2011年2月24日掲載

2011年1月号(通巻262号)

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InfoComモバイル通信T&S

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サービス関連(通信・オペレーション)

ソーシャルメディアを活用した携帯サービスが初登場〜英MVNO giffgaff、ユーザー支援による運営で、安価な携帯サービスを実現

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 ツイッターやフェイスブックなど、ソーシャルメディアがウェブに代わるインフラへと成長しつつある。ソーシャルメディアには広告主のターゲットになり得る個人情報が登録され、利用によって趣味嗜好が分かるため、そのデータを企業が活用することができれば、効果的な購買行動を起こさせる仕掛けをすることができる。その蓄積データを、ソーシャルメディアが、APIを公開することでオープン化し始めた。これにより、企業が容易にデータを取得・操作し、これまでリーチできなかった購買層に向けたマーケティングができるようになり、それを活用して企業ブランドを確立したり、新規顧客の獲得に成功している企業が出てきた。今日のソーシャルメディアの隆盛の背景には、こうしたマネタイジング手段が整ったことで、社会や経済に影響を与えるようになってきたことが挙げられる。

 こうした趨勢の中、携帯電話サービスのビジネスツールとして、販促や顧客サポートにソーシャルメディアを活用し、欧米の通信業界から注目されている企業がある。英MVNOのgiffgaffである。ソーシャルメディアを活用する企業は小売業が多い中、携帯電話事業者は稀有である。

安価な料金プラン 

 giffgaffはO2UKの子会社で、O2のネットワークを使用し、プリペイドのSIMカードを専用に扱うMVNOである。2009年11月よりサービスを開始した。同社の調査によれば、携帯電話ユーザーはより安価な事業者への加入を求め、事業者の移行と共に新たな機種を購入しているものの、現在利用している携帯電話を変更したくないと考えているユーザーが少なくないとのことである。同社によると同社のSIMカードは、SIMロックが解除されたいかなる携帯電話機上でも動作するという。

 同社の主なサービス料金は、自網内の通話、テキストメッセージ、テレビ電話およびインターネットが無料。携帯/固定を含む他網間の場合、通話が1分8ペンス、テキストメッセージが1通4ペンス、テレビ電話が1分50ペンス(いずれも国際通話、ローミングを除く)等となっている。またgoodybagと呼ばれるいくつかのパッケージプランも用意されており、 テキストメッセージが無制限利用できる月額5ポンドのプラン、月額15ポンドで300分の通話と無制限のテキストメッセージおよびインターネットが利用できるプラン、月額20ポンドで600分の通話と無制限のテキストメッセージおよびインターネットが利用できるプラン、また現在、フェイスブックのLike!ボタンのプッシュ回数1万回を記念して2011年3月31日までの限定で、250分の通話と無制限のテキストメッセージおよびインターネットが利用できる月額10ポンドのプランなどがある(2011年1月12日現在1ポンド=約130円)。

 ただし、同社のインターネット無制限利用も、2011年2月28日までで、これ以降は、日額50ペンスとなる(使用量が2.5MB以下の場合は50ペンスを下回るが、30MBを超えた場合は追加料金が加算される)。これは、スマートフォンによるインターネットアクセスの増加などにより、データトラフィックが急増し、携帯電話事業者の設備の通信容量不足が深刻になる中、世界中の携帯電話事業者がデータトラフィックを平準化するため、定額制を見直す動きに合致する。すでに親会社であるO2 UKでは、定額制に上限を設け、上限を超えた利用者に対し従量制の料金プランを適用している。

 しかし、インターネットが有料になったとしても、他社に比べ、料金はきわめて安価である。

図:giffgaffと他社の料金比較 2010年12月時点のデータより作成
出所:http://giffgaff.com/index/pricing (2010年12月時点のデータより作成)

ソーシャルメディアを活用し、営業費用を大幅削減

 giffgaffが上記のような安価なサービスを実現できる理由は、ソーシャルメディアを使ったユーザーの相互扶助の仕組みによって、同社の顧客サポートやマーケティング、サービス企画や広告などが支援されていることによる。それにより、同社は販売網もコールセンターも持たず、たった14人のスタッフで運営されている。通信事業において、新規顧客の獲得や顧客サポートに高額な営業費用がかかるのが定石だが、同社ではその費用を大幅に軽減し、費用の一部を同社に貢献したユーザーに還元するビジネスモデルを構築した。以下に同社におけるソーシャルメディアの活用例を示す。

