2011年11月22日掲載

2011年10月号(通巻271号)

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中国のベンチャー企業コンテスト「Demo China(創新中国)」レポート

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 中国のベンチャー企業の祭典「Demo China(創新中国)」、2006年から開かれる同イベントの2011年度の決勝大会が、8月に風光明媚な観光地でICT産業誘致に積極的でもある中国杭州市で開催された。本稿では「Demo China」決勝大会の概況とともに、入賞企業を中心としたDemo China出展企業を紹介する。

中国版Twitter新浪微博のストリームが流れるなどカジュアルな雰囲気の会場

 「Demo China 2011」杭州決勝大会は2011年8月25日〜26日、2011年3月から実施された北京・上海など10の予選を勝ち上がった企業を中心とした76社が参加し開催された。決勝大会に登場したベンチャー企業はICT分野に関わらず、食品衛生系の企業や医療系の企業、変わり種としてはカツラの企業など多種多様な業種が参加していた。そもそもこの「Demo」というイベントは米国で20年近くにわたり開催されており、本家ではICT分野の企業のみなのに対し、中国の場合は分野を問わないというのは一つの特色である。会場は中国杭州市内のホテルで参加者は1,000人程度、会場を見る限りほぼ100%参加者が中国の方であった。イベントのスポンサーである米Qualcommや米大手VCのセコイアキャピタルも審査員として参加していたが、これら外資系企業の方も現地法人の中国の方であった。現在中国のVC業界は投資に対し非常に積極的で、今回のカンファレンスにも複数のVCが参加していた。「Demo China」参加の76の企業には、それぞれ6分間のプレゼンテーションの時間が与えられており、その時間に各社のサービス等を紹介。プレゼンの後、審査員からの質疑応答、その後各審査員が○、×の札をあげる、といった形で1社ずつプレゼンを行った。また、全ての企業のプレゼンの後、優秀な企業に対しては賞金が贈呈された。

 まず、全体の印象としては、中国のベンチャー企業の実力は非常に高いと感じた。本稿では上位企業を中心に紹介していくが、日本や米国でも最近話題になっているサービスが多く、ICT関連のベンチャー企業に限ると、米国・日本といったICT先進国の国々と中国との差はほとんどないのではないか、と思った。現在、中国は米国や日本同様ネット業界が盛り上がりをみせており、様々なベンチャー企業が生まれている。会場は中国版Twitterである新浪微博を利用し、リアルタイムでの参加者等のコメントも表示されていた。参加者の多くはiPhoneやHTC、サムスンなどのスマートフォンを利用しているなど会場の雰囲気も米国や日本のイベントとほぼ同様のものであった。

「Demo China」の会場の様子

上位入賞企業はキュレーション系、Instagram系サービスなど

 ここからはDemo Chinaの上位入賞企業を紹介する。表彰は「創新之星」と「成長之星」の2つに分かれており、それぞれ1位〜5位企業まで表彰された。「創新之星」の第1位は北京祺瑞乾坤科技有限公司のサービス「微精」であった(URL:http://www.51weijing.com/)。微精は所謂キュレーション系のサービスで、中国版Twitterの「新浪微博」から特に重要と考えられる情報を選定、収集するサービスだ。同社によると、微精はユーザ行動と語彙分析をベースにし、データマイニング、ナレッジフィルタリング等の方法で、マイクロブログの情報から重要なコンテンツを探し、ユーザにあった内容を提示する模様。ソーシャルメディアが普及し情報過多となっている現在、このような情報を分析・整理するサービスは必要になっており、韓国のNAVERなど様々な企業がサービスを展開している。現状「微精」の精度などは未知数であるが、キュレーション分野で微精のような中国のサービスがイニシアチブをとるという可能性も充分あるのではないか、と感じた。

