2003年8月号(通巻173号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:政策・規制>

ARPU、料金の国際比較 〜OECD通信白書

 2年おきに発行されるOECDの通信白書の2003年版が公表された。世界30カ国の固定・移動通信業界の統計を作成しており、公式な国際比較数値として価値あるものである。白書に含まれる基礎的データは概ね2001年が直近であり、変化の激しい移動体市場の最新動向を伝えるものではないが、世界的な傾向を見る上では興味深い。以下では簡単に移動体業界に関する記述を紹介する。

●ARPU

 移動体が通信サービス収益全体に占める比重は1999年の1/4から2001年の1/3に上昇した。2001年のデータでは、30カ国中5カ国(オーストリア、チェコ共和国、アイルランド、日本、韓国)が50%以上の収益を移動体から挙げている。市場の変化とともに、移動体のARPUは大半の国で低下傾向にあり、OECD平均で1999年は540米ドル、2001年は433米ドルとなっている。各国別では、2001年で日本、スイス、アイルランド、米国、オーストリアの順に高い。OECDは、ARPUはプリペイド・ユーザー比率の低い国で高くなる傾向があるとしている(ただし、アイスランド、スイスはプリペイド・ユーザー比率が高いにも関わらず、ARPUの高い例外である)。

 日本のARPUは2001年データで1,008米ドルと飛び抜けて高い。これをOECDは、最大の事業者NTTドコモの収益が19.6%の機器販売収益を含んでいるためであると説明している。しかし、機器販売収益を日本市場のデータから差し引いても日本のARPUは800米ドル弱であり、依然として世界最高の水準である。これについてOECDは、iモードに代表されるデータサービスが収益に寄与していること、およびユーザーの利用が1人あたり月178分という高いレベルにあるなどの要素を指摘している。また、米国のARPUが高い理由については白書では触れられていないが、この国の事業者が比較的高い月額料金で大量の通話分数を提供する戦略を取っており、事実このようなパッケージが普及しているという料金体系の特徴が考えられる。

 ARPUの事業者公表数値は算出方法が様々であるため、通常は横並びの比較が難しいものである。OECDはこの数値作成にあたって、事業者の年次報告書の数値をもとに着信料やローミングを含む全ての移動体サービス収益を合計し、これを事業者の加入者数で割るという方法で統一しているということである。

●料金

 OECDは、ユーザーの利用量で分類した大・中・小の3種類のバスケットを想定してモデル計算を行い、これら3種類の料金による各国比較を行なっている。バスケットの内訳は、固定、同一移動体網、他の移動体網への、様々な時間帯における通話およびSMSを含めたもので、計算にはそれぞれのバスケットについて代表的な事業者の代表的通話料金プランが適用されている。OECDはこれを、米国を基準とした購買力平価で比較しており、数値は2002年8月付としている。購買力平価を採用したことにより、日本のような高物価の国の料金は比較的割安に計算される傾向があることに留意すべきであろう。なお、これに対して、先のARPUは為替換算による比較である。

 バスケットの種類によって、各国間の料金高低のランキングにかなりの違いが見られる。小バスケット(ロー・ユーザー)の料金が低廉な国はデンマーク、アイスランド、ルクセンブルグ、米国、カナダなどである。中バスケット(平均的ユーザー)では、フィンランド、カナダ、アイスランド、デンマーク、ルクセンブルグが低廉で、これに続きポルトガル、日本がほぼ一線にならんでいる。大バスケット(ハイ・ユーザー)では、米国、カナダ、デンマーク、ルクセンブルグ、日本、フィンランドがこの順で低廉となっている。

料金が低廉な国

 実質的な定額料金で大量の通話分数をカバーするという北米(米国、カナダ)の慣習が、ハイ・ユーザー料金の低廉さに明らかに現れている。デンマーク、ルクセンブルグは全てのバスケットで料金が低廉な国となった。ARPUランキングの上位を占める日本と米国のうち、米国がロー・ユーザーとハイ・ユーザー向け料金の両端で、日本が平均的ユーザーとハイ・ユーザー向け料金で低廉な国となっている。逆にいえば、日本はロー・ユーザーについてのみ割高な料金体系をとっていることになるが、これはロー・ユーザ料金支払に占める基本料が国際的に高い(2001年270.14ドルPPP中、213.45ドルPPP)ためともいえる。これに対して、多くの国ではロー・ユーザ料金として基本料ゼロのプランを設けている。日本のようにロー・ユーザ料金でもかなりの基本料を徴収している他の国は、韓国、オーストリア、スロバキア共和国、チェコ共和国の一部の国に過ぎない。しかし、これだけで日本を含むこれらの国で、ロー・ユーザー市場の本格的な開拓が進んでいないのかなどについて意味のある結論を出すことは難しいかもしれない。

 もし、ARPUの高い国で料金も高ければ、ARPUの高さは割高な料金のせいであると言うこともできよう。しかし、今回のOECD数値によると、高ARPUの日本や米国ではむしろハイ・ユーザーを中心とした顧客層に割安なサービス提供が奏効しているようであり、その意味で好ましい状況が生じているということになる。だが同時に、購買力平価を使わず為替換算で比較すると、日本の料金は決して世界的に安くないということも指摘しておくべきかもしれない。

OECD各国の移動体サービス料金 2002年8月

ロー・ユーザー料金

平均的ユーザー料金

ハイ・ユーザー料金

出典:OECD通信白書2003年

移動パーソナル通信研究グループ
チーフリサーチャー 八田 恵子
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