ホーム > 志村一隆「ロックメディア」2008 >
志村一隆「ロックメディア」
2008年6月掲載
ロックメディア 第15回

コンテンツ・ベンチャー・インタビュー
オウケイノーツ(株)小林将大代表取締役


志村一隆(略歴はこちら)
 昔、ロッキング・オンから“Cut”という雑誌が出始めた頃、20,000字インタビューというのがあって、とても好きでした。アーティストの人生を子供時代から聞いていくスタイルで、こうすればこうなれるのかといつも力みながら読んでいました。人生のディテールは定量的な産業分析よりも知って楽しいことがあります。

 そこで、ロックメディアでもインタビュー記事を連載しようと思います。興味の対象は、オリジナルを生み出す起業家たち。彼らが、どうして起業したのか、普通のサラリーマンだったのか、どうしたら起業できるのか、など自分が昔知りたかったことを聞きたいと思います。

消えた日本人アドバンテージとオリジナルの重要性

 日本のベンチャーはレベルが低いと言う人がいます。人材紹介、広告代理店、ガッツ・ベンチャーとよばれる足で稼ぐ営業系の会社ばかりで、技術に基づいたイノベーションを起す企業が無いという主張です。

 あるいは、海外のビジネスモデルを輸入するタイムマシン経営もベンチャーと言われ、投資対象になっていました。ホンダ、ソニーは世界に行ったけど、楽天は行けないだろう、オリジナリティがなくてもベンチャーと呼ぶんだなぁと不思議に思っていました。

 10年前に通ったアメリカのビジネススクールでは、日本企業対アメリカ企業というテーマが旬な話題でした。日本人なら一般論を授業で話しても、会話が成立していた時代です。「I」じゃなくて、「We Japanese」と発言する人たちばかりの時代でした。

 映画「ザ・プレイヤー」にソニー一行様が登場し、「ダイ・ハード」はナカトミビルが舞台、Styxがミスター・ロボットを歌った80年代、90年代をいまだ引きずっていたわけです。

 ところが、最近アメリカ人にインタビューしても、日本人というだけでは誰も相手にしてくれません。言葉が詰まったときの常套句、「日本市場、興味ある?」というフレーズも、「いやぁ興味ないね」とそっけなく話が続きません。「We」ではなく「I」の切り口を持っていないと、会話が成り立ちません。

 アメリカのコンテンツ・ベンチャーは、英語、中国語、スペイン語のサイトを作ってそれでOKです。チャイニーズ・アメリカンたちが、どんどん起業し、中国市場での成長戦略で、お金を集めるというのが現実なのです。

 日本市場に魅力が無ければタイムマシン経営は成り立たず、ガッツ・ベンチャーは儲かるかもしれませんが、ワクワク感はありません。世界に翔けるのは、オリジナルコンテンツを生み出す企業です。

〜学校に恋愛の授業を〜
 小林将大、オウケイノーツ社長インタビュー

 第1回をお願いしたのは、オウケイノーツ(株)の代表取締役、小林さん。

 僕が彼に会ったのは、2001年の北青山。ベンチャー系の人たちの集まりでした。2000年くらいに起業した人たちは、サイバー・エージェント、サイバード世代から、ちょっと乗り遅れ感があったと思います。それでも、着メロ、占いで急成長するモバイル系のベンチャーが増えていった頃でした。

その後、以前カメラマンをやっていたことを知ったり、突然オーストラリアに行ってしまったり、アメリカ西海岸的な起業家の雰囲気がとても気になっていました。

 今回は、その小林さんが、いかにして恋愛相談をコンテンツ化したのか、起業に至る道のりを、少年時代まで遡って聞きました。

[写真:小林将大氏] 小林将大 [略歴] [ブログ]
1974年 東京都生まれ
1997年 青山学院大学経営学部第二経営学科卒業
2001年 Hoops取締役副社長
2003年 楽天モバイル委員会委員長
2004年 楽天退社、オーストラリアに留学
2005年 コナミ入社
2006年 エアロノーツ設立
2006年 オウケイノーツに商号変更、
オウケイウェイブ子会社、代表取締役社長
みんなの恋愛相談を運営

登校拒否していた中学時代

- まずは、どんな少年だったのか聞きたいんだけど、どこ出身だっけ?

