2004年2月号(通巻179号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

通信産業、2004年はどんな年になるのか

 米国の有力経済誌「BusinessWeek」は恒例によって新年に主要産業の年間展望(Industry Outlook 2004)を掲載している。同誌による今年の通信産業の展望(注)は「悪い時代は終わったという強いシグナル」という明るいもので、(1)米国の通信事業者は2000年以降、始めて投資を拡大し(対前年比5%、ただし1996年の水準)、売上げは前年比4.7%の増加(2003年は2.1%の増加)と見込まれるが、その大部分は携帯電話収入の増加による。(2)IPベースのネットワーク技術関連市場が急拡大(2003年に20億ドル、2004年は50%増)するというものだった。競争が激化し、料金低下が進む中でのIP技術へのシフトは、通信産業に収益を拡大する機会をもたらすと同誌は書いている。しかし、IP技術へのシフトは通信産業の経営基盤の大転換を迫るもので、先行き不透明感はさらに深まり業界再編を加速させる引き金になる可能性も否定できない。通信産業にとって2004年はどんな年になるのかを考えてみたい。

(注)Telecommunications:Strong signals the bad times are over(BusinessWeek / January 12,2004)

■ブロードバンドとIP電話で変わる通信事業のビジネスモデル

 前掲のBusinessWeek誌は、2004年には通信産業におけるビジネスモデルの変化が明らかになる、と指摘している。通信会社は、音声とデータをネットワーク上で伝送するのに必要な時間(秒/分数)で課金する旧来の仕組みから訣別して、伝統的な音声からワイヤレスやブロードバンド・データに至るすべてのサービスについて定額料金制を受け入れようとしている。しかも、これらの定額料金は急速に値下りしつつある。米国のブロードバンド料金はすでに50%以上も値下りして、月額30ドルになったが、2004年においても値下りが続くだろう。競争の激化と料金水準の低下は、設備メーカーからベンチャー・キャピタリストに至る通信産業の「食物連鎖」において圧力として意識される。このことは、通信会社の資金調達を依然として困難にし、絶えざるコスト削減を迫られることを意味するという。

 通信産業におけるもう一つのビジネスモデルの変化はIP電話(VoIP)だろう。これまで米国では、安い(しかし通話品質の劣る)国際通話や企業内通信の分野でIP電話技術があまり目立たない形で利用されてきた(LANに音声ネットワークを統合するなど)が、ここにきて技術の進歩と低廉なブロードバンド・サービスの普及を背景(注1)に、IP電話、ブロードバンドによるネット接続および放送(ビデオ・オンデマンドを含む)を一つの請求書に統合して一般利用者に提供する「トリプル・プレイ」が新しいビジネスモデルとして定着しそうな気配である(注2)

(注1)AT&Tなどの長距離通信会社が電話サービスを提供する場合、地域通信会社に発信および着信の相互接続料を支払う必要がある。これに対し、ブロードバンドを利用したIP電話では地域通信会社の交換設備を経由しないので、発信接続料は不要となる。ブロードバンド利用者相互のIP電話では着信接続料も不要となる。地域通信会社の交換機を経由して接続する場合は、インターネットのダイヤルアップ接続と同様、事業者間の精算方式が適用され接続は割安となる。また、IP電話は「インターネットのアプリケーション」(FCCの見解)ということになれば、電話サービスに課されているユニバーサル・サービス費用の負担なども不要となる。なお、米国における2003年末ブロードバンドの利用世帯は2,200万(推定、うち3分の2はケーブルモデムの利用)で、世帯普及率は20%強である。

(注2)Net phone start ringing up customers;BusinessWeek Online / December 29,2003)

 このビジネスモデルではケーブルテレビ会社が当面有利とみられている。ケーブルテレビ会社はすでに米国のブロードバンド・アクセス回線の3分の2を保有し、回線交換方式ではあるが200万の顧客に電話サービスを提供している。これにIP電話の機能を追加するのはさほど困難なことではない。顧客はケーブル・ボックス内に設置された電話用のジャックに、従来の電話のプラグを差し込むだけでよい。口火を切ったのは1,080万の加入者を擁するタイム・ワーナー・ケーブルで、IP電話が提供可能な設備を全米規模で2004年末までに整備する、また、この計画を達成するために長距離通信会社のMCI並びにスプリントと提携すると2003年12月に発表した。2004年にはコムキャストやコックスなどの大手のケーブル会社もIP電話の参入を表明すると見られている。

