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志村一隆「ロックメディア」
2008年6月掲載
ロックメディア 第14回

CBSの研究 インターネットとアウターネット、メディアビジネスの将来像


志村一隆(略歴はこちら)
 総武線快速の通勤は長くて、もう退屈だ。ボーッと外を見ていると、市川あたりに「天勇」という看板が見える。30年以上前からある気がする。ほかにも錦糸町の手前には「田中甲」とか、「天龍」とか・・・30年、通るたびに見ていると忘れない。

CBSのほか、Clear Channel、Regency という名前もよくみる

 アメリカでハイウェイを走っていると目立つのが、屋外看板である。これは、もうやたら多い。そして、その右下に注意するとその看板の持ち主が書いてある。最初気づかなかったのだけど、よく「CBS」と書いてあるので、少し驚いた。

 CBSといえばテレビ局。違う会社かと思ったら、同じだった。しかも、屋外広告ビジネスは、CBSの売上、利益の大体15%くらい稼いでいる。昔からメディア企業は、屋外広告部門を保有している。家にいる時間が減っている現代になって、図らずもこの屋外広告部門が、CBSの成長エンジンとなっている。

 CBS Outdoorという会社が、屋外広告、バス・電車の車体・車内広告を扱う。他にも、”CBS Outernet”は、スーパーの中の看板広告を販売する会社だ。CBSはテレビだけでなく、屋外広告、ローカル広告ビジネスを着々と拡大している。

ロングテールの広告枠は、無人販売する

 これからは、ローカル、ターゲティング広告だ!とみんな頭ではわかっているだろうが、実際やってみるとつまらなくて、だんだん疲弊してくる。何故かというと、メディアとクライアントを組みあわせる作業が、もう面倒で、しかも儲けが少ないのだ。メディアプランを作るネット代理店の若者も大変だが、大体ビュー数とかいろんな細かい数字はメディア側が入れる慣習になっている。問い合わせが多いと、1日中エクセルとメールを打ち続ける日々だ。

 CBSのようなマスメディアが、そんなローカル広告をどうやって運営しているのか、調べてみたら“Google Adsense”方式で運営していた。広告を出したい人が、CBSホームページに行き、自分が広告を出したいエリア、場所(ロードサイドか駅構内か)、どんな感じの広告にしたいかを選んで、ローカルスタッフに電話で申し込む。


塗装サービス用テンプレート(CBS Outdoor)

 グーグルは、エコスターという衛星放送の広告枠もこの方式で扱っている。日本でも電通の”CM A GOGO”というグーグルぽいサービスのCMをケーブルテレビを見ていると時々やっている。

 メディアと代理店、どちらが儲かるのか、断然メディアである。ただし人気がなければダメだ。栄枯盛衰が激しいインターネットで商売するなら、広告の無人販売とメディアを集め続ける覚悟の両方が必要である。

 昨年からのCBSの買収動向を見てほしい。ケータイ、南米、英国と、エリアとメディアを粛々と増やしているのがわかる。

テレビ局は、「テレビの会社」か「広告ビジネスの会社」か

 テレビ局、ラジオ局を売却しながら、屋外のローカルメディアを買収するCBSのメディアポートフォリオ戦略は、クリエイティブで(非連続的で)そそられる。

 CBSのムーンベス会長は、メディアを「とにかくお金を儲ける」手段として割り切っていて気持ちがよい。CBSを「テレビの会社」でなく「広告メディア会社」と定義することで、既得権益への執着心も薄れ前へ踏みだせる。馬車会社が金融業に進出できたように・・・

 テレビの人気コンテンツも自社のモバイル、アウトドアなどのメディア価値を高めるために積極的に配信する。CBSが、自局の動画配信に熱心なのもうなずける。

 日本でもテレビ局の持株会社化がスタートする。CBSは、ハリウッド傘下のメディア・コングロマリットと違い、テレビがコンテンツのファーストウィンドウである点で、日本のテレビ局と似ている。テレビと屋外広告を融合させ、巨大媒体企業となるモデル、日本でも可能ではないだろうか。

CBSの業績、コンテンツウィンドウ戦略

着々と進むCBSローカル広告ビジネスの拡大
08.04.24 南米最大の屋外広告会社“IAG”を1億1000万ドルで買収
08.03.17 ケータイ用にCBSローカルニュースのガジェットを公開
08.02.06 ケータイSNS“Loopt”と提携、GPS連動型広告を展開
07.12.18 GAS STATION TV” 3000万ビュー、300都市
07.11.20 ニューヨークで、屋外看板にWifiアクセスポイントを設置、無料開放
07.09.06 SignStoreyを71.5百万ドルで買収、”CBS Outernet”に
07.04.13 ロンドンの地下鉄広告の代理店契約、8.5年28億ドルで
07.02.08 スポーツスタジアム広告の“Haveco”(アイルランド)買収

一方で、テレビ・ラジオ局は売却。2006年10月から、ラジオ・テレビ合計売却額9億2200万ドル

テレビ オースティン(テキサス)、ソルト・レイク・シティなど
11局を1億8500万ドルで売却。(08.01.10)
2006年にはUPN(United Paramount Network)の閉鎖(2400万ドル)
ラジオ 39局の売却を完了 (08.11.30)

そして、テレビ29局とラジオ140局が残る。

CBS屋外広告の会社
CBS Outernet 2007年9月に買収
スーパー1,500店舗、月間80万人にリーチ
スーパー以外に、タイヤ交換チェーンの待合室、アトランタのMARTA(モノレールのような電車)、カリビアンクルーズ船などに設置したボード広告を扱う
CBS Outdoor イギリス、南米にビジネスエリアを拡大中
イギリス国鉄の駅内広告の60%を扱う

屋外広告大手2社の業績(単位:百万ドル)

2006
2007
2007
第1四半期
2008
第1四半期
CBS Outdoor
2,103
2,187
497
462
Clear Channel Outdoor
2,898
691

クリア・チャンネル(Clear Channel)について
Clear Channel Outdoorは、1901年創業した”Foster & Kleiser Outdoor Advertising”が母体。以来1959年、1986年にメディア企業に買収され、1997年Clear Channel 傘下となった。その年、ユニバーサルOutdoorを買収している。ニューヨークのタイムズスクエアの看板は、クリアチャンネルが保有している。
クリアチャンネルは、ラジオチェーン(全米1位)とテレビ局を保有するメディア・コングロマリットである。

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