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マンスリーフォーカス
No.75 October 2005

世界の通信企業の戦略提携図(2005年10月7日現在)

223. 中国移動はショートメッセジングで稼いでる(概要)

 中国共産党中央委員会第五回全体会議(五中全会)で採択された第十一次五カ年計画(2006-2010)の柱の一つは研究開発を中心とする高付加価値産業への転換であり、情報通信分野では第三世代(3G)・第四世代(4G)移動通信サービスの実現を課題としている。しかし今はテキスト中心のショート・メッセジング・サービス(SMS)で収益を上げているのが現実である。

中国移動(CHL)の収入構造

 今や提供加入数2億2,700万を超える世界最大の移動通信事業者となった中国移動は、複雑な生い立ちながら先行者利益により2004年の年商$247.6億、純利益$54億を上げ、時価総額(2005.9.30現在)$972億でボーダフォン・グループに次ぐ世界の情報通信サービスプロバイダーになっている。

 中国移動(CHL)の成長戦略は外資依存で北京・上海・広東など都市中心に急成長を図り、2000年の通信事業再編成時に21地方子会社を受取ったうえ2004年半ばに中国移動通信集団公司(CMCC)から10地方移動電話会社(内蒙古・吉林・黒竜江・貴州・雲南・西蔵・甘粛・青海・寧夏・新彊)を買収した。全国展開の巨大企業グループとはなったが、競争激化に伴いARPU(一加入当たり収入単金)月額$11は5年前の半分になり、2004年の一分当たり音声料金は対前年比26%減となった。異常に低い利益率は料金値下げ競争の結果にほかならない。

 国内市場の将来性に陰りがあるから国際戦略、例えばインド進出を計画するかとと言えば、そうでもあるしそうでもない。中国移動は移動データの成長に賭けている。しかも移動データと言っても高度なモバイル・インターネットではなく、控えめなテキスト・メッセージ(Short Messaging Service: SMS)である。

移動データ収入を分け合う仕組み

 英国の月刊情報誌テレコムマガジン最近号(2005.9.28)の伝えるところによれば、ノルソン・コンサルティングのD.カリーニ氏は「コンテンツ・プロバイダーがSMSで流す情報は天気予報・ジョーク・毎日の格言など驚くほどシンプルかつ多彩で膨大、こんなSMS市場は見たことない」と言う。耳に当てて歩く携帯電話利用者像でなく、電話機をかざし指でまさぐりながらパネルの短文に目をやって歩く姿が今の流行と言う。北京の調査会社アナリシス・インターショナルの推定では、移動データが中国移動の2005年純利益の柱となり、2008年までの純利益総額の60%を占めることになる。

 中国インターネット情報センター(CNNIC)によれば現在固定系インターネット・ユーザ数は約1億で、対人口普及率30%弱でも加入数3億5,00万の携帯電話より遙かに少ない。従って在中国アナリストは「中国人が初めて使う電話が携帯電話であるように、インターネットの初体験もコンピュータ/モデムでなく移動端末による時代が来る。中国の富は狭い都市地域に偏在し、パソコンを買いアクセス・サービスを利用できる人口は基本的に少数」と考える。
中国移動も2.5世代サービス(GPRS)を開始してからアナログ・サービスからの移行加入者に料金差額支払いを軽減する販売促進を行い、テレビ電話通話ができるマルチメディア・メッセジング・サービス(MMS)や高速データ伝送のできるワイヤレス・アプリケーション・プロトコル(WAP)サービスの試行により拡大に努めてきたが、有料課金になると加入者が利用を中止してしまう、基本的に中国移動の利用は大部分がプリペイド・カードであり有料契約者比率は27%と低いのが現状である。

 その点SMSは、ドイツ一の保険会社アリアンツの投資銀行子会社ドレスデン・クラインヴォルト・ヴァサーシュタイン(DrKW)の研究によれば、中国移動の音声サービス負担額は1分当たり3.4セント(2005年上半期実績負担額27.4元のドル換算値)と、インドを除き世界最低である。この負担額は対前年同期比10%減だが、機器購入の規模の経済や技術進歩を考えると低減傾向はなお暫く続きそうである。

