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229. ディジタル時代の小売店モデル(概要)ディジタル時代の小売店は過去と全く違う。インターネット通販企業アマゾンのような”ウェブ小売店”だけでなく"物理的な店とウェブ店を兼営する小売店”が展開するようになろう。”ウェブ小売店”と”物理・ウェブ兼営小売店)”はビジネスモデルが違い兼営小売店の方が優れている。 砕かれる筈の伝統的小売店がインターネットを支配する形勢 感謝祭休み明けのアメリカ人が出勤してコンピュータをログインし、クリスマス・プレゼント探しにも熱中する11月28日(月)は”サイバー・マンデー”とでも呼ぶべきか、その日アクセス数が2倍以上になった小売ウェブサイトがあり、ビザカード所持者の利用総額が対前年同日比26%増だったという。世界的に店売の盛上がりに懸念が残ってもオンライン商戦上昇と見る国が多い。特異なのは絶滅する恐竜とも呼ぶべき"伝統的な小売店”のウェブサイトのアクセス数が最高に伸びたことである。実際ウォルマート(WMT)のウェブアクセス数が初めてアマゾンのアクセス数を上回ったのだった。 米国の2005年11-12月オンライン売上高は、調査会社コムスコア・ネットワークによれば対前年同期比24%増の$190億と見込まれる。なかでも玩具・コンピュータゲーム・衣服・宝石のオンライン売上高は30%増である。イーベイ(EBay)とアマゾン(Amazon)のアクセス数が最多の国が多い。両社とも物理的店舗を持たないのでウェブ小売店と思われているが、そのビジネスモデルはすっかり変わって、今や何千もの大小小売店がそれぞれの商品を売るオンライン版巨大百貨店と化している。アマゾンは2004年感謝祭休みに初めて書籍よりも家電製品の売上が多かった。アマゾンはオンライン小売業が大きな商いにあることを立証した企業で今なおリードし続けているが、情勢は急変しつつある。 世界一の小売業者ウォルマートがウェブ店兼営の先頭に立ち急成長するスーパーマーケットのターゲット(TGT)がこれに続く構図である。一年半前の時価総額(2004.5.31現在)$2,412億のウォルマートは、2005年第3四半期の利益が過去4年の最低$23.7億を記録し時価総額(2005.12.2現在)は$1,997億に下がったが、対前年同期比38.5%増とカトリナ台風と原油高のショックから回復した。世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30社(2005.11.30現在)のラインナップは次表の通りであり、これに仮にウォルマートを入れるとトップになる。 上表によれば、オンラインビジネス3社グーグル、ヤフー、アマゾンは2005年第3四半期の好調な業績を反映して順位が上がっている。注目されるのは、SBCコミュニケーションズのAT&T買収審査ほぼ完了に伴い株式相場づけの社名・符号が改称されたので、表のNo.6AT&T Corp(新)が登場したこと及びスプリントのネクステル・コミュニケーションズ統合登記手続完了に伴いNo.7スプリントネクステル(Sprint Nextel)と表記したことである。 ウェブ小売店と物理・ウェブ兼営小売店の比較 伝統的な小売店の特徴は第一に店を開いた土地に根付くまでに暫く時間がかかり、その名が通っていることである。物理的小売店には歴史があり、お客を楽しませた経験がある。第二の特徴はお客が返品しやすいこと。そこに買った商品を持って行けば良い店があればお客は安心する。実際に持って行かなくても返品する物理的宛先を確認しておきたいのである。第三の特徴は顧客層をつかんでいることである。小売店は店を愛するお客を持っていなくてはならない。殆ど全ての商売の長続きする収益性は常客からの売上を伸ばすことの上に培われる。このように成り立っている伝統的小売店がネット販売を始める時にこれらの特徴はプラスになる。 最新のエコノミスト記事(Economist2005.12.10}によれば、長年に亘り大衆の信頼を集めてきたウォルマートが最近L.スコットCEOの競争推進・コスト削減戦略に反対する労組筋のキャンペーンで攻撃されている。その結果もありハリス市場調査会社・名声研究所共同の第七次名声指数調査(2005.11.15発表)によるイメージ優良な米国企業60社のランキングでウォルマートは新鋭ターゲットの第25位より低い第29位であった。1998年に始まった本調査に初めて入賞したグーグルはジョンソン・アンド・ジョンソン、コカコラに次ぐ第3位で、創業10年未満の若い小企業として注目された。 230. 豊かな小国の既存通信企業が買収される(概要)豊かな小国デンマークの現状 デンマーク王国は北欧4国最南端に位置し、人口約540万、面積(本国のみ)約4.5万km2(九州とほぼ同じ)の小国だが、CIA2004年推定によるGDP$1,744億・一人当たり$32,200の豊かな国である。