は3000名以上、多くは現金の支払いと行為中止の誓約書により和解している。レコード・映画会社は強く関係システムの停止を求めたが、下級審は1984年のソニー・ベータマックス判決を援用して原告の要求を却下してきた。今回審理で娯楽産業関係者は若干の合法的ファイル・ダウンロードがあるとしてベータマックス判決の法理は多数の違法ダウンロードをフリーパスにしてきたと述べた。しかしこれに疑念をを抱き、どうやって開発者は完成前にそれが違法な目的に使われるか予想できるのか?と質問した判事もいた。ゼロックス複写機、アップルのiPodなど大衆利用製品は、違法な目的に利用可能で実際利用されているのに如何なる検討を経て日の目をみることになったのか?との質問も出た。

 この最終審理以来その帰趨が注目されてきたのは、ディジタル・コンテンツについて法的保護が全うされないと新しい高品質のコンテントとそれを製作・配給する産業は干上がってしまい将来がないと言う娯楽メディア企業の主張と、メディア企業が確立したビジネスモデルに反するだけで新技術を抑えるのは技術革新を窒息させ不当な商取引制限になるとのITエレクロニクス企業の主張の、双方に正当な理由があるからである。

 1984年のソニー・ベータマックス判決は「本人が後刻聴くためコピーする」のは合法としてその論理を明示したが、今回の最高裁判決は「無断コピーできるソフトを開発販売する者は、違法コピーを促す宣伝をしてないと立証しない限り法的に訴追される」との結論にして、双方の主張理由を認めた上の中間の筋道とした。

 最高裁判決の意見書(the opinion of the Court)を担当したD.スーター判事(Justice David Souter)は「問題は合法、違法双方に使える製品の流通者が製品を使う第三者による著作権侵害行為に対し責任を負う情況は何かである。我々は侵害を助長するととられる明白な表現で又は肯定的調子を示しつつ、著作権を侵害する利用を促す目的で製品を頒布する者は、結果として起こる第三者による著作権侵害の責任があると信じる」と前置きして、審理結果を述べたうえ、「巡回裁判所の判決を破棄する。事件は本意見に従い手続を進めるよう差し戻す」と命じた。

 ソニー・ベータマックス判決の法理はそのままに、消費者を著作権侵害に誘う意図をポイントにしたのである。本判決を報道するエコノミスト最新号(2005.7.2刊)関係記事のタイトルは「オンライン海賊は厚板を歩かせられる(Online pirates force to walk the plank)とある。この英語は辞書に「舷から海上に突き出した板を目隠し・手かせで歩かせる(昔海賊が捕虜を殺すのに用いた方法)」と書いてある。米最高裁はP2Pネットワークに破壊的な影響をもたらすものと思われるが、同誌の編集者は「ベータマックス判決の論理を見直なかったのはインターネットの普及・発展とディジタル化の二大環境変化に適応する著作権法改正は連邦議会と政府の責任と考えたのだろう。

215. オールド・メディアとニューメディアの分離(概要)

 ディジタル界での成長再生のため、世界第3位の大手メディア企業ヴァイアコム(Viacom Inc: VIA)は、総合娯楽メディア企業ヴァイアコムからCBSを分離し新ヴァイアコムとの並立にして(2005.6.14取締役会承認)、競争相手をまごつかせた。

 ヴァイアコムは放送TVネットワークCBS、ラジオ放送局、MTVなどのケーブルTVチャンネル、パラマウント撮影所など事業の全てにわたり好調であった。2004年売上高は対前年比8%増の$225.3億、2004年初の時価総額は$569億であった。ところが、2005年第1四半期の売上高は対前年同期比5.3%増の$55.8億だが同期間純利益が18%減の$7.1億となった。1年前2004年1四半期は戻し税$1.1億が効いていた。

 ヴァイアコムが$344億でCBSを買収した頃(1999.9.7調印、2000.5.4完了)を100とした推移を見るとヴァイアコムは2004年初からダウ・ジョーンズ・メガメディア株価指数を下回るようになっている。米国のTV・ラジオ放送広告市場はなお値打ちあるものの成熟したのである。ニューヨークの投資銀行ヴェロニス・シューラー・スティブンソンによれば、ヴァイアコム2004年売上高の60%を占めるTV・ラジオ放送広告市場の1998-2003年の伸びは年率3.0%と高くない。ヴァイアコムのケーブルTVネットワーク事業の比重は小さいが2004年の伸び率は16,5%であった。