座間市です。駅は、南林間。近所の内田屋書房で、松嶋菜々子がバイトしてたんですよ。同じ歳なんですけど、途中で引越してきたんですね。メガネかけてて、デカいなって。

- どんな子供時代でしたか?

登校拒否児でしたね。中1から中2はほとんど学校に行ってない。3ヶ月ぶりに英語の授業でて、あーわからないなんて・・・

- なんで行かなくなったの?

親が小学校の目の前で印刷屋をやっていて、近所では誰でも自分のこと知ってるって感じだったんですね。「あっ、あの印刷屋の子」みたいな感じで。なんか、急にそういう環境というか、いい子でいるような自分がイヤになったんですかね・・・

- 中学校は荒れてたんですか?

座間市立東中、かなり荒れてました。僕たちの修学旅行は、黒部ダムだったんですけれど、普通京都なのに黒部ダムになったのは、1年上の先輩たちが、京都で集団万引きしたからという・・・

- なんかイジめられたりとか?

いや、中学時代に今と同じ175センチくらいあったし、登校拒否してる間に、柔道の道場に通いだしたんですよ。番長も自分にはカラんでこなかったし、騎馬戦のときも誰もかかって来ませんでした。

- 道場にはちゃんと行ってたの?

そうですね。中2のときから。友達3人で行くはずだったんですけど、結局自分だけ行くことになりまして。やっぱり80年代は、ロッキー、ランボーの時代じゃないですか。スタローン、シュワちゃんにあこがれて、筋肉ついてるのが格好いいなって思ってました。家でベンチプレスやってました。

硬派な高校時代、柔道一直線

- 結構硬派だったんだね

自分、超硬派ですよ。小学校は剣道やってたし。その道場は先生が右翼で、時々休みになるんですよ。捕まっちゃったりして。道場の名前が「回天塾」って言って、そのときはなにも知らないじゃないですか。でも受験のとき教科書読んでて、回天って人間魚雷が出てきて、すべてを理解しました。

- 柔道はいつまで。

高校も柔道部ですね。部長でした。高校時代は、毎日柔道ばかり。でも初段で終りました。2段の試験は、10人に勝たないといけないんですけど、近くに東海大相模があって、絶対勝てない・・・

- 高校はどこ行ったの

県立大和西高校。中3から好きだった子がいて、彼女は一番頭のいい大和高校に行ったんです。自分は頭が良くなかったのでそこには行けないから、そこに一番近い高校で選んだんですよね。開校4年目の新設校でしたけど。

- 高校柔道部はどうでしたか?

ガラスの心臓で、アガリ性なんですよ。ハートの部分が弱かったって今では思います。じん帯切ったり。妹がいて、柔道やってたんですけど。彼女は全然アガラない。兄弟2番目の人って、なんか度胸あって、スポーツでも活躍してる気がする。でも、柔道一直線の高校時代でした。

初恋は、高校3年、失恋で16キロやせる

- なんか、今と違うね。初恋とかは無かったの?

そうですか、それと中学で一緒だったその初恋の人と高3のときやっと付き合えたんですよ。ずーっと好きで、他の人にコクられても全部断ってまして・・・中学校で一番の美人が僕のことを好きだったんですけど、その子の告白も断ってたくらいです。

- ふむふむ

それで、高3のときに、そのずーっと好きだった子に「もうあきらめる!もう会わないでくれ」って言ってしばらく会わないでいたんです。そしたら、その美人の子が、「アイちゃんが付き合いたいって言ってる」って。もうそれからの1年間は最高でした。

- なんで1年なの?