 移動通信事業者から見た通常の通話サービス以外の新サービスは(1)SMS、(2)MMSやWAP、(3)音声ベース付加価値サービス(IVR)に大別されるが、今伸び出したのは(3)IVR(双方向音声応答)としても中国移動が設けた「モンターネット}」経由の単純な音声メッセージサービスである。中国では「インターネット情報掲載サービス管理暫定規定」(2000.11.7.)及び「インターネット電子広告サービス管理規定」(2000.11.8.)により、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)は公序良俗違反がないよう運営する責任を負い、問題ある場合は中国移動通信集団公司(CMCC)がキャリアーとしての管理権を発動してISPに罰金を課したり閉鎖命令を出すことになっている。つまりCMCC子会社のCHLは第三者機関としてメッセージ流通を全て知り得る。CHLはコンテンツ・プロバイダーからキャリアー料金のほか売上げの15%を得るモンターネット提携契約を結んでおり、メッセージ課金対象が分かるがISPは誰が利用者か分からない。課金は一メッセージ一セントだけだが、SMSだけでも毎日6億メッセージ伝送されるので、2005年上半期SMS実績は1,157億通でCHLの収入は$11億であった。人権・言論の自由確保のためCHL管理の内容は公表されないが、素敵な着信音やポピュラー・ソングの提供は急速に伸びていると思われる。こうしてCHLモバイル・データ・デベロッパー・コミュニティのコンテンッツ・パートナーは200社以上に達し、4000社と言われるNTTドコモの提携社数に迫る勢いである。

表 世界の情報通信SP30社(2005.9.30)

224. テルストラ完全民営化準備が進展(概要)

 テルストラ社CEOが辞意を表明していたZ.スウィトコスキー(Zygmunt Switkowski)からS.トルジロ(Solomon Trujillo)に交代し(2005.7.1就任)、冬休み明けの連邦議会が動き出してテルストラ政府持株売却法が上院で37票対35票で可決され(2005.9.14)、下院でも75票対58票で可決され(2005.9.15)、議決すべき関連法案を残しながらもテルストラ完全民営化法制定は山を越した。しかし現行の51.8%に至る政府持株売却第2段階(1999年9月売出)当時の株価1株当たりA$7.40が低落したまま2004-2005年予算書記載のA$5.25が上昇期待で2005-2006年予算書に引き写されたのに、売却法可決で1.8%上がったもののA$4.44と総選挙後のA$4.66(2004.11.1終値)にも達しない状況である。テルストラ政府持株売却実施手続法の制定は2006年初頭、実施時期は2006年10月ないし11月と見られるが、株価の推移が決定することになる。

テルストラ完全民営化法制の準備は山を越した

 テルストラ社新CEOのS.D.トゥルヒージョ(53才)は米国ワイオミング州シャイアン出身で24才の時地元電話局に入社、32才で管理職となり1996年USウエスト社長兼CEOに昇り詰め、スペイン系初のフォーチュン200社CEOと評判になった。2001年仏移動通信企業オレンジ(役員に迎えられ2年後CEOに選ばれたものの1年余りで辞任した。Z.スウィトコスキーTLS前CEOの辞意表明後エゴン・ゼンダー・インタナショナル(EZI)調査会社が後任探しをしている間、TLS幹部や豪州移動通信企業オプタスCEOの名がメディアで伝えられ、ミンチン財務相が後任は海外からともらした後はAT&T社長兼COOの名も流れた末、トゥルヒージョCEOが就任日に発表された。

 トゥルヒージョCEOがオーストラリア事情とテルストラ(TLS)経営の学習を終え腹心の管理職が就任した8月半ば、TLSはマスコミ対応で2005-2006年度業績見通しは記録的業績の2004-2005年度ほど好調ではないことを明らかにした。第一に安上がりの移動系サービスに利用が移るため固定系事業が減少する、第二に移動系事業もオプタスやボーダフォンとの競争激化により伸び悩み、第三に厳格な規制、特に2002年電気通信競争法に基づくオーストラリア消費者・競争委員会(ACCC)指示による大口利用・卸売部門と個人向けサービス・小売部門の構造分離並びに市内アクセス料金値下げ要求などで見通しは暗いと語った。

