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マンスリーフォーカス
No.91 February 2007

世界の通信企業の戦略提携図(2007年2月8日現在)

269. 絶頂に立つマイクロソフト(概要)

 世界一のソフトウエア企業マイクロソフトはPC基本ソフト(OS)新製品「ウィンドウズ・ビスタ個人用」を発売した(2007.1.30)。エコノミスト誌(2007.1.20)関連記事「山あり谷ありビスタあり」は、「ビスタというマイクロソフト・ウィンドウズの発売はこれまで通りのイベントではない、ソフトウエアの巨人も絶頂に達したのか」と問う。

ウィンドウズ・ビスタの発売を巡って

 ウィンドウズ95の発売時マイクロソフトは95を箱詰めした子会社を慎重に売却した。10年前のコンピュータ発展段階と揺籃期のインターネットに適合した行動であった。マイクロソフトの収縮包装 された最新版OSを買うのに世界中で長蛇の列ができたのだが、将来この種新製品は高速網によりユーザのコンピュータに直接配信されると見たのである。だがウィンドウズ・ビスタの世界一斉発売日(2007.1.30)にオンライン配信予約は少なく、店頭に収縮包装ビスタの山を築いて待機したのに行列は冷やかし客混じりで95発売日の熱狂やウィンドウXP発売時(2001年)の長さは見られなかった。企業向けビスタとオフィス2007が一足先に(2006年11月)に発売され焦点が分散したこともある

 しかし今回の光景はマイクロソフトの支配の緩慢な侵食され方を反映している。95年当時に比べパソコンの流通経路を誰がリードするかは問題ではない。オープン・スタンダードのパソコンが多数会話する環境下サービスやソフトウエアがオンラインでアクセスされている。ネットベースのソフトでユーチューブ(YouTube)のビデオやフリッカー(Flickr)の写真を楽しみ、電子メールをチェックし、ファイルや表を利用して仕事もしている。

 こうした変化はマイクロソフトにとって都合が悪い。ウィンドウズとオフィスにワープロ/表作成等のアプリケーションの組合せは収入の約60%、利益の80~90%を占め、そのシェアを維持出来るかが死活にかかる経営問題である。それでビスタの開発に5年の歳月、$60億の費用、8,000名のソフトエンジニアーをかけて目標に2年遅れた。企業向けビスタ/オフィス2007の発売は最終仕上げソフト作業の関係で、利用者が余りアップグレード作業をしないクリスマス休暇の直前とされた。ビスタはXPより大きなパワーを必要とするので新コンピュータ投入が期待されている。

 マイクロソフトがIBMパソコンOS開発を受注し(IBM-PC OS第1版1981年8月納入)、自社で販売するMS-DOSを発表してから25年間コンピューティングは徹底的な変化を遂げた。マイクロソフトがパソコン業界標準を統一したので利用者やソフトエンジニアーはコンピューティングがし易くなり、ウィンドウズもオフィスも使い手のアプリケーションのプラットフォームとなり、そのことがマイクロソフトの普遍性を高めた。これを今下記3トレンドが変えつつある。

(1)オープン・ソース・ソフトウエアの台頭

 このソフトの書き手はやりたい者のボランティアによる。通常プログラムは無料で高度化は自由となっている。新参者からIBMのような大企業までがサポート・サービスつきで商用化する。協働ベンチャーとしてオープン・ソースは開発のスピード・アップが可能で、特色を加え利用者コスト節減が容易である。実例はウェブサーバー・ソフトとしてアパッチ(Apache)、OSとしてリナックス(Linux)が有名で、ウェブ・ブラウザーのファイヤフォックス(Firefox)は2~3年前無名だったが今は10人に1人がマイクロソフトIEの代わりに使っている。オープン・ソースの欠点はソフト開発のテンポが遅く独りよがりなものがあることだが、ファイヤフォックスをモジラ財団が買収してFF2が良くなったように変っていくのである。

