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2007年5月掲載

FCC、ようやく広帯域サービスの普及策の見直しに動き出す

 高速インターネット・アクセス等の高度サービスの立ち遅れが厳しく指摘されている米国で、FCCがようやく政策の見直しに立ち上がる。

 FCCは、4月16日、「広帯域サービスの提供の現状調査」と「普及促進政策の改定」の二つの手続を開始したと発表した。

■キッカケは、FCC一委員の批判

 今回のFCCの動きの直接の引き金となったのは、FCCの一委員による内部告発的な批判である。11月8日の有力紙ワシントン・ポストに、FCCの民主党系のMichael J. Copps委員が寄稿して、「米国での広帯域サービスの普及の遅れは米国経済にも重大な悪影響をもたらす」とし、「料金の値下げや競争促進のためにFCCは早急に戦略を追及すべきだ」としている。

 同委員によれば、
「ITUの調査でも、米国の広帯域サービスの普及率は世界で15位であり、料金等の他の要因をも考慮した場合には21位で、Estoniaの次にくる。アジアや欧州では25-100Mbpsなのに、米国ではその1/20の速度のサービスに対し2倍の高い料金を支払っている。」
という。

 Copps委員は、さらにFCCが有効な普及策をとらず、その上米国の遅れを率直には公表せず、事実を曖昧にしようとしているとし、事実を直視しようとしないFCCを次のように厳しく批判している。
「FCCの報告書は、われわれが世界の他の国々に遅れかかっているという事実を曖昧にするようにデザインされているように見える。FCCは未だに広帯域サービスを200kbpsと定義しており、ある郵便番号区域で広帯域へのアクセスができるならそれだけで誰もが実際にアクセスしているものと推定し、料金についてのデータを集めようともしていない。」

■米国での広帯域サービスの普及の現状とFCCの対応

 米国では、1996年電気通信法が先見の明で、「すべての米国民に高度通信が低廉な料金で利用できるようにすべし」と明確な政策目標を掲げた。そのための措置の具体化をFCCの責務として明記し、さらに、そのフォローアップとして、毎年議会にサービスの進展状況と普及阻害要因の除去の状況を報告することまで義務づけた。

 FCCはこれに従い、毎年、「高度通信等の普及状況報告書」を議会に提出している。FCCは、自前の設備を有する広帯域事業者は年に二回、FCCに対し高速接続数を報告させている。その場合の「定義」は次のようになっている。

  1. 「高速回線」(high-speed lines)とは、少なくとも一方向で200kbpsを超える速度でのサービスを提供するもの [次の「高度通信」をも含む。]
  2. 双方向ともに200kbpsを超えるものは「高度回線」(advanced service lines)

 FCCの2007年1月31日の「米国でのインターネットへの高速接続に関する報告書」では、2006年6月30日現在の数値に基づき、以下のように「高度通信は順調に普及しつつある」と総括している。

1) 高速回線

  • 2006年前半中に、(高度回線をも含めた片方向だけでも200kbpsを超える)高速回線は、5,120万回線から6,460万回線へ26%増加した。2005年後半には4,240万から5,120万へ21%の増加であった。2006年6月30日に終わる一年間では、高速回線は2,220万回線すなわち52%の増加であった。
  • 6,460万のうち約5,030万は住宅むけである。ケーブル・モデムはこれらの回線のうち55.2%を占め、40.1%はADSL、0.2%はSDSL(symmetric DSL)または従来型の有線接続で、0.9%が利用者の宅内までの光ファイバ接続、3.7%がその他のテクノロジー、すなわち衛星/陸上固定または移動無線(免許制または非免許制)/電力線利用であった。

2) 高度回線

  • 双方向ともに200kbpsを超える「高度回線」は、2006年前半で4,380万から5,040万回線に15%増加した。2005年後半には3,730万から4,380万へ18%の増加であった。
    2006年6月30日に終わる一年間では、高度回線は1,320万回線すなわち35%の増加であった。
  • 2006年6月30日現在の高度回線5,040万回線のうち63.1%は早い方向が2.5mbpsより高速であり、36.9%は2.5mbpsより低速な回線であった。
  • 5,040万のうち約4,590万は住宅むけである。ケーブル・モデムはこれらの回線のうち59.9%を占め、35.8%はADSL、0.2%はSDSL(symmetric DSL)または従来型の有線接続で、1.0%が利用者の宅内までの光ファイバ接続、3.2%がその他のテクノロジー、すなわち衛星/陸上固定または移動無線(免許制または非免許制)/電力線利用であった。

