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2007年4月掲載

着々地歩を固める米国電話会社のテレビ事業。
FCCも免許取得で援護射撃。

 米国では、電話会社のテレビ事業への進出が着実に進み、これまでのCATV事業者(ケーブル事業者)の独占に大きな風穴を開け始めている。とくにベル系電話会社の大手2社(AT&TとVerizon)は、巨額の設備投資でFTTH(FTTP)やFTTNなどの光ファイバ網を充実し、これまでの音声、高速インターネット接続にテレビ・サービスを加えて、いわゆる「トリプル・プレー」を目指している。

■電話会社奮闘----最近のニュース

 最近のニュースだけでも、電話会社は次のように地歩を固めつつある。

  • AT&T、U-verseテレビ・サービスをPCや携帯電話にも
    Bloomberg (2007/3/22)
    AT&Tはそのテレビ・サービスのU-verseをパソコン、そしてその後さらに携帯電話でも利用できるように計画している。

  • AT&Tのビデオ・サービス、6州15市場へ
    Multichannel News (2007/3/20)
    AT&TのU-verseビデオ・サービスは、Kansas Cityでも開始。6州15市場となった。

  • AT&TがMilwaukee市と締結したビデオ・サービスの新免許方式
    Milwaukee Journal Sentinel (2007/3/16)
    AT&TはこのほどMilwaukee市当局との間で、この地域でのIP方式のビデオ・サービスの提供に関するフランチャイズ類似の契約を締結した。他のコミュニティや立法措置の一つのモデルとなる可能性がある。
    3年間の契約で、AT&Tは総収入の5%をライセンス・フィーとして市当局に支払う。これはTime Warnerが現在、フランチャイズ契約で市に支払っているものと同じである。AT&Tはさらに総収入の2%を公共、教育および政府関係の番組の助成のために支払うこととなっているが、これはTime Warnerのケースより1%多い。

  • Verizon、最初の自前のローカル・テレビ・チャンネル
    Broadcasting & Cable (2007/3/26)
    Verizonは、ワシントン地域で最初の自前所有・運営のローカル・チャンネルを開始する。

  • Verizon、カリフォルニア州でビデオ・サービスの認可取得
    New York Post (2007/3/9)
    カリフォルニア州公益事業委員会は、Verizonに対し南カリフォルニアの45のコミュニティでビデオ・サービスを提供する認可を付与した。このFiOSサービスは、26のHDチャンネルを提供するもので、Time Warner CableやCharter Communicationsのケーブル会社に対抗する。
    Verizonはすでに18のカリフォルニア州のコミュニティで旧方式の個別認可を経てテレビ・サービスを提供しているが、カリフォルニア州が1月1日から施行した新しいフランチャイズ法に基づき、州が交付する認可制度となった。 

 しかし、FiOSはまだ10州で200程度の都市でサービス提供をしているにとどまり、採算にのるクリティカルマスに達するにはまだ拡張が必要である。

■大手2社ともに巨額投資、テクノロジーと戦略には相違

 AT&TとVerizonの大手電話会社2社は、テレビ事業の土台となるローカル光ファイバ網の建設に巨額を投じている。ことにVerizonはいちはやく数年前から2010年までに230  億ドルをこのためにイヤマークしており、ウオールストリートなどではかかる巨額の投資を危ぶむ声も多く、株価もそのために値下がりしたが、CEOのSeidenbergは動じなかった。

 ただ、両社間では、テクノロジーには違いがある。VerizonのFiOSはケーブル会社とほぼ同様なテクノロジーで、土台のインフラはFTTP(またはFTTH)(顧客の構内まで光ファイバを直接引き込む)であるのに対し、AT&TのUverseではIPTVというインターネット方式であり、インフラもFTTN(顧客から4,000フィートほど手前のノードまでは光ファイバだが、ノードと顧客を結ぶのは銅線)である。

 FTTN方式は、建設投資額を大幅に圧縮できるメリットがあるが、現在のテクノロジーではせいぜい20Mbps程度が限界であるとされる。FTTPの場合の100Mbpsよりだいぶん遅いサービスであり、将来の動画時代に対応できるのかが疑問とされているが、会長兼CEOのWhitacre Jr.は強気で、いずれテクノロジーの改善で将来は十分な高速サービスを提供できるだろうとしている。ただ、IPTVのMicrosoftのソフトウエアのトラブルで一部混乱しているとの報道もある。

 テレビ事業の展開戦略でも両社間に開きがある。Verizonは既存のケーブル会社と同様なフランチャイズ免許を多くの地方自治体と交渉して獲得し、技術的にもケーブル会社の既存のテクノロジーに近い手法で展開しつつあるので、これまで順調に地歩を固めつつある。

■議会やFCCも援護射撃

 連邦議会やFCCは、ともに電話会社のテレビ事業進出に大いに賛成で、具体的にもいろいろな促進策をとっている。州政府も同様である。その背景には、電気通信料金が競争で大幅に低廉化したのに対し、ケーブル料金はわずかに衛星テレビからの競争はあるが事実上の独占を背景に、値上がりが続いてきたのをなんとかしたいとの思いがある。FCCのMartin委員長は、「1995年には月額22.37ドルだったのが2005年には43.04ドルとこの10年間で93%も値上がりしている」としている。

