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マンスリーフォーカス
No.92 March 2007

世界の通信企業の戦略提携図(2007年3月2日現在)

272. 不透明な西欧通信産業の再編成(概要)

 未成熟な上海株式市場の急落が新興国・先進国の連鎖株安を招き、2007年世界経済の先行きに不透明感が漂ってきた。これに先立ち欧州連合(EU)の欧州委(EC)はユーロ圏の成長見通しを上方修正したものの、主要国の財政改善・新規加盟国労働者受入れ・仏大統領選や伊政局不安定など多角的気配りを必要とする問題が山積している。こうした環境変化に伴い2007年電気通信市場予測も影響される。

ボーダフォン

 GSM協会がバルセロナで開催した(2007.2.13-16)国際見本市は会期初め3日間の入場者数55,000名うちマスコミ関係者2,250名、会議参加者数9,200名(前年比10%増)、出展企業数1,300社((前年比35%増)という盛況であった(cf TotalTelecom2007.2.16)。
無線産業の見本市につきアルカテル-ルーセントやノキアを主人役に第3世代への進化論が討議され、主催者の標本調査(入場者550名)によればイベント参加者の4人に1人がネゴを始め10% が成約したという。固定・移動融合通信への進出がキーテーマで、ボーダフォン(VOD)のA.サリンCEOは「3G網普及のタイミングが遅れると WiMAXのようなブロードバンド技術に市場シェアを奪われる」と警告した

 ボーダフォンは既に25カ国に子会社・出資先を持っているが、基盤とする西欧市場が飽和に近づいているため新興国進出を急いでおり、中国メーカー中興(ZTE)に超廉価版2G端末製造を内示している。ボーダフォンはインド携帯電話第4位ハチソン・エッサール(HEL)(市場シェア16%)を$121-188億で買収することとした(2007.2.11同意・発表)。HELは香港財閥ハチソン・ワンポア(HWL)出資67%とインド財閥エッサール・グループ出資33%の合弁企業。ボーダフォンは合弁企業の資産価値を$188億と評価し、HWL持株を111億で取得し負債$20億を引受けるほか今後通信インフラ拡充投資20億を行う。エコノミスト誌ボーダフォン関連ウェブ記事(2007.2.12)「インドの目論見」は「20年間単独で世界一携帯電話サービス企業を続けたボーダフォンの新戦略例として、インドNo.4買収作戦は当初の値踏み$165億を釣上げられ自慢できない。新事業とイノベーションも未だしで2006年株主総会での不信任票15%が想起される」とする。

ドイツ・テレコム

 ドイツ・テレコム(DT)の2006年度売上高は、国内売上高が対前年比5%減の325億ユーロ、海外売上高が対前年比13.6%増の289億ユーロ、総売上高が対前年比2.9%増の614億ユーロであった。営業粗利益は対前年比6.2%減の194億ユーロで減益の理由は国内業務の不振にある。海外売上高のうち携帯電話サービスが対前年比17.2%増の205億ユーロで71%を占める。DT米国子会社T-Mobile USAは永らくDT成長の主力とされ、2006年度も対前年比19.5%増だったが米国市場に成長鈍化の兆しがあり、高成長は2010年頃までと見られる。総売上高に占める海外シェアは2005年42.7%から2006年47.1%に伸びたが、頭打ちを避けるには非効率を厭わず新興国市場進出しかない。問題は北欧・東欧キャリアーとの競合である。

テレフォニカ

暦年単位で決算するテレフォニカ(TEF)の2006年度業績は、スペイン本国と中南米13カ国の固定通信事業、1995年に分社化された移動通信事業テレフォニカ・モビレス、2006年2月に取得したO2(英国・ドイツにおける旧BT移動通信事業)など勘定体系の総合化と持株株会社決算整備が途上にある上、テレコム・イタリア持株会社オリンピアの株式買収交渉が進行中のため情報が錯綜して分り難くなっている。

