2002年2月号(通巻155号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

米国、3G導入へのロードマップ

 米国の携帯電話サービスは1983年、統一された規格AMPS方式によって開始された。第2世代移動通信では、CDMA、TDMA、GSMの3方式が主に利用されており、全米規模の主要事業者4社のうち、第1位のベライゾン・ワイヤレスと第4位のスプリントPCSがCDMA方式を採用している。残る全米第2位のシンギュラー・ワイヤレスと第3位のAT&Tワイヤレスは、TDMA方式を主体としたサービスを提供していたが、両社とも全てのネットワークをGSM方式に置き換えることを発表し、現在は2つのネットワークが混在している。世界各国のグローバル・プレーヤーの様々な思惑が絡み合う第3世代の導入では、ベライゾン・ワイヤレスとスプリントPCSはcdma2000方式をベースとした移行戦略、シンギュラーとAT&TワイヤレスはGSM方式を採用した戦略を発表している。本稿では米国における主要移動通信事業者の次世代移動通信網導入に向けたロードマップを紹介する。

ベライゾン・ワイヤレス

 ベライゾン・ワイヤレスは2001年3月、cdma2000技術の導入に関してルーセント・テクノロージーズと3年間で50億円にも昇る契約を締結した。同社の3G戦略へ向けての第1フェーズは、cdma2000 1xRTTの提供である。同社は2002年1月28日、ニューヨーク、ワシントンDC、ボストンなど東海岸の主要都市とシリコンバレー、サンフランシスコなど北カリフォルニアの沿岸部、冬季五輪が開催されるソルトレイクシティなどベライゾンのサービス地域の約20%で同サービスを開始した。データ送信速度は最大144kbpsで、実際には40〜60kbpsとなる。同社では当初、2001年第4四半期から全米各地において1xRTTのサービスを提供することを予定していたが、実際はネットワークに対応する端末出荷の遅れによりフィラデルフィアでのトライアル・サービスにとどまり、商用サービスの提供開始が遅れていた。また、cdma2000 1xEV−DO(Data Only)ネットワーク導入に向けてテストが行われている。このサービス商用化についての具体的なスケジュールは発表されていないが、ベライゾン・ワイヤレスのサービス戦略に修正がなければ2003年もしくは2004年であるとされている。

スプリントPCS

 スプリントは2001年3月15日、高速データ通信対応の第3世代(3G)移動通信サービスを2001年内にも始めると発表した。米国において3G携帯電話サービスの開始を発表した無線通信事業者は同社が初めてであった。移行計画では、まずベライゾンと同様に現在のCDMAネットワークを1xRTTにアップグレードしサービスを開始、第2フェーズとしては2003年初頭に1xEVへの移行を開始し、307kbpsを実現する計画。そしてさらに2003年の終期には1xEV−DO技術で2.4Mbps、2004年までには1xEV−DV(Data and Voice)で最高5Mbpsに達するとしている。しかし、様々な要因から移行計画は遅れており2001年末現在、まだサービスは開始されていない。同年10月の決算発表の中で、2002年半ばを目途に全国的に移行を開始する計画を再確認しており、3月に発表した計画に変更はないとしている。さらにスプリントのCEOであるWilliam Esrey氏は、2002年1月10日に行われた「2002CES」の基調講演で、「今年夏に全米規模で3Gサービスを開始し、これを向こう2年間で3Mbpsにまで引き上げる」と語っている。

