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2007年10月掲載

米国のユニバーサル・サービス制度で高速・広帯域インターネット・アクセスも助成対象に追加へ
−かっては「ぜいたくサービス」としてベーシックな電話サービスに限定していたのを見直しへ。「歴史的な前進」との評価も。−

 FCCが中心となってユニバーサル・サービス制度の改革に取り組んできた連邦と州の合同委員会は、9月6日、以下のような暫定合意を中間報告として発表した。

 合同委員会 は、高コスト・ユニバーサル・サービス助成に関し新たな見直しを行っている。委員会は暫定的に、以下について合意に達した。すなわち:

1. 今後将来の助成メカニズムは次に焦点を置くこととなる:

  1. 音声(Voice)
  2. 広帯域 (Broadband)
  3. 移動体 (Mobility)

2. 法令に明示された諸原則に加え、将来の助成メカニズムは以下の原則に従って導かれることとなる:

  1. コスト・コントロール
  2. 説明責任 (Accountability)
  3. 州による参加
  4. サービスが提供されていない地域にインフラ建設を促進

3. 「平等な助成」(equal support)というルールは、将来の助成メカニズムでは取り入れない。

■米国のユニバーサル・サービス制度

 米国のユニバーサル・サービス制度では、州以下が、低所得者への電話架設費用補助と毎月の電話料金の補助を行なっている例が多いが、これとは別に連邦としてもFCCがユニバーサル・サービス制度を設けている。

連邦のユニバーサル・サービス制度は、

  1. 高コスト地域での事業者に対する補助
  2. 低所得地域での事業者に対する補助
  3. 地方医療機関への遠隔診断システム等での補助
  4. 学校/図書館へのインターネット等の高度通信システム導入への補助

の4種類から成り立っている。

 このうち4.の学校/図書館関係の補助は、先の民主党政権当時、副大統領のGore氏の提唱により、デジタル・ドライブの防止のため、貧しい子弟にもインターネット等の高度通信になじませることを目的として創設された。1.および2.の典型的なユニバーサル・サービス補助とは異なり、「インターネットはぜいたく品だ」として、ユニバーサル・サービスの枠には入らないとの批判もあった。4.は、インターネット等の学校や図書館への導入費用の助成と、設置後の通信料金等の割引がその内容となっているが、2-3年前の実績では、ユニバーサル・サービス年間助成金総額が5,000億円程度のうち半分以上を占めていた。加えて、件数が多いうえ、不正や虚偽の補助申請も多く、FCCの管理監督のずさんさが議会等でも度々批判されてきた。

 ユニバーサル・サービス制度では、FCCの委託を受けたユニバーサル・サービス基金管理運営の特殊法人が、毎四半期に助成所要額を算定し、全電気通信事業者にその売上高に応じて定率で拠出金を割り当て、徴収して、配布する仕組みとなっている。補助総額が多額に上るようになったため、事業者の多くはその負担分を料金請求書に別項目を立てて顧客に転嫁、請求することとしたため、改めて?の助成が果たしてユニバーサル・サービスの範疇にはいるのかどうかの議論を蒸し返した経緯もある。

■これまでは「ぜいたくサービス」は除外

 ユニバーサル・サービスについては、最低の通信手段である音声電話だけを対象とし、インターネット等のいわゆる高度サービスについては「ぜいたく品」として除外すべきであるという考え方が伝統的にある。

 しかし近時、米国での広帯域サービス等の高度サービスの普及の遅れ(ITU調査では米国の広帯域サービス普及率は21番目)に対する危機感が真剣に取り上げられ、FCC委員の中でも特に民主党系委員が議会で訴えている。Copps委員は、「欧州やアジアでは高速インターネット・アクセスが目覚ましく普及しているのに、米国ではまだダイアルアップ方式のきわめて遅いインターネット・アクセスが大半を占めている。これでは米国の子弟たちは情報取得で大きく立ち遅れることとなり、将来に大きなハンデとなる。」と議会に直訴したり、ワシントン・ポスト紙に投稿したりしている。

 Copps委員は最近、上院の中小企業振興委員会での証言でも、次のようにこの問題に触れている。

  • ワシントン・ポスト紙は、「インターネットは米国人が発明したのに、日本人がそれを奪い去ろうとしている。アジアと欧州の大半では、どんどん進歩しつつある広帯域の速度がインターネットでのイノベーションの扉を次々に押し開きつつあるが、米国では今後も数年間は扉が閉まったままの状況が続こう」と述べている。たしかに、様々な国際機関やシンクタンク等での広帯域普及国別順位で米国は、それぞれ11位、12,15,20,24,25位と評価されている。

