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Global Perspective 2011
2011年8月26日掲載

トルコTurkcellのドイツ進出:トルコ系移民をターゲットにしたMVNO〜グローバル社会における新たな携帯電話市場

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年3月24日、トルコ通信事業者Turkcellがドイツでトルコ系移民をターゲットにしたMVNO会社「Turkcell Europe」を2011年4月4日から開始すると発表した。そして、2011年8月21日の「Turkish daily Today’s Zaman」によると、同社はドイツ市場にて13万2,000人の加入者を獲得し、今年末までには25万加入者獲得を目指すと報道された。わずか4カ月での13万人を超える加入者を獲得したのは注目に値する。

 同社はドイツのケルンに100%子会社であるTurkcell Europeを設立し、ドイツ全土1,200店舗で販売を行っている。同社はドイツ・トルコ間の通話を定額料金で提供する。またドイツ在住のトルコ人が母国に帰国した際は、SIMの入れ替えなしでTurkcell網が利用できる。
ドイツには約350万人のトルコ系住民が住んでおり、ドイツ在住のトルコ系住民の携帯普及率は92%で、Turkcellはドイツ市場において4%のシェア獲得を目指している。
Turkcellは2010年10月にドイツ最大の通信事業者ドイツ・テレコムと5年間の回線利用の契約を締結した。

 ドイツはMVNOが非常にさかんな国で大小多数のMVNO事業者が存在している。トルコ系住民をターゲットにしたサービスとしてドイツの通信事業者E-Plusが既に自社の回線を活用して在ドイツのトルコ系住民を対象に、「ay yildiz」というブランドでサービスを提供している。

 今回のTurkcell進出がドイツにおけるトルコ系住民を対象にした初めてのMVNOというわけではない。Turkcellはトルコ以外では、8カ国で事業を運営している。しかしそれらは現地に住むトルコ人を対象としたサービスではなく、あくまでも現地在住の人々を対象とした通信事業である。同社にとっては在外トルコ人をターゲットにしたサービスはドイツが初の試みとなる。  

 Turkcellは今回のドイツも含めて以下の9カ国で展開している。(2011年8月現在)括弧内は同国のシェア順位。

1.トルコ
Turkcell
1994年設立
3,350万加入
シェア:53.6%(1位)
2.カザフスタン
KCell
1999年設立
890万加入
シェア:53%(1位)
3.アゼルバイジャン
Azercell
1996年設立
400万加入
シェア:48%(1位)
4.グルジア
Geocell
1997年設立
200万加入
シェア:40%(2位)
5.ウクライナ
Life : )
2005年設立
910万加入
シェア:12%(3位)
6.べラルーシ
Life : )
2008年設立
150万加入
シェア:15%(3位)
7.モルドバ
Moldcell
2000年設立
90万加入
シェア:34%(2位)
8.北キプロス
KKTCell
1999年設立
40万加入
9.ドイツ
Turkcell Europe
2011年設立
13万加入

 “We are proud to connect both countries and our citizens through the mobile communication bridge we have established 50 years after the first migration from Turkey to Germany. “  とTurkcell社CEO のSureyya Ciliv氏はコメントしている。
50年以上前からドイツはトルコ人を移民として受け入れてきた。2世、3世のトルコ系ドイツ人にはトルコ語が全く話せないという人も少なくない。しかし家族や親戚、友人がトルコに住んでいる人もまだ非常に多い。2010年時点で、約400万人のトルコ系住民がいると報じられている。 決して小さな市場ではない。

 トルコの携帯電話普及率は2011年3月時点で約88%であり、Turkcellの市場シェアは約55%である。トルコ国内の携帯電話市場はいずれ飽和するであろう。そのような中で新たな市場の開拓として、ドイツ在住のトルコ系住民をターゲットにした新たなTurkcellのビジネスモデルは他の通信事業者も検討する余地があるといえるだろう。ドイツ市場はMVNOが非常にさかんである。またドイツの携帯電話普及率は2011年3月時点で130%を超えている飽和市場である。このような競争が激しい市場で、Turkcellが在ドイツのトルコ系住民をターゲットとして新たに参入していくことでのドイツの携帯電話市場に与える影響については今後も注目に値する。

 今回のトルコのTurkcellの移民や在外国居住者をターゲットにしたMVNOとしての海外への事業進出は、ニッチな市場かもしれないが、ますます活発化してくことだろう。アメリカのヒスパニック系をターゲットにしたTracFoneは非常に有名である。

 グローバル化が進展した現代社会においては、移民や出稼ぎ外国人労働者は世界中で非常に多い。日本にもブラジルや中国、韓国、フィリピン等から多くの外国人が労働者として来日している。彼らにとってメリットがある価格やサービスを提供できるのであれば、彼らも馴染みのある母国の通信事業者のMVNOサービスに加入する可能性が高い。今後も世界中でこのような移民や在外国居住者を対象とした各国通信事業者のMVNOが進出してくるだろう。今後、通信事業者の新たな海外進出の手段として注目していきたい。
 また、そのようなエスニックMVNOを迎え撃つ自国の通信事業者も同国に居住する外国人や移民に対してメリットあるサービス提供を行い、自社に繋ぎ止めておく戦略を検討する必要がある。

 国家を超えて人・物・金の移動が激しくなった現代のグローバル社会において、通信事業者のライバルは国内の企業でなく、海外からやってくる人たちを対象にした海外の企業になってくることだろう。

【参考動画:Turkcell Europeのテレビ広告(2011年)】

【参考動画:Turkcellの海外展開について紹介するビデオ(2011年)】

(参考記事)
電気通信事業の内外規制差が競争力を制約
トルコ:TurkcellのNFCモバイルペイメント「Cep-T Cüzdan」

 なお本稿は、InfoComモバイル通信T&S 2011年5月号での小職執筆の記事「国外滞在者・移民向けエスニックMVNOサービス 」を元に、Turkcellの海外展開について書き直したものである。

本情報は2011年8月23日時点のものである。

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