シンギュラー・ワイヤレス

 シンギュラー・ワイヤレスは2001年8月、シアトルにおいてマスユーザ向けに既存のGSM網を利用したGPRS「シンギュラー・ワイヤレス・インターネット・エクスプレス」を開始した。その後順次サービス提供エリアを拡大しており、2001年末現在は4州において利用が可能である。また同社は2001年10月、EDGE導入によるネットワークのグレードアップ計画を発表し、米国移動通信業界に衝撃を与えた。今後2年間に30億円を投じ、現行のTDMAと同様の周波数帯に置き換える形でGSM/GPRSを導入する。2002年末までにネットワークの半分、2004年までに全ての変更を完了する予定ではあるが、詳細な日程については公表されていない。シーメンスは、ニューヨークのシンギュラー網においてEDGEの実証実験に成功している。EDGEは第3世代移動通信への移行の一環であるが、同社がW-CDMAを採用するかどうかは明らかにしていない。なお、シンギュラーは2002年の初めまでTDMA端末の販売を継続する。

AT&Tワイヤレス

 2000年11月にNTTドコモとの戦略的提携を発表した同社は、米国の事業者で初めてW-CDMAによる第3世代サービスの提供する方針を明らかにした。その後、デジタル・サービス導入以来構築してきたTDMAネットワークのGSM/GPRSへの置き換えを進めており、2001年末までに市場の40%、2002年末までには残りの60%においても導入を完了する計画である。同社はグレードアップが容易なGSM/GPRSのシングルコアプラットフォームを使用する予定で、この段階で展開されるハードウェアは、エリアによってEDGE互換型となる。またGSMの音声容量が4倍になるAMR(Adaptive Multirate Code)技術を、基地局や端末に導入する計画も立てている。AT&Tワイヤレスは既に、ワシントン州のシアトルやポートランド、ラスベガスなどの7州、13都市においてGPRSを提供している。同社は2002年に一部地域でEDGE技術を導入、2003年にサービスを本格的に開始する。このグレードアップはソフトウェアの変更のみで済むため、コストは5億ドル未満になる見込み。サービスエリア拡大は緩やかで、数年間はスピードやサービスレベルの維持を優先する。最終的には2003年からW−CDMAのサービスを開始する予定で、ソフトウェアとハードウェアを含むグレードアップのコストは、10億ドルを上回る可能性がある。W−CDMAは、AT&Tワイヤレスの市場の70%で導入される見込み。なお、今後のTDMAとCDPDネットワークのサポートについては公表していない。

 また、シンギュラーとAT&Tワイヤレスの両社は、EDGEの基盤となるGSMとTDMAのシームレスな利用を考えたGAIT(GSM/ANSI-136 Interoperability Team)の構築を進めると同時に、端末ベンダーと協力しGAIT対応端末の開発を進めている。同端末に関してノキアは2002年1月、初の対応端末「ノキア6340」を同年半ばに発売開始すると発表している。

 各社の計画を見る限り、米国の第3世代移動通信導入への機運は高まったように伺える。しかし、近日に導入された、または導入予定サービスはGPRSや1xRTT等のいわゆる2.5Gサービスで、本格的3Gの導入は一番早いAT&Tワイヤレスでも2003年であることから、2001年10月からW-CDMAが開始されている日本や2002年3月にも2.4Mbpsの高速データ通信が可能な1xEV−DOの導入を予定している韓国等と比べ欧州同様に遅れている。また、米国がクリアしなければならない最大の問題として、周波数の割り当てがある。ITUが2000年にIMT-2000に追加分配することで合意した周波数帯域は、米国では国防総省などが既に使用している。FCCを中心に検討が進められているが、米国政府は周波数の割り当てに対して国防的観点から慎重な姿勢をとっており、最終的な決定には時間がかかりそうである。また、昨年行われたネクストウェーブが1996年に落札したPCS免許の再オークションでは、各社こぞって巨額の資金を投入し免許の獲得に奔走した。しかし、2001年7月に州の裁判所がFCCの免許没収は違法と判断した。その後各事業者、FCC、司法省、ホワイトハウスとの間の合議案が成立したが、議会はこの案を拒否してしまった。周波数割り当て問題の解決が長引けば、技術以上に米国の移動通信事業者の3G展開に多大な影響を及ぼす可能性は極めて高い。

各社の3G導入ロードマップと各社の現状

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 吉川 誠

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