(2)オンライン・アプリケーションとサービスとしてのソフトの意義

 かつて巨大メーンフレームに対応する単能端末(ダムターミナル)はパソコンによりインテリジェント化された。ところが自立端末パソコン(スタンド・アロン・デバイス)にとってネットワーキングの重要性は下がり、統制手法で変化に対応するマイクロソフトPCはインターネットを新アプリケーション源とする競争者よりユーザニーズの変化に遅れがちになった。叉インターネット全体をデータ貯蔵所にする競争者に比べ、コピーデータや変換ソフトを端末に持たせるマイクロソフトはデバイスが重たくなった。立場が入れ替わりメーンフレームに対するパソコン革命を主導したマイクロソフトが今はインターネットによる情報通信革命にブレーキをかけている。オンラインソフトは利用者納入コストが収縮包装匣入り販売より安く、利用者からの即座のフィードバックによりアプリケーションを絶えず改良することが出来る。パソコンOSが不要ではないがプラットフォームとしてのネットワークがコンピューティングの打上げ台になった。

(3)セキュリティ対策の重要性

 ウィンドウズとオフィスが直面する三つ目の困難はセキュリティである。マイクロソフト管理者の大部分はセキュリティ改善を理由としてウィンドウズ・ビスタ開発を正当化する。米国連邦・地方政府と大企業はマイクロソフト製品の遍在とソフトウエアの穴を狙うハッカー/ビールスの頻発を憂慮し、かねてより対応を提起してきた。だがウィンドウズ95、同98, 同XP・・・などこれまでのOS開発は前版の上に重ね書きする方法にによってきたためコードは長いヒョロヒョロしたものになり、堆積岩のなかに化石が混じったような思わぬ脆弱性を持つものになっていた。ビスタ開発はこうした残骸を一掃するよう新規まき直しで行われ、コンピュータの強力な検索・ファイル蓄積方法などWinFSと名付けられた新OSは技術が難し過ぎると判明し2004年に中止されたりして目標に遅れたのである。しかも2006年12月に企業向けOSがテスト可能となった時セキュリティの穴が見つかり国家安全局の助力を得て弱点を強化する事態もあった。ビスタの脆弱性については広く利用されるまで分らないところがある。

マイクロソフトの経営哲学

 マイクロソフトは過去1年半組織を改革し管理者の担当分野を入れ替え文化大革命を進めてきた。チーフ・ソフトウエア・アーキテクト(CSA)としてビスタ開発の責任を負うB.ゲイツ会長はR.オジーCTO に役割を譲り、S.バルマーCEO は二度と新製品導入を長期に遅らせることはしないと誓った。

 マイクロソフトは直面する脅威を優勢に変えるよう努力中である。オープン・ソース・ソフトウエアに対しては競争相手と妥協し対戦する。例えばPCネットワーク・ソフトで20年来リードするノベル(NOVL)とは最近双方の製品を利用し合うよう合意した。マイクロソフトは小企業のウェブ開設をサポートする機能を附加したオフィス・ライブ(Office Live)を始め、電子メール機能を改善したウィンドウズ・ライブ(Windows Live)を開発しメール名はHotmailからWindows Live Mailに改称した。

マイクロソフトの業績推移「丘を越えて(Over the hill?)」
ビジネス事業本部のC.カポセーラは「グーグル/アップル/IBM/オラクルなどマイクロソフト競争者は概ね一つの市場に集中しているが、マイクロソフトは消費者と企業の両市場に対応しているのが強みだ」という。S.バルマーCEOは1998年社長就任時マイクロソフトの事業範囲が広過ぎるとしてハードウエア分野を売却し、オンライン市内案内サービス「サイドウォーク」を分離したが、今は「あれは間違ってた」と述懐し、「視野を広く持て」と社内を指導している。

ところがマイクロソフトの業績はS.バルマーCEOの最初のフルイヤー2001年度から2006年度上半期までの5年半に売上高は75%、純利益は40%伸びたのに株価はほとんど横ばいで、証券市場の情報通信先行投資はそんな評価かとなる。S.バルマーCEOは「時が経ってみると最大の過ちは私自身また我が社がビジネスモデルを持たないイノベーションを欲しないこと」と認めているようである。