(1)ユーザーと協業でサービス開発:giffgaffでは、デルの「IdeaStorm」やスターバックスの「My Starbucks Idea」と同様のアイデアコミュニティを設け、giffgaffのサービスに対する改善アイディアを同社のユーザーから広く募集している。2010年12月時点でアイデアコミュニティに投稿された112のアイデアを実行したとのことである。この中には、適切な料金プランの他、アプリケーションに関する要望なども含まれる。それを受け、同社では、ノキア製端末の一部やiPhone向けにアプリケーションを開発し提供しているが、今後はAPIを提供し、外部の開発者にアプリケーション開発を促すことも計画している。

(2)利用者相互の顧客サポート:顧客サポートもコミュニティサイトを介して行われている。必要に応じてgiffgaffのスタッフが対応する場合もあるが、基本的には同社のユーザー間でFAQや利用のためのヒント等がやり取りされる。同社によれば、50%の顧客がコミュニティから質問の回答を得ており、95%の質問が3分以内に解決するという。残りの5%を含むすべての質問が1時間以内で解決している。また、コミュニティに回答を寄せる常連のユーザー(トップ10)は、他のユーザーの悩みを解決するために1日平均9.5時間以上も同社のコミュニティのために費やしているという。

(3)ソーシャル・マーケティング:同社では、ユーザーがSIMカードの購入を知り合いに勧めたり、知り合いにSIMカードを贈るとポイントが加算され、ポイントに応じてペイパックを受けられる仕組みを採用している。例えば、知り合いにSIMカードを贈った場合、贈り主、贈り先の双方に500ポイントが加算される。また、個人のSIMカード購入ページをシェアして購入し、アクティベートされたSIMカードに対し、各500ポイントが加算される。さらに、SIMカードを購入する際、購入者が紹介者の名前を入力すると、その紹介者に対して200ポイントが与えられる。それらのポイントは1ポイント=1ペンスとして清算が可能である。

(4)ユーザへのペイバック: (3)の他、(1)や(2)のケースにおいて、同社に貢献したユーザーに対し、その内容に応じてポイントが加算される。同社のコミュニティサイトが活性化しているのも、こうしたインセンティブの仕組みがあることも要因の一つとなっている。同社では毎月ユーザーのポイントを集計して、メールで通知している。獲得したポイントは、年に2回(6月/12月)清算することができる。清算方法は、ペイパルを通じて現金化するか(1ポイント=1ペンス、ただし500ポイント以上獲得している場合に限られる)、同社の携帯サービスの支払いにあてるか、チャリティに寄付するかの3通りで、ユーザーが選択する。

 ソーシャルコミュニティにおけるユーザーの貢献度は、一般に90:9:1の法則があるといわれている。すなわち、90%のユーザーは閲覧のみで投稿せず、9%のユーザーがごくまれに投稿をし、1%のユーザーのみが極めて頻繁に参加し、投稿の大半を占めるというものである。しかし、giffgaffに関しては、同社のユーザー貢献度は1:25:74と、極めて高い貢献率だという。ペイバックの仕組みが奏功していることもあるが、そもそもMVNOがニッチ層をターゲットとするビジネスであり、同社のビジネスモデルから、コミュニティの参加に熱心なユーザー層が集まったと考えられる。

新たなビジネスモデルに業界の期待が高まる

 MVNOの興味深いビジネスモデルとしては、かつて、Blykが若者(16〜24歳)に限定し、1日6通程度の広告を受け取る代わりにSMSと通話を無料にするという広告モデルを活用した携帯サービスを英国で提供していた(2007年に本誌で紹介)。しかし、不幸にも世界不況により、企業からの広告収入を十分に得られず、Blykはビジネスモデルを転換し、英国ではMVNO事業を断念し、広告サービスプロバイダーとして、オレンジと独占提携している。

 Blykのビジネスモデルは現在でも有効と見ている業界関係者が多く(Blykは2010年5月にオランダでボーダフォンと提携しMVNO事業を再開した)、サービスの時宜が悪かったとする見方がされている。そういう意味では、ソーシャルメディアの勃興と共に登場したgiffgaffへの期待感が高まっている。同社はO2UKの子会社でもあり、資金的な余裕もあることから、短期的な成果に囚われずに事業の有効性を確認できるというアドバンテージを持っている。また、同社のコミュニティが経済活動に影響を与えるほどに活性化すれば、Blykのような企業のターゲティング広告収入も見込むことができる。同社の動きは、携帯電話事業者が新たなビジネスモデルに即時にチャレンジする際のサブブランド戦略としても非常に興味深いが、低価格な料金が求められる一方、そのための有効なビジネスモデルが見出せずにいるMVNOの新たな戦略としても、動向が注目される。

武田 まゆみ

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