 タイム・ワーナー・ケーブルの発表から3日後に、AT&Tは信頼性の高い自社IP網を構築し、2004年中に米国100大都市でIP電話を開始すると発表した。長距離電話会社がIP電話に期待するのは、地域電話会社へ支払う相互接続料(AT&Tで年間90億ドル)を減らしたいという狙いも含まれている。一方、昨年12月までにすべての営業区域で長距離通信市場に参入を認められた大手地域電話会社のべライゾン、SBC、ベルサウスおよびクエスト(既にミネソタ州でIP電話を開始した)の各社も、2004年には一般利用者向けのIP電話サービスを開始する計画を打ち出すとみられている。このほか、IP電話で先行する新興企業のボネージ(Vonage)(注)やネット2フォン(Net2Phone)、DSLプロバイダーのコバド、バックボーン事業者のグローバル・クロッシングやレベル3、ISPのアースリンクなども本格的に事業を展開することを表明している。

(注)コバドのCEOによれば、IP電話/ネットワークのメリットは低い運営コストと柔軟な新規サービスへの対応能力にあるという。とくに、データ/映像と音声通信を同時に提供できるマルチアクセス機能に期待を寄せている。

 このIP技術へのシフトは、通信事業者のネットワークの設計方法を根底から変えることになるだろう、と前掲の「BusinessWeek」誌は指摘している。現在、通信事業者は依然として、伝統的な電話、携帯電話それにデータ・トラフィックのサービス形態に対応する個別のネットワークを保有している。将来通信事業者は、音声、データおよびワイヤレス通話が伝送される単一のIPネットワークを構築することになるだろうという。これはネットワーク費用の大幅削減と新規サービスに対する柔軟な対応を可能にする。さらに、低廉なブロードバンドの急速な普及がIP電話とそれを可能にするIPネットワークの展回を後押ししており、早晩通信産業の競争環境は大きく変わらざるを得ないだろう。

(注)米国では、IP電話は「電話」(規制)か「インターネット」(非規制)かという議論が起きている。IP電話の規制をめぐる問題については、「IP電話の衝撃に揺れる米国の通信産業」本間雅雄(当研究所ホームページ InfoComアイ2004年1月)を参照されたい。

■携帯電話の競争の焦点は3Gへ

 2003年末における世界の携帯電話の利用者は12億人(前年比15%の増加)を超えたとみられる。2002年に逆転した固定電話との差は拡大するばかりだ。中国やインドを始めとするアジア、東欧やロシア、中南米やアフリカ諸国でも利用が増加している。固定通信設備の未整備な開発途上国では、経済的で手っ取り早く展開できる通信手段として本格的な普及期に入るとみられ、今後数年間は2ケタ台の増加率が続くのではないか(注)

(注)ノキアは世界の携帯電話加入者が20億人を突破する時期を、従来予測から2年早めて2008年とする予測を最近発表した。今後の増加分(8億)の半分を中国、インド、ロシアおよびブラジルの4大市場が占めるとみている。

 しかし、普及が進んだ欧州、米国および日本などでは新規需要が頭打ち状態となることは明らかだ。市場が飽和してくると利用の少ない加入数が増加し1加入当りの平均利用料金は低下する。他方、市場の取り合いが激化し料金は値下りする。ドコモは携帯電話からメールやインターネット接続を可能にする「iモード」をいち早く導入し、このような閉塞状況の打開に成功した。他社も同様なサービスで追随し、現在日本における携帯電話の85%はインターネットに接続できる。このブラウザー・フォンによるデータ通信収入は、音声通信が飽和状態にある携帯電話会社の経営の安定に大きく寄与している。

 第3世代携帯電話(3G)は、これまでの携帯電話と比べ格段にデータ通信速度が速く、情報を素早く入手することができ、動画にも対応できる。また、音声で対話しながらデータ、画像や映像などを同時に伝送するマルチアクセス機能も持っている。携帯電話会社は3Gでさらなるデータ通信収入の確保を期待していて、データ量の多い映像伝送をキラー・アプリケーションと考えているようだ。ドコモは2001年10月に世界に先駆けて3Gサービス「FOMA」を開始したが、2003年末で188万加入と、ドコモに半年遅れでスタートしたKDDIの「1x」の1,176万に大きく差をつけられた(注)。加入数1,598万のauが4,537万のドコモに3Gで大きくリードした事実は、既存サービスにおける市場支配力は新サービス(3G)では何の役にも立たなかったことを示している。ボーダフォンの「VGS」は11万と低迷している。