電力・石油・天然ガス等エネルギー源が溢れハイテク農業・畜産業・加工業・化学工業に支えられた経済は近年2%程度の穏やかな成長を続け2003年に減速したが2004年は2.5%、失業率6.2%に回復している。1973年に北欧三国に先んじてECに加盟したものの、統合第三段階のヨーロッパ通貨同盟(EMU)発足(1999.1.1)に際しては2000年9月国民投票で反対53.1%賛成46.9%とユーロ採用を否決した。しかしヨーロッパ為替交換比率機構(ERM)には止まり、デンマーク・クローネの対ユーロ変動幅を中心交換レート1ユーロ=7.46038 2.25%に維持する政策をとっているので事実上ユーロとの固定相場制となっている。 デンマークは14地域・2 海外自治領からなる。海外自治領は遠隔のグリーンランドと北大西洋上のフェロー諸島で議会に各2名の代表を送っている。フェロー諸島の大陸棚に関しアイスランド・英国・アイルランドと係争中である。 議会は179議席、任期4年の議員で構成され、政党は7党分立である。2001年11月総選挙でアナス・フォー・ラスムセン率いる自由党が8年間続いた中道左派連合を破り第一党になったので保守党と組みデンマーク国民党の閣外協力を得て少数派政権を組閣した。2003年には経済低調・失業などから支持率が下がったが、2004年上半期からの景気回復に伴いラスムセン首相は2005年2月に議会を解散し繰り上げ総選挙を行った。その結果自由党52、社会民主党47、デンマーク国民党24、保守党18、急進自由党17、社会国民党11、統一党)6となったので自由党党首初の2期連続内閣を組織した。 ラスムセン内閣は高齢者介護・医療面での選択の自由強化、増税凍結、難民・移民規制、犯罪取締強化を実施して成果を上げてきたが、今後はデンマークを競争力のある知識社会にすることを目指し研究・教育・イノベーション強化のため2010年までに100億クローネを投資するとしている。 既存通信企業TDCの再編成・統合 デンマーク政府は1980年代までの通信自由化検討模様を見て5年がかりの既存電気通信事業の再編成・統合を計画した。まずテレ・デンマークの国際部門=国際電話サービス提供事業者テレコムと小地域通信事業者4社:フィン・テレフォン、テレ・ゾンデリランド、KTAS、ジドゥ・テレフォンの持株会社を設立し(1990.11.14登記)、5子会社; (1)国内及び北欧諸国の固定系サービス・固定/移動系融合サービス・広帯域/データ/インターネットサービスを提供するTDCソリューションズ、(2)移動系サービスを提供するTDCモビル・インターナショナル、(3)ケーブルTV網を提供するTDCケーブルTV、(4)国内・スウェーデン・フィンランドの電話帳事業・電子情報案内サービスを行うTDCディレクトリーズ、(5)その他国内ロジスティックスを行うTDCサービシズのグループを作り、小地域通信事業者4社のサービス事業も分合・整理の上、持株会社クラスB株式63,229,700の41%を米国預託証券(ADR)としてニューヨーク証券取引所に上場し59%は国内上場を含め米国外で売却した(1994年4月)。政府は1994年4月から1997年2月末まで株主資本の51%に相当するクラスA株を保有し、残る民間保有クラスA株も1株125クローネで買い取った。結果政府持株比率は51.73%となり、残る49.27%はクラスB株とされた。持株会社は1997年10月に米国通信企業アメリテックと提携しデンマーク政府所有34%株式を引受けてもらい、1998年1月には17%買入れ償却によりテレ・デンマークの政府持株を0にして2年遅れで民営化は完了した。 1999年10月にアメリテックを買収した米国通信企業SBCコムが筆頭株主(41.6%)となった。TDCは2001年2月に買収したスイス移動系通信企業ダックスを核に固定系・融合及びインターネット・サービスを提供する6番目の子会社TDC スイスをグループに加えた。 TDCグループの2004年末顧客数は固定系350万加入、移動系710万加入、インターネット180万契約、ケーブルTV100万加入、合計1,340万であり、デンマークと北欧・中欧に分布しTDC スイスは220万でスイスコムに次ぐNo.2キャリアーである。 デンマーク電気通信市場の完全開放(1996年6月)に伴う新規参入者は、スウェーデン第二キャリアーのテレ2100%子会社テレ2デンマーク、既存通信企業テリアソネラ100%子会社テリア・デンマークとオレンジ・デンマーク、ノルウェー既存通信企業テレノールの100%子会社ソノフォンなどが強く、ヨーロッパ最大のVNOを自称するドイツのデビテル(78%出資)・デンマーク農協DLG(13%出資)の合弁固定系事業者デビテル・デンマークも参入している。自由なデンマーク市場が新サービス・新ビジネスモデルの実験場となっている感がある。 