昨年一年間の海外の通信業界での主な動きを振り返ってみよう。
(1) 超巨大通信会社(新々AT&T)の誕生
昨年末も押し詰まった12月29日、FCCはAT&TによるBell Southの買収併合を承認した。AT&Tは、ベル系地域電話会社のSBCが長距離通信会社で元親会社のAT&Tを買収して「新AT&T」となったばかりだが、その余勢を駆って兄弟会社のBell Southの買収を目指していた。
これで1984年の「AT&T分割」により「ベル・システム」が解体され、発足したベル系地域電話持株会社7社は、AT&T、VerizonおよびQwestの3社に統合されることとなる。
「新々AT&T」は、22州で事業を展開し、6,870万のローカル回線を運営し、売上高1,170億ドル(約14兆円)、従業員309,000名(このうち10,000名は3年間で削減予定)、東西両海岸を結ぶ巨大通信会社の誕生となる。
この巨大合併については、司法省独禁局はすんなり承認したものの、FCCでは民主党系の委員が懸念を表明し、承認が2か月程度遅れた。その過程で様々な条件が附けられた。
1990年代後半にブームとなった通信会社の「規模の追求」による合併熱も、いわゆるITバブルの終焉で一時下火になっていたが、1996年電気通信法制定当時では考えられることすらなかった超巨大合併が実現したことになる。
(2) 通信機器メーカーでも巨大合併
2006年3月、アルカテルとルーセント・テクノロジーズが134億ドルの合併で合意した。
仏米合弁の売上高250億ドル、従業員数88,000の巨大電気通信機器メーカーへ。ただルーセント傘下のベル研の米国軍事機密の扱いが難点だったが、特別措置を条件に11月に米国大統領も承認し、発足にこぎつけた。
このほか、NokiaとSiemensが製造ラインを統合し、JVを形成へ。新会社はNokia Siemens Networksと呼ばれ、300億ドルの資産を保有することとなる。
(3) 通信会社のテレビ事業への進出、目覚まし。フランチャイズ免許手続の簡素化も追い風
通信事業者のテレビ事業への進出が目覚しい。米国第二位のベル系地域電話会社Verizonは、FTTH(フアィバ・ツゥ・ザ・ホーム)のために巨額を投じて光ファイバ網の建設にまい進しており、通信のみならずテレビの伝送にも積極的に進出しつつある。Fiosという商標でのテレビ事業は、地方政府からフランチャイズ免許を取得して米国各地でサービス提供を開始している。
ベル系地域電話会社トップに躍り出た新々AT&T(元SBCが長距離通信会社AT&T、さらには兄弟会社のBell Southを併合)も、FTTNでIPTVサービスの展開を策している。
現行の1934年通信法によれば、テレビ事業のためには、州よりも下の郡、市町等の地方政府からフランチャイズ免許を取得しなければならないこととされており、電話会社等が新規にテレビ事業を始める場合には、全国で3万を超える自治体に申請が必要となる。この不便を解消するため、既に一部の州では、「州一本の免許」で足りるとする州法が制定され、連邦議会でも免許簡素化や免許審査期間を短く制限する法案も審議された。
通信料金は競争で大幅に低廉化しているのに、ケーブル(CATV)料金は事実上地域独占で値上げされてきており、これに対する批判がこうした当局や議会等の動きの根底にある。
(4) 通信会社とケーブル会社の戦いの熾烈化
通信会社のテレビ事業への進出は、電話の普及による飽和状態のため、売上高が横ばいないし停滞していることと、光ファイバ網の容量の有効活用が背景にある。一方、ケーブル会社のほうもケーブル設備を活用した電話事業への進出を図り、また、Sprint Nextelと提携して携帯電話事業にも進出を策すなど、テレビ、インターネット・アクセス、通信
のすべてをバンドルして提供するいわゆる「トリプル・プレイ」に力を入れ始めている。
これからは、大手の通信会社とケーブル会社との激戦になるとする見方が多く、FCCが最近、AT&T/Bell Southの巨大合併を認可したのも、ケーブル会社との「異業種間競争」(intermodal competition)
があるので独占の心配はないという考え方が背景にある。
(5) 地方自治体によるWi-Hi事業の盛行
このところ市町によるWi-Hi事業が相次いでいる。計画、運営までを自治体自身が行う。サンフランシスコ、ニューヨーク、パリなどの市が住民の利便のために計画しており、市全域でWi-Hiサービスが可能になろうとしている。また、僻地のVermont州は、近隣のボストンからビジネスを誘致するために同様な計画を進めている。 運営コストを低く抑えるため、広告収入方式をとろうとしているところもある。電気通信会社は、工事や運営の受託をめぐり競争し始めている。
2006年1月 |
通信会社のテレビ事業進展
- Verizonのテレビ事業進出は、Texas州Kellerでのテレビ事業は、立ち上げから僅か3か月で市場の20%を獲得。Florida, Virginiaでもサービスを開始しているが、今月遅くにさらにNew York, California, Massachusettsでも開始の予定。
- AT&TもSan Antonioでインターネット方式のビデオ・サービスを立ち上げ
