2002年5月号(通巻158号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
トレンドレポート

モバイル・インスタント・
   メッセージング・サービス市場の現状と今後

 今世界では、徐々にではあるがモバイル・インスタント・メッセージング(IM)サービスが提供され始めている。現在のところ、比較的少数の移動通信事業者だけがサービス提供もしくは提供を示唆しているに過ぎないが、2002年には今以上に多くの事業者が同サービス市場に参入するとも言われている。本稿では、特に注目されるプレゼンス機能のモバイルにおける特徴を示しつつ、この新しいトレンドであるモバイルIMサービス市場の現況を概観する。

モバイルIMサービス市場概況

 そもそもモバイルIM市場がささやかれ始めたきっかけは、固定系インターネットにおけるIMの成功にある。一般的にIMサービスの通信トラフィックは電子メールよりも多いと言われている。さらに最近では映像も送ることができるビデオIMサービスが登場するなど、高速なインフラで利用されるアプリケーションの1つという位置付けにもなってきている。このような背景からIMは最近、通信事業者からキラーアプリケーションの一つとして注目されているようである。移動通信業界でも2.5Gや3Gといった高速データ通信インフラの登場などの環境変化から、注目されはじめている。

 海外ではアジア、北米、北欧の順にモバイルIMサービスが開始され、西欧地域でも徐々にサービス提供が行なわれ始めている(図表1)。日本でも2002年3月にツーカーが移動通信事業者のサービスとして「ツーカーメッセンジャー」を開始している。一方移動通信事業者にIMの技術を提供するプロバイダーとしては、米国ではAOL、アジアではYahooが積極的である。また国内でも積極的にモバイルIM技術開発が進められており、例えばケイ・ラボラトリーはCDMA端末用プラットフォームBREW上で動作するモバイルIMソフト「KIM 」を開発している。またNTTデータやフレックス・ファームなどは、移動通信方式に依存しないJavaベースのモバイルIMソフトを発表している。なお、固定通信のIM最大手のマイクロソフトは、2001年9月に発表した「Pocket PC 2002」にIMソフトを組込み、まずはPDAからモバイルIMサービス市場へのアプローチすることを検討している。また2002年3月に発表した「Smartphone 2002」にもIMソフトが組込まれており、マイクロソフトもいよいよモバイル端末においてもデファクト機能としてIMソフトを位置付けてきている。

図表1.世界のおもなモバイルIM提供(または提供予定)事業者

世界のおもなモバイルIM提供(または提供予定)事業者
*ソース:Baskerville Mobile Internet 2002年2月8日号

モバイルIMのセールス・ポイントは「プレゼンス機能」

 モバイルに組み込まれているIMソフトの各機能は、基本的に固定のIMのものとかわらない。しかし、モバイルに組込むこと自体で各機能の「意味合い」は大きく変わる。その代表例が「プレゼンス機能」であり、モバイルIMの大きな特徴、セールス・ポイントとなると考えられる。プレゼンス機能は本来、デバイスのOn、Offを確認するためのものである。これをベースに、例えばOnであってもレスポンスできない場合の「状況」も伝えることができるようになっている。例えば「会議中」などの自分の「離席状況」などである。しかし一方モバイルは場所を選ばない。よってモバイルでは「座席」や「PC周り」のプレゼンス機能だけでなく、細かな「生活シーンのいたるところ」にまで拡大できるのである。この点は非常に大きい。携帯電話はこれまで「圏外」などがプレゼンス機能であったといえるが、ここに新しい「生活プレゼンス機能」が加わるのである。これはメッセージング自体を目的にメッセージングを楽しむ若者世代などにも支持される可能性を秘めているといえよう。さらに、ビジネス用の手段としてのプレゼンス機能もかなり魅力的である。例えば、位置情報サービスと絡めて、会社に出勤した際、自動的に出勤簿に○がつき、社内LAN上にアクセス可能ランプが点灯する機能などもありえるだろう。すなわち「あらゆる場所における状況報告」が「無意識」のうちに行なえる機能である。さらに自宅内勤者の管理目的など、様々なビジネス・シーンにプレゼンス機能が活用できそうである。こうなると、携帯電話が従来の「ユニファイド・メッセージング」の中核に据えるデバイスに変貌をとげるかもしれない。このようにIM(特にプレゼンス機能)はモバイルに適用されることによって様々な発展が期待される。

IMの技術標準化動向

 このような期待感を背景に、大手携帯電話メーカーも対応を開始した。ノキア、エリクソン、モトローラを初め、100社以上の企業が2001年4月、モバイルIMの標準化を目指して「Wireless Village」という団体を立ち上げ、2002年2月にはその初めての仕様「Wireless Village version 1.0」を公開している。この仕様によると、IMグループへのログイン機能、プレゼンス機能、マルティメディアコンテンツを含むメッセージの送受信機能(チャット機能)等が定義されており、モバイルだけでなく固定IMも含めたインスタント・メッセージング(IM)とプレゼンス・サービスの相互運用を可能になるよう各種プロトコル、NW構成等が規定されている。

 以上のように、モバイルIMは、まだまだ市場、技術両面において黎明期ではあるものの、今後の移動通信事業における新しいキラーアプリとしての可能性も秘めているといえよう。今後はいかにビジネスとしてIMサービスを構築できるかが市場発展の鍵となりそうである。

Wireless Village Ver1.0のインターフェースおよびプロトコル
 *ソース: Wireless Village Web
Wireless Villageはデバイスを問わないIM実現を目指している

Wireless Villageはデバイスを問わないIM実現を目指している

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 竹上 慶
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