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志村一隆「ロックメディア」
2008年3月掲載
ロックメディア 第7回

イギリス・コンテンツ総論2:
新聞と音楽の販促モデル


志村一隆(略歴はこちら)
[新聞を販売する駅前のコンビニ(ロンドン)] 週末のロンドンを歩いていると、新聞を脇にたくさん抱えている男性をよく見かける。土曜版、日曜版の新聞は、ページが増えて読み応えがあるし、無料のDVD、CDがオマケにつく。例えば、”Mail on Sunday”紙には、土曜は新作映画のDVD、日曜版には有名アーティストの無料CDがオマケについてくる。

 駅に着いて地下鉄に乗ると、今度は新聞が車内に散乱している。こちらは駅前で配っている無料の新聞だ。地下鉄で読んだ人がそのまま読み捨て、次の人に拾われていく。どんな内容かと、拾ってみると、ほぼ全ページ、サッカー選手とセレブのゴシップ記事、それにクイズとテレビ番組表だ。

 車内に錯乱しているフリーペーパーとCDつきの新聞、どちらも同じ新聞社(Associated Newspaper社)から発行されていると聞くと、少しびっくりする読者もいるのではないか。

 この両極端な2つのビジネスを理解するには、新聞社のビジネスを、紙面作りの「コンテンツ制作」と、新聞をお店に運ぶ「流通」の2つに分解してみると、少しはわかりやすい。

[新聞社ビジネスをコンテンツと流通に分解する水平分離戦略で、新たなビジネスチャンスが生まれる]

 コンテンツ制作部門は、同じコンテンツを違うメディアで利用できれば、利益が増 える。アメリカ、ハリウッドの映画会社のコンテンツ・ウィンドウ戦略のように、同じ作品が劇場やDVD、テレビなど違うメディアで売れれば売れるほど儲かるのと同じである。新聞社の悩みは、コンテンツには自信があるが、新聞というメディアが現在の若者に読まれてないことにある。

 そこで、コンテンツを、若者向きに20分で読めるように編集しなおし、若者が集まる地下鉄駅前(ロンドンは地下鉄が発達している)でフリーペーパーを手配りしている。フリーペーパーは、若者をターゲットにしたコンテンツマルチユース戦略の一環である。

 一方、無料のCDをオマケにつけるビジネスは、新聞だけを運んで毎日動いているトラックに、違う商材も運んでもらって儲けるという、流通のマルチユース戦略である。新聞社は、音楽業界からプロモーション費用を受取り、読者へのオマケにしている。音楽業界(必ずしもレコード会社ではなく、アーティスト、マネジメントの事務所の場合も多々ある)も、レコード店以外の消費者の目に触れる機会(タッチングポイントと呼ばれる)を追求しており、どちらにとってもいい関係が築けそうだ。

[ロンドンで人気のフリーペーパーと無料DVDをオマケにつける"Mail on Sunday"土曜版]

 ロンドンでよく見るフリーペーパーは、”Lite”、 “Metro”、”thelondonpaper”の3紙だ。内容、紙面構成はどれも似通っている。3紙とも新聞社が発行しているので、どこかで見た写真だなぁと思うと、コンビニで打っている夕刊紙と同じ写真が使われていたりする。地下鉄で読み捨てられ、拾われることも計算にいれてあり、発行部数の1.5倍くらいの推定読者数も発表している。

イギリスで人気のフリーペーパー
Thelondonpaper
(The London Paper)
2006年8月に創刊。40万部。”Metro”紙の成功を見てニューズ社の英国子会社ニューズ・インターナショナル社が発行を始めた。
ニューズ社は、”The Sun“(イギリスで最大発行部数の夕刊紙)、”The Times“を発行する他、加入者800万件を超える衛星放送”BskyB“を保有するメディア・コングロマリット。人気ドラマ”24“などを放送するアメリカのネットワークテレビ局”FOX”もニューズ社が保有する。
Metro
Lite
Metro”は、1999年に発刊、現在130万部を発行している。
“Lite”は2006年8月に創刊。40万部。
2紙とも“Associated Newspaper”社が発行する無料紙。同社は、Daily Mail(1896年創刊、240万部発行)、CD、DVDを無料オマケにつける“Mail on Sunday(1982年創刊、230万部発行)”などを発行する。

 インフラとコンテンツの垂直統合という既存ビジネスモデルの発想を、少し変えるだけで新たなビジネスが生まれる。景気のよい話をあまり聞かない業界でも、発想を転換すればチャンスが増える。

 イギリスのフリーペーパーと無料CDのオマケは、ビジネスモデルに永遠の正解はなく、ビジネスは時代とともにリフレッシュし続けることが唯一の正解であることを教えてくれる。

※ちなみに・・・フリーペーパーがあまりに道に、地下鉄車内に捨てられてるために、Associated Paper社とNews International社が道にゴミ箱を設置したり、ボランティアがゴミ収集したり、しています・・・。終点近辺から地下鉄に乗ると、捨てられた新聞で座席が埋められている。

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