(注)「1x」はジュニア・レベルの3G(ボーダフォン)で、本格的な3Gの「FOMA」と比較するのは適当でないという意見もある。しかし、PDCより通信速度は格段に速いうえ「着うた」などもヒットして広くユーザーに受け入れられ、「1x」がKDDIを2003年の携帯電話の純増トップに押し上げたことは評価すべきだ。

 2004年は3Gサービスで本格的な競争が展開されるのではないか。狭いサービス提供地域、短い電池の待ち受け時間、かさばって重い端末などの制約条件がほぼ解消し、アプリケーションと料金で競争する条件が整った。auは昨年11月末に「1x EV−DO」を導入(現時点では東名阪の人口カバー率70%)して、下り最大2.4Mbps(実効速度は600kbps)のサービスを開始するとともにメールとウェブ・アクセスに限定されるものの定額料金制(月額4,200円)に先鞭をつけた。ドコモは2月に3Gの新端末「FOMA 900i」シリーズをメーカー6社が発売し巻き返しを狙う。2004年の注目は携帯電話にICカード機能を付加する動きで、今年半ばから「FOMA」にソニー規格のフェリカを搭載し、金融決済機能が実現する。ボーダフォンは2002年12月に3Gに参入したが、1年経過した現在でも「FOMA」や「1x」に対抗できる機種は1つだけといわれている。固定通信部門を売却して社名も変え、ようやく態勢が整った同社がどのような戦略で巻き返しに出るのか注目される。

 多彩な機能を実現する3G端末の開発には1機種100億円必要だといわれている。メーカー各社はこの開発費用の負担に耐えて、次々と新端末を市場に供給できるのだろうか。多額の販売奨励金(1加入3.7万円、auの2003年上半期平均、昨年同期より10%減)(注)によって端末価格を安く提供して加入者を増やす通信事業者の従来からの戦略は3Gでも有効なのか。また、現時点では魅力的なアプリケーションほど多額の通信料金を必要としており、3Gのコスト・メリットを生かした料金の工夫(例えばコンテンツ別料金)も必要ではないか。現在総務省で検討中の番号ポータビリティの実施が決定すれば、競争はさらに激しさを増す可能性が強い。

(注)日経産業新聞(2003年11月17日)なお、ハチソンが1月末に香港で開始する3Gサービスの端末(NEC製)の提供価格(1台の場合)はHK$4,380(61,000円)で、FOMA端末の実売価格の倍以上である。

 3Gをめぐる欧米の動きはどうか。米国では新年早々の1月8日に第1位の携帯電話会社のべライゾン・ワイヤレスが今後2年間に10億ドルを投資して、「EV−DO」を全米で利用可能にすると発表した。今年の夏には一部の都市でサービスが開始される。同社の親会社のベライゾンが、無線とブロードバンドの時代に備えて、2000年以降約550億ドルのインフラ整備(マルチメガバイト・ネットワーク)を推進してきたが、今回の投資はその一環である。「W−CDMA」を2004年に全米10都市に導入する計画だったAT&Tワイヤレスは、計画を4都市まで縮小したが後述する合併騒動でそれも怪しくなった。べライゾンの積極姿勢が際立っている。

 昨年、英国とイタリアで「W−CDMA」を開始したハチソン3Gは、2003年末にそれぞれ100万の顧客獲得を目標にしていたが、最近この目標達成は2004年の上半期までかかるという見通しを明らかにしている。同社が3Gサービスを開始しているオーストラリア、オーストリアおよびスエーデンでも十分な成果を上げられなかったようだ。一方、テリアソネラが計画していたスウェーデンの3G導入も先送りされる見込みだ。免許は同国全地域をUMTSでカバーすることを条件にしているが、広大な過疎地域では現用周波数と基地局を共用できて効率的なEDGEを導入したいというのが同社の主張で、それが認められるまで3Gの導入を延期する意向という。テレコム・イタリア・モバイルも2004年の早い時期にEDGEを全国展開する。