 これまでテレビ事業をほぼ独占してきたケーブル(CATV)事業者は、1934年通信法に基づき、事業開始に先立ち、郡や市町などのコミュニティ当局から「フランチャイズ免許」を取得しなければならないこととされている。新規にテレビ事業に参入する電話会社は、このままでは地方の当局に申請しフランチャイズ免許を取得しなければならず、全米で3万件もの申請、交渉の必要がある。

 そこで、テキサス州やカリフォルニア州では、州一本でフランチャイズ免許を取得することで足りるとする州法が成立し、大幅な簡素化が図られ、他のいくつかの州でも追従の動きが顕在化している。また、連邦レベルでも、議会の下院と上院でフランチャイズの簡素化をも内容とした新法案が審議されたが、会期終了で一旦廃案となった。

■FCCの今回の措置

 FCCは、2006年12月にフランチャイズ制度の問題点を明らかにし、地方政府の免許申請審査期間を制限するほか、新規参入を阻害する措置をあらかじめ包括的に無効とする規則を制定した。このほど3月5日にようやくその規則全文が公布された。

 今回の新たな規則の序文でFCCはまず次のように述べている。

本件報告および命令において、われわれは、1934年通信法第621条(a)(1)の実施に関する規則とガイダンスを採択する。この条項は、フランチャイズ認可機関がケーブル・サービスの提供のための競争的なフランチャイズの付与を正当な理由なく拒否することを禁じている。FCCは、現在、地方の様々な管轄でのフランチャイズ付与の手続は、参入に対する不当な障壁を形成し、ケーブルでの競争の促進および迅速な広帯域サービスの展開という相関連した連邦としての目標の達成の障害となっていると認定した。われわれはさらに、FCCがこの問題に対してアクションをとることは、その権限として認められているとともに必要でもあると認定する。したがって、FCCは、地方のフランチャイズ機関、すなわち、郡ないし市町レベルのフランチャイズ機関[county- or municipal-level franchising authorities ("LFAs")]が競争的なフランチャイズの付与を正当な理由なく拒否しているのを是正するための手段を採択するものである。われわれは、本日採択された規則とガイダンスが、新しいケーブル競争事業者によるビデオ番組配信市場への参入を促進するとともに、FCCの職責に沿った形での広帯域の展開をも促進することになるのを期待するものである。

 FCCは次のような現行制度の問題点をあげ、対応措置をとった。

現行の制度の問題点

  1. 地方政府が新規事業者のテレビ事業フランチャイズ申請を審査せずに長期間放置
  2. へき地も含め広大なサービス地域全域のインフラ建設を強制
  3. 収入の5%以上の免許フィーを禁止した法を上回る免許料を要請
  4. 公衆、教育、地方政府の無償/優遇チャンネルの義務付け

新規則の骨子

  1. 地方政府に対し、新規の競争フランチャイズ申請を、90日間(道路使用権等を持つ新規事業者の場合)または180日間(その他の申請者)以内に付与または却下の決着を義務付け
  2. 過大なインフラ建設の義務付けの禁止
  3. 法定上限以上の免許料の禁止
  4. 公衆、教育、政府関係のチャンネル優遇義務付けの禁止
  5. FCC規則に反する地方の措置を事前に包括的に無効(preempt)と宣言

 FCCのMartin委員長は、付帯声明で以下のように述べている。

  • 電話会社たちはビデオ提供のためネットワークの改良に努めている。新規事業者が熱心にビデオ・ネットワークへの参入を求めているが、一部の地方機関が参入を著しく困難にするようなプロセスを作っているといわれる。一年以上も申請をも放置したり、水泳プールやレクリエーション・センターの寄付を条件にしたりするという例も聞く。

  • 1995年には月額22.37ドルだったのが2005年には43.04ドルとこの10年間で93%も値上がりしているのだから、競争はぜひとも必要である。

  • FCCの今回の措置は、議会が第621条に込めた願いに沿ってかかる不当な規制面での障壁を除去するものである。

  • 広帯域サービスの普及促進こそ委員長としての私のトップ・プライオリティである。

■一部委員や議会に反対意見も

 ただ、FCCの2名の民主党系委員は、次のように声明を出し、反対した。

  • 今回のFCCの措置は、地方政府の権限を連邦のそれで置き換え、何が不当かの判断も地方のそれを連邦のそれに置き換えるものである。伝統的な「連邦と地方」の関係に反する措置である。
  • 地方政府の悪いケースも、一部の例にとどまり、挿話程度であって、preemptといった強硬措置を取るのはもっと慎重に行うべきである。
  • FCCは規制当局であり、立法府ではない。今回のFCCの命令は、「規制を装った立法行為」(legislation disguised as regulation)である。

 また、議会でも3月14日に、下院の商務委員会の電気通信小委員会は、FCCの5名の委員全員を召喚して、各自からFCCの全般について報告・意見を聞くとともに質疑を行ったなかで、商務委員会のJohn Dingell委員長は、FCCが最近制定した電話会社等のビデオ事業への参画を容易にするため地方政府のフランチャイズ免許に関し審理期限等を制限する規則に対し、行政府の権限を逸脱し議会の職域を侵すとして厳しく論断した。

 いずれの意見が正しいかはなかなか難しいが、FCCが広帯域インフラの整備促進と、ケーブル市場での競争促進という目標に決然と立ち上がった姿勢は評価できるのではないであろうか。

寄稿 木村 寛治
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