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2011年4月27日掲載

フィリピン:アジア3番目のLTE商用開始

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年4月16日、フィリピン通信事業者のSmartがLTE商用化を開始したと発表した。観光地で有名なボラカイ島で開始し、順次エリアを拡大していくとのこと。まずはUSBタイプのモジュール(データ通信)から開始する。Smartは2009年10月から、商用化に向けてLTEのトライアルを実施していた。

 GSAが2011年3月24日に発表した調査によると、全世界でLTE商用開始していたのが14ヶ国17通信事業者である(表1)。いわゆるLTE導入の先頭集団である。アジアでは香港CSL、日本のNTTドコモに次ぐ3番目のLTE商用導入をした通信事業者となる。

(表1)商用LTE開始国(2011年3月24日現在)
(出所:GSA発表資料を元に情報通信総合研究所にて作成)
  通信事業者 商用開始日
1 ノルウェー TeliaSonera 2009年12月15日
2 スウェーデン TeliaSonera 2009年12月15日
3 ウズベキスタン MTS 2010年7月28日
4 ウズベキスタン Ucell 2010年8月9日
5 ポーランド Mobyland & CenterNet 2010年9月7日
6 アメリカ MetroPCS 2010年9月21日
7 オーストリア A1 Telekom Austria 2010年11月5日
8 スウェーデン TeleNor Sweden 2010年11月15日
9 スウェーデン Tele2 Sweden 2010年11月15日
10 香港 CSL Limited 2010年11月30日
11 フィンランド TeliaSonera 2010年11月30日
12 ドイツ Vodafone Germany 2010年12月1日
13 アメリカ Verizon Wireless 2010年12月5日
14 フィンランド Elisa 2010年12月8日
15 デンマーク TeliaSonera 2010年12月9日
16 エストニア EMT 2010年12月17日
17 日本 NTTドコモ 2010年12月24日

 フィリピンの携帯電話市場について概観してみたい。

 携帯電話加入者:約8,868万加入。人口普及率約96%。3G加入者は2010年12月で約430万加入。3Gが全体に占めるのは4.8%と非常に低い。プリペイド利用者が90%以上で、端末はローエンド端末や中古品が主流である。
フィリピンの主要通信事業者としては下記3社。

 今回、SmartがLTEを導入したのは人口1,000万人を超える首都マニラでなく、世界のべストビーチにも選ばれるボラカイ島という観光地からである。ボラカイ島には空港がなく、アクセスには近くの島まで飛行機(プロペラ機)で行き、そこからバンカと呼ばれるエンジン付きアウトリガーカヌーで移動する。私事で恐縮だが筆者は学生時代、社会人になってからと2回フィリピンに滞在していたことがある。学生時代の1990年代、ボラカイ島はまだ豚や鶏が闊歩し、大雨が降ると停電するような長閑な島だった。現在では開発が進みリゾート地になったが、そこへパソコンを持っていき、LTEを利用してデータ通信を行う需要があるのだろうか。

 新興国においては、固定回線を敷設するよりも、無線基地局を設置した方が設備面では効率的である。固定回線電話やブロードバンド環境はないが、携帯電話は持っているという人は新興国では非常に多い。フィリピンの携帯電話普及率は約96%で、日本とほぼ同じである。しかしフィリピンの3Gの普及率は5%にも満たない。今回のフィリピンSmart社のLTEもデータ通信としての開始だから携帯電話端末としての利用ではない。では、携帯電話での利用を想定した際に3G普及率が5%未満であるフィリピンにおいて、今後、現在2Gを利用しているユーザーが3Gを通り越してLTEに移行することがあるだろうか。
「端末およびカバレッジ」の問題を考慮すると一筋縄にはいかないだろう。フィリピン市場で受け入れられているようなローエンド端末でLTE対応した端末が現時点ではない。中古品として市場に流通するまでにも時間がかかる。LTE携帯端末が出回るようになったとしても、ネットワークカバレッジが悪いエリアではローミングが必要になる。その場合LTEと2G 、3Gにも対応したチップを搭載した端末が必要になるだろう。そのような仕様で、フィリピン市場にも出回るようなローエンド端末の登場を期待するのは現時点では時期尚早であろう。またローエンド端末においてはLTEのトラフィックを必要とするような大容量コンテンツの利用は想定しにくい。
フィリピン市場の携帯電話端末において2GからLTEへのいきなりの移行は考えにくい。まずは3Gのネットワーク設備構築を推進し3G対応端末の普及とモバイルコンテンツの拡充も図るべきであろう。フィリピンでは当面の間は、LTEは高速データ通信モジュール専用として、携帯電話とは棲み分けられた利用をされるのだろう。
フィリピンではGlobe社のHSPA+とSmart社のLTEで「4G戦争勃発」という記事もある。(2010年12月にITUがLTE、HSPA+もマーケティング用語として「4G」の呼称を認めた。)

 アジアでLTEを導入している香港、日本はともに3Gが発展している市場である。携帯電話市場に占める3Gの割合は2010年12月現在(※)で、香港が約50%、日本はほぼ100%である。LTEは2011年4月現在データ通信のみでの利用である。韓国サムスンなどからLTE対応携帯電話が発表され始めた。但しカバレッジを考慮すると日本でもLTE対応の携帯電話が普及するのはもう少し先のことだと考える。

※Telegeograpy データ2010年12月現在

 GSAによると、現在75ヶ国196の通信事業者でトライアルや今後の計画が発表されているとのことだ。通信の進化はとどまることはないし、一度高速通信に慣れたユーザーは後戻りできない。
今後はマニラを中心としたフィリピン全土へのLTEによるデータ通信は拡大していくころだろう。フィリピン市場だけでなく新興国市場においてLTEやHSPA+のデータ通信の普及と同時に既存の2G利用のユーザーをいかにして3GやLTEに移行していくかも注目していきたい。

(参考サイト)Smart社Facebookページ

(参考)
オーバーレイ(重層)化する通信ネットワークの活用
アフリカ初の商用LTEサービス:ナイジェリア

【参考動画:Smart社LTE通信(大きなモジュールをラップトップに取りつけている)(2011年)】

本情報は2011年4月26日現在のものである。

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