ホーム > 志村一隆「ロックメディア」2008 >
志村一隆「ロックメディア」
2008年12月掲載
ロックメディア 第21回

Digital Hollywood Fall 2008レポート
Hulu(フールーと呼んでください)の成功→テレビぽさの追求


志村一隆(略歴はこちら)
ピンクベリー!ロサンゼルスに行くたびに、いつも会うイッキ君は、向こうの大学を卒業して2年目、映画配給会社を立ち上げ、プロデューサーになる夢を見ている。昨年会ったときは、MySpaceは知っていたが、Facebookは知らなかった。今年は、iPhoneは持っていたが、Hulu(フールー)は知らなかった。

アトランタ、エモリー大学でクラスメイトだったジェフは、2年前までIT・メディア系のコンサルタントとしてキャップ・ジェミナイにいた。先週、日本に来たので久しぶりに会ったら、Hulu・・・知らなかった。彼は、コムキャストに月120ドルくらい払っている。電話はVoIP、インターネットは3Mbps、YouTubeくらいがやっとだという。

それでも、「Hulu」は、2008年3月の開始以来、視聴ビューを伸ばしている。といっても、YouTubeの約40分の1に過ぎない。(comScore 2008年9月Nielsen 2008年11月)しかし、全米でTop10 の動画配信サイトにはなっている。

Huluの成功、キーポイント → 「テレビ」ぽさ

講演するカイラーCEO(2008年4月NAB Show)
講演するカイラーCEO(2008年4月NAB Show)
Huluは、アメリカのテレビ局、FOX(シンプソンズとかアメリカン・アイドルとか)とNBC(ヒーロー ズとかサタデー・ナイト・ライブとか)が出資して作ったサイトで、Gyaoのオンデマンドタイプをイメージすればよい。好きなときに好きなドラマやコメディが見れる。

Gyaoがそうだったように、余計な設定とか、なにかをインストールしてください(Joostは必要だった)、ということもない。Gyaoが一時、大人気だったのと同じ理由が、Huluにも当てはまる。

Gyaoとの違いは、Huluはシンプソンズ、ヒーローズが思う存分見れることだ。テレビをつけなくても、同じ番組がパソコンで見れてしまう。YouTubeで流れてるヒーローズは、誰かが録画したものだけど、HuluはNBCがそのまま流している。

Hulu成功で、変わること 三方一文得

Huluの成功で、インターネットの動画広告市場には、テレビと同じ「●●提供」というマス広告の手法が持ち込まれる。

プリロール広告が終った画面(Hulu)
プリロール広告が終った画面(Hulu)
Huluの広告枠は、動画が始まる前の30秒枠がメインだ。シンプルでわかりやすい、コンテンツは知名度のあるテレビ番組、となれば大手企業の宣伝部でも出稿しや すい。

コンテンツホルダー(番組の権利を持っている企業)にとって、広告を見てもらえれば(それがクライアントにアピールできれば)、テレビであろうとインターネットであろうとどこでもよい。クライアントも、同じ。消費者(我々)にとっても、好きなお笑い芸人のイロモネアだけ見れれば、テレビじゃなくても問題ない。

ということで、Huluが成功すればするほど、マス広告モデルがインターネット上で成功、クライアント、メディア(メディア・コングロマリット)、消費者の3者全員が喜ぶ構図となる。

Hulu成功で、わかったこと


'Less is More'とサイトコンセプトを説明するカイラーCEO
Huluは、テレビぽい画面を作り、テレビぽい広告枠を用意した。刺激的なイノベーションにも関わらず、ビジネス面では穏健派だ。社長のカイラー氏(アマゾン出 身)が、2008年のNABで講演したときも、テレビのようなサービスであることを強調していた。

とかく、破壊的技術、崩壊といった言葉は、刺激的でもてはやされる。しかし、世の中は、伸びる新人と、中間層と衰えていく人たちの組合せだ。若者は年上世代を相手にしないと、商売は廻っていかない。

好きな場面だけ切り取って、ブログ、メールで転送(Hulu)
好きな場面だけ切り取って、ブログ、メールで転送(Hulu)
ベンチャー企業、唯一の応援団は、自分のお客さんである。Huluは、新しい!というより便利だ!にポイントを置くお客さん目線がうまくいっている要因だ。

切り取り、エンベッドを実際にしてみた(Hulu)
お客さんが買いやすいように販売して成功した事例はたくさんある。例えば、三越の発祥、越後屋呉服店だって、今から350年前に、着物をお客さんが好きな分だ け買える「着物オンデマンド」で人気を博した。(江戸博物館に行ってガイドツアーに参加すると説明してもらえます)

業界実力者が集まって、規格をまとめあげ、各々持ち帰って製品化、消費者がそれを素直に買う、という仕組みのアンチテーゼが「消費者主権(カスタマー・セントリック)」である。

アメリカNAB(テレビ局の団体)リール会長は、「テレビにインターネットのイノベーションを」と言った。とあるハリウッド映画会社の人は、「規格、標準化とか、そんな時代じゃないよ」と、語っていた。今やっとそれを体感している。

今年ももうあと1ヶ月?あと1ヶ月なのか・・・(‘上京アフロ’風)って感じるのと同じくらい、インターネットのイノベーションは早すぎて、オモシロイ! 誰か、一緒に研究しませんか。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。