彼女は現役で短大に行ったんですよ。僕は浪人。一緒に河合塾行ってたんですけど。よくある環境の変化というやつですね。ある日フられて。2ヶ月で16キロやせました。この身長で58キロになってしまって、そのときの記憶はほとんどない。

- フムフム

それでも、当時はストーカーとかないですから。駅で待ち伏せしたり、手紙やりとりしたりしてたんですね。浪人のときは代ゼミ行ってて、元ヤンの吉野敬介先生に相談したり。彼女も大学で出会った人と付き合ってたみたいなんですが、自分のほうが話しやすいみたいな感じで。そしたら、12月31日にマイケル・ジャクソンが来るので、一緒に行こうと誘われたんですよ。それで、自分は受験の目の前なのに、なんてこと言うんだ!って怒ったんです。それで、そのままになってしまいました。

- 怒るよねぇ

でも、渋谷でバッタリ会ったりするんですよね。最後に会ったのは、友達の結婚式で、僕は当時カメラマンしてたので、撮影に呼ばれて、地元の友達の結婚式だったので、彼女も来てたんですけど、話はしませんでした。23歳で結婚したらしいという話は聞きましたけど。大学3年まで、結局彼女の影を引きずって、恋愛できませんでした・・・

オーストラリア留学で、ココロの豊かさに気づく

- イメージ狂いますねぇ。それでカメラマンになりつつ、僕と会ったときは、Hoopsをやって、楽天に居たけど、いきなりオーストラリアに行ったよね

そうですね。楽天でいいポジションに居たので、結構外人から会社買収や提携の話の窓口だったんですね。それで、自分は英語できないんで、松崎さんっていう上司の横で、うなずいてるだけなんですけど、英語とか世界で視野を広げたい欲求が強まってきまして。ちょうど、友達がオーストラリアって良いところだと言ってたので、試しに行ってみて、これだ!と思ってそのあと1年間行くことにしました。

- オーストラリアから帰ってきたとき、小林君が「外人は、小さい頃から宗教が身近にあるためか、とてもやさしい」と言ったんだよね。とても印象的な言葉でした。

そうですね。オーストラリアで感じたのは、とにかく「こころ」の部分がみんな豊か、それに比べて自分はどうだったんだろう、ということでした。

失恋が起業のきっかけに、恋愛相談をモバイルで

- それで、コナミに居たと思ったら、恋愛をコンテンツにして、会社を立ち上げたって聞いて、スゴいって思ったんだよね。

そうですね。これは、そのとき付き合ってた彼女にフラれたのがきっかけなんですけどね。

- ほー

もう結婚しようと思ってたんですけど、ある日彼女が部屋で気持ち悪くなって、救急車呼ぶことになったんですよ。でもどこも開いてなくて、ようやくいれてもらった病院で点滴打ってたんですけど、全然ダメなんで、そのまま広尾病院に移ったんですよ。それで、そのまま入院しちゃったんですけど、彼女の両親も駆けつけたり・・

- へぇ、じゃあ感謝されたり、

それが、なんか上手くいかず。両親にとってみたら、初めて自分も会うわけですし、どうも・・ それで、彼女が退院したら、そのまま別れましょうって言われました。

- な、なんで

多分、彼女にとって、入院するときに、吐いたり、醜い部分を見せてしまったのが、耐えられかったんだと思います。

- 不思議だねぇ

そのとき、相談してたのが、「OK Wave」だったんですよ。もう夜も寝つけなくて、明け方、相談を書き込むじゃないですか、それで会社行くと、もう3件くらい答えが返ってきてるんですよね。それで、ケータイだったら、すぐまた返答できるのに、って思ったのがきっかけです。

- なんかウマくまとまってますが

でも、ホントなんです。それで、ケータイ用にQ&Aできるサイトを友達のプログラマーに作ってもらって、やってたんですね。そのとき、OK Waveの兼元社長がちょうど本(グーグルを超える日 オーケイウェブの挑戦)をだしたんです。兼元さんはもともと楽天のときから知ってたんで、感想をメールしたんですよ。久しぶりにコンタクトとってみたんですよね。それで、自分の会社の話をしていたら、是非買収したい、ということで、今に至るという感じです。

- 恋愛をコンテンツにするというアイデアはホント目からウロコなんだけど、恋愛とか相談って、カメラとか小説のように世間に表現したいものじゃないよね。それを、どのようにコンテンツ化しているの?