 創新之星第2位の写真サービス「camera360」はiPhoneアプリで人気の「Instagram」のようなサービスで、このアプリを利用して写真を撮るとLOMO風(焦点があいまいで色調の崩れとハイコントラストの画像が意図せず現われる)、レトロ、白黒、夜景など多彩な撮影モードやエフェクト機能を選択することが可能だ。また、この「camera360」の日本語版は日本のAndroid Marketでも入手することができる。但し、Android Marketの書き込みによると一部機種では不具合が発生しているようだ。勿論ある程度のローカライズは必要ではあるが、スマートフォンという世界共通のプラットフォームが急速に広がっていく今後、「camera360」のように開発元が中国のアプリを日本で利用するというケースはどんどん増えていくのであろう。

その他上位入賞企業とサービスの概要は以下の通りである。

 盈科泛利股フェン有限公司(創新之星第3位):電子チケットの発券や料金の回収代行などスマートフォンを活用したモバイルチケット事業「ACCUPASS」を展開。
杭州傑夫信息科技有限公(創新之星第4位):淘宝(Taobao=Alibaba系列のeコマースサイト)、拍拍網(PaiPai=Tensent系列のC2Cコマースサイト)等のショッピングサイトと提携し、ネットショップの設計、構築(デザイン・撮影含む)、運営や淘宝上のショップに対するショップの設計、構築、運営などeコマースに関連するソリューションを提供。

上位入賞企業のサービス

 無錫加視誠智脳科技有限公司(創新之星第5位):各道路にカメラを設置、そこから流れる映像を利用し交通情報(交通量、車のスピード等)を収集、分析した情報を交通管理部門や一般のユーザ向けに配信するサービスを提供。

 なお、成長之星の入賞企業に関しては、ICT分野と関連のないバイオ系の企業等なので、本誌では割愛する。その他興味深かった企業をいくつか紹介する。

 上海脈可尋網絡科技有限公司:スマートフォン向け名刺管理アプリ。名刺をスマートフォンのカメラで撮影、撮影された名刺は名前や企業名など名刺上の情報に基づいて整理、分類、管理することができる。
広州市迅維信息技術有限公司:iOS/Android/WindowsPhone7/Symbianに対応したクロスプラットフォームのモバイルアプリ開発ツール「x.App」を提供、中国移動、Yahoo香港など顧客は50社以上。
湛天創新科技股フェン有限公司:セルフ電子書籍化・出版プラットフォーム。セルフ電子書籍化がブラウザ上から可能で「アップロードして10分で電子書籍化できる」のが売り。

 なお、各企業のプレゼンテーションの内容は「Demo China」のWebサイトで視聴することができるので、興味のある方は是非、ご覧戴きたい。
Demo China公式Webサイト:http://demochina.cyzone.cn/

 前述のように中国のベンチャー企業が提供するサービスは米国や日本で提供されているサービスとほとんど差がないと言えるのではないか。今後13億人という圧倒的な人口や5億人を超えたといわれるネット人口を背景に、現在のGoogleやApple、FacebookのようなICT業界をグローバル企業が中国から誕生するのもそう遠くないのではないか、ということが今回の「Demo China」を通じて最も強く感じた部分である。ただし、中国のICT企業には政治リスクも存在する。先程紹介した新浪微博は、「2011年9月末に中国政府による規制によりサービス閉鎖」というニュースも流れた。ジャスミン革命以降ソーシャルメディアに対して中国政府は厳しい姿勢をみせている。今回のDemo Chinaでも表彰式には浙江省共産党組織部長や地元杭州市の副市長以下幹部クラスが多数参加し注目を集めるなど、行政と無関係の動きではない。勿論、行政と民間企業が一体となり一気に産業を推進することも可能なため、悪いと決めつけることではないが、中国のベンチャー企業特有の問題としては残るであろう。5年後、10年後中国のベンチャー企業はどのような変化を遂げていくのか、また世界にどのようなインパクトを与える存在になるのか、今後の動向に注目していきたい。

山本 惇一

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