 トータル・テレコム誌(2007.3.1)によれば、テレフォニカの2006年第4四半期業績は売上高が対前年同期比37.3%増の141.9億ユーロ、営業粗利益(償却前)が対前年同期比4.6%増の44.7億ユーロ、純利益が対前年同期比11.8%減の10.5億ユーロである。しかし減益は早期退職・年金支出という一時的なものであり、オリンピア株式買収の要素も考えて、2007年成長見通しは営業粗利益(償却前)が対前年比8-11%の伸び、売上高が対前年比6-9%と引上げている。

 KSM情報(2007.3.2)によれば、テレフォニカの2006年度業績は売上高が対前年比41.5%増の529億ユーロ、営業粗利益(償却前)が対前年比27%増の191億ユーロ、純利益が対前年比40.2%増の62.3億ユーロである。電話帳・広告子会社の売却益15.6億ユーロを含むが純利益はドイツ・テレコムの31.7億ユーロやフランス・テレコムの40-42億ユー(監査前暫定値)を抜いて欧州トップである。売上高地域別では固定通信の本国比率37.9%、中南米・欧州61.1%と2004年に比べ海外比率が上がっており、テレフォニカ・モビレスは本国比率55.6%、中南米比率44.3%である。

テレフォニカの海外事業推進組織はテレフォニカ国際で、例えばブラジルNo.2固定通信企業テレフォニカ・ブラジルはテレフォニカ国際96.53%テレフォニカ3.47%出資の持株会社が株式の87.53%を所有している

フランス・テレコム

 フランス・テレコム(FTE)の2006年業績(監査前暫定値)は、売上高が前年比1.2%増の517億ユーロで売り上げ増の主力は携帯電話部門(前年比5.2%増)であった。オレンジ(Orange)ブランドを看板に固定系・移動系・ブロードバンドの統合サービスを提供する新戦略は利益を生むにはほど遠くコスト削減策にもかかわらず2006年度純利益は前年比28%減の41.4億ユーロであった。国外では東欧・中東・アフリカ・アジア(ベトナム)・カリブ海諸国(ドミニカ共和国)など新興国市場に注力している。西欧でも穴場探しは怠らず、例えばポルトガル・テレコム(PT)株式の公開買付(TOB)を企てる小売・不動産企業ソナエコム・グループの買取りベンチャーの筆頭株主19.9%)となり共同子会社化した。

テレコム・イタリア

 テレコム・イタリア( TI)は投資削減・経費節減三カ年計画(2005.4.13発表)の一環としての国内事業本体統合を行ったが、2006年6月末債務残高が413億ユーロと計画通りに減らなかったため、固定・携帯電話融合(FMC)政策を転換し固定・携帯電話分離による経営合理化を図ることとした(2006.9.11プロヴェーラ会長決定)。ところがTIMの分離独立は売却特に外資の手に渡る恐れありとプロディ首相が反対したのでプロヴェーラ会長は辞任し元上院議員G.ロッシが後任会長に就任した。プロヴェーラ前会長は辞めても、TIの最大株主である持株会社オリンピア(Olimpia)株式の80%を所有するピレリ(Pirelli SpA)会長であり影響力は行使できる。

 エコノミスト誌(2007.2.10発行)「ヨーロッパ・ビジネス特集は「奇妙な商売」と題して「回りくどいテレコム・イタリア物語」を紹介している。「最近のTI将来論について最近ローマで出回るジョークは、"首相官邸と投資銀行の違いはと聞かれると銀行では皆が英語を喋ってる"というもの」「昨年9月のプロヴェーラ会長辞任で頂点に達したねじくれたTI物語はイタリア商売の二つの教訓を示す。第一は政府が取引に関与すると物事がぼけて混乱する。第二は実業界の大立者は自分の金を小額かけるだけで会社をコントロールできるみたい」「2001年当時のピレーリ兼TI会長M.T.プロヴェーラ氏はイタリア政府が黄金株を持つTIをコントロールするのにかなりの金を借りた。以来TIの株価は半値に下がりピレーリも半分になった。プロヴェーラTI会長は債務を減らすため売却含みで移動通信子会社(TIM)を分離独立させると発表したが外資に買収される危険を連立政権の左派は承服出来ない・・・」ピレーリはTI株式18%を保有するオリンピア(持株会社)を2006年末までに会計帳簿から外すと伝えられ(イタリア財経紙イル・ソーレ2006.10.24)、「P.ジェンティローニ通信大臣はTI網はイタリアの手に保有していたい意向だが、TI株一株3ユーロと値踏みしたテレフォニカがオリンピア株30%を20億ユーロで買収する提案を行い、併行してイタリア投資筋はTI株一株2.6-2,7ユーロと値踏み」と伝えられた、買収するテレフォニカと売却するテレコム・イタリアはそれぞれ交渉中を認めたが、譲渡価格の折り合いがつかず交渉を中断した(2007.3.2発表)。テレフォニカのテレコム・イタリア株式買収は当分の間ないだろう。