恋愛は最高のエンターテイメントじゃないですか。演劇、小説、映画、もう恋愛を対象にしたコンテンツで溢れてますよ。デジタルを使って、その恋愛コンテンツをワントゥオールで配信すれば、とても儲かるんだと思うんですが、自分は儲けの代わりに感動を共有したいなと。

コミュニケーションはアナログのまま

- DVDでも感動するけど

セカチューは、自分はまさに共感できるんですけど、感動とかコミュニケーションとかはアナログだと思うんですよね。ダビングしてウォークマンで聞いたり。テクノロジー、デジタルは使うけれど、その感動部分はアナログのまま残ってるのがホントだと思います。

- 表現の目的のひとつは、自分の感動を共有してもらうことに快感を得ることだもんね

そうですね、恋愛相談も共有してもらうことに意味があるんじゃないかと思ってます。そういう意味では、サイトでは恋愛相談した人が答えを書いてもらった人にお礼をするんですが、どうしたらお礼を増やしていけるのかを考えてまして、最初はポイント制にしてたんですね。でもあまり増えなくて。それで、あなたが誰かに「ありがとう」と書き込みしたら、ありがとう1件につき1円を「JOICFP」という足長おじさんのような団体に寄付します、ってことにしたんです。そしたら、お礼する人が増えたんですよ。

- オモシロいね。自分の感謝の気持ちが、誰かの幸せにつながるという仕組み。それって、教会で懺悔しながら、聞いてる相手でなくて神に感謝するというのと同じシステムなのかな

そうですかね。とにかくココロの余裕というのを、恋愛相談でも感じてほしいです。ココロの余裕がないと、恋愛も単なるパーツ交換になってしまうんですよ。

学校に恋愛の授業を

- パーツ交換だし、マニュアル化もあるよね

日本には学校で恋愛の授業がないですよね。オーストラリアにいたとき、一緒に住んでいたフランス人に、初キスはいつ?って聞くと大抵幼稚園くらいなんですよね。それで、初体験は?って聞くと、たいがい大学1年が多かったんです。子供のときにキスをして、初体験までに、いろんな経験をしてるんですね。ところが、日本だと自分もそうなんですけど、初キスと初体験って同時なんですよ。余裕を持った恋愛が生まれないんですね。だから、マニュアル化もする

- 断られたり、こういう反応するんだみたいなケーススタディがないよね。

今の子は、それをゲームでやっちゃうんですよね。あるいは、NANAという少女マンガが恋愛のマニュアルみたいに言われていて、その通り行動しようとする。最近は、男の子だけでなくて、乙女ゲームっていって、女の子がやるゲームもある。

- ゲームしてると、自分もそうだけど現実から離れたくなるね

そうですね。でもそれだとこの世の中なんなの?ってことになりませんか。自分は今、マレーシアの人とランゲージエクスチェンジで、週1回話すんですけど、やっぱり相手がいて話してると、いろんな反応でその人や国の文化を知ったりして、だんだんリスペクトの念がわいてくるんですよね。

ゲームが恋愛マニュアル

- でも人間の本能として傷つきたくない、快感を得たままいたいっていうのはない

みんな豊かですからね。得られると思っている快感をゲームとかですでに擬似体験してしまっている

- それが現実になっているのかね?二次元で得られるものよりも、もっとより深いものが得られることは分かってるけど、ゲームでいいや、っていう感じ。自分でハードルあげない、というかあげる必要ってあるのって感じ

今の子は欲望がないですよね。ちょっと前は、芸能人になりたい、有名になりたい、という若者がいて、それはそれで眉をひそめてたわけですけど、最近話してると、それすらなりたくない、今のままでいいという・・・

- 希望を持たないのが、下流という定義だね

合コンしても面倒なんで、メアドも交換しない。恥ずかしくて言い出せないんじゃなくて、必要ない。

- フーム

いつか義務教育で恋愛を教えるように働きかけていきたいですね。性教育は、体の仕組みの理解ですよね。男女とも体に触れるまでの道筋が分からなくて悩んでいるというのに。やはり、心の教育が必要な時代だと思いますね。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。