要するに経営学の教訓の一つは「失敗は成功の源」、メーンフレームの支配者IBMはパソコン時代の入口で失敗したが、サービス企業として再生した。ウィンドウズ/オフィス優越(primacy)の衰退をどう転換するかマイクロソフトの経営哲学が問われている。

270. 過熱するインドの電気通信(概要)

 急変する世界情勢のなかでインド政府がM.シン首相を先頭に中露印3カ国連携強化や自由貿易協定交渉を進めるなか、インド産業経済の躍進は目覚ましい。鉄鋼メーカーの越境M&Aが活発な時、インドのタタ製鉄はブラジルのCSNに競り勝って欧州鉄鋼大手の英蘭コーラスを62億ポンドで買収することとなった(2007.1.31合意)。2005年世界ランキング50位のタタ製鉄が8位のコーラスと合併して世界6位タタ=コーラスになるのは画期的である。
しかし「2066年世界のGDP大国(購買力平価米ドルベース)トップ10」でインドを一位中国に次ぎ米国を超えると予測したエコノミスト誌は最近号(2007.2.3刊)で今のインドについて辛口である。「火がついたインド」では「インドの成長率は中国に近いが、過熱の徴候は今のペースが維持できないことを示唆する」と言い、「過熱するインド」では「構造改革を進めない限りインドは中国ように早くは走れない」とする。

 エコノミスト誌(2006.12.1刊)電気通信関連記事「お喋りは安く」はインドがかつてない携帯電話加入者増ブームで世界をリードしていると報じた。「2006年9月発表によると月間携帯電話増加数は660万と中国の月間増加数を初めて超えた。総加入者数1億3,600万は中国の4億4,900万に遙かに及ばないものの、インド政府は格差が急速に縮まり2010年加入数目標5億の達成を確信している」という。貧富の格差解消がインドの悲願の一つであり、バンガロールなどのオアフショアIT産業ブームと違って携帯電話の普及は貧しいインド人も参加できるものとして国民的誇りである。通信企業経営者は「携帯電話の普及により労働者、農民、漁師も経済の本流に加わる。携帯電話があれば失業者もすぐ国民の一人と感じる」とする。通信自由化の口火を切った「1994年電気通信政策」も「1999年新電気通信政策」も伝統的官僚機構、繁文縟礼に妨げられ軌道に乗らなかったが、漸く混とんが晴らされブームが始まったのである。

 ただ次世代網・3Gサービスに挑戦し始めた中国と違ってインドの移動通信は基本サービスを低料金で提供する市場戦略に止まっている。通話料金1分$1セント、中古電話機1台$15以下は恐らく世界一安いはずとしている。ただし低料金だから儲からない訳ではなく、タタ・グループのタタ・テレサービシズ、バルティ興業のバルティ・エアテル、リライアンス・アニル・ディルバイ・アンバニ・グループのリライアンス・コミュニケーションズなど最大手の経営者は利払い減価償却税引き前利益約40%とする。

 具体例としてリライアンス・コミュニケーションズの2006年第3四半期(2006年10-12月)業績は売上高が対前年同期比26%増の$9億純利益が同期比3倍の$2.2億で、ボンベイ証取(BSE)上場の同社株価は業績発表日に(2007.1.31)1.2%上がった。
また小売業で稼ぐバルティ興業のバルティ・エアテルは、業務のほとんどをIBM/エリクソン/ノキアなどに外注し研究開発コストも負担しない事業運営を行っており、そのビジネスモデルは世界の通信企業に注目されている。業績好調なら値下げせよとの消費者の要望があり、インド政府電気通信規制局( TRAI)は最近ローミング・サービス料金の56%値下げを命令し(2007.1.24)、事業者から一斉に抗議の声が上がった