ケーブル会社もSprint Nextelと提携、巻き返しへ
- Comcast , Time Warner の cable division, Cox Communicationsが携帯電話会社のSprint NextelとJVを結成
業績不振のC&W、大幅リストラ。トップ退任。
- Cable & Wireless、組織の大幅改革を発表。英国内事業と国外事業を分離する計画。CEO Francesco Caioは4月に退任へ。
ニューヨークの地下鉄、駅での携帯電話利用のため大手4社連合等競争
- 地下鉄側は支出なしで、入札の落札者が携帯電話ネットワークの設計、建設、運営、保守を一手に引き受け
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2月 |
大統領、3人目の共和党系FCC委員候補を指名
・ 大統領は、Robert M. McDowellをFCCの共和党系第三の委員として選択。電気通信Lawyerで、大手電話会社と対抗する小規模電話会社の業界団体の役員。
最小のベル系地域電話会社Qwestの苦境続く
- Qwestの第4四半期は528百万ドルの損失で一年前の139百万ドルより悪化
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3月 |
AT&T、Bell Southを買収へ
- AT&TとBell Southは、両者が合併することで合意。最大の通信会社へ。年末までに完了を希望。
アルカテルとルーセント・テクノロジーズが合併で合意
- AlcatelとLucent Technologies(LT)は、134億ドルの合併で合意。仏米合弁の売上高250億ドル、従業員数88,000の巨大電気通信機器メーカーへ。ベル研の軍事機密の扱いが難点。
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4月 |
米国で通信会社のテレビ事業への進出に賛成の論議高まる
- 下院の電気通信小委員会は、電話会社がテレビ・サービスを提供する場合、地方政府ごとではなく、全国一本の免許方式の法案を採択。
- FCC委員長も現行のフランチャイズ方式では免許までに長期間かかり電話会社のテレビ事業進出が難しいと批判。
- California州も州一本の免許方式の法案を審議。
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5月 |
米国議会両院で新テレコム法案
- 通信会社のビデオ事業への進出の容易化などを内容とする新テレコム法案が両院で審査中。このほかネットワークの中立性なども。会期内の成立の見通しは50:50。州レベルでもカリフォルニアなど電話会社の進出を容易にする州一本のフランチャイズ等の法律が次々に成立。
Verizon、東北僻地の地域通信事業を売却へ。
- 米国東海岸北部の最大手のベル系地域電話会社Verizonは、Vermont, New Hampshire および Maineの各州で加入者回線を20-30億ドルで売却することを検討。リソースの集中を狙う。
米国の自治体でWi-Fiネットワークの建設ブーム
- 自治体主導のWi-Fiネットワーク構想、花盛り。サンフランシスコ、シアトル等、続々。Rhode Island州では近隣のボストンの企業を同州に誘致することを狙い、州当局が構想。
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6月 |
Telstra、広帯域網の貸与義務に反発、FTTN計画を白紙化
- 豪のTelstra、政府の「競争事業者への広帯域設備貸与の義務化」構想に反発。広帯域網(FTTN)拡充の白紙化も。
Nokia/SiemensがJVを形成へ
- NokiaとSiemensが製造ラインを統合し、JVを形成すると発表。新会社はNokia Siemens Networksと呼ばれ、300億ドルの資産を保有。
電力線利用の広帯域サービス、カリフォルニアで認可
- カリフォルニアの規制当局、電力会社が電力線を用いる広帯域サービス[Broadband over power line (BPL)]の販売を認可。
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7月 |
FCC、高度無線サービス用の周波数オークション
- 8月9日から免許オークション。ケーブル事業者も提携して応札へ。
Ofcomは、BTの小売サービスの料金規制を8月1日から撤廃
- 英国の規制当局Ofcomの規制緩和にあわせBTは料金の一部を値下げ
ニューヨーク市とパリ市、全域のWi-Fi網構想
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8月 |
FCC、電力線利用の広帯域の規則を制定
- 広帯域サービスへのアクセスと自前の設備に立脚した広帯域プラットフォームの促進のためとして、電力線利用広帯域アクセス・システム(Access Broadband over Power Line (Access BPL) systems)のための規則を制定。既存の無線サービスに対する有害な干渉防止のためのセーフガードにも配意。