BT

 BTの2006年度第3四半期業績(2007.2.8発表)は、営業粗利益が年換算2%増の14.1億ポンド、売上高が前年同期比5%増の51.3億ポンドであった。BT Retailの在来サービス過去四半期3-4%減が1%減に抑えられたのはブロードバンド・ITサービスなどニューウェーブ収入が17%増の18.8億ポンドと稼いだからである。BT Global ユニット収入は4%増の22.9億稼いだ。しかしオフコム(Ofcm)指示でブロードバンド網(21CN)を開放したためケーブルTV事業者統合が急追して来るのが懸念される

競争時代にはトップクラス情報通信企業は、次表に見る通り、努力の成果がなかなか水面上には現れないものである。新AT&Tの時価総額(2007.3.1現在)のように持株会社化による前月比58.8%増という変化は例外的なものである。

[表:世界の情報通信サービスプロバイダーTOP30社(2007.3.1現在)]

273.WTO加盟ベトナムの電気通信(概要)

 WTO加盟(2007.1.11)、人口8300万の国に携帯電電話加入数2000万、2005年の加入数増加率97.9%、2006年は2倍を超え急増中で、今や5人に1人は携帯電話を持つ。2007年の大躍進が期待されるが、無線通信事業者7社群立の整理統合が課題か。

 ベトナム(越南)社会主義共和国は1995年1月から世界貿易機関(WTO)と交渉を続けてきたがWTO理事会で承認され(2006.11.7)、越南国会の批准(2007.1.7)により第150番目の国・地域として加盟を達成した(2007.1.11)。

 中国の急速な経済発展に伴う賃金コスト上昇により先進国の投資先としてベトナムへの期待が高まり、アジア経済危機後経済成長が減速し周辺国との競争激化で輸出が伸び悩んでいたベトナムもWTO加盟による貿易拡大を望んでいた。問題は関税引下げ・内外無差別といったルールの適用、つまり輸出企業に対する法人税減免等優遇策の撤廃と部品・資材輸入関税の引下げの影響が産業・企業により異なることで、実践にあたり中国はベトナムにとって師匠でありライバルである。2006年春ベトナム共産党大会から政権交代まで中国の要人が訪問し政府のトップ(国家主席、首相など)は親中派が就任した。

 ベトナムで海外企業の投資が加速しそうなのは金融や通信機器分野とされていたところ、2006年2月に$3億投資を決めた米国半導体製造最大手のインテルは2006年11月に$7億投資を追加した。生産が軌道に乗ったら追加を繰り上げたのは、加盟前に付与された優遇策が5年後撤廃され、加盟後は優遇策が適用されないと見たからである。
WTO加盟時に2009年から小売業外資参入規制を大幅緩和する合意があったが、ベトナム政府は海外企業がベトナム小売業に進出する際申請から早ければ15日以内に営業許可を出すと決めた(2007.2.6)。既にベトナム国内で小売業を展開している外資系企業の店舗増設の場合は10日以内に許認可を決める。

 気通信分野の改革は2002年逓信省(DGPT)を郵便・情報通信省(MPT)に改組し、MPTは郵便・電気通信・IT・エレクトロニクス・インターネット・電波監理・無線周波数及び国家情報インフラを規制し、ベトナムインターネット情報センター(VNNiC)にウェブ管理・ドメイン名割当て・情報管理・利用促進を行わせてきた。無線通信事業に対する規制はMPTの無線周波数部門が無線周波数・衛星軌道・全国無線伝送について行い、無線市場に対する外資導入は「業務協力契約(BCCs)」に限定し、海外事業者がベトナム国有企業に投資し5-15年間利益を分与されるものとしてきた。