  • これは単なる国の誇りの問題で済むものではない。それはビジネスでの地位、また、競争能力の問題なのだ。我が国の輝きを失なった広帯域は、イノベーションや起業精神に対する障壁ないし税金となってしまっているのだ。ビジネスではいずこでも広帯域インターネット・アクセスにますます依存するようになりつつある。それは、もはや電気、水道または電話サービスと同様に必要不可欠なものとなっている。しかるにルーラル米国では小企業はインターネットへの接続自体が得られないような状況が沢山ある。たとえ得られる場合でもその接続の速度はあまりにも低速である。都市部でもこうした事情は飛びぬけて良いわけではない。料金は国際水準から見ても高く、競争状態ではない。

  • インターネットは、本来、都市部とルーラル地域、大企業と小企業、国内ビジネスとグローバル・ビジネスの偉大なequalizer(均質化の担い手)であってしかるべきだ。

  • しからば、我々はどうすればよいのだろうか? われわれはまず、抜本的な国家戦略の策定から着手すべきであろう。単なるキャンペーンに終わらせず、トップ中のトップ自らが真剣なコミットメントを行い、広帯域こそは国家としてのプライオリティであるとの強力な宣言が必要だ。政府の各省庁が一体となって、財政面での助成金(grant)や税金面でのインセンティブも必要だ。

  • FCCとしても取るべき道がある。まず、データを集める必要がある。また、FCCは、現在は200kbpsを超えるものを「広帯域」としており、郵便番号区域内に一人でも広帯域・アクセスをもっていれば他の人々もそうだと類推するなど、とんでもない時代遅れのことをやっている。もっと信頼のおける定義と展開状況についても精細な分析が必要だ。他の諸国での経験や料金についてもデーターを収集すべきだ。他国に学ぶべきことはたくさんある。米国の地方にも様々なイノベーションの芽が芽生えている。米国はもともと創造的な国だ。FCCはこうした事例やカタログを集め、クリヤリングハウスのように情報を交換する場となるべきだ。

  • 広帯域普及のためFCCがユニバーサル・サービス基金から助成することをコミットする必要もある。ユニバーサル・サービス制度は「昔ながらの基本的な電話サービス」だけでなく、こうした新しい分野でもうまく機能するであろう。連邦と州の合同委員会が最近、超党派ベースで、「広帯域は21世紀にはユニバーサル・サービス基金の仕事である」と同意した。今後この理念を具体化することで同僚と作業するのを心待ちにしている。

  • 米国は、歴史のいずれの局面においてでも、道路、高速道路、運河、港湾、鉄道等の物理的なインフラを建設する方途を見出してきた。官民、さらにはコミュニティまでが一体となれば、広帯域については同様にはできないということがあろうか?

■歴史的な一歩

 FCCのCopps委員は、今回の合同委員会の発表に際して、次のように今回の措置はまさに歴史的なものだと評価している。

「(連邦と州のユニバーサル・サービス)合同委員会の決定は大きな前進の一歩である。長い道のりの末に遂にわれわれは、「広帯域(サービス)」を21世紀のユニバーサル・サービスの中心的な核心とする道に差し掛かったのである。高速、高価値の広帯域はもはや贅沢品ではなくなった------それは必要不可欠な必需品であり、ユニバーサル・サービス制度はそれを米国中の全家庭と全ビジネスに普及させる駆動車の役割を果たさねばならないのである。」

■しかし前途は多難?

 インターネットがユニバーサル・サービスの対象となるのはもちろん、それを超えて、高速・広帯域サービスまでをユニバーサル・サービス制度の助成対象とするという今回の合同委員会の中間報告は、大きな意義を持つものといえよう。

 もっとも、今回の合同委員会の報告は、検討途中での中間報告であり、今後の具体的な施策の策定にはまだ時間がかかる。また、広帯域サービスへの助成の具体的な範囲等もこれからの論議となる。電話事業での赤字の補てんとは異なり、サービスが行き届かない地域での広帯域インフラの建設補助もとなれば、その額も巨額となり、料金へのはねかえりや財源手当てでも難航するとみられ、具体策の合意の形成にはまだまだ難関が予想される。

 時を同じくして我が国でも総務省のユニバーサル・サービス研究会が最近、2010年以降には広帯域サービスを日本中どこででも利用できるようにする「ユニバーサル・アクセス」の方針を決め、広帯域サービスもユニバーサル・サービスの対象とする方向を提示している。こうした方向はグローバルに支持されていくものと思われる。知恵の出し合いとなろう。

寄稿 木村 寛治
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