米国での電波オークション始まる
- FCCが高度無線サービス(AWS)向けの周波数のオークションを開始。
ケーブル事業者もSprintと提携しオークション用の共同体を形成。
米国のVoIP加入者、690万に急増
- VoIPの電話サービスは第二四半期に21%増加して690万加入に達した。ただしVonageなどの専業の事業者よりはケーブル事業者の顧客の増加に負っている。
サービスのバンドルを巡る電話会社とケーブル会社の競争が熾烈化
- 米国では、ケーブル会社とテレコム会社の戦いがエスカレート。AT&TもVerizonに続き6月にビデオ市場に参入。携帯電話をも加えた「四重プレー」を追及。
欧州の事業者は、トリプル・プレーをxDSLで
- 欧州の電気通信事業者は、米国とは異なり、今後5年間は、トリプル・プレーを光ファイバのFTTHなどによらず、巨額の投資を避け、FTTN plus ADSL2+ or VDSLなどのテクノロジーに依存。
豪政府、Telstraの残りの持株放出を決定
- John Howard首相は政府の保有するTelstra株式の51.8%の放出手続の開始を発表
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9月 |
FCCの無線サービス免許のオークション、終了
- FCCの高度無線サービス (Advanced Wireless Services)免許のオークション、9月18日に終了。対象とされた1,122免許のうち1,087免許が104のオークション参加者により獲得された。
Verizon、野心的な光ファイバ網計画の詳細公表
- 2010年までに230億ドルを光ファイバ網に投ずる予定。約1,800万の家庭(同社の営業区域の家庭の半数)にサービス提供を計画。
オランダ政府、KPNの全持株(8%)を放出へ
AlcatelとLucent Technologies、株主から合併承認を取り付け
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10月 |
AT&TによるBell Southの買収審査、FCC内部で波乱
- 司法省独禁局も承認し、FCCの委員長も承認の意向と伝えられたが、FCCの民主党系委員が更なる慎重審議を要請。改めてコメント募集。
AT&Tのテレビ・サービスU-verseに技術的困難か
- AT&Tは本社所在地のSan Antonioだけでこのサービスを開始し、15-20の市場でも年内に開始、2008年までには1,900万の家庭に普及させるとしているが、まだせいぜい500どまりと推定されている。IPテレビの技術的制約も取り沙汰されている。
Sprintの業績低調、会長も退任へ
- Sprint NextelのTim Donahueは年末までに退任する。後任は未定。
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11月 |
FCC、電力線利用のインターネット・アクセス・サービスを「情報サービス」として区分
- 規制の重い「電気通信サービス」ではなく、規制の軽い「情報サービス」と認定。事業者の広帯域展開を促進。
米大統領、Lucent Technologies/Alcatelの合併を承認
- Bush大統領、Lucent TechnologiesとAlcatelの118億ドルの合併を、両社が機密に属する米国政府との契約の秘密確保のため特別の措置をとることを条件に、承認。
米国での広帯域サービスの普及の遅さにFCCの一委員も危機感
- 民主党系のMichael J. Copps委員は、ワシントン・ポストに寄稿して、米国での広帯域サービスの普及の遅れは米国経済にも重大な悪影響をもたらすとして、料金の値下げや競争促進のためにFCCは戦略を追及すべきだと提言。FCCのこれまでの方針も批判。
ドイツ・テレコムのCEO退任
- DTのKai-Uwe Ricke第三四半期の業績不振でCEOは退任。同社の経営委員会は無線部門の長Rene Obermannを後任として選定。
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12月 |
FCC、最終段階で混迷していた「AT&TによるBell Southの買収」をようやく認可
・12月29日に4委員の賛成で承認。様々な条件を付す。
FCC、ビデオ市場への新規参入者に対するフランチャイズ免許の付与規則を採択。地方政府に対し、迅速な競争参入免許の付与を義務付け。
BT、新21世紀ネットワークを開始
- BTは次世代ネットワークの最初の段階として、Cardiff近郊のWick村で21CN(21st Century Network)へ最初の顧客を移動させた。Cardiff等が新インフラへの移行の次の対象。
BT、IPTVサービスを開始
- BTは、IPTVサービスを開始した。近い将来に200万ないし300万の加入者の獲得を目指す。当面は既存の広帯域顧客に提供し、月額料金はとらない。
米国下院の電気通信小委員会委員長に民主党のMarkey議員
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