 世界最大手のボーダフォンは2004年10月に欧州主要都市に3Gを導入する計画だが、総じて欧州勢は当面のブロードバンド需要にはGPRS/EDGEで対応し、3Gの本格導入はシステムの安定と端末の円滑な供給が実現する2005年以降とみているようだ。その場合であっても、「容量に余裕のある地方をEDGEで代替するW−CDMA」によって投資を節減したいと考えているという(注1)。それもあって欧州では今後2Gでの競争が激化しそうだ。ドイツ第1位の携帯電話会社T−モバイルは去る1月8日に、ARPUの増加を狙って料金値下げとアメリカ型の定額料金制「Relax」(注2)の導入を発表した。

(注1)FOCUS:3G mobile technology spending teetering on EDGE;online.WSJ.com/December18,2003

(注2)50分/15ユーロ、100分/25ユーロ、200分/50ユーロ、500分/100ユーロの定額料金制 T-Mobile tells Germans:Relax! Don’t hang up;totaltele.com / Reuters(13 January 2004)

 結局、3Gによる本格的競争は、日本、韓国、香港などアジアで口火が切られ、そこに世界中の関心が集っている。香港ではハチソンが1月27日に開始する。端末価格が従来製品より30%高いことを考慮して、音声料金を割安に設定しているという。競争相手のスマートーンとサンデー・コミュニケーションズなどは今年下半期に3Gに参入する予定である(注)

(注)Hutchison sets 3G launch date for Hong Kong:totaltele.com/Reuters(20 January 2004)

■通信産業の再編統合が進展

 米国第3位の携帯電話会社AT&Tワイヤレスが、同第2位のシンギュラー・ワイヤレス(親会社は地域電話会社大手のSBCおよびベルサウス)に吸収合併されるのではないかという観測記事がマス コミに流れていたが、AT&Tワイヤレスはさる1月22日に、取締役会が同社を合併・買収する際の条件について2月13日を期限に広く提案を募ることを決定し発表した。この決定は、同日発表された同社の2003年第4四半期の決算を踏まえてのこととみられる。

 AT&Tワイヤレスは2003年第4四半期に8,400万ドルの赤字(前年同期は1.3億ドルの赤字)となった。第4四半期の売上高増加率4.1%(前年同期比、売上高は42.2億ドル)は,2003年通年の売上高増加率8.1%(通年の売上高は156.6億ドル)をかなり下回ったことも問題だが、第4四半期における最大の問題は営業費用が8.8%も増加したことである。

 加入者移動(解約)率が高くなったため、新規顧客の確保に多額の販売奨励金を出さざるを得なくなったことがその理由である。第4四半期の平均月間加入者移動率は3.3%に高まった。前年同期の2.4%、前期の2.7%に比べてかなり高くなっている。その理由は第1に、同社が昨年11月に新データベース・システムを導入した際、バグの修正に手間取り3〜4週間新規加入者の開通や料金プランの変更ができなくなった。第2に、昨年11月24日から実施されたナンバー・ポータビリティ(WNP)の運用でもたついたことである。同社の移動処理に遅れが目立ち、FCCから状況報告を求められた(注)。これらのトラブルは昨年12月中に解決したが、顧客の信用を大きく損ねた。同社の昨年第4四半期の加入者純増は12.8万加入(シンギュラーは64.2万、T−モバイルUSA 101.5万)にとどまり、前年同期の70.5万、前期の22.9万から大きく減少した。それでも同社は2003年通年では4.4億ドルの利益を計上している。(前年は23.4億ドルの損失だった。)

(注)AT&T Wireless wants a suitor:nytimes.com / January 23,2004 全米の純増加入者に占めるAT&Tワイヤレスのシェアは、2001年17%、2002年16%だったが2003年は6%に急減した。なお、同社のARPU(2003年)は業界平均月額52ドルに対し59ドルと高い。

 結局、AT&Tワイヤレスは単独路線を断念し、他社との合併・買収交渉に応じることを明らかにし、提案を広く募り条件を競わせることにした。アドバイザーとしてメリル・リンチなどと契約している。マスコミ報道によれば、すでに米国内外の複数の携帯電話会社が同社の買収に名乗りを上げている。最有力候補と目されるシンギュラーのほか、世界最大の携帯電話会社の英ボーダフォン、AT&Tワイヤレスの最大の株主NTTドコモ(現在16%を出資)、最近業績好調の米ネクステルなどである。AT&Tワイヤレスの株式時価総額は300億ドル(1月30日現在)で、前々週に約30%上昇した。シンギュラーは全額現金での買収を提案しているという。同じGSMを使う大企業市場に強いAT&Tワイヤレスとの合併にメリットがあると考えているほか、親会社である両地域電話会社の潤沢なキャッシュフローと最近の好調な株価を背景に、買収資金の調達に自信を持っているからだと思われる。

