2013年4月22日掲載

2013年3月号(通巻288号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

Wi-Fiは第3のアクセス/ブロードバンド・インフラ、その先へ

NTTが昨年11月8日に発表した中期経営戦略「新たなステージを目指して」の中で、新しい枠組みとして“Inter-Service”が取り上げられています。これは、ネット上のサービスおよびネットとリアルのサービスの相互が融合した付加価値の高いサービスと位置づけられていますが、現在までのところ、必ずしも明確な輪郭は示されていません。昨年の中期経営戦略発表時に同時に取り上げられた「グローバル・クラウドサービス」が極めて具体的に語られていたのに対して、対称的な印象を与えていました。

その際、唯一Inter-Serviceに関する戦略とみられたのが、Wi-Fiプラットフォームを「第3のアクセス」と位置付け、強化するということでした。企業のお客様のバリューチェーン支援にWi-Fiプラットフォームを活用していこうとするものですが、視点がサービス提供(企業)側に片寄っていてInter-Serviceの広がりが十分に伝わって来ませんでした。私は、Wi-Fiに関して、昨年の本誌8月号巻頭“論”で「Wi-Fi/無線LANは第3のブロードバンド・インフラ」と題して、その社会的影響力の大きさを指摘しました。固定回線、モバイル回線に続く第3のアクセスであるだけでなく、光ファイバー、LTE等に続くブロードバンド・インフラの地位あるものと考えています。また、通信事業としては未成熟ながら、事業免許や電波(周波数)免許のいらない、初めての自由な規制の少ない通信インフラ事業たり得ることに言及しました。

Wi-Fi/無線LANの通信インフラとしての活用策は、先ず、災害時の通信手段の確保という誰もが納得する内容から、既に取り組みが始まっています。ひとつは、国土交通省による国道へのWi-Fi/無線LANアンテナの設置とその社会実験です。非常時の通信容量の確保と平常時の一般通行人等への通信容量の振り向けを目指しているので、道路それ自体をブロードバンド通信インフラとしようとするものです。これもまた、道路という交通インフラサービスと通信インフラとを繋ぐInter-Serviceであり、道路インフラからの通信インフラの取り込みに他なりません。例えて言えば、道路上のWi-Fiは道路にある街灯の明かりのようなもので、道路利用者に安心・安全を提供してくれます。道路と通信インフラの一体化が図られます。

こうした取り組みは、道路だけでなく、鉄道でも、さまざまな公共建物でも可能ですし、取り組みの主体さえあれば商店街でも、市町村役所(場)でも可能です。災害時の避難所や物資供給所となる場所の通信インフラの確保のためですが、通常は一般的な通信利用に充てることが出来ます。もはや、ブロードバンド通信インフラは通信事業者の専用物ではありません。さらに言えば、インターネットやポータルへの接続(アクセス)は、Wi-Fi以外にも多くの方式が存在し、自由な市場競争が展開されています。その中でWi-Fiが数十メートルの範囲でアクセスできる比較的リーチの長い、かつ安価な方法なので、パソコンやスマートフォン、タブレット等に組み込まれ、日本だけで既に総リーチ可能デバイスは1億台以上に達しています。

Wi-Fiは、NTTの中期経営戦略で示されたような企業のバリューチェーンの一環だけでなく、社会的には国土交通省や各地の市町村などで面的に展開されて、ブロードバンド通信インフラの一角を占めるようになっています。このことは、通信環境は生活圏、即ち社会の構成物の一部であるとの認識に繋がるので、通信事業者にとっては難しい経営環境となっていると言わざるを得ません。通信の利用者においては、かなり高いレベルの価値がないと満足しない、対価性なしと感じてしまうことになります。誠に難しい時代となっています。これも、通信インフラの提供がコストが高く、設備建設・維持に膨大な資金を要する固定通信の独占(寡占)の時代から、電波(周波数)免許付与に基づく競争の時代になり、さらに自由な免許不要の通信インフラの時代に到達しようとしている歴史の流れと理解すべきです。

この先、無線周波数のホワイトスペース的な利活用、さらに電波だけでなく、音波や赤外線などを使った短い距離の通信を含めて、社会的・経済的に効用のあるものはインフラとして広がり利用されていくことでしょう。その視点から、先日の2月20日にNTTドコモから発表された「ショッぷらっと」はWi-Fiをさらに超えたサービスであり、通信インフラの拡張として人の耳に聞こえない音波を用いて10メートルの範囲で情報を配信して、O2Oサービス(トライアル)を提供するものです。通信インフラ機能だけでなく、O2Oの形で店舗(ショップ)のバリューチェーンの中に入り込むプラットフォームサービスであり、ここでようやく、NTTの中期経営戦略で示されたInter-Serviceの具体的な姿がひとつ見えたことになります。

残念ながら、Wi-Fi活用の具体的な姿は、まだモバイル通信会社によるトラフィックのオフロードが主流ですが、これからは通信に特化することではなく、個別のサービスや商品の一部として展開されていくことでしょう。そもそも、通信サービスが単独で対価を得られた時代は音声サービスが主流の時に限られていたのではないでしょうか。データ通信が始まり、料金の定額制が大きな流れになるにつれ、通信環境は一定水準が整備されるのが当たり前となり、定額料金はそのための月額負担金の意味合いを濃くしてきました。今後は、これがさらに進んで、自由に通信設備が展開されるWi-Fiなどの通信インフラでは、個別の整備負担は社会(公共)化されるか、設備提供者のリスク負担となって個々のサービスや商品の価格に転嫁されることになるでしょう。通信事業者にとっては、サービスや商品の売上げからのレベニューシェアが次なる収益の柱となります。

このことは通信サービスの利用者とサービス・商品の購入者との区分をなくすと同時に、自社回線と他社回線の区別をなくし、そしてOSやデバイスの違いを超えるプラットフォーム運営を意味しています。利用者/消費者の視点から時代の流れと社会の変化が追求されることを願って止みません。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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