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志村一隆「ロックメディア」
2008年3月掲載
ロックメディア 第9回

ウェビソードの時代


志村一隆(略歴はこちら)
 過去の有名作品を新しいメディアが欲しがるのはいつの時代も同じである。しかし、新しいメディアが独り立ちするためには、そのメディアならではのヒットコンテンツが必要である。その点で、イギリス、アメリカでは、SNS発のヒット作「ウェビソード」が生まれている。

 ウェビソード 〜 ドラマのエピソードとウェブを合わせて「ウェビソード」。1分から3分程度の短尺コンテンツを毎週インターネットで配信する新しいドラマの形態のことをそう呼ぶ。

 最初のウェビソードは、YouTubeで2006年にヒットした“Lonely Girl 15(LG15)”だろう。2006年はYouTubeが日本でもブレイクした年だ。当初、“LG15”はプロが作った映像か(この場合、ヤラセを意味する)、カメラに映っている少女がセルプロデュースしているのか議論になった記憶がある。

 LG15の制作スタッフは、1年後の2007年にSNSサイト“Bebo”で(イギリスで人気1位のSNS、本社はサンフランシスコ)“Kate Modern”という作品を大ヒットさせている。Beboは、第2弾として番組制作会社の“Endemol”と提携、“The Gap Year”をスタートさせている。

 ウェビソードのヒットには、ビジネスとクリエイティブの両面で今後の映像ビジネスの示唆がある。

 ビジネス面では、今後SNSが映像の配信インフラになる可能性を高めていることだ。実際に視聴するとわかるが、1分程度の短尺映像に5秒、10秒程度のCMが入っていても、ほとんど気にならない。このフォーマットが、新たな動画CMフォーマットになる可能性がある。

 クリエイティブ面では、「リアリティ性」であろう。登場人物と撮影者が同一であるような映像は、家庭用でしかありえなかった。しかし、SNS上では“LG15”以降、セルフプロデュース的な作品ばかりが生まれている。顔をアップにし、カメラに語りかける映像が主流である。

[カメラに語りかけるショットが多いSNSウェビソード。制作者ではなく、登場人物とのインタラクティブ性が特徴(撮影:志村一隆)]

 もう一つの特徴は、視聴者とドラマの登場人物との「インタラクティブ性」である。SNSには、ドラマの登場人物が、リアルな存在として登録され、誰でもフレンド登録ができる。ドラマの主人公とストーリーについて感想を述べ、影響を及ぼすことも可能である。

 リアリティ性とインタラクティブ性は、テレビメディアへのアンチテーゼである。既存メディアでできなかったことができる新鮮さに新しいメディアが成長する意味がある。

 SNSが映像作品の資金回収インフラとして機能するようになれば、映像コンテンツのクリエイターも増えるだろう。有名アーティスト、ローカルアーチストがiPod、アマゾンなどを利用し、自分のコンテンツをセルフマーケティングしているのと同じことが映像分野にもおきる。

 今年から来年にかけ、大手メディア企業が、短尺映像の制作会社を買収、提携する動きが強まるだろう。

Kate Modern
  • 2007年7月16日〜2008年1月1日、全155回、毎回1分〜4
    全体で3,500万回、週150万回視聴された
  • 制作費は40万ドル
  • スポンサーは、トヨタ、マイクロソフト、ワーナー、パラマウント。1回25万ポンド。主にプロダクト・プレイスメント広告で収益を得る
  • ワーナーは「The Days」というバンドをドラマ中でプロモーションした
Prom Queen
  • 前ディズニーCEOのマイケル・アイズナー氏の投資会社“Tornant”が保有するオンラインビデオ会社“Vuguru”が“Big Fantastic”社と共同制作
  • 制作費10万ドル、HairSprayのCMが開始後5秒、ベライゾンの静止画像が映像終了後挿入される。
  • 2007年4月2日〜全80話、1回1分30秒、1500万人が視聴(筆者が実際にMySpaceにアクセスしたところ、MySpaceでの視聴は全体で850万回、一番多いエピソードで128万回。YouTubeでは多いエピソードで14万回、チャンネル視聴は20万回であった)
  • 配信は、MySpaceが他のSNSよりも12時間早く公開、他に Veoh(アイズナーが投資する動画配信サイト)、ドラマ公式サイトなどで配信された。
  • 日本(ライツエンターテイメントが取得)とフランス(Cyber Group(元ディズニー幹部が設立したアニメーション制作会社)が版権取得)でローカル版が公開される
  • シリーズ第2弾の“Prom Queen Summer Heat(全15話)”も、200万人の視聴を集め、海外市場へ販売される
Lonely Girl 15
  • 2006年5月、YouTubeで開始。1回3分程度、
    視聴回数の多いエピソードは210万回、全体で4,100万回視聴されている。
Minisode Network
  • ソニーが、MySpace内で立ち上げた“Minisode Network”というコーナー、“スタスキー&ハッチ”といった昔のドラマを短尺で配信している。

2008年3月、
*“Bebo”は、タイムワーナー傘下のAOLに850万ドルで買収された
*NBC Universalは、車関連の短尺映像制作会社“Drivers TV”の株式35%を600万ドルで取得した。

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