 ヴァイアコムのS.M.レッドストーン会長兼CEOは、1967年にナショナル・アミューズメント映画館チェーン社長としてメディア業界入りしたが1987年にヴァイアコムを買収して大立者となった。ヴァイアコムは1970年FCC政策に伴いCBSから分離されたケーブルTVオペレーターだが、HBOを真似た映画チャンネルショータイムを始め,音楽チャンネルMTVの経営に乗り出すなど急成長してきたのを、小さな映画館チェーン社長がM&A専門家や金融筋を巻込む争奪戦に勝った。
ヴァイアコムは1994年に大手ビデオレンタル業者ブロックバスター及びパラマウント映画を買収し1995年には全米第6位の地上波放送ネットワークUPNを始めるなど1990年代を通じて経営規模を拡大し、上記のようにCBSを買収したのである。

 ヴァイアコムにしても、タイムワーナー(TWX)、ウォルト・ディズニー(DIS)、ニューズ社(NWS)、NBCユニバーサルなどメガメディアは皆メディア・ビジネスは規模が物を言うとの原則を信じてきた。それをS.M.レッドストーンが「結婚より離婚が良い場合もある」とCBS分離を決めたので、「規模が小さくなり市場力を失う選択は無分別な行為(lunacy)」と評された。

 CBS分離手続は2006年第1四半期完了の予定で、地上波放送ネットワークCBSに(1)UPN、(2)ラジオ・TV放送局グループ、(3)ラジオ・屋外広告事業、(4)ショータイム、(5)パラマウント・キングワールドなどTV制作事業、(6)パラマウント・テーマパーク、(7)サイモン・シュスター出版社が新CBS(となり、L.ムーンブス)現CBS担当共同COOが率いて、現ヴァイアコムの負債の大部分を引受け、配当と株式買戻しにより株主に現金を返すことが期待される。

 しかし消費者がインターネットなどニューメディアにより多くの時間を割くようになって伝統的なTV・ラジオ広告の環境は変ってきた。企業は消費者に到達する新しい道を見つけなければならないと考える。プロクター・アンド・ギャンブルやGMなど米国の大手広告費支出企業は広告費予算の割り振りをTVからニューメディアその他のプロモーションに変えている。

 CBS分離後の新ヴァイアコムは、(1)MTVネットワークス、(2)パラマウント映画、(3)パラマウント家庭娯楽など新規ビジネスを指向し、T.フレストン現MTVネットワークス担当同COOが率いる。新ヴァイアコムはS.M.レッドストーン会長の決定が間違ってなかったこと立証するため成果を上げなければならないのでプレシャーがかかる。そのため、ケーブルTVネットワークやビデオ・ゲーム事業の買収、ディジタル・メディア事業の育成を検討中である。

216. フランス・テレコム新戦略”ネクスト"を打ち出す(概要)

 フランス・テレコム(FT)は「電気通信サービスの新しい体験(NExT)」と題する中期事業計画(2006-2008)を発表した(2005.6.29)、発表資料の詳細は次の通りである。

ネクストの要点は簡単・革新・実行

(1)簡単に

(1-1)単一ポータルサイト
FTグループはお客様に対してより単純なインターフェースとグループの諸サービスにアクセスする統一スキームを2006年に提供する。ポータルサイトはそれぞれのお客様に適合し、コンピュータだけでなく固定網電話機・移動網端末・ビデオ電話機など各種端末にアクセスでき全サービスに対し簡単実用的なインターフェースとして動作する。

(1-2)統一顧客窓口
FTは2006年末までに顧客サポートサービスを提供する統一窓口を計画中で、近い将来お客様愛顧計画も開始する。

(1-3)ブランドの改造・統一
フランス・ポーランドその他FTグループが既存事業を展開している国・地域では、FT、TPSA(ポーランド・テレコム)などの伝来のブランドと携帯電話サービスブランド「オレンジ」を併用してきたが、2006年末までに「オレンジ」をFTグループが提供するモバイル・ブロードバンド/マルチプレー・サービス/企業向けサービスの「国際商標」とする。提供する企業名は従来通りである。