 ハワード首相はTLS資産価値と長期経営展望は良好と信じ、トゥルヒージョCEOのチームと完全民営化に取り組むとしている。自由党・国民党連立法務グループはテルストラ政府持株売却法案「1991年テルストラ法改正案=略称テルストラ完全民有移行法 を51.8%政府持株一括売出しでセットした(2005.8.17決定)。完全民有移行法制定の決め手は前回総選挙結果(2004.10.9投票)で一票差になった上院の動きである。上院は6年任期議員72名中与党37名だが最長老者が総督として投票に不参加のため一票差になる。かねてルーラル地域の通信格差を問題にするクイーンスランド州選出B.ジョイス国民党上院議員はインフラ投資不足や通信サービス改善を連邦政府が約束しない限り完全民有移行に反対すると不穏な意思を表明していた。これに対し政府はルーラル地域インフラ投資調整$A20億、インターネット料金値下げ補助A$11億合計A$31億の地域対策を検討中であった。H.クーナン通信相の完全民有移行法案上程日(2005.9.9)ジョイス議員は「政府持株の重しがとれるとTLSがルーラル地域対策にせを向けると思っていたが、連邦政府の対策検討中と知っていたら反対などしなかった」としている。

 こうして上院はテルストラ完全民有移行法案を一部の文言を修正のうえ39票対37票で可決し(2005.9.12))、下院も75票対58票で可決のうえ(2005.14)上院修正を承認し(2005.9.15)、総督の署名を得てTLS完全民営化法が成立した(2005.10.23)。調整資金A$20億が国庫から連邦準備銀行に振り込まれ、投資枠組み完成をまって基金として運用されることになる。

テルストラ政府持株売却は2006年

 テルストラ政府持株売却第1段階は、第1次保守連合ハワード内閣による一部民営化(1/3売却)法成立(1996.12.19)実施(1997年11月)だった。売出しは2分割により機関投資家向け1株当りA$3.40、個人向け1株当りA$3.30で行いA$140億(US$104億)が得られた。この法改正は第2条第1節「政府所有過半数確保条文を加える「テルストラ(公共所有稀釈法)の形だった。
テルストラ政府持株売却第2段階(1999年9月売出)は第2次ハワード内閣が2分割)1株当りA$7.40で行い「まず政府持株の16.6%を売却し次に政府持株がギリギリ51.8%なるまで残りを売る」2分割でA$160億(US$104億)が得られた(1999年10月)。第2段階の法改正は「民有化強化法案」の形だった。
ところがテルストラ株価はこの頃を最高値としてその後益々厳格な規制、強まる移動通信市場競争、国内固定通信事業の低下、海底光ファイバ投資合弁事業(香港関連会社リーチ)の業績不振等に伴い低落し、昨秋の総選挙(2004.10.9)後も2004年予算書記載の見込み株価A$5.25を割っていた(2004.11.1終値A$4.68)。2005-2006年予算書作成時(2005.10)株価はA$4.90なのに上昇期待で2004-2005年予算書記載のA$5.25を引き写したが、年度末(2005.7.1)株価はA$5.05だった。トゥルヒージョCEO以下新執行部が悲観的2005年度見通しを述べた時(2005.8.11)には遂にA$4.85(US$3.8)と5ドルラインを割った。TLS完全民営化法成立で僅かに1.8%上がったものの2005年9月末はA$4.09と総選挙後のA$4.68の12%減tいう停滞状況である。

 テルストラ社トゥルヒージョCEOは11月半ばに経営戦略を発表する予定である。固定系事業の収支改善は運用保守経費を抑制して人員を移動系系事業にシフトし、次世代サービスのマーケティングに注力することが発展の鍵である。3GサービスにしてもCDMA2000をWCDMAに置換える計画と伝えられる。