投資ファンドによるTDCの買収 ヨーロッパの既存通信企業は一般に収益性のメドがつく、キャッシュフローが豊かで、おおむね堅実で債務比率が低いことから投資ファンドの的になりやすい。慎重な戦略で過ごしてきた旧国有通信事業は未公開株式投資ファンド(プライベート・エクィティ・ファンド)の攻撃的アプローチにより急成長が可能で、株式公開(IPO)により急上昇した株式を売り抜けると莫大な利益が得られる。TDCは安定経営・財務基盤とモバイル・ブロードバンドの発展可能性を備え、上述のように株式公開済みだがポーランド・オマーン・ハンガリーなど中東欧に未公開株式投資の手がかりを持っている。 エイパックス・パートナー、ブラックストーン・グループ、パーミラ・アドバイザー、プロビデンス・エクィティ・パートナー、KKRの5投資ファンドはニューヨーク証券取引所を通じて株式公開買付(TO)を行うためのコンソーシアム「北欧電話会社( NTC )」を組織し、2005年初頭からTDC幹部に接触し他の投資ファンドや提携を探る通信企業と競合ってきた。特に最初に噂が流れた8月以降買収条件を巡る交渉が断続的に行われた後、民営化完了前に国外大手を狙う買収を控えるよう指示された(2005.11.25)スイスコムが撤退して以来NTC/TDC交渉が白熱化したようである。 TDC取締役会はNTCがニューヨーク及びコペンハーゲン証券取引所で現金1株当たり382クローネでTOを行うことに同意し両取引所に通知した(2005.11.30)。TO予定価格は同意日の相場+5.5%だが、8月相場より40%高く、TO所要資金$120億にTDC債務肩代わりを含めると総額$200億程度の大規模買収になる。TOの実行と成否は2005年内に判明するものと思われる。 231.世界情報通信サミットは格差解消を探る方向へ(概要)国連の第2回世界情報通信サミットは第1回から持越された情報格差解消(デジタル・デバイド)の具体策を決めるため2005年11月16-18日にチュニジアの首都チュニスで開催された。インターネット管理主体を巡り現行枠組みを最善とする米国と政府間組織=国連移行を主張する途上国が準備段階から鋭く対立したままで、「現行体制を維持しつつ政策決定について多国間で調整する」EU提案が論議され「公共政策と開発問題について利害関係者の対話を促進するインターネット管理フォーラムの設置」が合意された。ひとまず敵対的小国分立の”バルカン化”は避けられたが、2015年までに世界をインターネットで結ぶ具体策は進展しなかった。 世界情報通信サミット( WSIS)第2回は1週間に及ぶ準備会合の後本会議が8回開催され、264団体による308イベントの入場者は1,900名、174カ国の政府代表及び国連各部局・私企業・社会/民間団体等800団体が参加した。閉会セッション(11 月18日夕)で世界の指導者がチュニス宣言とチュニス行動計画を承認した。 第2回WSIS開会直前の11月13日(日)約170カ国の代表が暗礁に乗り上げたインターネット管理問題の解決策を協議するためチュニス某所に集まった。ITU広報担当が2年前から持越されたインターネット管理主体問題は開催までに準備会合が完了しそうもないと述べた。妥協策が見つからないと世界中のコンピュータネットワークが継ぎ目なく機能するようインターネットのルートサーバーを技術的に管理する主体を巡る争いが益々激しくなる。インターネット管理は現在TLDの割当てを行う米国法人インターネットアドレス協会(ICANN)が行っている。この組織はインターネット・ブームが米国に集中していた1998年10月に設立されたNPOで業界の目利きが運営しW W W規制回避に熱心であった。しかしインターネットが爆発的に拡大しウェブの経済社会的重要性の増大が米国独占反対を誘発した。「インターネットが非規制のヘイブンという時代は終わったのだ」との発言があった。ICANNはTLDを割当てるだけの組織で、国によって接続を停止したり政治・経済的理由で通信を混乱させたりする権限もなく立場にない。また不健康にコンピュータ産業寄りになったり、インターネットのルートサーバーについて技術の選択から利益の衝突に直面したりもする。 米国政府の或る諮問委員会はインターネットの安定性・安全性のためドメインネーム管理システムを変更するべきでない、インターネット管理の監督権を国連に渡してはならないとした(2005年7月)。そこにさしむき現行システムを続けながらICANNに対する政治的監督権を米国から外すことを検討し、純粋に技術的な政府間機構に改めるEU提案が提出された。 |
<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授) 編集室宛 nl@icr.co.jp |
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