ベトナムの主要な無線通信事業者は次の通りである。

MobiFone(モビフォン VMS)

モビフォンはGSM900システムを運営するベトナム移動通信サービス(VMS)が1994年4月サービス開始、1995年5月からウェーデンのコムヴィック(Comvik Int't)との業務協力契約(BCC)で外資を導入して全国64市・省に7交換局・5000送信アンテナ・1300基地局を展開してきた。VNPT55%/Comvik45%の合弁会社だったモビフォンはBCC10年契約の期限到来により所有は国に戻ったと理解され、政府はVNPT51%の権利関係を確認の上残り49%を公開する株主資本化協議を進めている。2006年末加入数は465万である。

VinaFone(ヴィナフォンGPC)

ヴィナフォンは国有ベトナム郵電公社(VNPT)の100%子会社で2008年までに公開上場(IPO)するよう準備中である。GSM900提供オペレーターとして1996年6月サービス開始以来全国64市・省に12交換局・1500基地局を展開してきたが接続不良の批判もあることから$1億かけて網整備を行い、ノキアに発注してハノイ市とホーチーミン市に交換センターを建設し2006年末までに400-500万接続容可能とした。2006年末加入数は522万である。

Viettel(ヴィエテル)

ヴィエテルは国防省管轄のGSM900提供ペレーターとして2005年末までに全国に1600基地局を展開する大拡充計画を立てたが、携帯電話発信呼を中継する固定系電話網容量不足という深刻な事態になったため、エリクソンに新中核ノード・基地局・マイクロウェーブ伝送施設を発注して網高度化を図り(2006年7月)、ベンダー・ファイナンスで切り抜ける打開策を進めている。2006年末加入数は730万である。

S-Fone(SフォンS-Telecom)

Sフォンはベトナム側SPTと韓国側SK Telecom(53.8%)/LG電子(44%)/ドンガ・エレコム(2.2%)合弁のSLD Telecomが折半出資する越韓合弁ベンチャーで3株主(SPT、SK TelecomとLG 電子)間で15年業務協力契約(BCC)を結んで2001年に免許を取得し、SPTはセルラー事業の運営、韓国2社は資金・機器・保守・コンサルタントの分担で開業することとした。800MHz帯CDMA2000IXサービスをハノイ市とホーチーミン市で開始し2003年末までに13都市に展開する目標がなかなか達成できなかったが、SIMカード端末の導入により加入者急速に伸びた。2006年末加入数は200万である。

Cityphone(シティフォンiPas)

シティフォンは日本のPHSに似た米国US Starcomのパーソナル・アアクセス・システム(PAS)技術を用いる都市内移動電話で、ハノイ市(2002年12月)とホーチーミン市(2003年2月)でVNPT傘下子会社がサービス開始した。基地局数がハノイ市1,300、ホーチーミン市2,000と多いが他の数都市含め2006年末加入数は20万程度である。

HT C(ハノイ・テレコムHanoi Telecom Company)

ハノイテレコムは国有ハノイ電力・ハイテク通信情報の100%子会社で、CDMA免許を受け(2003年7月)、香港ハチソン・テレコム国際(HTIL)との期間15年BCCによるCDMA1x網運営認可を得て(2005年1月)、$6.5億の新網を建設し新ブランドHT モバイルをサービス開始した(2007年1月)。その間ハノイで開かれたAPECに合わせて来越した中国聯通(CHC)から技術提携・端末部品供給の申し出があり合意した(2006.11.27)。

VP Telecom(ベトナム電力テレコムEVN Telecom)

VP Telecomは国有会社ベトナム電力(EVN)の通信部門で固定無線(E-Com)、長距離移動無線(E-Phone)、携帯電話(E^Mobile)を提供中である。最近3G及びWiMAXサービスの現場試験の政府認可を得た(2007年1月)。

<寄稿> 高橋 洋文(元関西大学教授)
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