3) 地理的な状況

  • 2006年6月30日現在、全米平均として、高速DSL接続は、既存地域電話事業者が地域電話サービスを提供している家庭の79%が利用可能であるとFCCは推定しており、高速ケーブル・モデム・サービスは、ケーブル・システムがCATVサービスを提供している家庭の93%で利用が可能である。
  • 米国の郵便番号の地域の99%が最低1社のこれらの事業者によりカバーされている。総人口の99%がこれらの地域に居住している。

■Copps委員の提言

 電気通信のトップ先進国として誰もが疑わない米国で、高速インターネット・アクセス等の広帯域サービスの普及が海外諸国に比して著しく遅れていることは意外であるが、Copps委員は、「広帯域サービスの重要性」を指摘するとともに、「われわれの現在の諸政策が機能していないことは明白である」と論断し、その打開策として次のように提言している。

  • FCCは料金を下げ競争を増進する作業を開始する必要がある。(1996年電気通信法が命じている)すべての米国民に高度通信が低廉な料金で利用できるようにすべしとの指示に添えるようスタートすべきであり、必要な周波数も利用できるようにし、電波をもっと効率的に利用できる「smart radio」の免許を付与し、(電話とCATVに継ぐ)無線や電力線利用の広帯域等の「第三のパイプ」の利用を促進するべきである。同時に議会に対し、FCCが長期的な解決策を実施できる権限を付与するよう勧告すべきである。
  • われわれには米国のための広帯域戦略が必要である。他の国々は国を挙げての広帯域戦略を策定している。米国でも2007年までにユニバーサルな広帯域アクセスを実現するキャンペーンはあるものの、そこに到達するための戦略はない。あと2か月しか残っていないというのに、まだまだ大声なら届く距離にさえ至っていない。
  • 広帯域危機の解決のためには、過去の鉄道や電話システムの建設当時のように、官民合わせてのイニシャチブが必要である。広帯域の必要性に焦点を合わせたわれわれのユニバーサル・サービス・システムのオーバーホールとあわせ、米国のリーダーシップ的な地位の奪還をめざすべきである。

■今回のFCCの手続開始

 今回のFCCでの手続開始は、Copps委員の強い危機感が直接の契機となったことは明らかである。同委員は、3月14日に下院の電気通信小委員会がおこなったFCC全委員との論議でも、同様な問題提起を行ない、多数党の民主党議員からの支持もあった。

 FCCの措置は二つの手続の開始である。本件に関する4月16日のFCCプレスレリーズは次のとおりである。

  • 第一は、1996年電気通信法第706条に基づく調査で、広帯域サービスが全国民に安価にタイムリーに提供されているかについての調査である。
    第二は、FCCが今後の政策の策定のために必要な情報の収集方法に関する調査である。
  • これら二つの措置は、広帯域サービスが我が国の現在と今後にわたりもつ絶対的な重要性を認識してのことである。
  • 今回の調査は、同法に基づくFCCの第5回目の調査となる。その項目の中には、より高速なサービスや新しい広帯域のプラットフォームの出現などの急速なテクノロジーの進歩に鑑み、広帯域をいかに定義すべきかも含まれている。また、僻地等での利用可能性、新サービス、市場での競争状況等も対象となる。FCCは、広帯域サービス普及を促進するために何をなすべきか、また、最近の投資の傾向も求めている。さらに米国での広帯域サービスの細部にわたる料金比較等や海外のデータも対象とされている。
  • 速度の区分の改定の必要性や無線方式の広帯域インターネット・アクセス・サービスのデータの収集方法の改善についても意見を求めている。また、相互接続されるVoIPサービスへの加入状況についてもコメントも求める。

 要するにFCCはようやく情報収集を開始したいわば着手の段階であり、最終的な政策の策定にはまだまだ時間がかかる。FCCは、インターネットのような新しいサービスの自由な進展を規制でゆがめないとして、電気通信のような重い規制を差し控えてきているが、その矛盾も表面化しており、「インターネットの規制の在り方」という大きな課題についても数年前から正式に手続を開始して検討が行われているが、いまだに最終的な発表に至っていない。テクノロジーの急速な進歩や市場での変化に規制や政策策定がペースを合せていくことがいかに難しいかがにじんでいるといえよう。

寄稿 木村 寛治
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