(2)新しい融合・革新的サービス

(2-1)新通信サービス

ファミリー・トーク(Family Talk)
ファミリーの固定・移動端末間を毎日・24時間無制限に通話するサービスが月額39ユーロ(最初の2ヶ月は月額29ユーロに割り引く)。2005年6月サービス開始、6月末加入数15,000。

ライブコム(LiveCom)
音声/TV電話/インスタント・メッセジングを統合しコンピュータ/固定網端末/移動・TV電話機とコミュニケートする通信ソフトウエア。2005年6月フランスで商用開始。

ライブフォン(Livephone)
電子メール受信を知らせ、ワナドゥ(Wanadoo)住所録を更新し、コンピュータ無しで実用的サービスを提供する。2005年第4四半期サ- ビス開始予定。

モバイル&コネクト(Mobile&Connected)
モバイル/インターネット共同アクセス
2006年第1四半期S計画中。

(2-2)新娯楽情報サービス

フォト・トランスファー(Photo transfer)
移動電話機に貯めた写真をライブボックス(Livebox)経由でお目当てのフォトロ                     グに転送する。2005年第4四半期サービス開始予定。

ライブミュージック(LiveMusic)
コンピュータからハイファイ・サウンド・システムやホーム・シネマにWiViやライブボックスで無線転送。2005年第4四半期サ- ビス開始。

(2-3)新日常生活サービス

ライブズーム(LiveZoom)
ライブボックス経由のモバイル又はコンピュータで自宅               のセキュリティを遠隔監視できるサービス。2005年第I四半期商用サ- ビス開始予定。

ホーム・ケア(Home care)
マジックライン・ビジオ(MaLigne Visio-IP TV)を用い各種サービスと連携し家族・友人に連絡し福祉・医療サービスにアクセスする。2005年下半期商用化。

モビヴィジット(Mobivisit)
移動中にスポット特定情報を双方向で提供するサービス。
2005年末商用化。

(2-4)新ビジネス・サービス

 新世代「ビジネスは何処でもマルチメディア」 はインターネットへのセキュア・マ ルチ・アクセス接続と企業イントラネットによっ て何処でも何時でも全ての端末から専門サービスが利用できる。これは2005-2008 年に段階的に商用化する。

新しい融合・革新的サービスをすばやく展開するためFTグループは下記3項目を達成

  • 各国のネットワーク管理の統一
  • 反応力を高めるための各国ITシステムの適応
  • 新革新センターによる戦略的マーケティングと新サービス市場化時間を短縮する合同生産工場

(3)実行

(3-1)野心的な業務目標

 ネクストの2008年業務目標

  • グループ総収入の5-10%は融合サービスから
  • 単一ポータルサイトをお客様の100%に
  • IP電話200万加入以上、オレンジ・ブランド移動電話機利用率30%以上
  • 固定網ブロードバンド1,200万加入以上、うちライブボックス800万加入以上
  • フランスのマジックラインIPTV利用者を100万加入以上に、TVコンテント受   信料収入を400万ユーロ以上に
  • モバイル・ブロードバンド加入者1,200万以上、うちフランス600万以上、英国500万以上
  • 企業通信市場では「ビジネスは何処でも」顧客を100万以上、情報通信技術     (ICT)サービス収入を20億ユーロ以上

 FTは転換計画の一環として従業員訓練費用を25%増やしスタッフ・インセンティブ計画を強化すると発表した。

(3-2)FTグループの財務力

2005年財務目標の確認

  • 売上高の3-5%成長
  • 粗営業利益(EBITDA)は185億ユーロ($222億)以上
  • 収入対資本支出比率は10-12%の上限
  • 純損失は粗営業利益の2.5倍以下

2008年財務目標

FTグループは2006-2008年の期間平均売上高成長率3-5%を維持し、それより少し上の粗営業利益(EBITDA)成長率の実現を目標とする。収入対資本支出比率は12%を安定的に維持し、研究開発費は収入の2%までとする。

明確な現金支出政策

  • 債務削減=2008年末債務残高は粗営業利益(EBITDA)の2倍以下。
  • 配当=取締役会は株主総会に2005年業績に基づき一株当たり1ユーロ配当を2006年に行うよう提案すると決定。2006-2008年の期間の配当は有機的なフリー・キャッシュ・フローと部門別基準の2指標に基づく(年間約80億のキャッシュ・ フローの1/3を有機的成長見合いに、残りは債務削減と配当に充当)ものとする。
<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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