 インド通信企業で海外展開を始めたのはタタ・グループで、最初は国有国際通信会社VSNL政府持株53%の一部競売に参加してVSNL株式25%を$2.8億で落札し(2002年2月)、引き続き持株比率を50.11%に引上げて子会社化した上(2002年6月)、カナダの小規模国際通信企業テレグローブを約$2.39億で買収して(2006.2.14完了)国際電話トラフィックで世界第5位の大キャリアーになった。一方インド政府は外資制限を49%から74%に引上げる緩和策に手をつけ軍用・衛星用周波数帯域の開放を約束し、AT&Tは外国通信企業として初めてインド全土で自由にサービス展開できる免許を付与された(2006年10月)。

271. 汎アフリカ通信企業の登場(概要)

 中東クウェートの移動通信企業MTCは1983年に設立され石油中心のモノカルチャーで裕福なクウェート国の携帯電話サービスをほぼ独占している。人口275万の小国のため2005年末加入数は249万に過ぎないが、イラクの侵攻で中断した期間(1990年8月-1991年2月)を除きアフリカ各地の携帯電話サービス支援事業を展開した。支援先を統括する子会社セルテル・インターナショナルは2005年末現在ブルキナ・ファソ(Burkina Faso)/チャド(Chad)/コンゴ共和国(Republic of Congo)/コンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo)/ガボン(Gabon)/ケニア(Kenya)/マダガスカル(Madagascal)/マラウィ(Malawi)/ニジェール(Niger)/ナイジェリア(Nigeria)/シエラ・レオネ( Siera Leone/スーダン(Sudan)/タンザニア(Tanzania)/ウガンダ(Uganda)/ザンビア(Zambia)の15カ国、対象人口はアフリカ全体のほぼ1/3、加入数は約1,800万に達した。またMTC自身がヨルダン(Jordan)/バーレン(Bahrain)/イラク(Iraq)/レバノン(Lebanon)で事業運営を受託している。

 MTCは持株会社を設立してセルテル・インターナショナルを$33.6億で買収する形を作り(2005年4月)MTCグループとしてクウェート証券取引所(KSE)に上場した。2006年9月現在の時価総額は$150億と評価されている。次表はニューヨーク証取(NSE)/ナスダック(Nasdaq)べースのものだが、ちょうど末尾に連なる感じでMTCはグローバル企業のレベルに達したことになる。

表 世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30社(2007.2.1現在)

 トータルテレコム(2007.1.24)「アフリカは次の携帯電話大新興市場」によれば、セルテルのM.コーニング企業通信部長は「アフリカの移動通信事業者は基地局建設にあたり各地でインフラ特に電力供給の不足に直面しまた現地政府が重税を課したがるのに困っているが、我々の努力で1998年当時僅か2億だった加入数を2007年には2億に出来そうなので、2011年3.5億のITU目標も出来るだろう」と語る。

 トータルテレコム(2007.1.24)「アフリカは次の携帯電話大新興市場」によれば、セルテルのM.コーニング企業通信部長は「アフリカの移動通信事業者は基地局建設にあたり各地でインフラ特に電力供給の不足に直面しまた現地政府が重税を課したがるのに困っているが、我々の努力で1998年当時僅か2億だった加入数を2007年には2億に出来そうなので、2011年3.5億のITU目標も出来るだろう」と語る。

 エコノミスト誌(2007.1.27刊)通信関連記事「購買、セル、手がかり」は「携帯電話で汎アフリカ市場づくりを計画中」を紹介している。「技術革新は裕福な国ではパソコン経由で来るが、貧しい国では携帯電話からやって来る。ガーナのアクラ(Accre)所在のソフトウエア会社が携帯電話利用の簡易なテキスト・メッセージ(SMS)ソフト”トレードネット”を開発中である。サハラ以南諸国の携帯電話普及率は現在対人口10%だが2010年には85%を超えよう。低識字率アフリカではEBAYネット販売でなく英語・仏語・アラビア語・スワヒリ語などで商品や市況を知らせるのが一番」という。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
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