225. オンライン・ビジネスの覇権を争う四社(概要)

 世界のビジネスが益々オンラインで行われるようになってインターネットの覇権争いが具体的になってきた。どの会社がインターネットのメイン・ゲートになるのか?グーグル(GOOG)、マイクロソフト(MSFT)、ヤフー(YHOO)が世界のインターネットをリードするポータル、多くのユーザがウェブ検索、電子メール、ニュース探しなど何をするにも頼るサイトを目指しており、三社ともポータル合戦の四社目AOL(と組むことを望んでいる。

 本年初頭は訃報を書かれそうに不調だったAOLの局面が突然変ってインターネットの巨人三社が競って提携を提案してきたので、親企業タイム・ワーナー(TWX)にとっては都合の良い展開である。最初はマイクロソフトが自社ポータルMSNとの統合含みで提携交渉を申入れてきた(2005.9.15ニューヨークタイムス紙)。次は検索エンジン世界一を続け今やマイクロソフトの大ライバルとなったグーグルが米国最大のCATV企業コムキャスト(CMCSA)と共同で提案してきた(2005.10.12ウォールストリート紙)。ヤフーは世界最大ウェブ・ポータルを擁しインターネット検索でグーグルに追い付こうと提携争いに加わった。

 インターネットの覇権を握るのは誰でどんな組合せなのか予見することは難しい。インターネット・ビジネスのうち最も技術的に目覚ましく儲かる分野を検索とする従来の考え方からは勝者はグーグル、二番手はヤフー、マイクロソフトのMSNは三番手となる。AOLはグーグル技術の検索結果を用い広告を取るに止まり自らネット広告に乗り出したのは最近である。この夏AOL.comをサービス開始し米国内キャンペーンを始めた。

 基準を検索数でなくを米国サイト利用者数にすると、ヤフーNo.1、MSN No.2、AOL No.3でグーグルNo.4である。
基準をインターネットのウェブを通じた簡易メール(IM)にするとインターネット・アクセスや通信に注力してきたAOLが断然トップだが、マイクロソフトとヤフーがIM提携を始めると両社合計利用者数2億7,000万でAOLを超える。

 基準を現実経営の判断基準である広告収入と利益にすると、No.1、グーグル、No.2ヤフー、No.3 MSNの順となる。2005年第3四半期まで9ヶ月間の業績が、グーグルは売上高$42.19億、純利益$10.93億、ヤフーは売上高$37.36億、純利益$6.35億と発表され、平均広告収入比率80%ならグーグルは$33.75億、ヤフーは$30.05億と推定される。MSNは2005年6月通年の広告収入$13.85億だった。マイクロソフト社の自社オンラインMSN導入は1994年情報通信展示会で発表され(1994.11.14)、ウィンドウズ新版(Windows95)組込みで導入された。H.ブロジェット氏によれば、グーグルの2005年度営業利益見込み$24億に対しMSNは10年間赤字続きの後今年漸く$5億の黒字とケタ違いである。

 上記基準によるとMSNとAOLは一番良い組合せであろう。MSNはソフトウエア産業マイクロソフトの継子で、AOLは伝統的メディアのタイムワーナーを買収したが合併効果が上がらずに2年後に継子に落とされた。同じ境遇の両社がインターネット検索を軸にオンライン広告を目指すのは最後のチャンスである。また両社ともダイヤル・アクセスなど急速に衰退する通信事業を抱えておりドライブがかかる。
もう一つグーグル-コムキャスト-AOLも、ヤフーがベル系地域通信会社ベライズン、SBCコミュニケーションズ、ベルサウスと提携してブロードバンド・ディジタル化による情報無料配信を促進中なので、AOLがメディア・コンテンツと見張りを担当、コムキャストがブロードバンドを提供し、グーグルが検索工学を通じてカネ作りを行うという三社が得意を発揮する組合せである。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
編集室宛 nl@icr.co.jp
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