 仮にシンギュラーとAT&Tワイヤレスの合併が実現すれば、ベライゾン・ワイヤレス(加入数3,730万)を抜いて米国最大の携帯電話会社(加入数4,630万)となる。そうなればベライゾン・ワイヤレスは、多分スプリント(同じCDMAの米国4位のスプリントPCS(加入数1,580万)をトラッキング・ストックで持つ)を買収してこれに対抗するだろうという。ボーダフォンは少数株主に甘んじているベライゾン・ワイヤレスの株式持分45%をパートナーのベライゾンに譲渡し、同じGSMのAT&Tワイヤレスの買収に意欲を燃やすだろうと見られている。シンギュラーの本当の狙いは、これらの合併・買収騒ぎで企業価値が下がるとみられる米国6位のT−モバイルの買収ではないかという説まである。いずれにしても、全米で携帯電話事業を展開する6社は、2〜3年以内に3〜4社に 統合されることが確実とみられるほか固定通信事業にも影響が及ぶだろう。さらに、この企業統合の動きは、成熟期に入った携帯電話市場を抱える欧州や東アジア地域にも拡大していくのではないか。

 このような情況のなかで、NTTドコモの動きに注目が集まっている。フィナンシャル・タイムズ(注)によれば、ドコモはこれまでのAT&Tワイヤレスを含む対外投資で大きな損失を出している(1兆8,596億円の投資に対して1兆5,180億円を特別損失に計上した)うえ、国内でもKDDIの挑戦を受け利益の減少に直面ており、今は海外事業にギャンブル・マネーを注ぎ込む時期ではなく、国内事業の強化のために資金を使う方が良い、という考えがドコモのインサイダーの大勢だという。日本の金融界も一致して、ドコモは如何なる買収戦争の一翼を担うこともない、とみていると同紙は書いている。

(注)DoCoMo’s dilemma:to go or not to go global?;Financial Times online / January 22 2004

 しかし、ドコモの北米市場における戦略の見直しは必至で、出資比率を維持もしくは引き上げて影響力を保持するか、持ち株を売却し撤退するかなどを検討をするのではないか。しかし、前掲のフィナンシャル・タイムズは、それにもかかわらず、ドコモは単独もしくは米国の1社と組んで、買収戦争の一翼を担うのではないかという根強い噂がある、と書いている。オファーしなければ、「iモード」と「W−CDMA」を早期にグローバル展開するというドコモの計画が頓挫する、という理由からだ。また、ドコモがAT&Tワイヤレスの株価を引き上げるため、オークションに参加するのは賢明な選択だと示唆する銀行もあるという。ドコモは1月27日、幅広い選択肢確保するため、出資先のAT&Tワイヤレスから持ち株比率などの変更を事前に知らされる権利「事前通知権」を留保すると発表した。

■幻の「情報通信省」創設

 小泉首相が去る1月16日の経済財政諮問会議で、2007年4月に予定されている郵政民営化にあわせ、IT関連の行政を一元化して担当する「情報通信省」の創設を検討することを指示したと報じられ、17日の日経新聞朝刊一面のトップ記事になった。しかし、日を追うごとに「情報通信省の創設」構想はトーンダウンし、後日公表された議事要旨では「首相指示」の部分は、「連携を強化してやれば重複が省かれるので、上手く経済諮問会議を活用して(IT政策を省庁横断的に)融合していかなければならない。」と、これまでの方針の再確認にとどまっている。「省庁再編時には、(旧通産省と旧郵政省を)統合するという議論も一時あったが、郵政族の反対でできなかった。」と指摘した後、首相は両部門の一元化を検討する考えを示したといわれる。(朝日新聞 2004.1.22)しかし、この部分は議事要旨に記載されていない。縦割り行政の前に、泰山鳴動し鼠一匹すら出なかっというお粗末の一幕だったのかもしれない。

特別研究員 本間 雅雄
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